書きなぐり High&Low5 忍者ブログ

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昔の分です。
いずれ1のように直します。

本文はつづきからどうぞ。




「なんや、便利な魔法装置つかっとるわけか…」
早撃ちが一織と変わったのは魔法の力らしい。
早撃ちは、そんなにバラして大丈夫か?というくらい、簡単に種明かしをしてくれ、さらにははぐれてしまった一織のいる場所までつれてきてくれた。
なんだろう、ちょっと簡単すぎないかなぁ、これ。
「副会長もう終わってんのか。さすがだな」
口笛を吹きそうな早撃ちに溜息をついて、弟を背負った一織は釈然としない顔をした。
急に現れた俺たちに対して、そして、この進級課題に対して。
「何故、副委員長と、き…反則がいるんだ?」
爽やか王子様、人当たりのいい副会長の一織は、風紀副委員長に対して、非常にフレンドリーだった。
「すまないが、状況が把握できないんだ」
はにかんでみせた。
このギャップはどうしたら、埋めることができるのだろう。
俺も、本当はこちらの方をよくしっていたはずなのに、あの柄の悪い一織を思い出し、唖然とした。
何か、気持ち悪いし居心地が悪い。人間の順応力ってすごい。
「反則が状況を説明してやれよ。求愛した仲だろ?」
何気なく、副会長は暗殺者って知ってますよと言った早撃ちに、副会長が仕方ないなと苦笑した。
「ばれちゃってる?」
「まぁ、一応俺が反則の第一課題ってことになってっから」
「第一…」
少なくともあともう一つは課題がある。ということになる。
それは、一織も思ったらしい。弟をそっと下ろして、俺を見た。
説明、を求めているらしい。
「課題については、ようけわからんけど…。とりあえず、第一課題とやらはそこの副委員長と会長やったみたいやわ。会長は副会長の、副委員長は俺の課題やったみたいやね。…で、ここにどうやってきたかというと、魔法装置みたいやね」
「…システムの一部?」
魔法装置といったとたん、そこに行き着くことができる一織はやはり優秀だ。
俺たちを転送不能にしているシステムを利用して、逆にある一定の人間の場所へ転送するシステムというやつを作ったらしい。
ソレを、合図を送ることでできるようにしているらしい。
俺たちはそのシステムの応用で、個々別々の場所に飛ばされることとなっていた。
誤算は俺と、アヤトリ。
まず、アヤトリはこの課題をする予定ではなかった。
次に、アヤトリと俺が、他の人間を巻き添えにしたということ。
反射神経と動体視力がよすぎたってことだな。
アヤトリの場合は執念みたいなものを感じるが。
俺の場合は一織を巻き込んだわけだが、それは二人を離せば問題はない。
しかし、二人を離すには、俺の察知能力が高すぎるため、難しい。
ならば、察知能力を低めればいい。
というわけで、他の連中の課題を変更。このような状況になるようにしたらしい。
「えらい高こうかってもろたみたいで…」
「…当たり前だ。一人で謎を解く勢いだったんだぞ…」
そう言って褒めてくれたのは、先ほどまで気絶していた焔術師だ。
気がついてすぐに、それとは。
「そんなに優秀ちゃいますよ。…それにしても、個々いうことは、少なくとも焔術師除く、七人には個々に相手が用意されとるっちゅうことやけども…」
思うに、そのうちあと二人は焔術師と同じ立場にいるのではないか。
一織はいっていた。
この学園は秘密主義だと。
追求もいっていた。進級課題を知らない噂だと。
追求の二つ名は興味のあることを追及していくことから、追求といわれている。少なくとも、進級に興味がないといった様子もなかった。興味がないわけではないのなら、あの追求の耳に入っていないのは少しおかしい。
その噂を知っていたのは、三人。
言いだしっぺの将牙、それを知っているといった会計の舞師、それの怪しさをなくすように曖昧な噂話をした焔術師。
そのうちの一人、焔術師は課題を出す人間だった。
