書きなぐり High&Low13 忍者ブログ

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昔の分です。
いずれ1のように直します。








第一レース翌日、第四レースにして最終レースの日。
最終レースは撃破されたチームは省き、トップのチームとのタイム差で参加チームが決まる。
第一レースでトップだったうちのチームはもちろんのこと、第二レースで一台落としてぶっちぎりトップでゴールしたこーくんのとこも最終レース参加チームだ。
最終レースで優勝チームが決まるわけだが、ゴールテープを最初に切るだけでは優勝にはなれない。
最終レースのタイムをポイント化し、本選レースで撃破したすべての魔法自走台数もポイント化。ポイント合計がもっとも多かったチームが優勝となる。
ただし、ゴールしなければいくら魔法自走を撃破しても意味はない。
今のところ合計四台撃破したうちのチームは、実は優勝候補だったりする。
「初参加優勝候補…ダークホース扱いというか、この特集笑った」
「笑うな」
一織と良平が不機嫌そうなのと逆に、佐々良が一人、上機嫌な様子でモニターを指差す。
「いやだって、これ、笑う。疫病神様イコール貧乏神伝説って特集だけでも笑うのに、謎の破壊神、雷系とか騙されすぎ。あと、一番面白かったのが、あの走り、再び!」
一応他のレースに出たことのある俺まで映像を探され煌びやかに特集されていた。
あまりのことに泣きたくなった。
「普通に走っとるだけやのに…結果とか悪うもないけど、よくもないやんなぁ。ようこんな編集できるし」
「横からつっこんできた自走を神業的に避けるとかするからそういうことになるんだにー」
「そうそう、そのあと無理したせいでうまく動かなくてって、なんで、こーくん普通に混じっとるん?」
チームメンバーとレース前に緊張感もなくダラダラしていたというのに、なにげなくこーくんが混じっていた。
「んっふっふ、宣戦布告に参ったでごじゃるー」
「いや、ごじゃるーとか言われても」
微妙な雰囲気の俺とチーム面子を無視して、こーくんは急に、がらりと雰囲気を変えて…殺気までだして、ゆっくり口角を上げた。
「完全優勝。さしてもらいます」
俺はその殺気を肌で感じながら、苦笑する。
「完膚なきまでに叩き潰して、這い上がらせないと?」
「味方はせぇへんよって話」
「左様で。…ところで、こーくん」
こーくんが首を傾げただけで、殺気は消えた。
「なんや、叶ちゃん」
「言葉は?」
「たまには、かっこつけたいんだにー。って、ワケで、さらばだにぁ」
ひゃっほーうとかいいながら、走り去ったら、まったく格好なんてつかないと思うんだけどなぁ。
こーくんが殺気をだしたところで、ここに怖気づく奴はいない。
一織はこーくんの友人であるのだし、あの切り替えの早さに呆れたような溜息しかついていないし、良平はふーんって頷いただけだった。主人がそんな態度なのだから、わんこの青磁は無視を決め込むわけで。
たった一人反応が違ったのは佐々良で、こーくんよりもいい笑顔を浮かべた。
「へぇ…おもしろー」
こーくんは、姿を現した瞬間から面倒くさそうなことが起こりそうだなと予感する類の人間なのだけれど、佐々良は一言つぶやいた瞬間から嫌な予感が漂う人間である。
つまり、この二つがそろうと嫌な予感しかしない。
レースが無事に済みますように!
…済むわけないだろうけど。
そんな嫌な予感しかしない最終レース。
戦闘は、レース開始数秒後からスタートした。
いつもなら、いの一番に飛び出していくこーくんのチームが数秒間、スタート地点に留まった。
その数秒間、何もしないチームなんてのはない。
けれど、毎年、こーくんのチームは最終レース、防御くらいしかしない。
そういうチームなのだ。
どのチームもこーくんを無視。それぞれがマークしたチームを潰しにかかっていた。
数秒間。
それだけで車体は前に出る。
それだけでみっさんの衝撃波は恐ろしい破壊兵器となる。
数秒間溜め込んだ力を、刀を一閃するだけで鋭い攻撃へと変えた。
「くると、思とったよね~」
呑気にいうと、車体を急上昇させる。
みっさんの斬撃はまっすぐにしか飛ばない。恐ろしくはやいけど。
来るタイミングさえ間違えなければ避けられないものではない。
これに対応してきたチームは最終レース参加チーム八チームのうち、うちとこーくんとこを除く五チーム。 いくらこーくんが速さを求めるチームだとしても、それはそれ。油断はしない。最終レースに残った連中にとってそれくらい避けて当然。
避けられなかった一チームは残念ながら油断していたようだ。
「さて、どうくるんやろねーとりあえず、役割分担の確認しときましょか」
「うーい。俺は、慣れない狙撃で敵機の車体をねらいまーす」
のりのりで返事をしてくれた佐々良が昨日かした狙撃銃をまわす。
それ、俺のなんだけど。
「俺は防御担当。あわよくば攻撃」
最終レースで宙を舞うのはさすがに厳しいということで、結界に到達するまえに銃弾だのを落とす係が一織の仕事。うん、妃浦さんと一緒。
「俺が魔法で結界を張って、結界破壊っと」
さすがに昨日の疲れが残ってるとかで大きくは動かない気らしい良平。昨日は執念に燃えていたが、今日は至って普通。
