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昔の分です。
いずれ1のようになおします。
いずれ1のようになおします。
三年生二人組みから逃げて離脱したら、そこは、地獄でした。
何も、わざわざ激戦区に転送してくれなくてもとおもったのはいうまでも無い。…もしかしたら、それすらもハンデなのかもしれないけれど。
別のフロアにいたと悟られないように、一応人のいないところに転送はされた。
されたけど、そこは、トイレの個室だった。なぜわざわざこんな狭いところに…とおもって気配を読んだら、トイレでてすぐの廊下あたりが大乱闘現場。
トイレもそのうち埋め尽くされます。みたいな場所だった。
個室なんかにいたら、あっという間に再び離脱だ。
とおもって、便座に座ったままぼうっとしてしまったくらいだ。あんまりだろ。他の連中もこうだったのか、俺だけなんだろうか。よく解らない。
俺たちがあのフロアにいたのは、寮室争奪戦のハンデの一部だった。最後まであのフロアにいた人間がどうなるかは、後で三年生二人組みと追求に教えてもらったのだが、どうやら、あのフロアに最後までいた二年生は三年生が卒業すると寮長になるらしい。
今は副寮長なんだって。と、追求が笑っていた。
最後まで残らなくて心底よかったと思った。
たとえ協奏である寮長に怒られても、槍走である書記に二度目の肩ポンをされても、だ。
寮長に協力体制とその他諸々主に、自滅はダメだ。ということについて説教された。その上、寮長は今回の俺の最後が大変お気に召さなかったようで、夏休みに特別補講させるから。といって、補講まで用意してくれた。
まぁでも、寮長のいうことはもっともだとおもったので、大人しく補講は受けることにした。
魔法機械都市で補講というのに、すごく嫌な予感はするが、まぁ、里帰りはするのだから、いいとしよう。
それはこの寮室争奪戦が終わった後、呼び出されて教えてもらい、いわれたことだったので、まぁ、置いておいて。
このときの俺にはそれ以上に恐ろしいことがあった。
双焔のお二人さんだ。
他のメンツには恨まれるような離脱方法をさせたわけじゃないからいいけれど、あの二人は仲間の裏切りで離脱させられたようなものだ。
たとえ、離脱先で、離脱するのが一番いい方法だと思い知ったとしても、もやもやは晴れないわけだ。
俺がトイレの混雑から解放される頃に、見計らったように二人が協力体制できたのには、本当に参った。
弾なんて入れ替えてる場合ではないくらいの連携で攻めたてられ、逃走をしようとしたんだが、焔術師の攻撃距離があまりにも卑怯だった。
ちょ、寮が壊れるんじゃ…燃える燃える!とつっこんだところで、そのときの焔術師には関係なかったようである。
もう、結界はれるような力は残ってないし、魔法石もないし。
俺は走る走る。巻き込む巻き込む。
今にしておもえばまだ、手加減している。大規模魔法なんかは使ってなかったから。
単純に銃だけを使って俺はどこまでやれるんだろうなぁ。なんて思いつつ、かけ走って三年生とかち合う。
ニヤッと笑ったそいつは焦点。狙った相手は何がなんでも執念で倒すという武器科銃選択の素敵な先輩だ。
サイレンサー付きの銃が俺に焦点を定める。
厄介なの三人に挟まれて、どうする、俺?
もう、早々に寮室争奪戦から離脱したい気持ちではあったが、何か、もう、疲れたやら、微妙になんで俺がこんなに狙われなければならないんだという思いがあるやら。
とにかく。
だんだん腹がたってしまって。
結果、焦点と双剣が俺を挟んだ状態で焔術師の攻撃を避け、混戦会場まで三人を連れて行き、混戦のさなか逃げる。
という行動を取った。
いやぁ…気配を読むまでも無い混戦会場だったんだけど。
三人をまいてホッとしたところ、ぞくっとする気配が後ろに…。
「やっと一勝だ」
暗殺者の囁きに、うわーって思う間もなく、俺は自室の風呂場にいた。
何時から近くにいたんだろうなぁ。
混乱に混乱を極めた寮室争奪戦!