つまり、あとの二人も限りなく怪しい。
そして、俺が舞師とグループを組む運びとなったきっかけも将牙がつくっているし、追求と人形遣いをグループにいれたのは舞師だ。
更に、焔術師が協力すれば、二グループをかち合わせ、模擬戦闘を行うということも不可能ではなかったはずだ。
完璧にはめられてるなぁ…と感心する。
しかし、まだ、俺の疑問はつきていない。
俺が確認できなかっただけかもしれないが、良平とアヤトリは複数の気配を相手にしていた気がするし、追求もそうだ。人形遣いだって、誰を相手にしているかというのは気配が煩かったため確認しなかったが、相手はここにいない二人の仕掛け人ではなかった。
俺があのとき探していたのは、俺と一織以外の七人の気配。
それがあれば俺は気がついていたはずなのだ。
「…あとの二人は、何しとるんや…?」
「は?他の奴とたたかってねぇの?」
俺の言葉に、推測を裏付けるように早撃ちが返す。口が軽い。
近くにいる焔術師が早撃ちを睨んだ。
「戦ってないどころか、探した範囲内に気配がなかってん…そやなぁ…さっきおった場所から、研究塔までを半径として円形にさぐっとったんやけど、まったく見つけられんかった」
「……は?」
今度は焔術師が気の抜けた顔をした。
かわいらしわぁ…とこの期に及んで、俺は呑気におもう。
早撃ちと顔をあわせたあと、眉間に皺を寄せる。
どうやら、打ち合わせとはちがっているらしい。
「だいたいやなぁ数が最初からおうてへん。俺の相手が副委員長、副会長の相手が会長。そしたら、あと残りは五人。そのうち二人が仕掛け人。一人あぶれる計算や」
「…あー…俺は、お前とやれるっていうから、それだけ楽しみにしてたから、あんま考えてなくて」
「…俺も、兄貴のことしか考えてなくて…」
意外と目先のことにとらわれて、何も考えてなかったわけか。
「んー…もしかしたら、最初から、あとの二人は、課題その一やなくて、課題その二なんかなぁ…」
「はぁ?」
これも推測に過ぎないわけだが。
焔術師、早撃ち、ともに、実は俺と一織と戦うことが二人の進級課題その一で、結果はともあれ、それに気づくこと、課題二をクリアすることを進級の条件としていたら?
…この課題。進級というからには、二年全員、課題は違うにしろ受けなければならないのだ。
いちいち内容をかえるより、色々合わせてくみ上げてしまった方がいいに決まっている。
「あんまり俺がいうてもうていいもんかわからんけど…。うーん…課題だしとるつもりで、出されとるんちゃうんかいな、お二人さん」
二人して『あ』という顔をした。
黙っていた一織が溜息をついた。
この課題とやらが始まって以来、俺の話をいち早く察してくれる一織は、まさにこんなときでなければ面白い話ができたのかもしれない。
しかし、こんなことでもなければ、副会長を一織だなんていうこともなかっただろう。
「二つ目ぇの課題、ガンバロかお二人さん」
おそらく、計画に何かと穴ができるようにしてあるのは、この課題に対するヒントだ。
たとえば、最初から早撃ちを同じフィールドまたは同じ境遇に立たせ、合流させれば、数があっていなくても気づきにくくすることはできる。怪しさはもちろんあるが、その怪しさは早撃ちに集中することになるので、隠れ蓑として優秀な働きをするだろう。
または、数さえあっていればいいのだから、数を八人にして、それこそ、個々で戦わせることもできた。
あとの二人が今と同じように行方がわからなくても、二人ぬけたのなら、六人であるため二人一組だとして、六人が戦っていたとしたら、その二人が戦っていると思うこともできる。
それをしなかったことに、二つ目の課題へのヒントとがある。
そして、その二つ目の課題が、本当の意味での進級課題なのかもしれない。
「なんや俺、考えて、気配読んで…ってしてバッカリやけどなぁ…これすら、計算に入れられとる気がするんやけど…どう思う?」
俺は…反則狙撃は有名人だ。