「今日の攻撃担当。攻撃、むかねぇんだけど」
一言で自分の役割を否定した青磁は乗り気じゃない。ご主人様のテンションと、あと、自分のやりたいとおもってないことへのテンションがあいまって、非常にローテンション。
「で、俺は今日も運転に集中させていただきます」
と、なんともやる気のない役割分担なわけだ。
このまま競ってくれたら、ゴールさえ早ければ、昨日四台撃破したうちが悪い成績を収めるということはない。今回はゴールに集中しようという話になったのだ。
撃破されちゃうと成績として残らないからね。
いや、そこは勝負に出ろよ。という熱い奴はここにいない。
「んーでも、こーくんも怖いけど、他もこわいねぇ…あ、今うち狙っての攻撃重視型のとこ」
良平がワォ!と声をあげた。
「副委員長撃ち落してくださーい」
「破壊神さま結界崩してくださーい」
だなどと、楽しそうに会話している間に、こーくんのところは早くも二体目撃破。千想の召喚獣が撃破のついでとばかりにこちらに飛んでくる。
「おお怖い」
そういいながら、良平は空中になにか書き始める。魔術式を作るためのイメージを助ける行為だ。これをやる魔術師は三流とされるため、あまりやるやつはいない。
「何をする気だ?」
「ちょっと檻に入ってもらおうかと」
「なるほど。牽制だけにしておこう」
なんかすっかり仲良くなっちゃった一織が良平の意図を組んで投げナイフで召喚獣を牽制。
その間に術式を組み立て終わった良平が、術式を展開する。
「逃走不能、展開」
「逃走不能?」
「そ、逃げても追いかける。追いかけて捕まえたら離さない。術者側からの送還もできない…ようになってると思んだけど、初めてつくったからわかんない」
良平のレベルアップが怖すぎてたまりません。
結界の応用なのだろうけど、その場で作るとか尋常じゃない。
見事、召喚獣を捕まえると、そこから出ないようにする。
「でも、もろいと思うから、一時しのぎ?」
「いや、一時しのぎでも嬉しい。あれ、きっと厄介」
いいながら、俺は左に車体を寄せる。
みっさんの縦線状の衝撃波がとんできたのだ。
現在三位。トップとの差はそれほどない。
こーくんとこはのんびり後方から一台ずつ破壊する戦法らしい。
今、俺たちの後ろには三台。こーくんとの間は、二台…意外と少ない。
「トップにでもたっとかなあかんかなぁ」
「俺の進退もかかってんだから、是非お願いしたい」
そう思えば、一織の進退もこのレースにかかっていた。
実は俺も、このレース如何…というよりも、俺の行動如何によっては実家に戻らなければならない。
というのも、俺は一応研究機関に協力をして武器を得ている。魔法石の一部はもちろんのこと、武器も集めるには時間も金もかかる。研究機関に協力してもらい、用意してもらってるわけで。
研究成果を示さねばすぐにでも打ち切られることになっている。試用期間はすでに終わっているからだ。一年半ほど前に。
一応、一年半ほど前に結果は示したので、契約破棄か続行かを求められ、俺は続行を選択した。しかし、研究機関も再び三年間も試用期間を出してはくれない。半年更新の契約となった。
研究機関としては遠くはなれた場所でチマチマと成果を送られるよりは毎日細かにデータをとりたい。ということもあり、俺は半年に一回、大きな成果を求められている。
データ上の大きな成果ではない。
俺という人間と契約していて成果が上げられるかどうか。というテストのようなものだ。
それはこのレースでなくてもいいのだから、あまり気にしてはいなかったのだが。
「こーくんが徹底的に邪魔してくるってことは、そういうことなんやろなぁ…」
研究機関はこのレースをテストの場に決めた。
俺は呟いたあと、即座に計算を始めた。
どうすればエンジンが燃え尽きることなく、燃料をちょうど使いきり最速でゴールできるか。
「俺が何かしなくても、反則が発動しそうだわ」
「あの野郎のスイッチって、なんでああ、唐突なんだろな」
後部席の風紀が煩いけど、気にしない。
「前の一台が、邪魔やねぇ…」
うちを狙っていた攻撃重視型のチームがこーくんたちに落とされた頃には、うちはトップから数えること二番目を激走していた。
一台は抜かせてもらったわけだ。
しかし、前の一台がどうしても抜けない。
魔法自走のスペックが劣っているということではなくて、昨年トップに輝いたチームの魔法自走で、それはもう、レースというやつを心得ている。
抜かす方法も知っていれば、抜かされないように邪魔する方法も心得ているのだ。
つまり、走ることが単純にうまい。
こーくんのチームが魔法自走の性能を上げることで早いのなら、このチームは走らせるということにおいて早いチームだ。
先ほどこーくんたちに撃破されたチームが戦闘民族なら、こーくんは機械屋。そして、前をいくチームは走り屋といったところか。
年季と走り込みようが違う。
もちろん、攻撃や防御、魔法自走がおろそかになるということはない。
走りを邪魔するものは除去して走り抜く。そうするにはおろそかにするわけにはいかないからだ。
「落としたいんやけど、落とせる、と思う人ー」
「魔法は無理だわ。あのオマヌケどもとちがって、俺らを警戒しきってる」
お間抜けというのは、良平が執念を燃やしていたチームのことだ。
