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昔の分です。
いずれ1のようになおします。
「は?」
非常にクリーンなエネルギーで走るけれど、最大スピードは異常の沙汰だといわれる魔法自走から、躊躇無く飛び降りる人間を見たら、たいてい驚く。
それはもう、魔法自走になれ親しんだ人間ほどそうであると俺は思う。
俺は呆気にとられた後、何度か首をふり、もう一度飛び降りた人間をみる。
超人だとは思っていたがここまでとは。
高速の乗り物から飛び降りた衝撃と、ある程度の高さから飛び降りた衝撃、それを逃しつつ着地。というのは神業過ぎる。
そして、ある年のレースを思い出して、俺は尋ねる。
「じ、自走の間をいったりきたりとか」
「やったな、そんなことも」
最高出力ではなかったし、中継の無い予選で、しかもスタート時なのだが、予選から現地でみていた俺は、一度、見たことがあるのだ。
魔法自走から魔法自走を飛んで飛んで、自分のチームへ。
その人間が着地した自走はことごとく謎のエンジントラブルに見舞われ…
「まさか、貧乏神さまが目の前にいらっしゃるとは…」
「…その名前、暗殺者よりも酷いから言うんじゃねぇよ」
一織も暗殺者は酷いと思ってたんだな。と、思いつつ、俺はエンジントラブルの理由を知った。
一織が体質を開放とでもいうのだろうか。
とにかく、抑えてない状態でエンジンの近くに行ったせいで、乗った瞬間に魔法が無効化されてしまったのだろう。
そうなると、急なエンストを起し、さらに一織が離れることによって急発進状態をつくり、循環をうまく作れずエンジンに負荷をかけてしまい、はじめにだめになってしまうか、次第に負荷がたまってだめになってしまうか、エンジンに傷ができた状態になるか。そんな状態に陥ってしまったのだろう。
エンジントラブルを起したものはだいたい無理な改造が施されていたし、単なる偶然だろうと思っていたのだが、奇跡や偶然以上に恐ろしいことを一織はやってのけたことになる。
わざと明らかに無理をしている魔法自走を狙って、自分の体質を利用しやったのだ。
ただ乗っただけなのだから、撃破数には数えられないが、ライバルの数は相当減ったのではないだろうか。 特に、無理な改造が施されている機体は他の魔法自走を巻き込んで壊れることも少なくない。その年のレースはいやにエンジントラブル外の自滅が少なかった。
「ん?せやったら、ひぃ、あれやんな。こーくん…寿(ことぶき)先輩のチームにおったんかい」
一織が頷く。寿先輩とは、俺の前の学校のとき親しかった先輩で…実は実家がご近所さんで、幼なじみ、だったりするのだ。
「あれぇ…親しかったりとか、するん、もしかせんでも」
「そうだな。三年間つるんだな」
「……貞操は、大丈夫やったん?」
「清いお付き合いを通させてもらった」
こーくんは、それはもう、三度の飯より美人さんが好きで。美人さんとあらばセクハラをする、あわよくばにゃんにゃんしてしまう困ったイケメンだ。
どんな美人でもオッケーだという…強面から線の細い消えそうな美人まで。
男前もドンと来いという、まぁ、なんでもありなんだよな、綺麗ならば。
そういう幼なじみと清い仲を三年通した。ということはちゃんとした友人だったに違いない。
「あー…せやったら、あれか。なんやすげー好みなお兄ちゃんとオトモダチになったから、お前のあることないこと吹き込んでおいた。とかいっとったオトモダチってひぃなんやろか」
「お噂はかねがね」
「いやいや、あることないことやから!たぶん、ないこと多いで!」