トピックスとかランキングとかの常連で、その分だけ姿をさらし、トピックスされる分だけ出方を見られている。
まして進級の課題は学校側が出すものだ。
教師が関与していて当たり前だし、下調べもしているに違いない。
俺がどういう行動をするか。どういうことができるかということを知っているのだ。
どんなに隠していても。あまりみせない戦法であっても、学校側の用意するフィールドを使用する限り、記録は残っているはずだ。
「そうだと思う。俺たちは、見られてるんだ」
あんまり嬉しくない見られ方だ。
この学校を、二つ名で呼ばれながらも転校していく人間に今、同意ができた。
優秀じゃないから出て行くのではない。危機感を覚えるから出て行くのだ。
もちろんその逆も多く、いるのだけれど。
「あー…なんやブラックー…」
「その一言で済ますあたりが、いかにもだよな、反則」
焔術師と一通り落ち込んで、溜息をついたあと、俺の言葉に早撃ちが表情を崩した。
「んー…いまんとこ、学校やめるつもりもあらへんし。本気の本気でいややったら、転校してもたらええかなと思って」
「自信か?嫌味だな」
俺の言葉に悪態をついてくれるのは、嫌われているからですか。それとも、そういう仕様なのですか、生徒会長。とは聞かずに、俺はそれに頷く。
「それなりにやることやっとうからね。それに、なるようにしかならん」
この学園は、実力主義だ。
他校から優秀な生徒を引き抜いたり、難関といわれる入学試験を用意したり、結果が出なければ生徒を簡単に手放したりする。
学園に入れたということは誇ることであり、鼻が高くなってもおかしくないことである。
けれど、周りに居るのは同じように難関を越えてきた人間や、学園側から是非にと呼び込んだ人間ばかり。
すぐに高くなった鼻は折れてしまう。
その中で走り続けること。
それができるように、それなりにやることをやっている。それで駄目なら、それまでだったということ。
嫌味な感じもするし、そこに自信をもたなくてどうやって走り続けろというのだ。
上にはもちろん上がある。けれど、自分自身がやってきたことに自信は持ちたい。…ある意味、意地のようなもので。
「十織」
俺に焔術師がつっかかるたびに、一織がたしなめる。
焔術師の方が少し子供っぽい性格をしていて、一織の方が兄ってかんじである。
しかも、一織が注意すると必ずバツの悪い顔をする。
もしかして、ブラコンかな、焔術師。
「…まぁ、俺もそういう自信はないから、羨ましく思うよ」
バツの悪そうな弟に苦笑をもらして、そういう声には諦めが見えた。
「そんな真剣なこっちゃないで?なんやろなぁ…やってきとった自分へのご褒美程度?確実性を数える感じ?計算していくんよ。それから出た答えを自信にするっちゅーか…ぶっちゃけ国語、得意やないねん」
上手く説明できないことを国語不得意のせいにして、俺は早撃ちとの戦闘でつかった銃の最後の一発を放つ。
邪魔だった瓦礫が崩れる。
これで一直線に進んでいける。
じつは、焔術師が気がついたので、ゆっくりと歩いていたのだ。
ここは、まだ第三室内フィールド。
焔術師と一織が戦っている間は結界が張られていたらしく、気配は読めなかった。
魔術の動きくらいはちょっと感知できるが、焔術師は優秀な魔術師だその動きを隠すくらいはできる。
魔法感知能力はそんなに高くない。
「おー弾無駄遣い、いいのか?」
「んーそやねぇ。もう、あの戦法使われへんしええよー。あれなぁ、学校の武器庫から拝借しとってな…使えるときと使えんときがあって…」
「ああ、だから見たことなかったわけか」
「そう。で、やねぇ…一回つこたら弾こめなおさんと使えんわけで…あの数つこてまうと、今日はもう使えませんねっていう領域やねん。学校側からストップがやね…」
一本だけ残ってたわけだけど、そろそろ学校の武器貸し出し時間がなくなろうとしている。
そうなると使えないため、さっさと使ってしまったわけだ。
道を迂回するっていう手間が無くなるわけだ。
