書きなぐり High&Low4 忍者ブログ

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昔の分です。
いずれ1のようになおします。

本文はつづきからどうぞ。







学校に一番近いフィールドの森の中。
「いやぁ、絶景だねぇ……」
「なんでも、この角度から見る学校が一番きれいらしですわ」
「なるほど、ベストポジションだ」
転移の魔法は個々でたどり着く場所が違ったらしい。俺は人形遊びと二人、いつもは眺めることのない景色を眺めていた。
もうすっかり慣れてしまっているため気にすることはなくなったのだが、この学校は結構建物自体凝ったつくりだ。
初めてこの学校に訪れたときは、広さに辟易していて感嘆の言葉が疲労に満ちた言葉にかわるくらいのものでしかなかったが、改めてみれば立派なものである。
「いや、それにしても、いい景色やわぁ」
「ほんと、僕ら以外人っ子一人見当たらなくて、景観を邪魔するものすらないね」
思わず、二人して口を閉じ、同時に溜息をつく。
あたりには先にこの場所に来ている人物どころか、俺と人形遊び以外に他に動く生物がいなかった。
「……現実逃避は、もう、やめようか、反則くん」
「そやねぇ、人形、美化、……どう呼んだらええですかね」
こうして二人きりになり、しかも正体がわかってしまうと面と向かって人形遊びとは呼びにくい。
「この姿だと、美化委員長でいいんだけど、変装後は人形使いのほうが気持ちはいいかもね。そこまで気にしていないけど」
今は美化委員長の姿をしているが、この少し変装前とは言いがたい状況から、俺は彼を人形使いと呼ぶことにした。そのほうが、少し言いにくい思いをしなくて済む。
「ほなら、人形使い。一応、猟奇には連絡とってんすけど」
「はい」
「『どこかワカンネーよ馬鹿』やって。そう思えば、猟奇、方向感覚が少々狂っとるんでした」
「なるほど」
一応、気配を探してはいる。
しかし、あまりに遠くにいると探索範囲を広げる必要がある。
広げれば広げるほど、感覚が薄く平らになっていき、手前のことがおろそかになるどころか、自分が何処にあるかもわからない状態になるため、あまりしたくない。
みつければ、それだけに集中すればいいのだが、まだ人形遊び……人形使いが信用できるというわけでもなかった。やはり、あまり探索範囲は広げたくない。
それでも、俺の感覚がはっきりしている範囲に相方を発見する。
「猟奇、見つけました。ちょっと遠い……森の端におりよりますわ」
「端……僕らが一番学校に近い端にいますからねぇ」
「そですねぇ。あ、今、森の中に追求と舞師がはいりましたわ」
「森圏外かぁ」
追求は魔法を研究すること、魔法を習得することには長けているが、実践するとなると、あまり得意ではないらしい。
どうやら転移の場所指定が甘かったようだ。
そのへんは野生の勘が鋭そうな舞師がカバーしてくれたのかもしれない。あちらもこちらのほうに向かってきてくれていた。
良平と将牙は位置が確認できたので俺の覚えているこの辺りの地理を将牙に流してもらった。もしもそれでだめなようなら、リンクで俺と良平の魔術的なつながりを作ってもらい、ソレを目印にやってきてもらうことになる。俺も良平も力を消費するため、これはできることなら使わないほうがいい。
「暗殺者と焔術師、今ここきましたわ。すぐそこ。たぶんそろそろ」
「あ、きたきた。おーい」
手を軽く上げて答えたのは暗殺者のようだ。
やはり相変わらず、焔術師の影にかくれるようにしてやってきている。
このままでは今後のことを相談しづらく、少し不便だ。
俺は変装グッズであるサングラスを取り出し、暗殺者に向かって投げる。
焔術師を越えて届いたそれは、どうやら、上手くキャッチされたようだ。