「とりあえず変態だと」
「それ、ないから!」
一織が俺を変態とするのは、幼なじみのせいらしい。
三度の飯より美人が大好き。魔機寵栄学園、魔法機械学部、武器学科、魔法武器専攻を卒業後、地元の研究機関に無事就職。あとは優しくて美人でかわいい、気立てのいい嫁さんさえいれば完璧。とは、本人の言っていることなのだが、当分嫁さんなんてできないだろうなぁ。という幼なじみのお迎えはとても手荒だった。
「よぉ、元気かや?」
素早い反応で青磁が糸を広げることによって、投げられた白くて刺すためだけに用意されたような槍を捕らえて支えることもなく落としたことによって事なきを得た。
…かと思いきや、幼なじみは止まろうと思って速度を落とした魔法自走に走ってきて地を蹴った。
舞い上がり、いつの間にか再び槍をもっている幼なじみを確認すると、一織が大きな舌打ちをする。
副会長、人前ですよ。
とはいわないで、俺は運転に集中する。
「おひーさんと、叶ちゃんってなんの関係かえ?」
「相思相愛の仲」
「え、それ、まだひっぱっとるん?」
ひゅーと口笛を吹く副委員長はこの際無視である。
青磁は良平がいないのなら、つっこみはするけれど大人しいものなので、一織の発言に過剰反応することもなかった。
過剰反応したのは幼なじみで、だんっといい音を響かせて魔法自走のボンネット部分に着地していい笑顔をみせた。
「へぇえええ、叶ちゃん、ちょっと、いいかにぁ?すっげえ羨ましいから、ちょおおおおおっと、いいかにぁ?」
「いやいやいや、そんな事実はないから…って、一織、舌打ちすんなや」
どんどん素が漏れてるというか、もしかして気にしていないのだろうか。バラす方向なんだろうか。確か、まだ風紀の二人には爽やかスポーツマン副会長だったはずだ。ときどき素が出ていたけれど。
「胸倉を掴もうとするな、事故ったらどうしてくれる」
「あーそうだにぁ。こんな止まりかけでも、叶ちゃんが失敗したらもんにぁ」
何か俺の心配はしてくれていない気がしてならない。 俺はしっかりエンジンを止めると、溜息をついた。
今日も幼なじみは騒がしい。
「ところで、この面白くて一癖あるくせに無駄に煌びやかなお兄さんは誰かおしえてくれねぇーの?」
副委員長の言葉に俺は一つ頷く。
「ん、この一癖どころかダメ人間なお兄さんはやね」
「…叶ちゃん、なんでそんなに辛口?一年くらいで性格曲がった?」
「元からこんなんだろ」
俺が答える前に一織が答えるのは違うと思うのに、幼なじみはそうだったと、頷いた。あまりにひどい。
「…で、このお兄さんはやね、俺の幼なじみで一織の友人の、寿くん」
「はーい。いきなしごめんにぁ?寿こと、コー君です。気軽に、こーくんって読んでにぁー。そしてようこそイケメンありがとうイケメン。さっそくだけど、お茶せんかや、イケメンくんたち」
「…なるほど、残念だ」
青磁がしみじみと頷いた。
「黙れば…黙ってもダメだな」
一織の呟きがあまりにも幼なじみに当てはまりすぎて、俺も残念だなぁという表情を作ってしまった。
一人、副委員長の評価は違ったようで、しげしげとこーくんをながめてこういった。
「新しいと思ってしまった…」
まぁ、まわりにはちょっといないタイプかもしれないね。
こーくんはボンネットから降りると、話題を蒸し返す。
「で、相思相愛って何かえ?くわしくお兄さんにしゃべらんかえ。きりきり。そう、きりきり」
「あー…んー…」
煮え切らない俺に、一織はばっさりすっぱり、はっきりだった。
魔法自走から降りながら事務的に答えた。
「システム上の都合でできた傷跡を付け合った仲だな」