道を塞いで邪魔なほどの瓦礫を破壊するとはどういう威力のものをつかっているのだと思われるだろうが、瓦礫をささえていたものを壊しただけなので、それほどの威力はない。
支えさえ壊れればあとは自重で壊れてくれるってわけだ。
あとは銃さえ放り投げれば魔法石が元あった場所に返してくれる。
そのかわり、明日朝一で整備やら弾込めやらをしなければならないが。
それがいやであまり使わない戦法ってのもあるなぁ…。
神は、嫌いだ。
法術だけを学ぶものには、神学を学び、僧侶になるものが多い。
魔術には少ない回復術やスペックアップの術が多く、それらは神の御業と呼ばれた時代があったからだ。
まったく神とは関係ない法則に基づいた術であることがわかったときから、魔術と法術はその形を魔法へと進化させた。
神が嫌いな人間も、神を信じぬ人間も、法術を学ぶ機会がぐっと増えた。
そして、神が嫌いな俺が法術を学んでいる。
「展開する」
一言呟くと、そこには簡略化された術式が展開される。
うっすらと映る遠見の景色の中、話し合っている人間を見て、ボードに挟んだ紙にペンを走らせる。
「今、すごく減点したな」
「焔術師と早撃ちは敗北、その上自分たちの置かれた状況を人に説明されるとは何事だ」
「…反則狙撃がわかりすぎるのが難点なだけだと思うが」
そういって減点した場所に二重線を引いて、控えめな減点に直される。
「あと、早撃ちはばらしすぎだ」
再び減点すると、さすがにそれには同意だったらしい。
減点を直す手は下りてこなかった。
「それにしても冷たいな。仲、いいんだろ?」
「それとこれは別だ。アレは手加減など望まない」
「そうだろうけど」
後ろで苦笑する人間は放置して、俺は更にペンを走らせる。
反則狙撃には大きなプラス。暗殺者にはそれなりにプラス。
「反則は…特別進級クラスに変更になるか?」
「最終成績如何によっては…飛び級の上で、だ」
「カワイそうに、一人になってしまうな」
「反則狙撃は笑うだけだと思うが」
この学園の特性と嫌悪すべきところを『ブラック』ですませてしまう人間が、今更飛び級特進くらいで一人になってしまうとは思えない。
なるようにしかならないともいったか?
それならば、なるようになってしまった場所で、反則狙撃は動き出すのだろう。
「恐ろしくマイペースだな」
「それを崩してみたくもある」
ふ…と笑うと、後ろにいた奴が、溜息をひとつ。
「悪い癖だ」
神は嫌いだ。
実在を疑うような奇跡を起すくせに、しっかり実在している。
欲しいときにその手が届くことはかなりの率でない。それは、その手を欲した人間にとって残酷な事実だ。
しかし、こうも思う。
神は実在しているからこそ、その手を無限に広げることができない、有限の存在なのではないかと。
たまに起こる奇跡的なできごとに、都合よく神様ありがとうといえればいいし、絶望的なできごとに神を憎く思えばいい。
万能な神などいやしないのだから、その程度でいい。
そう思えても、神は嫌いだ。
理由など瑣末なものだ。
それでも好きになれない。
俺はそれでいい。
やっとのことで校舎内に辿り着くと、そこは、気配を読んだときと同じように騒がしい光景が広がっていた。
「…これ、説明できる奴、いるか?」
ありとあらゆる掲示板に、三人の生徒の手配書のようなものが張り出されていた。
「…いや、俺らも知んない」
第二の課題が自分自身の進級も関与しているということを知らなかった二人組みは、当然のことのように首を横に振った。
もちろん、第一課題のことも知らなかったし、隔離されていたといっていいような場所に飛ばされていた俺と一織も説明なんてできない。
ただ、わかることがある。
「三人は今、校舎内にいる生徒に追いかけまわされているいうことは確かだな…」
それも非常に派手に。
手配書のようなものにはこうかかれてあった。
追求、猟奇、人形遣いを捕まえろ。
ご丁寧にも変装後の顔写真つきだ。
それが風紀命令で出されている。
そして、風紀副委員長である早撃ちはそれを知らなかった。…おそらく、委員長のアヤトリだって知らない。
