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この中に犯人はいる……!
わけではないのですが。
人外不良×貢ぎぐせ会長
なのかな?
本文はつづきからどうぞ
こういう展開はアレだ。肯定で答えなければいけないやつだろ。
そう思いながら、密かにサレルはドキドキしていた。
「はいかいいえで答えろ」
「普通だ……」
「昼飯の奢りでいいか」
「すげぇ普通」
悪名高い不良に呼び出され、先日作った縁を盾に、一つ返事で恋人になれとかいわれてしまうのではないか。そう期待したサレルは思わずつぶやく。
誰もに恐れられる不良のラクヒは至って普通だった。
普通というには悪名高すぎたし、目立つ、怖い、強い男であったが、謝礼の仕方は他の人のそれと変わらない。
サレルは不機嫌を顔に出し、首を振る。
「いいえ、だ」
「いいえ、か……なら、夕飯も」
昼と夕、両方一緒に飯を共にするというなら、下心丸出しでラクヒの窮地を助けた甲斐があった。サレルとしては、御の字といったところではある。
しかし、この、裏庭に呼び出されるという展開は、サレルに期待を抱かせた。
「飯じゃねぇし」
「飯じゃねぇのか」
「そんなんで助けたわけじゃねぇし」
「わけじゃねぇのか」
困ったように首を傾げるラクヒは、サレルの色目には大変可愛くうつった。サレルにはもう、これだけでも大変なご褒美だ。しかし、サレルは欲張った。
「一日」
「一日?」
「一日、俺の奢りで遊べ」
「ハァ?」
魔境付近に建つ豪奢な学園の生徒会長であるサレルは、貴族の養子だ。お小遣いといっていいかわからぬほどの金銭を貰っている上に、生徒会活動で自ら金も稼いでいる。親の金でなくとも、金持ちであった。
そしてサレルはその、有り余る金を好きな人間に使うことを好む、貢ぎ体質であったのだ。
「一日といわず、俺になんでも強請れ。金で買えるものならなんでも買う」
「いや、ねぇわ」
「なくねぇって、それが俺に対するご褒美ってやつだって」
「ねぇわ……」
サレルを変だと思ったラクヒは、数歩後ずさり、首を横に振る。
サレルは悲しくなり、顔を下に向けた。するとサレルの目に誰が書いたかわからぬ署名が入る。愛する二人の名前を連ねてかくという、なんてことのない戯れがサレルを無性に憂鬱な気分になった。
誰だかよくわからないやつはこんなところに名前を書くほど、世界は平和だというのに、何故俺は好きな奴にひかれなければならないのだろう。
自業自得だというのに、サレルは心の中で八つ当たりせずにいられない。
こういう悲しい日は、生徒会活動に精を出し、魔物を狩って、生徒会連中に飯を奢るに限る。
サレルはそう心に決めた。
サレルの貢ぎ体質を知っている生徒会のメンバーは、快くサレルに奢られてくれるのだ。
心に決めるとサレルの行動は早い。
すぐに顔をあげ、ラクヒを睨みつけるように見つめる。
数歩下がりながらも、困ったような顔をしているラクヒは、やはりサレルには可愛く見えた。
「……じゃあ、一日、普通に遊べ。デザートだけ、奢ってくれりゃいいから」
「あ、ああ、まぁ……」
了承はしたが、まだ困っているラクヒに背を向けて、サレルはさっさと屋上を後にする。
この後はやけ狩り予定だ。
ラクヒは困っていた。
「下心あるから、助けてやるよ」
そういわれて助けられたのはつい先日のことだ。
いつも通り学園を抜け出して、好きなように魔境を飛んでいると、ラクヒは魔物狩りに遭遇した。
人外も人に変化できれば入学できる学園に入ったのは良い。しかしそこはラクヒが思うより窮屈で、ラクヒはよく校則を破っては魔境ではねを伸ばしていた。
校則はラクヒを縛るものではあるが、守るものでもある。魔境などというなんのルールもない場所で自由に過ごしていれば、人であろうとそれ以外であろうと襲われても仕方ない。自分自身を守れなければ、魔境に遊びに行くこともできないのだ。
幸い、ラクヒは擬態もできるし、弱くもない。自らの身を守るほどの力もある。
しかし、それでも危機は訪れるものだ。そうでなければ、ラクヒは学園に通い、擬態までして外に出る必要などまったくない。
「しかしまぁ、あんたなら、問題ねぇんだろうけど」
ラクヒを逃がしながら笑ったサレルのいう通りだった。ラクヒはサレルに助けられなくても逃げることができたのだ。