「え、求愛したのか?マジで?相思相愛じゃねぇか」
副委員長が過剰反応した。
システム上の都合でできた傷跡でよく解ったなぁ。
そんなことを考えている間にも、青磁がこちらを羨ましそうに見ていた。良平にそんな面倒なことをする気はまったくないぞといってやらないのは優しさなのか否か…。
全員が魔法自走から降りると、最初から設定している車庫に向かって魔法自走が勝手に走り出す。予め車庫を指定し、設定しておくと、ある指定の場所に停車すると勝手に車庫入りしてくれるのだ。とても便利なシステムだが、停車位置を守らなければ途方もない罰金が取られるため、ちょっと厄介だ。
「求愛ってなんなのかや?」
「システム上の都合でできた…」
「いや、それがなんなのかもわからん」
「結界魔法のシステム負荷がもっともある時間にある一定の条件のもとにできる傷で、計算して着けるのはとても難しい代物」
「んーまぁ、とりあえず、それが求愛っていわれてるんかに?だったら、あれだ。偶然付け合ってしまったと」
「故意にやる連中もいる」
こーくんが破顔一笑した。
とても嫌な予感だ。
魔法自走を見送りながら、どうしてこの幼なじみを、こちらに飛び込んでくる前に撃ち落さなかったのかを考えた。…考えても無駄だ。運転をしていて手を離したくなかったのだから。
「叶ちゃんみたいに、か?」
その昔。
魔機寵栄学園のシュミレーターは学園のシステムとは別途に稼動していなかった。
俺はそれを母から聞いて知っていたので、ちょっとした遊び心で一番システムに負荷がかかっているだろう時間に処理が遅くなっているだろう演算機能を壊した。
いや、ちょっと…ちょっといい点とろうかなー反応遅いだろうからそれが可能になるだろって気持ちで挑戦しただけなんだ。
しかし、意外や意外、反応や処理に遅れはまったく見られず。
そうなると何故か俺も意地になってしまって、うっかり頑張りすぎてしまったらしい。
演算機能は急にストップ。
フリーズどころか永遠のおさらばを決め込んでくれた。
どうやら限界まで遅くなることなく光速演算をした挙句、急に壊れてくれたらしい。
俺の銃撃に耐えられなかったというより、シュミレーターにかかっている魔法の問題だったらしいが、引き金をひいたのは俺だったのだから、俺のせいといってもいい。
そのあと、新しくなったシュミレーターで、異常な集中力を発揮。異常な高得点をたたき出し、聞いた話ではまだそれを超えるやつがいないらしい。
視点を複数置くことができるようになったのは、思えばあの時だったのかもしれない。できるということに気がついたのは今の学園に編入してからであったが。
「と、いうわけだに。にぁー、叶ちゃん」
「えー…あー…そや、副委員長がやったら、きっと記録越すとおもうんやって。やりにいかん?」
「外部者がやれるのか、っつーか。俺ならできるとか、銃の学年首位がいってもなぁー…」
そう思っているのならニヤニヤするのをやめればいいものを。説明をし終えたこーくんも同じくニヤニヤしている。この二人、気が合いそうで、いっしょにしておくの嫌だな。と思うことで、現実逃避をしたい。
「そうだな、反則もするんなら、やってもいい」
「反則ぅ?」
「こーくん、そこな叶丞くんはこっちの学園では反則狙撃といわれていて、大変な人気者だ」
「…なんや、早撃ちとかいわれとる人に言われても」
「反則よりぜんぜんいいと思うけどなーァ?」
思わず誰か味方はいないものかと今現在この場所にいる面子はもちろん、親しい友人を思い浮かべてもみたのだが、この『反則』であるということに関しては誰も味方がいない。