良平は撃破した今でも、あのチームの魔法使いの一人を快く思ってないらしい。
「飛び移りは完璧に無理だ。車体を寄せても、うまいことずらしてくるだろう、あれは。ナイフをなげてもいいが、ナイフは風の抵抗が酷い。妃浦さんほどは投げられない」
一織はそれなりに投げられるのだが、やはりそれなりに近くないと無理らしい。おおきな弾ならば、ガードをしているわけではないし、急に向かってくる方向を変えるような工夫がなされた弾があるわけでもない。狙うのはまだ容易い。
走りに特化したチームだし、なにしろ、良平のことも警戒している。結界が壊されても、穴を開けられても、素早い展開をしてくるだろうし、回避も早いだろう。
「手の内知られてるってのはこわいよねぇ。こちらも知ってるが…あ、俺は狙撃得意じゃねぇから…これ、寄せられるなら、ちょっと考える」
佐々良はもともと中距離での早撃ちを得意としている。今回の狙撃ができたとしても、できるという程度だと本人は言う。
十分だと思うんだけどなぁ。
しかし、本人が無理だというのならおそらく、無理なのだろう。
それほどまでに、前回一位は半端ない。
「青磁は…」
「俺はもともと特殊だ。だいたい糸だなんてか弱いものをとばすにしてもこのスピードで対象に走られちゃあな。あちらが攻撃してこないわけでなし…」
少しの間、青磁が眉間に皺を寄せ、考えた。
結果、佐々良と同じ答えをだした。
「近寄ってくれるのなら、考える」
「んー…それは結局、近寄らんとどうにもならんと」
いまのところつかず離れずの距離を保ってはいるものの、風紀二人の攻撃を届けるには、上下で並ぶのではなく横並びにならなければならない。
俺は燃料の残りを考える。
過不足なく魔法石を使っている。
つまるところ、ギリギリで計算して走っている。
俺の持っている魔法石は魔法自走のエネルギーになるようにはできていない。
一瞬でいいから追いつきたい。
しかし、追いついたあとスピードダウンしては今後ろについているチームに抜かれてしまう。
ラストスパートにとっておいた力をこちらに持ってくる。それは可能だ。
しかし、そうなると、他がラストスパートした時に置いていかれてしまう。
「お、そうこうしてるうちに、一台撃破された」
こーくんのチームに撃破されたのではなく、こーくんのチームと俺のチームの間にあった二台のうち一台に撃破されたのだ。
これで走る魔法自走は四台。すでに半分となってしまっている。
「あ、やっぱ一時しのぎにしかならなかったんだな、あの檻」
どうやら檻から召喚獣が逃げてきたらしい。厄介なものが増えたな、と思うと同時に俺は、良平が応用ができる男だということを思い出した。
そう思えば、そうだった。
今日は結界を壊すこともなく、結界を張ることだけに集中しているようだし、いくら昨日の疲れが残っているとはいえ、良平はドーピングの杖も持っていた。
それに、結界をはらなければ、その分、力は余るはずだ。
魔法石の力が足りなければ、魔法使いにその代わりをさせればいい。
ついでに昨日のことを思い出し、俺は、一つ頷く。
そして俺は迷わなかった。
「次の直線、横につけるから、四人とも、ちょお、お願いしてええかな?」 
今回のスピードアップはイメージするよりも、念じるに近い。
頭を真っ白にして、ただひたすら、前へ、何よりも速く、前へと念じる。
自分が魔法自走の一部になったかのような錯覚を覚えながらも、直線コース、隣に、トップのチームの気配を感じて俺は声をあげる。
「青磁!良平!」
「オッケー相棒」
直線コースに来る前に頼んでおいたとおり、青磁も良平も動いてくれた。
結界を一瞬にして壊す良平。タイミングばっちりで糸を投げる青磁。
…これは、タイミングの勝負だ。
こちらの結界から抜けて、一織が飛ぶ。
飛んでくる一織に、当然のように魔法自走をずらしてくる相手チーム。
追い抜いてしまうより、スピードを落としたほうが早い。相手チームは一度こちらより下がる。
俺たちを抜くことが容易いと見ているというわけではないだろうけど、抜けないことはないし、ここで一織を落としてしまえば厄介で狂っているような攻撃をされることもない。人が落ちたとしても、死ぬことはないようになっているレースだ。なんのことなく躊躇なくスピードを落としてきた。
そんなことは、もちろん予測済みだ。
一織が落ちるそのタイミングで、青磁が思い切り糸を引いた。
結界を壊し、一時的に相手の車体に糸を引っ掛けた青磁は糸をひくことによって、相手の車体に引っかき傷を残し、落ちていく一織を弾いた。
一瞬宙にういた一織をさらに糸をなげて捕まえ、全力で引き上げる。
その間に相手チームの結界はもう一度張られている上に、相手チームの攻撃もこちらに襲いかかってくる。
「良平」
「はいはい、相棒使いがあらいったら」
良平はそんなことを言いながらも的確に飛んでくる魔法を単純な結界で防ぎつつ、今度は相手チームの結界に穴を開ける。
そこに佐々良が愛用の銃で何発か打ち込む。
それはもちろん、決定打を与えるものにはならない。
さて、ここで問題だ。
攻撃をしているのは、うちのチームと今二位になってしまっているチームだけだろうか。
俺は、追い抜いたあと、まだスピードアップを念じているだけだろうか。
答えは否。
こーくんたちも攻撃を繰り返し、間にある一台を落としにかかっている。