「それに、俺たちだけがこの状態ってわけでもないってこともわかった」
校舎に入ったとたん俺たちは、変装後の姿に変身していた。
変装アイテムは変装を補助する魔法がかかっているわけで、変装後の姿にすること自体は学園のシステムを弄ってしまえば簡単にできるようだ。
声が変わる、姿が変わる。校舎内で目立って仕方ない。
「去年もこんな騒ぎだったら、俺たちもさすがに気がつくはずだ。一年は、何かしてあるのか?」
これは知っているだろうと思って、仕掛け人の二人に尋ねる。
焔術師が一つ頷いた。
「システムを一部落としたあと、一年生は教師によって誘導され、残っていた連中はすべて別の戦闘フィールドで遊んでいる。帰宅している連中も多い」
「なるほど」
そう思えばいつだったかに、派手に鬼ごっこをやらかされた。
あれは本当に派手でハードだった。魔術は飛んでくるわ、法術で罠は仕掛けられてくるわ。なんでもありだった。
あの頃の俺は放課後残って修行の真似事をしていただけに、突然の鬼ごっこにとまどったものである。
校舎をたらたら歩きながら説明をきいて、ランキング上位者に驚き、何か二つ名を呟かれつつも、俺は迷いなく俺が点とした場所に向かっていた。
「ゴーレムの動きは遅い。人形遣いはあまり動いてないだろう」
迷子ではないが、人形遣いのことだ。迷子の鉄則、迷ったと思ったら動かないを実行してくれているはずであるし。
これが血の気の多い将牙や焔術師なら別の話であったのだが、両人とも仕掛け人であるため、除外だ。
そうなってくるともう一人の仕掛け人であろう舞師も除外。
あとは気配を見つけたときすでに走って移動中だった、おそらく一番危険度の高い追求も除外。すでに捕まっているかもしれないし、捕まっていたとしても、コレはあくまで課題だ。失点がつくことはあっても危害が加えられることはない。そして、張り紙にかかれてあったのは捕まえることだけだ。
捕まってどうにかされるということはない。
特に、風紀の命令とあれば、どうにかしてしまおうという輩はいないだろう。それこそ、進級云々の前に退学になってしまうかもしれないからだ。
そして、良平とアヤトリに至っては、あの二人ならばどうにかするだろうという確信があった。
信頼といってもいい。あの二人とは付き合いが長いから。
だから、俺は真っ先に人形遣いの下に向かった。
仕掛け人がどうしたいのか、今はまだわからないのだから、罠だろうがなんだろうが動いているのが賢いだろうと思われたからだ。
人形遣いのゴーレムに群がる連中を一人ずつ落としていく様というのはすさまじいものがあった。
やっぱり、暗殺者って超人なのではないだろうか。そう思わせた。
心なしかフードを被っていない焔術師の目が輝いていた気がする。やっぱブラコンなのかな…。
俺たちが変装後の姿になったように、人形遣いに群がる連中も変装後の姿だった。
それがわかるのは、演習で見かける奴が数人いたからだ。
武器も使用可能になっているようで、武器を持つ奴らもいたが、銃専攻のやつはあえて手を出さないようにしていたのが見受けられた。
混戦してる中で飛び道具は怖いから。
俺と早撃ちはとりあえず、銃専攻の奴らが大人しいのをいいことに銃を撃ちまわり、早々に、校舎内から離脱させた。
どうやら、校舎はフィールドと同じ仕様になっているらしい。
先ほどまでとは違って、俺たちも校舎内の連中もシステムに守られているらしいし、戦闘不能とみなされたら転送されるシステムも健在だった。
もちろん、銃の方はさすがに発砲して怪我してからでは遅いし、一応仕掛け人である二人に、システムは復帰しているのかを聞いた。
二人曰く、俺たちが戦闘行為をしている間、ガードのシステムは一部限定ダウンをしていただけ、命まではとられないようにされていたらしい。
どおりで早撃ちが容赦ないと思った。
俺の方は人を損なうかもしれないという実感なしに動いていたし、戦闘が始まった時点で、ガードシステムもダウンしていることを頭に残していなかったのだ。
