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水底の国である事件が起きた。
ある男が、それを解決するために現場に向かった。
男にはかけがえのない友人がいて、その友人のため、男は自身の兄を身がわりに置いていった。
っていう話だったけど、とちゅうで霧散したというか。
おいておきます。
兄×友人
その日は朝から数えて五回目だった。
昼過ぎから酒の入ったグラスを傾け、グレイズは頭のなかで違いを数える。
使いかけのジャムを使いやすそうな山からえぐること、新聞を片手にぼんやり朝食をとること、グレイズの髪をしばる麻紐をリボンにすり替えていること、グレイズの食事に強い香りの飲み物をだすこと、目が合うと少し笑うこと。
それらをふくめ、一つ月ほどの間では数十余り違いがあった。
これは、グレイズの知るケイガという男ではない。
グレイズはその可能性を思い浮かべ、グラスを静かにテーブルの上に置く。
グレイズの目の前には遅い昼食をとるケイガと同じ姿形をした男がいた。
男はグレイズに目を合わせると、ため息をつく。
「……何?酒は好きじゃなかったか?あんまり睨みつけんなよ、照れるだろう」
違いを思い浮かべている間、グレイズはずっと男を睨みつけていたらしい。冗談交じりに困ったように男が笑う。
グレイズは首を振り、何の不満もないというつもりだった。だが、本日六つ目の違いをみつけてしまい、グレイズは口を滑らせる。
「お前は誰だ。ケイガは、笑わない」
グレイズの口から滑り落ちたのは、グレイズの不満そのものだったのだ。
「いや、さすがに笑うって」
少し軽薄さがある物言いのわりに、表情はかたく、ちぐはぐで違和感がある。そのせいで整った顔は作り物めいて見え、人形のようだった。それが、ケイガという男である。
今、グレイズの目の前にいる男にはそのちぐはぐさはなく、軽薄さに見合う表情のせいで、いやに軟派に見えた。顔が整っていることも忘れる軽さがそこにはある。
「俺は見たことがない……違うな、笑わないというより、感情の起伏が表に出にくいといった感じだ。お前は、少し、出すぎている」
ケイガとケイガによく似た男はそれ以外にも多くの違いがあった。一つ月も黙っていられたのは、ケイガに姿形がよく似ているせいだ。よく似た顔で、表情をかえる男を観察するのは、グレイズにとって面白いことだった。
「出すぎている、とは?」
「しゃべる言葉と表情に違和感がなくて、ちゃんと生きてるように見える」
「……普段は死んでるのかよ」
「おおよそ生き物に見えない」