俺はスピードを緩めはしなかったものの、一度上げて安定させてしまった今は、たった一つのチャンスに集中している。
一織が再びなんのことなく魔法自走に戻ってきた時、何度目かの衝撃波が走ってきた。
俺は車体を上へ。
こちらに気を取られていたとしても、あちらもさすがは昨年トップだ。なんとかそれをギリギリで避ける。
といっても、結界は衝撃波にかすられ、大惨事。
ここですぐ持ち直すほど素晴らしい魔法使いをあちらはもっているか。
俺は、必要以上に上へと浮いた魔法自走のスピードを落とす。
「うは、ドンピシャ」
糸がつけた引っかき傷に、結界が張られる少しの間、相手の斜め上から撃ち込まれる銃弾。
「試し撃ちのおかげでそれなりだわ」
風のむきだの速さのちがいだの抵抗だのを考慮して当てたのは、さすがといったところだろう。
そして、彼らの車体が揺らいだところを見落とすようなこーくんではない。
いくら間にあるチームに攻撃をしかけていても、こーくんはいつでもいろいろとチャンスを狙っている。例の何処に投げても戻ってくる槍が、恐ろしい速さでこーくんの魔法自走から放たれた。
こーくんの槍は今、魔法自走から射出される弾丸と化している。魔法自走に大砲を取り付けたわけだ。そんなに大きい訳でもないが。
魔法自走から射出されたそれは、人間が投げるよりも速いスピードでそれは飛び出していって、昨年のトップを撃破した。
「手柄はもってかれてんけど、ま、邪魔なのはおらんなったわなぁ…」
「それを作戦通りやっちまうとは…」
隣で漸く人心地ついた一織が苦笑した。
作戦はこうだ。
最初に囮に一織をつかう。
そのあと、こちらが猛攻撃をしているようにみせて、佐々良に車体がすれ違う際の試し打ちをしてもらう。
その猛攻撃に気を取られている間に、こーくん達の攻撃がやってくる。
それをさらに利用して、佐々良に撃ってもらう。
うまいことどこか走るのに問題がある場所に撃ち込めたらいいのだけど、さすがにそれは望みすぎだろう。
では、何のために撃ったか。
周りからの攻撃を見えなくするため。パニックに陥ってもらうため。そして、少し運転をおろそかにしてもらうため。
もちろん、みっさんが斬撃波を出すモーションをとっているのを見て、タイミングを計ったし、青磁と一織にはとても頑張ってもらった。
その上、こーくんの性格も熟知していたからこそできたことだ。
撃破数は増えないものの、邪魔なものになくなってもらうことが目的だ。問題ではない。
「うちも、もう一台落としてもうたほうがポイント的にええんやけどなぁ」
「もう、かなり疲弊したんだけど」
良平が疲れたように呟いた。
後ろの二台は激闘をしているようで、こちらには流れ弾しか飛んでこないため、俺は回避だけを繰り返しながら前に進んでいる。
「そやろね」
今現在、トップはおそらくこーくんのチームだ。
撃破数が最終レースで四台。その上、本選第二でも落としている。
「ま、一台はこのまま、こーくんちに落とされるのを待っとったらええわ。それが、できるとおもんねや、あのチーム」
「こっち、もう、手がないと思んだけど」
「いやいや、逃げ切らせてもらうで。優勝にはなれんけど、二位にはなる…つもりや」
そろそろラストスパートというところ、うちの燃料が尽きようという頃。
こーくん達は漸く、間の一台を落とし、ラストスパートをかけた。
もちろんうちより速いのだけれども、完全優勝…うちのチームの自走も落としたいこーくんはこちらに並走してくる。
「いやぁ、さすがやわ…本当におとしよったわ」
「呑気に言ってる場合なのか?」
お隣で一織が疲れた様子でこちらを見た。そらそうだ。囮になったことで、だいぶ疲れているんだから。
「あーんまりね。燃料もやばいし」
「それ、マジでやばいんじゃ」
良平が他人ごとにように笑った。
残念、良平はこのあとも馬車馬のように働かなければならないのだよ。…言ってないけど。
「ん、なんとかするし、なるから、平気やで」
この間にも衝撃波は飛んでくる。ギリギリ避ける中、巧妙な角度で飛んでくるナイフを、疲れているだろうに一織がナイフを投げてなんとかしてくれている。
それを手伝うのは佐々良。相変わらずの的確な早撃ち。
全体的にあちらがこちらを狙いにくくしているのは青磁で、おかげでこちらの防御もなんとか間に合っている。
その中、魔法と召喚獣が飛んできているのだが、良平がなんとか対応してくれているようだ。
こーくんの秘密兵器である槍は、まだ出てきていないが、出てくるのも時間の問題だろう。
最後の直線コース。俺はそこで勝負をかけよう。
たぶん、あちらもそうするだろう。
「良平、ちょお、代わって」
「はぁ?」
俺の突然の言葉に嫌そうな顔をする良平。
さすがに了解してくれないだろう。しかし、了解しようとしなかろうと運転席を無理やり変わってしまえばこちらのものだ。
「運転代わって」
「ちょ…ッ!」
運転席から後部席へ。俺が勝手にそちらへ移ると隣で魔法をつかうことができない一織はどうすることもできないため、後ろにいた良平が身をのりだして一応操縦するしかない。
「前へ、何よりも早く、前へ。や。それだけイメージして念じとったらええよ燃料の循環のイメージはせんでええし」
「クソ、あとで覚えてろ…!」