つまり、無視し、意識から外してしまったのだ。
悪い癖だ。
「助かったよぉ…みんなぁ、しつこくてぇ…」
人形遣いがゴーレムを小さくしながら、苦笑した。
人形遣い…人形遊びとも言われる彼は、変装後幼い容姿をしていてのんびり語尾をのばして話す。普段の面影がない。
「いや、たいしたことなくて良かった」
一織に返してもらったサングラスごしに笑ってみる。人形遣いが同じように笑っていた。
おそらく、人形遣いは俺と同じく、学校を見上げたときの気分になっていたことだろう。
後ろで楽しそうに、早撃ちが生徒の一人を捕まえて『それで、コレはどうしたのぉー?どういう状況なのー?』と問い詰めている。その生徒はあまり早撃ちが好きではなかったのか、早撃ちに尋ねられるたびに焔術師よりも態度悪く対応してくれていたのだが、早撃ちはその度、銃を耳の近くへと撃っていった。どんどん近づく弾に、気が気でなくなっただろう。たとえガードシステムが鉄壁であっても、怖いものは怖い。
恐ろしい拷問風景だなぁ。とソレを思考の外に追いやって、あえて、人形遣いに近づいたのは、その生徒が俺に向かって助けてくださいと視線を向けたからだ。
人形遣いもそれを知らんふりしていたので、いい性格である。
「おい、わかったぞ」
焔術師は早撃ちのとなりで見物していたため、すぐにこちらにわかったことを教えてくれた。
ちなみに、拷問の間生徒を抑えていたのは一織である。
早撃ちの腕を信用していたのか、いざとなったらどうにでもする気であったのか、早撃ちが何発撃っても動かなかった。
あれもある意味恐怖である。
「去年の鬼ごっこがグレードアップされたもの…が、この騒ぎ。ということになっているらしい」
去年の鬼ごっこ。
今頃一年生が夢中になっている遊びがそれである。なるほど、毎年やるものと思えば、何の疑いもなく参加してしまうだろう。
「なるほど。では、とりあえず、標的にされてる連中の位置を確かめるか…」
ついでに、仕掛け人だろうと思われる二人の気配も追ってみますかね。
標的にされている連中…あと二人いるわけだが、良平は一人ではないので後回しにして、捕まっているかもしれない追求の気配を探す。
捕まっていなければそれはそれでよし。捕まっていれば、敵の居場所を探るヒントくらいにはなるかもしれない。
研究塔から捜索を開始し、その中の一つに追求がいることを確認する。
気配は依然として多くの気配に囲まれている。
どうやらある一室に篭城しているようだ。
たとえ実践向きでなくても二つ名持ちは二つ名持ちなのだ。どうにかなっているらしい。
「焔術師、追求に連絡とかとれないか?研究塔の…おそらく、追求の研究室にいる」
焔術師は、俺の言葉に一瞬眉間に皺を寄せたが、俺の言葉に嫌がっても、やるべきことはわかっている。
頷くと、その場に円を二重に描くと、呪文を唱え始めた。
円の中に、外に。
焔術師の唱える言葉が一語一語埋まっていく。
全てがその中に計算されつくした位置で埋まると、焔術師は術式発動のための言葉を口にする。
「伝音式発動、管制」
温かい風が一瞬その場に吹いたあと、焔術師が再び口をひらいた。
「聞こえるか、追求」
少し間を空けて、追求がひゃあ!という悲鳴を上げた。雑音交じりの悲鳴はそれでも、よく聞こえた。
『え、え、焔術師、で、ですか…で、伝音式です、ね…』
どうやら研究塔でも変装システムは作動しているようだ。
俺は研究塔にいくことがないのであまりよく知らないのだが、研究塔もフィールドと同じように普段から変装システムとガードシステムがしっかりとかかっているらしい。
これは、研究成果のおかげで狙われたりする人間を守るためにされている処置であるらしい。
『び、び、びっくり、しま、しま…した…。きゅ、急に回線が、つな…つながって…』
それはびっくりもするだろうよ。というような話し方である。しかし、追求の変装システムの変声機能は、コレなので仕方ない。