…とトピックスは今日も騒がしい。
結局、寮室は去年と同じ部屋に落ち着いた俺は、トピックスを見て溜息をついた。
最初のトイレの混雑の中に暗殺者がいて、暗殺者が次から次へと…それはもう輝かしいというより、逞しい活躍ぶりで。
この人、学園最強なんじゃとおもわないでない撃破っプリ。
最後の生き残りは結局三年生だったのだけれども、あのフロアを抜けてからの暗殺者の活躍っぷりはすばらしく、あのフロアを抜けたにもかかわらず、三年生の有名人をザクザク…いや、一応魔法機械都市のほうに三年いたのだから当然といえば当然なのかもしれない。
「こりゃ酷いなー叶丞首の付け根、真っ青じゃん」
「…え、マジ?」
俺が尋ねると俺の首の付け根を見た良平が微妙な顔をしていた。
「寝違えたかとおもっててんけど、通りでいたい…え、真っ青?」
俺は良平が見ているだろう場所に打ち身ができるくらいの衝撃を与えられたのは、ここ最近一度しかない。
それは、戦闘中だ。
しかも、致命傷を負ったとされれば離脱させられるソレだ。
傷一つつけられないはずのそれの最中。
痕がつくのは…求愛のみだ。
「……おいおい」
おそらく、寮室争奪戦中だったから誰も求愛されたとはおもっていないだろう。
結構求愛の条件は厳しいのだ。
まさかまさかの求愛条件をそろえての一撃だったようで。
これ、わざとじゃないよな?
「これ、隠しとった方がええかなぁ…」
「なんで?」
「いや…たぶん、求愛やから」
「……お、両想い?」
冗談でもなんて事を言うんだ、この野郎は。
俺が一織に撃破されたことをトピックスで知っていた良平は、へー…と面白そうに再び俺の打ち身を見て、触った。
「いたいんやけど」
「俺も初めてみたわ、求愛の痕」
「青磁くんにされんかったの?」
「あいつに俺を傷つける度胸はないな」
「じゃあ、してあげぇや。喜ぶで」
暫く、良平は悩んだ後、ああ、と手を一度打った。
「所有の印はつけてあるからそれでいいだろ?」
下ネタなのか、それとも召喚するために刻んだ印のことをいっているのか、どっちなんだろうなぁと思いつつ、下ネタだったら、あてられるんで、黙っておく。
どうせ俺は好きな人に話しかけても眉間を寄せられるだけだしね!
「でも、喜ぶとおもうからやってあげぇや。最近、なんやあんまかまっとらんやろ」
「だって、あいつ、調子乗ってんだもん。叶丞が有名人とオトモダチになっちゃたからっつって、ガードが甘いっつうか。面倒だから、ちゃんと当初のルールを守れというか」
ご主人様はとっても厳しいようです。風紀委員長頑張れ!
「というか、面倒だから。求愛」
面倒というのは頷ける。
条件が厳しいのだ。
無傷で一撃、武器によって傷つけなければならない部位がまちまち。しかも、日によって時間が違う。
おそらく、一番システムに負荷がかかっている時間なんだろうけど。
負荷がかかる時間なんてのは大体割り出せるけれど、傷が残るほどの付加がかかっている時間なんてムラがあるだろうし、それにあわせて上手く一撃だなんて、それはもう、殆ど奇跡なのだ。
だからこその求愛なんだろうけど。
「まぁ、そんなとこの打ち身とか珍しいし、隠した方がいいな、確かに」
求愛されたとなると、面倒だし、こんな場所。誰にされたとかバレバレというか。
「ん。襟の高いのでかく…せない真夏やん。どないしょ。あ、でも、夏休みやしなぁ…さっさと帰ったら問題ないんちゃうん?」
と、俺が言い終わったか、終わらないか。
ばたーん!と将牙が部屋に入ってきて、元気よく言ってくれた。
「叶丞ー寮長様がお呼びだぜッ」
そんで俺は寮長の部屋で説教されたわけですよ。トホホ。
寮長に呼び出されて解ったのは、あのフロアに残されるのは次期寮長を決めるためであるとか、三年生の一部があのフロアにはいり早々に離脱するのは、ハンデを軽くするためであるとか、そして、あのフロアに最後まで残るのは三年生の代表と寮長であるとか。三年生の代表が残るのは三年生のプライドであるとか。
大体はまぁ、推測どおりだったわけだが。
補講先の詳しいことは追って、連絡する。といっていた補講のことを、飯を食ったあと遭遇した一織と会長がいるその場で携帯端末で知った俺は、思わず悲鳴をあげてしまった。
「りょ、寮長ッ!」
魔法機械都市名物、魔法自動走行機…略して、魔法自走のレースに参加すること。