やけくそのように、良平は運転席につくと、操縦盤に一応伸ばしていた手をちゃんと置いた。 「あ、あとな、燃料がわりに、力全部つこて。ドーピングも。結界はええから」
「はああああ!?」
「良平くんを信じとうよ。はは。補給口はなんと、そこの足元」
「クソ、マジ覚えてろよ…!」
良平が俺を罵るたびにワンコからの視線と殺気が怖いけど、ここで手を出してくるようには躾けられてない。さすが良平。
消えた良平の結界の代わりに、俺が持っている結界をつくるための魔法石を取り出して、それをすべて展開。
一瞬車体が大きく揺れ、スピードダウンしたが、すぐにぐんぐんとスピードを上げ始めた魔法自走に安堵の息をもらしたあと、俺はずっと魔法自走に載せておいた愛用の超長距離銃を構える。
俺は後部席で気配を消す。周りの気配を遮断する。
俺は周りを見ない。
見たい部分だけを見る。
たとえナイフが飛んでこようが、魔法が飛んでこようが、衝撃波がこようが、お呼びじゃないし、気にしない。
俺はこーくんを知っている。そして、こーくんがどういう指示を最後にするのかってのも、だいたい解ってる。
こーくんは一番最後に止めを刺したいタイプ。
特に、本気の俺が相手なら、そう。
「そうやなかったら、絶対、こんな手段には出ぇへんよ」
ぽつりとつぶやくと同時に、白い槍がこちらにやってくるのが見えた。
こーくんと目があったような気がした。
たとえ、目が本当に合ったとしても、俺はなんの感慨も覚えなかっただろう。
息を止め、引き金を引いた俺は着弾を確認する前に、良平に指示した。
「斜め上ちょお浮いてスピードアップ、のち、後退、スピードダウン」
こーくんは確かに、俺に最後の止めを自分でさしたいと思うだろう。しかし、これはチーム戦なのだ。ここにいるのはこーくんと俺だけではない。
俺が一時的に無視したメンバーがもちろん攻撃を仕掛けてくるのは当然だ。
こーくんの槍が俺によって、はじかれたと見るやいなや、飛んできたのは衝撃波。
予想通り、縦、横、十字になるようにわずかな時間差で出されたそれは、白い槍を掠め、その軌道をそらしてしまっただけでなく、魔法自走に向かって行ったため緊急回避を取らざるを得なかったこーくんのチームの足元を揺らし、狙いが甘くなったお陰もあり、俺の声に応えてくれた良平によって、なんとか回避。
ゴールを目前にスピードダウンした俺たちを差し置いて、ゴールするこーくんたちのチーム。
これで攻撃をされることはない。
ゴールをしてしまったチームは攻撃権をもたないのだ。
「……座る時間もあまりなかったな」
こーくん達がゴールしたあと、しみじみと呟かれた一織の言葉に、俺はもし今度の参加があったら座席は用意しないと決意した。
◇◆◇
とある部屋の片隅、俺は優勝も噛み締められずにいた。
「なーんや、負けた気分」
思わずぼやいてしまうのも仕方ない。
叶丞の計算には舌を巻かざるを得ない。
一台撃破させられるし、うまいこと人に攻撃させるし。
わざわざ後部席にやってきてまで俺を狙うようにして、叶丞が俺を狙ったのはそのせいなのだろう。
燃料がなかったとしても、エネルギー補給だけすればいい。
わざわざ良平くんに代わってもらわなくても叶丞がコントロールできたはずなのだ。
俺と勝負をするような真似をしなくても、あのコントロール力があれば俺の攻撃はよけられたのだ。
…他の攻撃までは、わからないけれど。
それもおそらく、計算されている。
「これやから、叶丞相手は嫌ですわ…」
「こーくん、なに言うてるの?嬉しそうに挑んでった癖に」
白衣にポケットを突っ込んだ美人で年齢不詳な女性が俺に向けて、ニヤニヤと笑った。
「せやけども」
不満も言いたくなる。
妃浦の攻撃はなんだかんだと一織と佐々良くんに防がれて、牽制にしかならなかったし、青磁くんの糸のせいで狙いにくそうにしている攻撃陣がいたし。
召喚獣は結界に閉じ込められるわ、防がれるわ。良平くんほど結界の破壊が上手いわけでも瞬時にできるわけでもないんだから、何重にも結界展開されたり、張り直されたりされたら、千想の攻撃も精彩を欠いてしまうし、意味をなさなくなってしまう。
当然、攻撃を続けていたら、耐えかねて結界も壊れてしまうのだが、その攻撃をできるだけ近づけないように防御しているのが、一織と佐々良くんと青磁くんなわけで。
にっちもさっちもってああいうことをいうのではないだろうか。
「ウチの息子もようやるやろ?」
「ようやるやろ?や、ないでしょ、連れ戻したいんは俺より強いですやろ」
「そやねぇ…でも、あの子楽しそやったし。また半年くらい待ったろかなと」
「そこはあと一年半とかにならんのですか」
「ならんよぉ?そこは、親の都合やのうて、お仕事の都合。まぁ、あの子のことやし、一年半くらいやってまうんやろけどねぇ」
「あーあ。チャンス逃してもた。あーあ」
「あーあ」
お茶目な彼女は俺の真似をしたあと、叶丞に良く似た笑顔を浮かべた。…いや、叶丞が似てるのか。
「子供ってなんであんなに巣立ちが早いんやろか、参ったわぁ…」
「ほんと、あんなにちびーこかったのににぁ…」
「あら、もうそれに戻るん?」
俺は頷いてとある部屋…研究室から出る。
去り際、彼女…叶丞の母親とした会話を思い出しながら。
「そうだにぁー。じゃあ、また職場で」
「ん。お兄ちゃんも頑張ってぇな」