「…ああ、俺も、学園の変声機能が優秀なことを改めて知った。とりあえず、コレが終わったら、お前の口調がえを申請することにする」
光っている円陣から嬉しそうな奇声が聞こえた。どうやら、本人もいやだったようだ。
「で、つないだが」
「そうだな。状況説明して、あっちの状況きいてくれ。俺は猟奇と連絡を取る」
言ったとおりにしてくれる焔術師を視界にいれながら、俺は良平に呼びかける。
『おまえ、このクソ忙しいときに…!』
答えてくれた良平はそういいながらも焦ってはいないようだ。
やっぱり、大丈夫だった。
『そっちもやっぱ、おそわれとるん?変装システムも作動しとる?あとな、変装システム作動しとったら、どんどん攻撃してもへいきやで。ガードシステムも起動しとる』
『そういうことは早く言え!』
声をださずに会話をしているため、回りからはただ無言でじっとしているようにしか見えない。
これで、一応焔術師と追求の会話も聞いているのでなかなか器用だと自分自身でも思う。
『あ、それで。こっちは変装システム作動してる。あと、襲われてる…が、今、青磁が全員始末した。さすがアヤトリははえぇなぁ』
ああ、傷つけないように素手対応だったのかな。
俺が脳内に流れ込んでくる言葉を読み取りながら、焔術師と追求の会話を記憶していく。聞いてはいるのだが、内容はうっすらで理解はできない。違和感も覚えない。記憶は一応している。…遠距離の気配を読んでいるときの状態とおなじようなものだ。
『こっちにこれる?』
『俺の方向音痴舐めんな』
『や、青磁頼ってやんなさいよ』
『面倒だろ、あいつ、調子のるし』
『非常時非常時。たってるもんは親でも使えやで』
『まぁ、つかうけど。わかった、そっち向かう』
『状況の説明は…ちょっと、こっちも色々やから、落ち着いてからか、遭遇してから話すわぁ』
『了解』
リンクがそこで切れる。便利な魔法ではあるけれど、切れる際不快感があるのがどうも慣れない。いい加減になれてもいいのに。
「で。どうやらそちらもあまり情報はないみたいだな」
「……聞いていたのか?」
一織が驚いたようにこちらをみた。
話をしていた焔術師がやはり眉をしかめてこちらをみた。
「まさか、連絡なんぞとってないとかいわねぇよなぁ?」
「いや、とったし、こちらの話も聞いていた。理解するのに、ちょっと時間はもらったけれど」
そういうと、早撃ちが嫌そうな顔をした。『だから反則なんだ』と呟いたのは聞かなかったことにしよう。
「便利だな、お前の能力は」
一織がそういったあと、だから変態なんだと口の中で呟いた。
音にはなってなかったが、それ、口読んだから。
俺は無駄にいい動体視力と、視点を複数使えることと、履修した授業に後悔の念を抱いた。悪態がダイレクトでちょっと辛い。
とほほ…と溜息を吐こうとすると、急に頭の端が痛み出した。
あ、コレはヤバイ。何か大きめの魔法が発動した。
人形遣いと焔術師が、はっとした顔をして、研究塔がある方向へ顔を向けた。
その瞬間にゴドンッという音がして椅子が落ちてきた。
「椅子…」
と誰かが呟いたあとを追って、人が落ちてきた。
ちょっとまて、少しその位置からの落下は危なくないか。
しかし、その人物は叫びはしたものの地面にぶつかることなく、ふわりとその場に降り立った。位置は椅子よりずれているため、椅子にぶつかることもなかった。
地面には魔術式。
風の魔術式らしい。たぶん浮遊関係。
「よ、よかった…せ、せい、成功」
追求は魔法使いと、本当の意味呼ばれる人間だ。
魔術師、法術師、どちらも魔法使いと呼ばれるが、本当に魔法を使うという意味で呼ばれているわけではない。
追求は、本当に魔法を使う人間として、魔法使いと呼ばれている。
そして、先ほど空から落ちてきた理由はこうだ。
焔術師の魔術の糸を手繰り、位置を確認。状況を説明されたときに聞いた学園のシステムの応用がこちらにもできるのではないか。と思い、焔術師がつないでくれた魔術の糸も利用して、実験的に魔術と法術をくみ上げ、システムに干渉。椅子を飛ばしたらしい。