メンバーは自分で誘いなさい。
そして、結果は最終レースまで残ってトップ10に入ること。
魔法自走の予算は学園支払いだから安心しなさい。
…そんな内容だった。
故郷の名物レースは見る分には問題ない。むしろ、毎年見て楽しませてもらっている。
しかし、参加するとなると、えらく骨が折れる。
俺を見た瞬間に眉間に皺を寄せた会長が、俺の悲鳴に、俺の見ていた携帯端末の画面を下に倒すことで自分自身にも見えるようにした。携帯端末は小さいので、結構な近距離でみられているわけだが、それでも、画面の字は小さい。
目がいいなぁ…なんて思ってしまったが、ここは会長の近距離を楽しむべきだったのかもしれない。
しかし、そんな邪なおもいよりも、今は名物レースに出なければならないことに絶望している。
「ザマァ」
携帯の文字列を読解し、会長がさっさと離れて鼻で笑ってくれた。
あれは本当に過酷なレースなのだ。
一織は弟の態度を少したしなめた後、男前に爽やかに、どうした?と聞いてくれた。副会長の仮面が分厚くて、過酷なレースのことも忘れるくらい気持ち悪かったです。
「魔法機械都市、名物レース…参加が…あ、お二人さん一緒に参加したないですか?」
会長が、ハァ?という顔をした。
解りやすい答えだなぁと、思いながら、一織を見ると、暫くの間何か考えていたようで。
「その不自然な動きで隠している箇所を見せてくれるなら、考えようか」
頑張って、自然に見えるようにしていたんだけれど。
夏服で隠れるには隠れるんだが、さすがに俺より身長が高い人からは覗き見ることができる求愛の魔力痕である打ち身を俺はなんとか隠していたわけだ。
一織以外には特に指摘されなかったのだから、本当に、わからないくらいの自然な動きだったのに。
くそ、さすが暗殺者は伊達じゃない。
「見せたって考えるだけやったら、ご遠慮するわ。うん、他あたるしええよ」
といっても、参加メンツは少なくて三人。多くて五人。
四人くらいが理想だなぁと俺はおもってるんだけれど。
良平がきてくれるなら問題なく三人は確保できる。青磁がもれなくついてくるからだ。将牙も説明すればついてきてくれるかもしれないが、あのレースに将牙は向かない。
しかし、良平がうんというとは限らない。
何せ夏休みは魔法探求のもっとも進む時期で、魔法使いは部屋で研究にいそしむ時期なのだ。
特に良平は、武器も扱っているから、長期休みはできるだけ研究にさきたいのだろう。遊びに誘ってうんといわれた覚えがあまりない。
だから、ここで二人を確保するのがベターなのだが、この求愛痕を見られるくらいなら、他を当たりたい。
「あくまで隠すか。それは……見てぇえなぁ…」
一織がすごく悪い顔をしました。
怖い。チビル。お部屋かえりたい!と、怯えたふりをして、じりじり後退する。
食堂からの帰り道にばったりあったため、後退すればそこには食堂しかない。
食堂に行くには道は一本しかないが、食堂の窓から外に出れば何処にだっていける。
俺は最短ルートを頭の中で再生しつつ、じりじりと後退。
「追いかけっこで俺に勝てるとでも?」
「いややわぁ…純粋に走るわけないやん、俺やで?」
「誇ることじゃねぇし」
会長が冷たい!一織なんて失笑してたけど、これは俺が俺だから素直な逃げ方をしないということに対してじゃない。
「俺が素直に追いかけるとでも?」
こちらは俺の逃げ道をなくすこと、俺なんて甘いぜっていう失笑でした。
「怖いわぁ…何でやろ、汗がとまらんわぁ」
なんていいながら、後退していたのから一転。
俺は正面に向かって地面を蹴る。
お前なんてキィキィ!対策にもっていた痴漢撃退用の小さなボールを軽く放り投げ足で地面に叩きつける。
会長は巻き込まれてえらい迷惑だろなぁ。ごめんよ。また嫌われるなぁ…ああ、心の汗が染みる…。
地面に跳ね返りつつ割れたボールは胡椒を振りまく。
俺は再び急に方向転換。
右足を軸にして華麗に反転。走る走る。注目されながらも走る。
「くっそ、何もって…ッ」
くしゃみしたり目を隠したり。
ボールを思わず見てしまった一織の声が聞こえる。
会長の暴言は心にいたいので、聞かなかったことにします。今度あったときは土下座いたします。
俺は最短ルートで食堂の窓まで辿り着き、鍵をあげ、窓枠に足をかけ…
「にがさねぇよ?」
気配が。
気配がないぞ、一織!