「それ、叶ちゃんに言うたら怒るで」
「言うつもりはないねんけどねぇ…もう気づいとるんとちゃう?多分、去年くらいから確信の領域で」
「それでも」
叶丞が幼馴染と言ってくれる限り、そして、俺が幼馴染という限り、それは言わないことにしている。
別に兄弟だって、俺と叶丞が変わるわけではないが、そんな特別性があってもいいんじゃないかと、俺は思うのだ。


携帯端末って便利すぎる。
というより、学園だの研究機関だのは携帯端末を便利に使いすぎではないだろうか。
一織の学園残留のお知らせも、俺の学園残留のお知らせも、携帯端末にそっけない文章で送られてきた。
「…とりあえず申請は通ったみてぇだし、いいとするか」
携帯端末を見ながら渋い顔をした一織を目撃し、俺は昨夜きた研究機関からのお知らせを思い出す。
今年の申請も通りました。契約続行とします。次回更新は半年後、また更新時期、一月前にお知らせいたします。
みたいな短い文章だった。
最初、半年って短いなーっておもったから、去年はダダをこねて死に物狂いで成果をみせて、半年更新を二回した状態でとってもらう…一年こうしんにしてもらったのだが、さすがに、今年は半年更新らしい。
レースのあと会ったこーくんは、完全優勝できなかったということで、不機嫌な顔をしているものの、俺の援助というかなんというかの打ち切りだのなんだのの話はせず、美人の雑誌編集者に何か答えていた。
あとでアドレスの交換をしていたのはさすが、こーくんだと思う。
「で、皆どないするん?俺、学園の方に帰って報告まとめたりせなならんから、帰るけど」
「手続きの完了と、生徒会主導行事の準備しねぇとなんねぇから、俺も帰る」
申請が通ったのは簡易な文章でやって来るというのに、手続きは学園の端末からしなければならないとは面倒くさいことこのうえない。
「あ、俺、ちょい残って叶丞の金で買い物しなきゃなんないから、残る」
良平は、最後にこき使った条件として、こちらでマジックアイテムや魔法書を見ていくための金銭を要求してきた。それでワンコに噛み付かれないし、実はワンコより怖い良平に襲われないというのなら問題無い…気もする。
良平が魔法機械都市にのこるというのなら、もちろん良平と一緒にいたい青磁も残るということだ。
「やったら、あとは…佐々良はどうするん?」
「ん?んー…ちょっと、面白いの見つけたから、適当に帰るわ」
つまりその面白いのをつつくかいじるか調べるかしたら、帰る。という方向のようだ。
「おっけ。じゃ、俺と一織がすぐ帰るってわけやな」
「そうなるな」
そう言いつつ、なんか一織にはなんとなく俺のことを好きであるようなことを言われたようなことを思い出した。
一織があまりにも普通で、あまりにもさらっとなんのことないような態度をとるものだから、レース本選中はさらっと忘れていた。
それでなくとも、成果の発表だなどという面倒くさいこともレースにかかっていたのだから。
これは一度ちゃんと、俺は会長が好きですからと言うべきなのか、本人が何も言わないのだから放っておくべきなのか。
二人で学園へ帰るとなると、これはちょっと考えなければならないことではないだろうか。
「しかも、よりにもよって」
俺は思わず独り言をつぶやく。
そう、よりにもよって、会長と顔が似た兄弟の一織でなくとも。
いや、それだけなら俺だってちょっと考えるとか言わない。平気でとぼけておく。けれど、俺が会長を好きで、しかも顔が似ている一織がよりにもよって俺のこと好きかもしれないとか。泥沼になりそうな雰囲気しかない。
本人はさっぱりしたもので『十織なら許す』みたいなことを言っていたし、あまり気にすることでもないのだろうけど。
「キョーは、寿に挨拶してくんだろ?俺も一応するから、一緒にいくか?」
俺が少し考えている間に、ほかの連中は三々五々好きなようにどこかへいったらしい。一織と2人になっていた。
「あーうん、そやね。いこか」
ちょと気になっちゃうのは、やっぱそれなりに一織とも仲いいから、なんだろうなぁ。
結局、二人でこーくんに挨拶したあと帰ることになった俺は、一織と二人でこーくんの家に向かう道を歩く。
恋愛ごとを考えるのはあまり得意じゃない。
万年ふられんぼだし、自分から好きっていいにいくのは得意だけど、計算して好きになってもらおうとかそういうことはあまり考えない。
嫌われようとも思ってないけど、好かれようとも思ってない部分もあって、なんか、究極、好きな人にそう言う意味で好きな人がいなくて一緒に居られたらいいかなぁと思ってる。今のところは。
だからだと思う。会長とはずっとあんな感じだろうし、一織が何か仕掛けてこない限り対応しなくてもいいんじゃないかなーって思いもするのは。
「キョー」
「…なん?」
「何考えてるんださっきから」
「人生って難しなぁって…」
一織が胡散臭いものを見る目でこちらをみてくるのだが、大方間違っていないと思う。
「こーくん優勝おめでとー俺、今日かえるから、すぐお暇してもええー?」
「叶ちゃんはあれやにぁー、イマイチ愛が感じられないにぁ」
「うんうん、愛してる愛してる。大好き大好き。で、帰ってええ?」
こーくんのことはそれなりに好きだけど、呼び鈴鳴らしたら数秒して出てきたなと思ったら、ほっぺに口紅つけてやってくるってどうなの?
