書きなぐり 蒼い話 忍者ブログ

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まさかここに再びアップする日がくるとは思ってませんでした。

軍人×希少種

軍人も希少種。

本分はつづきからどうぞ





 俺には忘れられない場所がある。
 それは小さな町で硝子と石でできていた。硝子を敷き詰め、石を削って重ねた建物が立ち並ぶ。彩りは統一性がなく、黄色、緑、赤、青、紫、黒、白、桃……たくさんの色が踊る。鍛冶の音が響く以外は、静かな、そんな町だ。
 俺はその町の小さな工房で育った。
 町には町を構成する石や硝子を加工する職人が住んでいて、俺の両親もその職人である。両親は毎日毎日石と硝子で灯籠を作っていた。
 だから俺もゆくゆくは両親と同じように灯籠を作り、小さな工房を継ぐものだと思っていたのだ。
 だが違った。
「君の初等教育における成績は目をみはるものがある。高等教育を受けてみないか」
 どんなに小さな町でも中央都市から派遣された役人がいる。その役人の幾人かが町の子供たちに初等教育を行う。政府の方針で子供たちはみな、初等教育を受けることになっているからだ。俺も例に漏れなかった。
 しかも俺は同じころに初等教育を受けていた子供より、抜きんでたものがあったらしい。役人はそういって俺に高等教育を受けることをすすめた。
 この高等教育というのは初等教育を受けた子供が受けられるものだ。ただし誰でもというわけではない。高等教育を受けるに相応しいかどうかの試験をし、入学金や授業料を支払う。そう、高等教育を受けるにはかなりの金銭が必要だった。
 そうなると家族三人で暮らすことで精いっぱいという、しがない職人の息子である俺には縁のないことになる。しかも俺には高等教育に興味がなかったのだ。当然、その話は断った。
 しかしそれは、すぐさま撤回することとなる。
 妖精狩りが流行ったからだ。
「またお前か」
 俺は呟き、右手に持った柄の長い槌を地面にぶつける。
 この槌を地面にぶつるたびに俺は忘れられない場所……俺の故郷を思い出す。もう帰ることもないだろう場所だ。
 妖精狩りが流行ってからというもの俺の生活は一変した。俺が妖精狩りをする連中を捕まえる人間になったからだ。受けるはずのなかった高等教育を受け俺は軍人になった。
 軍人としての俺は妖精狩りを捕まえるという一点において大変優秀だったようで、毎日忙しく過ごしている。
 そして故郷に帰る暇はなく今も妖精を狩るヒトと対峙していた。
「はい、さーんびーきめ」
 俺は槌の柄を握り直し一つ息を吐き出す。
 もう暑さをぼやく季節になろうというのにその息は白かった。日中より夜は涼しいといえ雪までちらつくのはおかしい。
 しかしそれを実現してしまうのが俺の目の前で妖精を捕まえている男である。
「いい加減、諦めないか」
 そいつは季節を間違えて存在しているとしかいいようのない男だ。白く透き通る肌にさらさらと流れる銀の髪……さらには目まで薄い水色である。冬の色彩に愛されすぎて赤みさえさしていないようだ。実際そいつには赤みなどささないだろう。そういう種族だからである。
 そいつがこの季節らしいのは装いだけだ。暑そうには見えないが、袖のない生地の薄い上衣と風通しの良さそうな下衣の涼しそうな装いである。
「やだよ。ねぇ、妖精ちゃんは帰すから俺と添い遂げてよ」
 冷たそうにも見えるそいつはへらりと緩く笑い、冗談を投げかけてくるように軽く俺を口説く。
 俺はもう一度、鎚を地面……舗装された道にあてる。
 キン……っと澄んだ音が辺りに響く。
 もしかしてこの音のせいで俺は町を思い出すのだろうか。その音は灯篭に灯をいれるときにも響く。陽が落ちきる前に町中の家々に灯すたび響くそれは、まるで楽のようでもあった。今の俺にはあまりにも遠いものだ。
「断る」
 真剣には聞こえないそいつの誘いを一言で亡き者にすると、俺は槌へと力を注ぎ込む。
 すると鎚に青白い光が走り、地面にあててある部分に青い光が溜まっていく。
「あいかーらず、きれい。だから、すきなんだよー」
 青い光がうつってかきらきらと目を輝かすそいつに、俺は首を振る。
「違う種族にもこんなんやるの居ただろ。それ捜せ。いないことはない」
 俺のことばにそいつの表情が一変した。そいつは鼻で笑い、こちらを馬鹿にしているような表情を浮かべる。
「やだよ。俺はおまえだから気に入ってるんだ」
 そいつの持つ冷たい色のせいか、それはこちらをけなしているようにしか聞こえなかった。
 俺は大きくため息をつき地面にちらりと目を向ける。溜まった青い光が鎚にとどまることができず地面にこぼれていた。
 こぼれた青は地面を這いだし空気に触れる。すると青い炎がチリチリと辺りを焼き始めた。
 炎はあっと言う間に俺とそいつを囲む。
「そうじゃなきゃ、妖精ちゃんたち捕まえる意味なんてない」
 そいつの近くて捕まえられたふりをしていた妖精たちが、きゃあきゃあと騒ぎだす。
 他人の色恋が好きな妖精たちのようで、そいつの嘘か本当かわかりにくいおふざけ半分の行動に付き合うのが楽しいらしい。
 俺は眉間に力を入れ、わざとため息をついた。
 こんなことのために高等教育を受け、軍に入ったのかと思うと馬鹿らしくなってしまう。
 俺が高等教育を受けないかと誘われる頃、妖精狩りが流行った。
 妖精は一様に外見が美しく、瓶に詰めたり、綺麗な箱に詰めたり、鳥かごにいれたり……とにかく何らかの綺麗なものに詰めておくことが流行ったからだ。
 俺の家の灯籠もその妖精を詰めるにはうってつけである。
 故郷の誰もがそれを良しとしなかった。
 俺たちは古くから、妖精とは良き友人として付き合っていたからだ。
 だからといって俺や両親がそういった輩には灯籠を売らないといったところで、だまされて買われてしまってはどうすることもできない。それに直売されていないものもある。
 だいたい灯籠が売られていないからといって妖精狩りが終わる訳でもない。
 ならば高等教育を受けて、俺は妖精狩りどもを公的に捕らえることのできる立場になればいいのではないか。
 そうして今に至る。
 妖精狩りを捕らえるというより稀少種狩りと呼ばれる連中を捕らえるのが、今の俺の仕事だ。
「ねぇ、ソーロ。俺のこと好きになってよ」
 その仕事で助けただけの希少種にどうしてこうも執着されてしまったのか。
 俺にはわからない。


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