声がした瞬間に一気に膨れ上がる殺気。食堂は凍りつく。
俺は凍り付いていられない。そして、後ろを振り返ることもできない。
窓枠にかけた足でジャンプして、外に飛び出す。
迅速な行動だったと、自分でも思います。
しかし、俺より速いひとなのだ。
そう、解っていたのだ。この人は早い、と。
胡椒爆弾をくらってもなお、早いのだと。
食堂なんて使い慣れてる人にとって障害物は人間だけだ。
その人間も気配さえわかれば目が見えなくたって避けられる。
そして、俺も気配を消したとはいえ、追いかけるのが副会長である一織なら、障害物なんて一言でないも一緒。
つまり、あの、にがさねぇよで道ができる。
俺が逃げてるのなんてみりゃあ解るわけだし。
空いた道を駆け抜けて、あまりよくない視界のなか俺を捕まえるのだって、不可能じゃない。
「……ひぃ、涙目やでー…」
そんなになってまで追いかけなくてもいいのに。という思いを込めての一言だったが、一織の言葉は意外とおちゃめだった。
「かわいいもんだろ」
「威圧されながら言われても、かわいないわ!」
外観的には、まぁ、会長そっくりなんだし、可愛いと、可愛いと…おもわないでなかったけれど。
うう、恋は盲目なんです!
◇◆◇
兄が変態を追いかけている間、目を擦りながら、俺は悪態をつく。
なんで、兄貴はあいつなんだ。
あいつは他と違うのか?
自問してから、すぐに答えにぶち当たる。
そう、あいつは他とは違う。
気配を隠して会いにきては告白まがいのことをするくせに、未だ自ら俺にある程度距離を課しているし、兄の名前は呼ぶくせに、俺の名前を呼ぶことはない。
それは、俺よりも兄が好きだといっているようで、俺は腹が立つ。
兄に近寄っていいのは、あんな変態じゃない。
もっと、兄貴にふさわしい…そこまで考えて、俺は、眉間に皺を寄せる。
兄にふさわしい人間は、俺が決めることではないし、本当のところ、若干あいつのことを認めている。
反則狙撃は、強い。
寮室争奪のとき、一度俺や斗佳を離脱させることができたのも、そのあと逃げ回り、まくことができたのも、反則狙撃だから、だ。
あの進級課題だって、いけすかねぇと思いはしたが、実力は、認めるところだった。
兄に二度勝ったこともそうだ。
俺は兄に勝ったことなんて一度もないのだから、そう、だからこそ、余計に反則狙撃の実力は認めるが、腹の立つところで。
なにより、他と同じだとおもったあいつは、兄と俺を比べたりはしない。
俺は俺で、兄は兄で。
俺に兄を求めない。
兄に俺を求めない。
簡単なようで、難しい。
魔法科の人間も、武器科の人間も。兄の背景を知っているだけに、兄を馬鹿にしている気持ちが少しあるのだ。
あの家の出身なのに魔法もつかえないくせに、だとか。魔法から逃げて武器をとったくせに、だとか。
兄は今でも真正面から魔法を見ている。おそらく、未だ戦っている。
俺よりも豊富な魔法の知識がそれを物語る。
俺は、いつでも兄に追いつけない。
兄ならば答えることができることも、俺には答えられないとがっかりされることも、たまにある。
魔法は、使える。
けれど、兄の努力に遠く、及ばない。
だからこそ、俺は兄を尊敬する。兄を誇る。いつまでも俺の前を走る、大好きな兄。
だから、あいつが兄がすごいだのこわいだの、できるだの…挙句、信頼している様子は、いやいやながら認める実力の持ち主なのだから、なんだか嬉しくも思える。
そうだろう?あれは、俺の兄なんだ!と。
もちろん、俺や兄の友人は俺と兄を一緒にしたりしないし、俺と兄を同じように求めたりはしない。そのほかの連中だって、そういう奴はいる。
あいつばかりが特別ではないのだ。
だからこそ、兄の執着が俺に疑問を抱かせる。
「くっそ、死ねッ」
…あいつは兄貴の特別なんかじゃねぇから。
一織に捕まって、何とか逃げようとしたけれど、無駄でした。
「ここじゃよく見えねぇな」
食堂の明かりがさす、窓の外。
影になってよく見えなかったようで、俺の首根っこを掴んで寮のほうに移動してくれたのは、助かりました。
食堂じゃ、ただの晒し者だから。
まぁ、一織の部屋につれてかれたのは、じっくり見ようって腹ですねってことで、それはそれでいやだったわけだが。
「……青痣?」
求愛痕をみての一織の感想がそれだった。
そうでしょうとも、本人にその気がなかったのだから、そうでしょうとも!