特に、真っ先に思い浮かべた会長の冷笑は、思い出しただけなのに、心が折れそうになった。
正確に模写しているんだと思うべきなのか、冷遇が長いせいなのか。
妄想すらできない自分の脳に失望すら覚えた。
どうして皆俺にやさしくないんだろうなぁ…と遠い目をしたあたりで、副委員長が言葉を続けた。
「ま、そういうわけだから、やるんだろ?」
「……んー…」
「あんまり渋るとぶっこむで、クソが」
「……こーくん、素、でとるよ」
「あかんあか…おおっと」
ちょっとわざとじゃないかなぁ…と思うけれど、幼なじみは元気そうで何よりだ。
ぼんやりと町並み眺めてる青磁がすごく興味なさそうで申し訳ないが、良平がいなかったら大抵のことは興味がないので仕方ない。
と、思っていたら、急に、青磁があらぬ方向を見た。
「あ?どないしたん、せい…」
「きょおすけええええええ!」
最近、魔法自走から飛び降りるのはやってんのかなぁ。
いや、どっかの副会長とちがって止まりかけの魔法自走からだけれども。
飛び降りた人物は、ぼんやりしていた青磁の飼い主こと、俺の相棒、良平くんでした。
いやぁ嫉妬の視線が痛いなぁ。良平が第一声俺の名前とか呼ぶから。
「今すぐ、今すぐ!俺もレースメンバーに入れろ」
「ええけどって、青磁くんの目ェ、めっちゃ輝いとるで」
「あ?あー…青磁マテ」
良平の言葉に健気に従ってしまう青磁がとてもイキイキしているのは、見なかったことにした。
「クッソムカツク野郎が『僕、魔法機械都市のやつらに、どおしてもっていわれてーレースに出るんだ!ま、研究にあくせくする君たちには無理だろうけどぉー?特に、そこの馬鹿!補習に出なきゃ間に合わない君なんかには、そんなことできないよねぇえ』とか言いやがって、腹が立つときたら!そのくせ、『猟奇様かっこいい!』とかいいやがるッ!腹立つ腹立つ、序盤で落トス!」
良平の怒りはよくわかった。
解ったから、その生徒の名前だけはいわないであげてほしい。
青磁くんがとっても怖いから。
殺気出しながら目を光らせるって、闇討ちとかしそうでこわいから。
◇◆◇
叶丞が帰ってきた。
毎年この時期には帰ってくるが、今年は特別なのだ。
俺は叶丞の相棒である良平くんと叶丞の様子をながめ、ニヤニヤしながら腕を組む。
近くにいた友人の…親友といってもいいかもしれない一織の眉間に皺がよるのもかまわず、ニヤニヤと笑う。
一織は俺がよからぬことを考えていると思って、眉間に皺を寄せたのだろう。
大方間違ってはいないのだが、別に悪いことを考えているわけではない。
…叶丞を気に入っている一織や、仲のいいあちらの学園の人間にとってはよくないことかもしれないが、たいしたことでもない。
ただ、あるべきことをあるべき状態に戻したい。と思っているだけのことだ。
叶丞は拘らないだろう。
あちらの学園に仲がいい人間が増えたこととか、あちらの学園にやりかけのことがあれば渋るだろうが。
時間はたっぷりある。
慌てないのなら、叶丞は戻ってくるだろう。
別に悪いことではない。悲しいことでも、嫌なことでもない。
小さな子供でもないのだから。
「寿」
「なんかえ?」
「もしも…程度を間違って測っているのなら、今すぐ考え直せ」
「ん?」
「食い下がるぞ」
「んー…なんのことかや?」
「おまえは…どこかの誰かと同じで頭の回転が速い。理解できてんだろ」
「さぁ…?」
わざとらしく肩を落とす。
意外と叶丞のまわりの連中が俺のたくらみを阻害するってことだろ?
あと、そうだな。一織も意外と叶丞離さないってそういうことなんだろ?