手だけがサングラスをこちらに見せてくる。
「それ、付けえたらええよ。そしたら、自由に動けるわ」
しばらくするとサングラスをつけた暗殺者が出てきた。
変装後より背が高いし、がっしりしてるとわかるが、目元が隠れていて、顔はわかりにくい。
暗殺者が軽くこちらに頭を下げる。
「いいえーどういたしましてー」
軽く手を振れば、暗殺者の唇が笑った。
逆に焔術師から何か不穏な空気が漂ってきたのは気のせいかもしれない。
いいことしたのに、それはどうなんだろう。寄ると触るとなのか、それとも、俺のことそんなに嫌いなのか。なんとなく正体が解っているだけに、心が折れそうだ。
「めっちゃ、傷つくわぁ」
冗談めかしてポツリと呟き、暗殺者と焔術師に向かって歩いている人形使いの背中を追った。
「状況を説明すると、他の四人はここを目指してざくざくすすんどるというか、舞師と追求はたぶんこっちにむかっとるってくらいやども」
焔術師と暗殺者が頷いた。
二人と合流したことから、人形使いも無口になった。
その場で口を開いているのは既に正体がばれている俺だけだ。
俺以外の三人は、この学園の二年の変装前ランキングの常連で、その姿も、声も、高等部生徒の皆が知っているため、三人とも声を出すことができないのだろう。
変装も音の変換もままならない今、話をするだけでばれてしまうという危機におちいっているのだ。
有名人は大変だ。
「なんや。その、コミュニケーションというか。必要なことがわからんから……そやな、せめて、意見は地面に書いてもらえんやろか」
三人がいっせいに頷く。
なんだか気がぬける。
かなり間抜けな空気がそこにはあった。
俺が少し脱力していると、ガリガリと暗殺者が何か書き始める。
そこには、こうかかれてあった。
何処まで、何を、把握している?
「俺は、何を知っているかってこと?なんや、ペラペラしゃべっていいのやろか?」
暗殺者は頷く。
俺は、後ろにとめてある髪ゴムを解いて手首につけると、頭を揉みながらいった。
今日はきつく縛っていたらしい。頭皮がひっぱられて、少し痛い。
頭が痛いのはこのせいだと思いたい。
「まず、現状はいうた通りのことくらいしかわからん。追求がいうとったことしかわかっとらんし、学校の近くにはおるけど、ここには俺ら八人しかおらんわ。学校の中は、普通に人がおるけど、気配がざわついとるのは、一部。なんや、気配の探りやすいのは動いとらんみたい。教師も一部しか動いとらんし、あとはそやなぁ……さぐってみいひんとわからん」
ここまでいった時点で、ぽつりと『変態め』という声が聞こえた。
恐らく焔術師だ。聞こえてないと思っているのだろう。
焔術師の言葉は無視して、さらにつづける。
「で、暗殺者は現状はもちろんのこと、俺が他の何かを知っとうかということを聞きたいわけやんな?」
首をかしげると、再び暗殺者は頷いた。
暗殺者はちょっと、俺のことを万能ぎみに思っているふうである。
「他なぁ。人の正体とか、そういうのん?俺、全体みとったもんなぁ。あ、もちろん、今、何が起こっとうかとかそんなんはわからんよ」
暗殺者は当然だというように頷く。
「そやね。焔術師と暗殺者は、人形使いにバレるんが大丈夫なら、しゃべってもかまへんよ。わかっとるから。どっちが、どっちかいうのも、わかっとるよ。さすがに、その……魔法かかっとったら気配も偽装されとるけどねぇ」
探そうと思わなければ、きっと誰がどの気配ということには気がつかない。
たとえば俺がこの場で気配を消しても、視覚で捕らえていて、誇示されていない限りそれを認識しようとは思わない。
それと同じで、探そうだとか追ってみようだとか、識別しようだとか思わない限りわかりはしない。
俺は先ほど偽装される前の気配を探していたので、確信をもってどれが誰かをいってみせることができる。