今時そんなわざとらしいキスマーク付けてくる人いないよ。偽装だなってか、うわ、ツッコミ面倒くさいなとか、最終的に、帰りたいなとか思っても仕方ない。
「もー、そんなに簡単に帰さないにぁー」
「ワーモッテモテ」
他人事のように言って、一織が視線をそらした。『簡単に帰さない』に巻き込まれたくないらしい。
俺はしっかりと一織の腕を掴むと、こーくんに笑顔を向けた。
「じゃあ、ちょーとだけお別れの挨拶を丁寧にしよかな」
こーくんは漸く頬にあるキスマークを手で隠す。
「ん。あ、おひーさんもちゃあーんとしてくれるんやよねーちゅーとかでもええよ?」
突っ込むでもなく取り合うでもなく、一織は耳に小指をさしたあと、その小指に息を吹きかけ、首を横に軽く倒す。
「わりぃ、きいてなかったわ」
絶対聞いていたと思う。
「うん、叶ちゃんもおひーさんもいけずだに。こーくん、ちょっと寂しい!っていうかかなり寂しい!また、遊びに来て頂戴。っていうか、永住しちゃいえばいいんだに。お兄さんが養ってあげるにぁ。一夫多妻制で!」
両腕を広げて、俺と一織を待つこーくんの鬱陶しいこと。
俺と一織は一度顔を見合わせたあと、同時に首を横に振った。
「ねぇな」
「ないない」
「…えーハーレム男の夢だに?」
「ハーレムに入れられる予定もないというか、希望するのは一人だ」
「なんや、忘れた頃に攻撃されてる気がするんやけど…」
「気のせいだ」
してやった。みたいな顔で気のせいとか言われても、気のせいな気がしない。
俺は一度息をついて、こーくんにちゃんと視線を合わせる。
「そんなわけやし。もう学園帰るけど、こーくん、ハーレムはほどほどにやで」
「あと、鬱陶しいテンションで振られたことを連絡してくるのもほどほどにしとけ」
一織にはそんな報告もするんだなぁ。と俺は今、初めて知った。
俺にはとある理由から、カッコ悪いことはなるだけ見せたくないと思っているこーくんは、そんな連絡だとか本気の泣き言だとかはいったことがない。こーくんのカッコ悪いはどのへんにあるか判別がつきにくいので、格好悪いなと思うことも多々あるのだが。
「あ、おかんにもよろしく言うといて。同じ職場やろ」
「んー。言っとくにぁ」
「…?会わねぇの?」
一織が不思議そうに首を傾げた。
「そやねぇ…あの人と会うたが最後、離してくれひんから、速やかに帰ることにしとるんよ」
「…それは、愛されてるんだろ?」
「もちろんそれも、あるんやけど…うーん、ほら、こーくん笑うとらんで」
心底不思議そうな一織と困っている俺が面白かったらしい。
こーくんが頬を抑えたまま声を出して笑っている。
「うちのおかんな、研究熱心やねん。そらぁもう、すんごい。で、話は飛ぶんやけど、俺の魔法石とかなおかんの研究施設から提供してもろうててな、それをどう使ったとかどういう使い道あるとか、色々報告しとるんやけども、それをいちいち実演させよるん」
いちいち実演させられる。
これは面倒くさいうえに体力を奪われる。
しかも、前に故郷に帰ったのは半年前だ。
半年分のデータの再演など、やっていられないと思うのが普通。しかも、その半年前でさえ、なんとか避けきったのだから、かなりのデータの再演を求められるに決まっている。
「それは、大変そうだな」
でも、大事にされてるのなら顔くらいみせたらいいのに。
というのは、一織が両親の愛情という面で恵まれていると言い難いから。
俺くらいの歳だと、普通にそういうことをしがちなんだけど、一織に寂しそうにそう言われると俺も強くは言えない。
「んー、今度ひさっしぶりにお電話するし。ま、気にしなさんな」
本当は、一織の言うとおり、顔くらい見せたほうがいいのかもしれないが、顔を見せたばっかりに、実演を何度もさせ、ほら、家に帰ったほうがいいにきまってるといいだして、せっかく何事もなく終わろうとしていることに水をさされてもたまらない。
俺は曖昧に笑っておく。
「まーま。おひーさん。叶ちゃんちには、叶ちゃんちの微妙なルールとかあるしにぁ。さて、お二人さんはなんで帰るのかにぁ?」
「電車」
「だったら、時間もあるだろし、ここでさらっとお別れしとくにぁ」
引き止めたのはこーくんだが、お別れの挨拶にしてはひどい挨拶だったため、俺は何も言わないで頷く。
こーくんも特に何も言わないで、軽く手を振る。
「じゃ」
なんて、意外とあっさり背中を向けて、家に入ろうとするものだから、思わず、一織と再び顔を見合わせた。
顔を見合わせすぐにどちらからともなくにやりと笑い合う。
そして、ふたりしてこーくんの肩に手を載せて、こーくんがぴたりと止まった瞬間に、こーくんの頬に軽くキスをした。
二人とも、同時に。
「………なんや、二人とも、こういうの、卑怯とかいうんとちゃうん?」
「こーくん、言葉言葉」
「卑怯で結構。じゃ、またな」
「しっかり、ちゅーしてくとか本当、ハーレムにはいったらええのにー」
それにはやっぱり、二人してまた首を横に振ってしまったが。
「あと、こーくんやなかったら、こんなことせぇへんよ。キモいし」
「まったくだ。キモいし」
「え、それ、なんか俺がキモいって言われてる気分でなんだかしょんぼりだにぁー」
今度こそ、こーくんから離れて、二人して歩を進めつつ答える。
「愛だろ、愛」
「そやでーキモォても、愛やでー」
こーくんも背中を向けるのはやめて、俺たちが去っていくのを見ながら、ポツリと呟いた。
「腑に落ちない」
このあと、俺の口に口紅ついちゃって、一織の笑いが止まらなかったのは別の話。
◇◆◇
「なぁ、やっぱり戻らなならんのかなぁ」
何処に戻ろうというのだろう。
先に飯を食いに行くというのを一応伝言しようと思ってきた俺に聞こえた叶丞の声。
「もう、一年半くらい延長したしにぁ…」
一年半の延長とはどういうことだろう?