別にどちらも構わない。
その程度じゃ、叶丞が動かないだろうから。
「どやろかにぇ…」
「忠告はしたからな」
一つ溜息をついて騒がしい叶丞たちの方を向く。
そういう無関心を装うところが大好きだよ、我が親友。
俺は、良平に力のコントロールと、結界壊しを期待していたわけで、攻撃を期待していたわけではない。
幼なじみに再会し、良平が加わった俺たちは、休憩もそこそこにレースの予選会に参加していた。
予選レース開始前、試したいことがあるといった良平に、全幅の信頼でもってどうぞと頷いた。
レース開始直後、結界を張る前に攻撃を仕掛ける連中は少なくない。結界など、展開と言ってしまえば発動してしまう代物だ。脆いか脆くないかは置いておいて一応、一瞬にして張れてしまう代物だ。それが張られる前となると、かなりのスピード勝負となる。
そのスピード勝負を良平は仕掛けたのだ。
結界を同時にいくつも展開する、一気に崩すということを行える良平は、魔術の多重展開を得意としている。
多重展開というのは同時にいくつかの魔術を行使できるということであり、緻密な計算とコントロール力を要する。
それは系統が違う魔術であればあるほど難しくなり、脳だけでは処理できず、イメージを書き出すという行為をしなければならない。これは大型の魔術でもそうだ。
魔術は早ければ早いほどその動作が少なければ少ないほど、敵に相対したときに有利である。
簡略化や省略、術式の早組みなどが研究されるのもそれなのだ。
だから、良平も長期休暇は日々研究にいそしんでいたはずだ。俺がここで魔法自走のコントロールをしながらもポカンとすることではない。わかっている。わかっているが。
「良平くん」
「なんだ?」
「18機撃破ってなんやろか」
「俺の夏休みの成果だな」
「すげぇ」
単純に感嘆の声をあげたのは青磁だった。確かにすごい。
良平は結界を二重展開すると同時に結界からわざと出した余分な力を半径五百メートル、円を広げるように放った。
それは単純な衝撃派だったのだが、良平の魔術の展開の速さがものをいった。
結界展開前だった不運な参加者たちが走りだしまもなく撃破されてしまったのだ。
「術式の組み合わせと、省略…多重展開というより、新しい術式、か…?」
良平の術式を推測したのは一織だった。魔術知識だけなら良平よりもあるかもしれない一織に、良平はうんうんと頷く。
「そ。術式と術式がかぶるところをかぶせて、省略できるところを省略する。違和感をナチュラルになるように足したり引いたりして…新しい形をパズルしたというか」
恐ろしく時間が掛かりそうである。
嬉しそうに語る良平の説明をそれとなく聞きながら俺は魔法自走のコントロールに集中する。
撃破数だけでなくタイムも見られているからだ。
「あぁ、そう思えば、こっち来たとき魔法自走に使ってる魔法見せてもらったんだけどな、結構無駄があるよな」
「レース用以外は無理して早くする必要ないねんから…」
「いや、そういうのじゃなく…法術部分はわかんねんだけど」
と言いながら良平が俺が操作するために手を置いてある操作盤の一部に手を振れる。
呼び出したのは魔法自走を動かしているものの一つである魔法と、力の循環経路だ。
「法術部分を阻害せず、魔術を改良すると…」
その場で魔術式が書きかわるとか恐ろしい光景を見てしまった。
ぐんとあがったスピードに、俺は操作することで手いっぱいだ。
「ああ…そこをフラットにしてここを消してこうすれば…」
一織が口を挟んできた。良平はおお!と感嘆の声をあげたあとそれを書き替える。
う、コントロールの難易度が下がったうえに速い、うまい、無駄がない!
格段と動きがよくなった。
俺は操作でいっぱいいっぱいだが、後ろに座っている風紀委員たちは魔法にくわしくないため、ぼんやりと眺めるに撤している。
「副会長、今度俺と一緒に術研究しない?」
術は秘匿するものだが、一人でやるより何人かでやったほうがはかどる。
大型魔法などはそういった理由で何人かで研究チームを組み、発表したりしているそうだ。
良平の場合オリジナル術式を一緒に作って二人の成果にしようか。というお誘いだ。
「わかった。リョーヘーの術式には興味が合ったから、願ったり叶ったりだ」
俺のキョースケと同じで、良平も一織にとっては発音しにくいらしい。まだ壁をとっぱらっていないため、リョーヘーと片言だが、そのうちリョーとかいいだすんじゃないだろうか。
ところで後ろの委員長がすねてる気配がするのは気のせいだろうか。そんなに悔しいなら今からでも遅くない。魔術…なら手遅れなので法術の勉強をすればいい。良平も法術はかじった程度だから。…あとでおしえてやろう。
「あぁ、で。この経路なんだけど……小蝿がうるせぇ」
良平くん、それは悪役の台詞だよ。
という前に、良平は指を二度ならす。
「青磁、やってしまえ」
分かりやすく、俺たちに攻撃を仕掛けてくる連中の結界をいくつか壊す。