「これ、痛くねぇの…?つうか、どうやってこんな痣つく…って…」
一織は頭もよければ勘もいい。
どうやらぴんと来たようだ。
「…マジ、で?」
「それ、俺がいいたいくらいやんなぁ…」
しげしげと見られている俺はすでに抵抗を諦めている。つかまったからには、もう仕方ないともいう。
肩を落として溜息をついて、ふかっふかのいいソファーにだらっと座る。
まったく、なんで特別室はこうもいいソファー使ってるんだか…
寮のお引越しは、普段綺麗に片付けている人間ほど簡単に終わる。
何故なら、荷物を転送するだけだからだ。
割れ物は指定の場所において、それ以外はそのまま転送。
すると、まるっと、荷物はあった場所とおなじ位置にまるっと転送される。
衣類は箪笥から箪笥へ、クローゼットからクローゼットへという素敵な転送方法で転送してくれるため、部屋にいったその日から迷うことなく衣類が取り出せる。
机にあったものは机にあったままに、と、本当に至れりつくせりの転送をしてくれる。
しかしながら、部屋が片付いていない場合、そのまま転送すると家具の位置や家具そのものなんかが違ったりするため、大変なことがおこったりするのだ。
だから、そのまま、というわけにもいかず。
しかたないので、片付けてから転送ということになる。
一織の場合、転送に苦労しそうなものは、自らが集めた研究書や魔法関連の書籍くらいで、あとは無駄がないというか味気ないというか。
とにかく、物量的にはけして少なくないのに、簡単に転送できてしまったようだ。整理整頓も、できる人だし。
新しい部屋は相変わらずハイクラスだ。
「両想いだな」
意外とお茶目さんというか、冗談も言える人である一織は、そらおそろしいことをいう。ない。マジでない。できたら、会長と両想いたい。
…うん、めげない。
「…なんで、良平と同じこというとるん…自分、そういうのないやんな」
「ないな」
自分でいっておいて、腕をさする。
ほら、一織もチキン肌。
「そやろ。冗談やってわかってても、寒いわぁ」
はぁあああ…と深い溜息をつくと、一織は笑いながら、もうひとつのソファーに座って、なにかの端末を操作した。
やっぱりでっかい画面に映し出されるトピックスを暫く流し、一織は指差す。
そこには、撃破した人数のランキングが流れていた。
「…目だたなかったくせに、この撃破数、ただごとじゃねぇだろ」
「それはやなぁ…激戦区に落とされてもたからやって。トイレんとこからついてきよった奴にいわれたないで」
「ちげぇねぇ」
「…ところで、俺の首みたら、考えてくれるんやったよな、レース」
沈黙が流れる。
急に黙った一織は話題を探しているようだった。
普段はこのようなことは滅多にない。沈黙が流れたら流れたで、微妙な空気になったりはしない。
…本日のトピックスは繰り返し繰り返し同じ映像を流す。
これを研究するのが俺の日課であるし、たぶん、一織もこれをみない日はないだろう。
だが、今、このトピックスをつけている理由は、ちょっと違うように思える。
帰ったらとりあえず音のするものをつける、とか、人がきたら無言の時間をつないでもらうためにつける、とかあるんだが、これもどうも違うようだ。
一織はしばらく画面を見たあと、先ほどとは違い、苦笑を浮かべた。
「実家から、一度帰ってくるように連絡があった」
「へぇ…」
「家督を継ぐ人間を発表するんだと」
「…家督、興味あるん?」
一織は首を横に振った。
「弟が継ぐのはわかりきってるからな。今更、興味はない。ただ」
やはりあの家に帰るのは、気が重い。
一織曰く。
家には、一族がそろうとき以外、寄り付かないらしい。
できれば、一族がそろうときも寄り付きたくはないらしい。
それはそうだ。魔術一族といわれる一族の中、一人だけ魔法が使えないとあっては、肩身が狭いというか、迫害されるというか。
「とにかく、家に呼ばれているからな。参加できるかどうか、わかんねぇ」
「って、おい、最初っからわかっとったら、考えるとかないやん」
「…俺としては悩む余地がほしかったがな」
「いや、ないならないで!なんや、きいただけ損した気分やない?」
「俺の弱音もきかねぇの?相思相愛なのに、つめてぇな」