その前から、わかっていたからこそはっきりいえるわけだ。
「……、僕は不便なので……そうだね、別にばれたっていいかな、非常時だし」
人形使いが口を開いた。
美化委員長は誰かに恨み買うような人ではないため、そう判断したのだろう。人形使いとしてはあまりいいように言われていないが、恨まれているわけではない。
それを聞いて、諦めたように口を開いたのは、焔術師だった。
「そうか。非常時だし、この面子なら…ばれても何かあるわけでもねぇし」
目深に被ったフードを外したそこには、よく見慣れた美形。
かっこよくて美人で、可愛い生徒会長がいた。
「……まぁ、仕方ないか」
溜息をついて、俺の貸したサングラスを外したのは副会長。
やはり、会長と副会長の兄弟は似ている。
「あとの四人もそんな気にするほどやないと思うし。特にもう既に正体バラシとる二人とか」
ばらしていない二人のうち一人は良平で、もう一人は追求だ。ここに集まった人間の正体を触れ回るということはないだろうし、正体がばれてまずいのはお互い様なのだ。
損得を足し引きできない連中ではない。
有名人とお知り合いというだけで、俺や良平、将牙や追求は面倒くさい目に合うため、言いふらしてもいいことはないということもある。
そう、わざわざ、やっかみの被害者になることもないのだ。
あれは、本当に面倒である。
経験している俺が保証してもいいくらいだ。
そうして現状を確かめ合っている間に、ようやく八人が集まった。八人とも、結局、堂々と姿をさらしあう。
意見として、非常時、面倒、今更などが上げられた。
互い変装後の有名人ばかりで、特に恨みに思っていないというのもある。
もしかしたら、こうして姿を晒すことで何処からか漏れてしまうかもしれないが、それも魔法が作動しなくなった時点でその危機にさらされているのだから、今更だ。
それならば、今の状態をそのままにして意思の疎通を難しくするより、簡単にしたほうがいいだろうと思える。
そして八人とも、そう思える人間であったため、そこそこあっさり姿を晒しあうことになった。
「俺がわかりますのはこれくらい。他はなんか、知っとります?」
一番校舎がきれいに見える場所で校舎を眺めながら、尋ねる。
ここにくるまでは、とにかく校舎に戻ることを考えていたのだが、ここにきて、気配を読んだ時、何かひっかかった。
校舎にいる気配が読みやすい連中は何の変化もなかったことや、それは一年の教室に多く、三年の教室も少なくないこと、二年も教室に残っている連中は皆そうである。動いているのはおそらく教師が多い。
校内にいればシステムがダウンしていることに気がつきにくいかもしれないが、これは少しおかしい。 システムがすべて落ちてしまった場合、教師はおそらく全員動き回らなければならないし、生徒も少なからず導入されるはずだ。特に三年生は使える人間が多いはずである。 しかし、三年生の教室にいる人間に動きはない。
魔法を使ったなら使ったなりに、気配は動くのだ。
では、システムがすべておちたのではなく、一部落ちたとするのなら。しかも、ごくごく一部がおちたのならば、必要最低限の人数でいいはずだ。
それにしては、動いて人数が多すぎる。
なにが起こっているか、何が起こるのか。解明するのは俺たちではないのかもしれないが、このまま帰る事はできないかもしれない。
俺はそう推測する。
だから、皆の足を止めさせ、深刻そうに見せて、そのまま帰ればいいじゃないかと言わせない。
「姿を変える魔法、なのですが」
追求が小さく手を上げて発言する。
「魔術、法術、ともに姿をかえる術はあります。ですが、この学園の使っているシステムは魔術と法術の混合、魔法です。それはより完璧にということもありますが、個別の指定ができるからだと僕は思っています」