張りなおされる前に、ご主人さまの命令に、ニヤニヤと従う忠犬、青磁。
外からの攻撃は受け付けないが内から出る分にはなんら問題ない結界から青磁の投げた糸がぶわっと広がって…糸、細くて透明で見えないけど、多いと光の反射がさすがになぁ…と他人事。
広がった糸は次々と機体を撃破。5体、撃破しました。
なお、撃破された機体は爆発炎上しないようにするために魔法使いによって魔法がかかるようにされている。ライフジャケットみたいなものなので、このレースに出る際は必ずその魔法が発動するようにされている。
そんな中、銃を構えもしないで呑気な副委員長。
特等席で観戦気分、なんだろうなぁ。
俺は撃破された機体を最小限の動きで避ける。前を行く機体はいくつかしらないが、まだこの魔法自走は全力ではない。
とりあえず予選はそれなりに通ればいい。手の内はなるべく出さないのが常套だ。
「で、経路はこことここを結んで、こう、だ。ここも減らせるし」
「いや、それなら…」
と研究者二人がああだこうだといっている間に折り返し。
目印を回ってそのままじわじわとスピードをあげる。
「この経路はたしか、魔法だけでなく機械も深くかかわっていたはずだ」
「おー。よう知っとるって…知っとるわな。こーくんの友達やったらそら…」
「あー…機械はなぁ…さすがにわからない。けど、魔法で疑似回路は繋げられるとおもう。武器化魔法の応用で」
良平を怒らせたのは誰か知らない。
誰かしらないが俺はそいつに感謝する。
おかげさまでレースでいい成績がとれそうである。
経路はまだしも、魔法の仕様なんて俺がすぐいじれるわけでもないし、魔法が使えない一織には可能かどうかという確信がもてないし、魔法をいじることができない。
良平のおかげで、一織は意見できるし、検討が可能になる。
良平は人の意見を聞かない人間ではない。ちゃんと認めて発言できる。
これは、なかなか、面白いことになりそうだ。
予選は危なげなく突破。
力の循環経路図と魔法自走にかかっている魔法の術式の写しをとって、俺たちは幼なじみの待つ大衆食堂へやってきた。
こーくんは優雅にコーヒーを飲みつつ、なにかの設計図を眺めていた。
「お、おけーりー。あの場で魔法書き換えとかよくやったにぁ?おかげでうちの魔法自走の魔法書き換えもできそうだに」
「…そこまでちゃんと観察っていうか、今年もでるんやねぇ、やっぱり」
設計図はこーくんオリジナルの魔法自走。
「もちのろんだにぁ。今年は大人の大人気ない財布事情でガツンとグレードアァーップ」
大人気ないってこういうことを言うんだな。とこーくんに残念な視線を向ける。
一織も経路図をもって同じような目をしていた。
「いやしかし、面白いにぇ。経路図も書き換えとは…魔術師って怖いにぁ」
「こーくん…そんなこといいよりながら、こんなところでサシが止まんっつうのも、どうかとおもうんやけど」
オリジナル魔法自走のシステムさらしまくりだ。
「ええ、ええ。これがさらっと見たくらいでどうにかなりよったら、俺はその天才スカウトしに行くだけやから」
「…素、でとるよ」
「おお。あかんにぁ…俺としたことがー」
あんまりしまったって思ってないこーくんは置いといて、俺はその設計図を見る。
相変わらず繊細な設計図作ってるなぁ。
こーくんは、機械学に詳しい。というよりもそれを仕事にしている。所謂専門家だ。
魔法自走の外観はそれぞれ様々なのだけれど、今、こーくんが設計しているのは完璧な円形。
ちなみに俺が乗ってるのは前方がちょっと長い楕円形というか…言い表し難い。
「これ、もしかしなくても、操作めっちゃめんどうなんちゃうん?」
操作盤に手をあて、走ることをイメージする。それだけで、魔法自走は走る。
魔法自走が走るには、走るイメージが大事だ。
それだけで走ってしまったら、運転手が疲れるだけなので、もちろん魔法自走にも自らを走らせる仕組みがいくつもいくつも積まれている。
「ん、そうそう。魔法をできるだけ必要ない仕組みにしてあってにぁ」
その一つが魔法で、その魔法をうまく使うことによって、今回はスピーディーに操作できるようにしてもらった。
それらが重なって、結果、素早く走るわけだが。
操作をしている俺は、コースを視界に入れてどう曲がるとかどういう進行をするだとかをイメージしなければならない。無駄なく、怯えず…ダメだと思うと、魔法自走は自らの考える最良コースで安全に走る、またはイメージ力が強ければ強いほどイメージした状態に魔法自走が従う。
ちょっとした度胸試し、みたいなところもあるわけだ。
だから、このレース出るの嫌だったんだ。
メンバー探しは難航するだろうし、機体は撃破しなければならないし、やったら神経すり減らすし。
集中して運転した後なんてぐったりどころか、三日くらい寝込みたい。
たぶん三日も寝かせてくれないだろうしなぁ…。
けど、参加したんならそれなりにいい成績収めたいもんだ。なぁ?