そのとき、ラクヒは鳥に擬態していて、魔物狩りから逃げていた。ラクヒが魔物狩りをする人間を倒すことは容易い。だが、ラクヒは人間を損ねたあとの事を考え逃げた。
人間の世界は魔境より遥かに面倒な規則がある。その上、人間は魔境に住むものより往生際が悪い。
だから、ラクヒは逃げることを優先し、魔鳥を捕らえる罠にひっかかった。
その罠から抜けることはラクヒにとって容易だ。ラクヒの入った鳥かごを壊せばいい。
しかし、それには特殊な素材でできた鳥かごに負荷を与える必要があった。負荷を与えるには、力で一気に押すか限界まで力を与え続けなければならない。
負荷を与える方法としてもっとも早い手段は、ラクヒが元の姿に戻ることだった。しかし、そうすると、ラクヒがわざわざ擬態する意味がない。
ラクヒはそれを避けるために、特殊な素材でできた大きな鳥かごの中、少しずつ自らの力で負荷を与えていた。
ラクヒが現在擬態している姿では、一度に出せる力に限界があったのだ。
このまま出し続ければ、かごは壊れる。しかし、時間がかかってしまう。
ほんの少し、ラクヒが焦りを覚えた頃に声をかけてきたのが、サレルだ。
サレルはラクヒが入った学園の生徒会長を務めている、腕利きの狩り人だ。
魔境寄りに作られている学園はたまに魔物に襲われては被害を出す。そのため、生徒たちは積極的に魔物を狩る。もとより、人を魔物の脅威から守る人材を育てるための学園だ。だから学園は生徒の魔物狩りを推奨していた。
学園では、その中でも目立って狩りができる生徒を生徒会に推す伝統がある。ゆえに、生徒会は優秀な狩り人の集団であり、サレルはその中でも一番の狩り人だった。
サレルに魔物の姿で会ったなら、死を覚悟したほうがいいとは、魔物、人、妖精が噂するところである。
そのサレルが、いかにもわかった風に魔鳥に擬態したラクヒを助けた。
これは明日にも魔境の紫の空が緑にでも変わるのではないかという出来事だ。
相当の下心があるに違いない。
自らの身を差し出さねばならないのではないかと戦々恐々していたラクヒは、助けられてから数日、サレルを待った。
しかし、待てど暮らせどサレルは何も要求してこない。このままでは不義理すぎるとラクヒはサレルを呼び出した。
その結果、一日サレルに付き合うことになったのだ。
それは、ラクヒには容易いことで、たとえ人間の世界の人間の街で、デートをするのであっても楽にこなせることであった。
そうそのはずだ。
ラクヒは困っていた。
「意外となんでも似合うな、あんた」
楽しそうなサレルと、高価な衣服にアクセサリー、そして増えるショップバッグに、めまいすら起こしそうだ。
「……これは、なんだ?」
「やっぱ、俺の好きなようにしたほうがいいって、生徒会の連中もいってたからさぁ」
ラクヒは今まで信じてきた人の金銭感覚を見失いそうになっていた。
次から次へと目まぐるしく、息つく暇も無ければ、指の間に挟まるカードをしまう暇さえない。金額など見ることがないサレルを止めていたのは最初から3件目くらいまでだった。
「な、これ、俺へのご褒美なんだろう?」
ラクヒは困惑したまま、両手に服を持って振り返ったサレルに、首をかしげる。
ラクヒは生まれてこのかた金銭が必要だったことが、数えるほどしかない。まず、礼をするような事態になったこともなかった。初めての経験に、困惑することしかできない。
だが、いくらラクヒが初めての経験であっても、礼がしたいと思うことはあるし、人間の風習は知識としてある。
それを引き出しても、サレルのすることは特異であるとラクヒは思う。
そう思うのだが、サレルがあまりに楽しそうで、嬉しそうで、それが当然のようにいうから、ラクヒはやはり首をかしげるしかない。
「わかんねぇ?」
「ん」
短く頷くと、サレルがその場で足踏みをして、より一層笑った。
「お姉さんこれもください!」
しかも、勢いでまた服を買う。
店員はラクヒの両手に持った袋を見ながら、恐る恐るおまとめしましょうかときいた。店員は大きなショップバッグの中身の価格帯を知っているのだろう。何度も何度もショップバッグを見て、目で数えてはそわそわとしていた。
「俺が礼をするはずだったが……」
「だって俺へのご褒美なんだろ?」
「礼は褒美になるのか?」
「なんねぇの?」