「いやいやいや、相思相愛とか言うとる時点で結構な余裕やで。だいたい、弱音とか、ほんまのこと、言いたくないのやろ。特に、好きな奴には、いいたくないタイプやんな」
「よくおわかりで」
「会長には、兄いうこともあるけど、絶対弱いとこ見せへんやん。弟大事にしとることようわかんで」
「……あいつには、いうなよ、恥かしいから」
ふ…ってかっこよく笑う一織はぜんぜん恥かしがってるように見えなかった。
むしろ、会長が気づかないのをいいことに、面白がってる節もある気がする。
この自信がちょっとかっこいいよなぁ…だから、副会長なんだろうな。となんとなく思う。
「なんやもう、俺の純情弄んで」
「なんかむかつく言い方だな、殴っていいか」
「自分散々ネタ引っ張っといてか。全力でお断りします!」
「そうか…残念だ」
何が残念かわかりたくない次第である。
俺がレースのメンツをあつめられてもあつめられなくても、長期休暇は始まるものだ。
自分の部屋に作ってしまったシュミレーターから聞こえる声を聞きながら、俺は魔法自走の部品の一部を手に取る。
相棒である良平を誘っては見たものの、やっぱりいい返事は貰えず。時間が空けば。とのこと。
別個に頼んだ風紀委員長の青磁は良平の邪魔にはなりたくないし、暇つぶしにはなるだろうと判断したのか、良平がもしかしたら来るかもしれないと思ったのか快諾してくれた。
ついでに、風紀委員長を誘ったときに一緒にいた風紀副委員長が面白がってメンツになってくれた。
これで一応最低メンバーはそろった…わけなのだが。
魔法使いがいない。というのは大変痛い。
というのもこのレース。大変過酷なレースで、魔法あり、妨害あり、さらには撃破された敵機まで点数に入るという、撃破数とスピードを競うものなのである。
車体をぶつけて…などしていては高速で動く機体だ、非常に危険であるし、機体の損傷も激しい。
どうしても遠距離攻撃が必要になってくる。
それに、早さも競うレースであるのだ。一々避けるたびルートを変えているのだからタイムが落ちてしまう。
ならば、結界を張ろうとするのは当然のことである。
そうなるとどうしても魔法はほしいところだ。
魔法自走はエネルギーを魔法石でまかなっている。天然の魔法石は、数に限りがあるうえに手に入りにくく、高額である。
しかし、魔法機械都市は魔法石を自ら量産することで魔法石を安価にし、使い放題にした。
その代わり、人工の魔法石は天然のものより力の保有量が少ない。そんなわけで魔法石を増やすこと、大きくすることでそのエネルギーを補うわけだ。
実は、その魔法石を使って俺は反則と言われる行為を行っている。だから、いかにも魔法都市出身らしい戦闘法をとっているといってもいい。
だから、こうして魔法石を発注したりする作業をすると喉から手が出そうになるほどであるが、風紀委員長にダメだしされたため、なんとか必要な分だけ注文するに留めている。
で、その魔法石をエネルギー源としてはしっている魔法自走はそのエネルギーの循環がいかにスムーズにいっているかによってかなりスピードが違う。
もちろん、機械部分をチューンナップや期待操作によってそれらを向上することはできるが、エネルギーのコントロールさえよければ、エンストすることもなければ、無駄なエネルギーを使うこともない。
このコントロールというのは、魔法のコントロールのよさに通じていて…つまるところ、俺もそれなりに自信はあるのだけれど、良平ほどではない。そう、良平さえいれば万事解決!なわけなのだが。
その良平に振られてしまったのでは、仕方がない。
他の魔法使いに頼もうとも思わないでなかったのだが、やはりこの時期の魔法使いは忙しい。皆研究に、補習にといそしんでいる。
だが、魔法機械都市の連中は別である。
参加するだけで単位がでたり、レース成績がよければさらに単位がもらえちゃったりするのだ。
そうしてもらった単位の分だけ時間は浮くのだから、浮いた分の時間を長期休暇に使うはずだった研究の時間にすればいい。
ならば魔法機械都市の魔法使いを誘えばいいと思うかもしれないが、このレースの参加は学園側がすべて用意してくれた。…つまり、学園としてエントリーしている。学園としては部外者をいれたくないわけで、そうなると自然と、魔法使いは諦めようかな…という流れなわけである。