「飯買ってきてやったらなんか魔術師系と機械オタクが微妙に白熱してんだけど」
「さっぱりわからん」
風紀委員コンビが俺と幼なじみと良平と一織が白い紙片手に白熱しているのを呆れた目で見ていてもな。
いやぁ、副委員長すごいねー五人分のトレイ全部一気に持ってくるとはすごいバランス感覚。
青磁は最初ぴりぴりしてたんだけど、途中で諦めたようで。
いやぁ、法術のこと教えてあげたから、法術の本早速見てるけど、ぽつりと『宗教…』って呟いていた。
昔から法術は宗教と結びつきが強いから。
「まぁまぁ、お前ら飯でも食えよ。っていうか、持ってきたんだから食わなきゃゆるさねぇから」
右腕に持ったトレイを空中に跳ね上げて腰から銃を抜いて構えるのを見て右腕に乗っていたトレイ二つをうまい具合に両手でキャッチする青磁。
風紀委員コンビの息があってて感心するばかりだ。
◇◆◇
曲者っぽい反則の幼なじみの待っていた食堂はえらく繁盛しているらしくて、混みあっていた。
俺もたまには謙虚になって、料理くらい頼んで買ってきてやるよと親切心をだしたわけだ。
やっぱ普段してねぇことはNGらしいな。
無駄に絡んでくる奴らがいた。
まったく、どこ行ってもやっかむやつってのはいるもんだねぇ。
一人になった俺に、突然出てきたレースの新人さんに色々ご教授くれるご親切な方がいなすってねぇ。
料理ができるまでの間ならイイデスヨ。ってんで、ついていった先。食堂の裏側、人通りほぼない裏通り。
腰に下げた銃が見えないんだろうか。つうか、今日のレース中観戦してたからか?
やだねぇ、血の気が多いって。
ま、面白いからいいか。
一気に二丁、右手と左手、銃を握って、口角を上げてやる。
「授業料はしっかり払わなきゃなぁ…」
なんてくれてやるのはゴム弾なんだけど。
それなりに痛いはずだぜぇ?
ガウンガウン狙い定めて一発二発。三発四発。
狙ったのは心臓。撃ったのいつかわかってくれただろうか。モーションはゆっくりめだったが、避けようとかそういう動きがなかった。
…ま、普通に考えたら銃が出てきた時点で慌てるんだが、ここは魔法機械都市の治安がよろしくないと思われる裏通り。しかも、レース参加者ときたらそれなりに何かできるんだろうと思う。
残念なことに、銃弾はじくだの避けるだの挙句真っ二つにするとかいう芸当ができる連中じゃなかったらしい。
ご不満なようなら実弾込めてある銃使うが、どうする?と聞いたところ、連中逃げ出してくれた。
あーあーつまんないねぇ。
食堂に戻る前、溜息ついてチラリと見た裏通り。
どっかで見た面を見かける。
「どこでみたっけかぁ…」
呟きながら食堂に入る。
ああ、学園で見たことがある。
俺はまたニヤリと笑う。ちょっとおもしろそうじゃねぇか。
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