そうすると、できてしまったため、一か八かでこちらに飛んできたようだ。
あまり位置修正は得意ではないし、術式の早組みも得意ではなく、さらに術言の早唱えも得意ではない追求は、保険のために魔法石に術式を組上げ利用し、落下事故を免れたようだ。
ちなみに発動条件は、彼の悲鳴であったらしい。…賢い選択だ。
「すごいねぇ」
魔法というのは、使われるとその一言に尽きる。
魔術であって法術であり、魔術ではなく法術でもないそれは、奇跡というに等しい力を発揮する。
「そ、そう…?」
魔法専攻である焔術師と人形遣いが悔しそうにうなづいた。
一織は、何か少し羨ましそうにも見えた。…どうやら、魔術にまだ未練はあるようだ。仕様なんておもえてはいないようだよ、早撃ち。
「と、とにかく…ご、ごう、合流した、ほ、ほうが…いいと、おもって…」
確かにそのとおりである。
仕掛け人は何人いるかはわからないが、昨年の鬼ごっこのバージョンアップと思われているため、こちら側である三人を狙ってくる。いくらこちらが有名人でも、敵は少ない方がいいし、味方は多い方がいいに決まっている。残念ながら、狙われているため敵は多いが。
人形遣いを助けにきたときは、味方を増やすことよりも、情報を優先していたが、どうも今得られる情報はこれで限界であるようだし、校舎内で広げた感覚も、隠れている仕掛け人二人の気配を拾うことはなかった。
ならば味方と合流をはかった方がいい。
「猟奇とアヤトリは順調にこっちにきている。俺たちもそちらに向かおう」
その言葉に反対する奴はいなかった。
◇◆◇
焔術師やら、人形遣いやら、挙句の果てに追求までいる。
そんな場所にいて、俺は少し、引け目を感じていた。
焔術師と人形遣いは、魔術師だ。
人形遣いは嫌味をこめて、ネクロとよばれることもあるが、魔術師なのだ。
焔術師は疑う必要すらなくそうであるし、追求など魔法使いだ。
俺はその中にあって中途半端だった。
魔術師であるために取った選択ではあったのだが、それが魔術師から遠ざけているように思えてならなかった。
魔術や法術を使うには、必要なものがある。
魔術や法術を使うために使用する力と、知識、イメージの力。
それがなければ、魔法は発動しない。
俺の力の保有量は魔術師と呼ばれる人間の平均より少し低い。
それならば叶丞のように武器を扱う人間になるのが普通とされている。
しかし俺は、魔術師になりたかった。あわよくば、魔法使いになりたかった。
だから俺は、魔術で武器を作り、それを極めることにしたのだ。
力の不足を、イメージと知識で補う。そして、力の保有量が多い連中にすれば小細工と言われることに力を注いだ。
その結果が、術式の簡略化、速度に繋がったし、最小限の力での展開に繋がった。
けれど、焔術師や人形遣い、追及などの一流と言われていいだろう魔術師、魔法使いになるとされている人間の傍にいると、魔術師たらんとした俺は、あまりにも異質に見えた。…中途半端に、見えた。
校舎に入って、バラバラになったとたん、密かに俺は安堵した。
「猟奇」
青磁が俺を見て不思議そうな顔をした。
また、あの三人に会わなければならないのかと思うと、少し気が重い。
相方からのリンクが再び繋がったとき、約束のとおり、状況を説明してくれた。
俺は、魔法を使うものでありたい。
こうして、魔術を武器化して俺たちを捕らえにくる人間を薙ぎ倒していても。
青磁と肩を並べて遺憾なく走ることができるとしても。
「俺は、魔法使いだろうか」
呟いた言葉に、青磁が笑った。
おかしなことをいうと、笑った。
「魔法使い以外…何が?」
システムによって言葉の少ない青磁の言葉を聞いて、俺も思わず笑った。
「それもそうだ」
青磁の言葉を、信じよう。
俺はコレがおわって、二人きりになったら、青磁にご褒美でもやるかと呑気に考えていた。
相方の呑気さがうつったかな…。
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