「…叶丞、これ、速くないか?」
シュミレーターからでた青磁に、俺は首を振る。 「残念ながら、それ、まだスピードあがるで」
「まっじでー」
副委員長はちょっとお疲れの様子だ。きっと、なれたらスピード狂になるタイプだろうけど。
「なぁなぁ、ほんまあかん?」
「石か?余分に注文はダメだっつってるだろうが」
再びシュミレーターに入っていった青磁を見送りつつ、意外と硬いことをいうな…と、俺はぐんとシュミレーターのスピードレベルを上げる。
「…鬼のような所業」
いやいや気のせいでしょう。と笑っておいた。
八つ当たりだなんて、そんなそんな。
だって、石、この前から結構使って心もとなくて…。
俺は研究機関に協力したり、この時期の大安売りに買い込んだりして石を手に入れている。
あんまりお金はないから、石は大事に使いたいのに。
残念ながら、学園の連中はそれを許してくれない。
なんか他にも戦法かんがえろってか。
俺は溜息をついて、魔法自走が置いてある倉庫へと向かった。
シュミレーターのおかげで寮の部屋で満足に寝られない俺は、連日、本物の魔法自走の座席で眠っている。
学校が注文してくれた魔法自走は、一昨年のモデル。
それを改造して微調整するのは俺。
現行の最速モデルに近づけるというより、それを超えるくらいのつもりじゃないとダメ。
コントロールだけでなく、走行技術も問われるこの魔法自走自体にはのったことがあるどころか、帰宅時の移動手段であるし、今回のレースではなく、純粋に走る速さを競うレースにならでたこともある。
成績はまぁ、いいほうだろうと思う。
「…あれ、なんか、おったらあかん人がおるような」
「……気のせいじゃねぇから」
魔法自走の座席に、早々に実家に帰ったはずの生徒会副会長。
まぁ、一織なわけだが。
「なんや、余裕できたん?」
「あー…まぁ、かなりがら隙になった」
「そやったら、参加してくれるん?」
「そのつもりできた」
そうはいうものの、一織とて、あの蔵書量や知識量をみる限り、魔法を諦めてはいないのだ。本来ならば研究していたい時期のような、気もする。…研究ができないというのなら、それこそ、知識を増やす期間では?
「家もねぇし」
「…は?」
「寮室も追い出されそうだし」
「いやいやいや、ちょーまって?なんなん?」
「……」
それはもう、諦めた顔で、座席から降りて、一織が魔法自走がおいてある倉庫の片隅を指差した。
「暫くの間、あれ置かしてくんねぇかな」
「それはええけど…あれ、なんや家出道具みたいに見えますけど?」
「…家出。まぁ、家出か」
納得したという顔をして、家出道具の中から何か取り出そうとしている一織は、眉間に皺をよせて不機嫌そうだ。
何がどうなっているのかは、この少ない会話から察すると…まぁ、家出ではなく、追い出された。といったところか。
確か家督を継ぐ人間を発表するとか言ってかえったはずだ。
この追い出されっぷり。しかも、寮室も追い出されそうとか、ただ事ではないことが起こっている。
寮室を追い出される。つまり、学校に通えないという状態だ。
絶縁、とかそんなんかなぁと想像して、気まずくなる。
それは気まずい。そこまで考えてしまった自分自身の思考もかなり申し訳ない。
「キョー、察しがいいし、勘がいい。頭も回るってのはめんどうくせぇな」
それを察して、一織が苦笑した。
「自分かてそうやろ」
「…縁を切るか、研究対象になるか、どっちかだと」
二つ目の選択は予想してなかったなぁ…。
研究対象ということは、一織が魔法を使えないというやつが、体質的な問題だというはなしを聞いたことがあるが、それ、かな。
「自分で研究するならまだしも。他人に好き勝手されるいわれはねぇよっつって、縁切ってきたわけだが。一応、学校はあの家が名義できてるから、申請とおらねぇと…」
学校から退学か。
リアルだなぁと、思いつつ、魔法自走のエンジン部を開ける。
片手間で聞く話ではないが、話している本人も真剣に聞いて欲しくないだろう。
「大丈夫なんちゃうん?成績ええし、副会長やし。問題…ああ、更なる躍進か」
ここは。
学校全体で更なる躍進とかいう目標を掲げている。
すぐ無茶振りしてくるし、やたら秘密主義だし、新しいことに挑戦しまくるのも、そのせい。