ただただ困った顔をしたラクヒを、サレルは最近人気のオムライスが出る店へ連れて行った。その店のオムライスは、中身の具は各種魚介類や肉から選べ、外はとろとろふわふわの卵から薄焼き、ソースはデミグラス、ホワイト、ケチャップから選べるお好みオムライスと呼ばれる。その選べるオムライスよりも、店主の本日のおすすめランチが一番人気だという店だ。
サレルは困った中にも疲れを見せるラクヒのかわりに、おすすめランチを二つ注文して、得意げな顔をする。
「いいんだよ、俺はあんたの気持ちを受け取ってデートしてもらって、貢ぎ放題で楽しいし、あんた可愛いし」
「いいのか……」
「いいんだよ」
デレデレと嬉しそうにだらしのない表情を浮かべるサレルに、ラクヒはいいくるめられそうになっていた。
サレルは、この、多くの人の普通の感覚というものがわからないラクヒが可愛くて仕方ない。聞いたり見たり読んだりして知っているだろうことが、サレルの少数志向な感覚のせいで惑わされている様子が、サレルには可愛かったのだ。
それを不思議そうな、あるいは困った顔で見ては首をかしげる姿は、いちいち写真におさめたいくらいの可愛さがあるとサレルは思う。
「こんなに可愛いのに龍か……いや、もしかして、種族的特徴?」
「……なんっていった?」
急に真剣な顔をして睨みつけてくるラクヒは、なるほど、これが龍かという鋭さがあった。
「可愛い」
しかし、サレルはコップに手を伸ばし、とぼける。
「違う」
サレルの様子に不機嫌そうな顔をしてくれたラクヒに、サレルは心の中で転げ回った後握り拳を小さく作った。
「種族的特徴?」
「違う」
なおもとぼけるサレルにむける、ラクヒの目は厳しい。だが、サレルはラクヒのその様子もたまらなく可愛く愛おしく見えていた。
「龍」
「それだ。何をもって龍とする」
「俺は美食家じゃねぇんだけど、違いはわかるつもりなんだよなぁ」
「ハァ?」
水を一口飲み、コップをテーブルに戻すと、サレルはその手をラクヒに伸ばす。
昼時の食事処だ。店内は騒がしい。しかし、どのテーブルでも、テーブルを囲むもの同士の会話で忙しいようだ。騒ぐでもない彼らに注目する客は誰一人いなかったし、当然、ラクヒの行動を咎める人もいなかった。
サレルの手が、ラクヒの頬に触れた途端、ラクヒはその身を震わせる。
一瞬、ラクヒの身体を巡っている力が、サレルの手へと流れていったからだ。
「……月人(つきびと)か……?」
「そう。だから、極上品はわかる」
月人は、生きているものの力を糧にして生きる美しい種族で、その名前は他人の光をかりて輝くという皮肉が込められている。その数は少なく、他人の力を喰わずに生きられないため、うまく力を喰えず餓死してしまう。ゆえに短命だ。しかし今は血も混ざってしまい、短命ではなくなり純血種のように力を喰わずに生きられる。
だから、こうして力を喰うことができる月人もごくごく僅かだ。
「……月人に隠せるものではないか」
「しかし、触っただけでわかるってのはさすがというか。運命というか」
月人は力を喰う。大人になるにつれ、多量に喰うようになる。そうなると、喰う生物によっては力を喰いきり殺す。自然と月人は力の大きい生物に寄生するようになった。
その最たる被害者が龍だ。
龍は玉が好きだ。月人は龍を、たくさんの力を喰らって死ねば何よりも勝る玉になると舌先三寸で騙し、龍を喰い物にした。月人が龍を殺すほど喰う方が早く、長命で群れない種であった龍は、同種の生死などさほど気にしない。不運だったとその一言で終わらせた。何匹も龍を喰らううち、さすがに龍も気づくだろうと月人は龍たちの前に姿を現さなくなったのだ。
だが、龍の力は月人にとっては極上の喰い物だ。ある日飢えた月人が、せめて一口と龍に姿を見せる。
龍は一言呟いて、月人が喰い尽くすまでそばにいた。
「お前たちは何にも代え難い」
月人は、もう次を求めることはなく、月人たちは、龍の力の魅力に惹かれ、一人一龍喰い潰し、死んだ。
そんな言い伝えがある龍と月人には並々ならぬ縁がある。
「言い伝えでは、一度喰えば病みつきになるそうだが」
「いったろ、美食家じゃねぇって」
サレルが椅子に腰掛けなおすと、ちょうど店員がおすすめランチを持ってきた。
ふわふわとろとろの半熟卵のオムライスと、彩り鮮やかなサラダ、おまけのデザートにスープは、月人であるサレルにもおいしそうに見える。しかし、それ以上に、サレルにはラクヒがおいしそうに見えた。
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