わからないながら、叶丞はどこかに戻らなければならないのを一年半伸ばしたらしい。
「なぁ。こーくん」
「なんにぁ?」
「戻ってくるのはええんやけど…むしろ、こっちにおった方が俺の都合もええし。わかっとるんやで。でも」
「あと、一年半?」
あと一年半。
一年半前、叶丞は高等部一年生だったはずだ。
その一年半後、つまり、順当に行けば卒業しているはず。
これが示すことはなんだ?
俺は悩みつつ、気配を完全に殺して近づいていてよかったと思った。
叶丞に盗み聞きがバレないから。
「好きなん」
「…恋愛?」
「それも。でも、や。ほれたはれたくらいやったら、こっちに帰って来とったよ。それ以外にもちょっと、あっちに作りすぎて、楽しみすぎたん」
ほれたはれたくらいで、という言葉に過剰反応してしまってドジを踏みそうになったが、俺は冷静に考えようとすることで対処しようとした。
ほれたはれたくらいでこっちに帰って…ということは、戻るのは魔法機械都市に、だ。
どうしてもほれたはれたという言葉に反応してしまっている自分自身に内心舌打ちをする。それくらいという、叶丞の中における恋愛への程度をみたことから、『くらい』というくらいなら、俺にもなにかしらのチャンスがあるかもしれないと、思ってしまう。
その程度のものなら、揺らぐのもた易いだろう?それくらいのものなら、俺にくれてもいいだろう。十織に向ける少しでもいいから。だなんて、俺もどうかしている。
とにかく、俺の恋愛事情はどうだっていい。
いや、こうして盗み聞きしているのも、考えてみれば恋愛事情なのだが、それもおいておく。
「俺は、もう一年半くらいええんやにー。けど、一年半が無駄と判断されたら、こっちに戻ってこざるをえんやろにぁー」
寿の声に、眉間に皺をよせる。
無駄というのは一体なんのことか、聞いてやりたいものだが、誰かはわからないものから無駄と判断されたのなら、叶丞は魔法機械都市に戻らなければならないということだ。
「今の一年半も無駄ではないんやけどねぇ。去年も成果は見せたから、あれから一年、延びたんやけど」
ちゃんと、叶丞は無駄ではないと、否定する。
だが、話の流れからすると、今、期間延長をしてもらいたいらしい。あと、一年半。
一年伸びたというにしては、半端な時期だなと思うことで俺は冷静になろうとしていた。
学園と、魔法機械都市は近くない。
もう家から出てしまった身としては、叶丞をおいかけることも厭わない。
けれど、俺はどうしてもあの学園を卒業した証が欲しい。
それが魔法機械都市での三年間であり、執念だったんだ。今更、あの学園を途中退学する気はない。
たとえ、ヤケになって、賭けみたいな行動に出たとしても。
だからといって、叶丞ではないのだが、俺の中における恋愛に向ける重要度というやつは、そんなに高くない。遠くても、こうして会えるのなら、寂しかろうが、会いたかろうが、なんの問題もない。
ない、はずなのだ。
相手が、好きなのが、叶丞でなければ。
叶丞との関係がはっきりしているのなら距離が遠くとも近くとも、こうも動揺はしない。
自覚したばかりだというのに。
人は心が弱った時に恋愛をしやすいのだという。
それならば、叶丞ほど、俺の心に入り易いやつはいないだろう。
家から出た時もそうだし、魔法機械都市に来たときも、そうだ。
いつも叶丞に形こそ違えど、慰められている。
優しいわけでもないのに。
俺は、気配を消したまま、その場から逃げる。
弟ならばいいとか、そんなことを言ったくせに。
本当は俺だけのものにしたいという独占欲を抱えている。
本当は特に、弟には、渡したくはないのだと。
俺のものでもなんでもないのに。
「徹底的に、邪魔してやろう」
そして、今、叶丞は俺と一緒に電車に乗っている。
結局、何がどうなっているのかも聞かないで、現状に少し、満足している。
二人っきりなど、今まで少なくなかったのに、少しの特別感と優越感にひたっている。
俺というやつは、こんなに面倒くさいやつだったのか。
「なんや、ひぃ、急にわろて」
「いや、ちょっと…人生ってクソだな、と思って」
「…なんや、昼間の仕返し?」
ああ、そう思えば、そんなことも言っていたな。



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