そして、それは一生徒の退学がかかっていても同じように降りかかる。
現状よりもさらなる成果、もしくは更なる進化をおもわせないと、成績優秀者に与えられる免除は受けられないようだ。
「やったら、使うか?これ」
コンコン…と、魔法自走の外装をたたく。
手っ取り早いが賭けになる。
けれど、一織は取り出した何かを俺に投げつけ、いつもの悪い笑みを浮かべた。
「そのつもりで来た」
それは魔法を遮断するための道具だ。
「これ…」
「俺の体質は、関わる魔法をないことにしてしまうから、それ取り付けてくれ」
「うわ、面倒な体質!…せやけど、転送とかも普通にできよるよな。結界とかも、恩恵受けとるし」
「ある程度は、コントロールできるようになった。…が、魔法はつかえねぇから」
なるほど。そのコントロールした上で、魔法を遮断する道具を持って、間接的に関われるようにしたわけか。
そうすると、一織に直接魔法をかけない限り大丈夫。
「つうことは、普段は場所とか物にかかっとるわけか」
「さすが。その通りだ」
服とか場所とかに魔法がかかれば、魔法の恩恵にあずかれる程度には体質を殺せる。いや、コントロールできるってことか。
「なんや、魔術一族やないと生まれへん体質やん。うわーとばっちり」
「だろう?あの一族じゃねぇと生まれねぇような体質なのに、なんでこんなに苦労してんだ、俺は」
軽く言っているが、その境地に届くまでどれだけ諦めたんだろうなぁ。と思うと少し遣る瀬無い。
「うまく利用できてるんやったら問題なく魔法やのにねぇ」
「…そういう考え方ができるのは、おまえくらいのもんじゃねぇの」
「たぶん、良平もできるとおもうんやけど。…違う方向から魔法使いたろうとしてる一人やから」
「……恥かしいから、誰にも、言うなよ」
なんかつい最近聞いた台詞だなぁ…とおもって一織をみると、今度こそ、本気で照れていた。
しまった、少し、可愛いと思ってしまった。俺の節操なし!
◇◆◇
実家に帰ると、予想通り、弟に家督を継がせるといわれた。
これは予想済みであったし、それでいいとおもっている。
弟としてはいいたいことがあったようだが、決定したことに口は挟まなかった。
そのあといわれたことが酷かった。
要約すると、恥さらしは家名を名乗るな、一族に名を連ねるな、実験動物として生きるならここに居ることを許そう。
だった。
絶縁くらいは、やってくれて構わない。
あの家には絶望していたし、こちらから縁を切りたいくらいのものであった。弟を家においていくのは心残りだが、あの家は弟には優しいし、弟の悪いようにはならないだろう。
しかし、もう一つの選択となる実験動物には、もう怒る気力すらわかなかった。
それはただの監禁であるし、俺の生きるとは髄分違うな。というような内容だった。
縁切りをまようことなく選らぶのは当然のこと。
弟は眉間に皺を寄せて、唇を噛んだだけで、何も言わなかった。
怒鳴り散らして暴れたいところだろうが、耐えたのは、この家に俺がいてもいいことはないと知っているからだ。
縁を切ること自体には反対する要素がない。
だが、言われることには怒りを隠せない。
いい弟だ。
それは、コンプレックスでも、大事にするだろう?
羨んでも嫌いにもなられないだろう?
俺は家をでて、とりあえず学校に戻る。
援助の申請をして、更なる躍進とやらで、成果を見せなければならない俺は、夏休み前のキョーを思い出す。
普段からやっていることではない。もしかしたら、結果は惨憺たるものになるかもしれない。
博打だ。
しかし、思い出にするには面白いものかもしれない。
自虐的に、決めた。
それを笑うように、キョーは軽く、俺の話を流して、さらっと、俺をレースに誘う。
その上で、俺の体質を魔法だなんていう。 普通そこは慰めるとか、憤るとか、俺を叱咤して立ち向かわせるとかあるだろうに。
魔法なんて、生まれてこの方使えたことが無い俺の疎み続けた体質を、魔法に変える。
俺をその気にさせる。
伝説の天才は、半端ないな。
俺は笑う。
間違えていない。間違わない。
そして、たぶん、離さない。
これはそういう感情になるのだろう。
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