魔術、法術…どちらも一人ずつに術をかければ一人ずつ違った姿になれる。
しかし、複数の人間にかける場合、その労力は計り知れない。
一括に術をかけてしまうと似通った点がでてしまい 、姿形が似た人間が何人も出てきてしまう。
それを労力少なく、より多様にするために、魔術と法術を掛け合わせた変身魔法を作ったと追求は説明した。
それは変装道具とシステムによって管理された変身魔法だ。
姿形が違うというのに、攻撃が届く理由、変身後に間合いが変わらない理由などがここにあるらしい。 
一種の脳への変換能力干渉であるらしいが、脳に影響を与えないようにするための法術も使われているそうだ。だから、反射神経で動くとき、映像がぶれるときがあるらしい。だが、それは動体視力のかなり良い者しかわからない。
つまり、俺のような人間しかわからない。 
確かに、たまにある。
「だから一括に複数の人間の変装をどうにかできるのはかなり大掛かりな魔法になるんです。それをダウンさせて、その……反則さんがいう通り、一部の人間しか動いていないのはおかしいです」
「もしかしたら、すべてではなく、一部?」
追求のあとに、深刻な表情で続けたのは暗殺者だった。
さすがに頭が回る。
そう、システムの一部しかダウンしていないのなら、動くのは一部の人間でいい。
しかも、それがわざとであるのなら、スイッチの切り替えのように簡単にできてしまうだろう。
もし、これがわざとであるのならば、忙しなく動く気配はシステムダウンに奔走する人間ではない。システムダウンをさせてなにかしようとしている人間だ。
そこまで仮定して、眉間に寄っているだろうしわを伸ばす。
「一部か……何か面倒なことになってそうだね」
「テメェとかかわるといいことねぇな」
会長は俺に悪態つくのに、抜け目がない。
隣にいた副会長が、険しい顔を会長に向けた。
「十織」
たしなめるように呼ばれた名前に、会長はばつ悪そうな顔をした。
可愛いなぁと思ってしまう俺は、呑気なのかもしれない。
「あーじゃあ、確かめてみるか?」
そう言ったのは黙って推測を聞いていた、良平だった。
「まぁ、確実にわかるわけじゃねーけど」
ポツリと呟いて、良平はマジックサイスを手に顕現させる。
術式簡略化をしてすぐにだせるようにしてあるのだ。
それを地面に突き刺すと、良平は一言呟く。
「召喚」
すると、地面にあっという間に魔方陣が描かれていく。
一瞬その場が光ったと思うと、そこにはアヤトリがいた。
「アヤトリはアヤトリのまんまやねぇ」
良平がアヤトリを召喚してしまったことについて驚く周囲を無視して、俺はアヤトリをしげしげと見つめる。
アヤトリはけして風紀委員長の姿をしていなかった。
「当然」
アヤトリが発言したあとだろうか、アヤトリの姿がぶれたと思うと、風紀委員長に変わった。
変装アイテムは鬘とアクセサリー。微妙な変装がされている風紀委員長がそこにいた。
「あー……一部ダウンのうえに、わざとちゃうかなぁ、これ」
「……ちょっとまってくれ、混乱している」
色々な衝撃から立ち直ったのが早かったのは、舞師だった。
「そこにいるのは、風紀委員長だよな……?」
「そやね」
「アヤトリだったよな……?」
「アヤトリやったねぇ」
「召喚、されたよな?」
召喚されたというくだりで、何故か嬉しそうに偉そうに、アヤトリは言い放つ。
「俺は特殊召喚物だからな」
「結構、手続き面倒くさい、あれですか?」
追求がアヤトリは無視して良平に尋ねた。
良平は頷いたあと溜息をつく。
この面子でなければアヤトリを召喚することなどなかっただろう良平は、調子づいているアヤトリを殴っていた。
完璧な八つ当たりだ。
「わざと、というのは?」
俺の言葉を噛み締めていたのは、暗殺者だった。 さすが冷静だ。
「そのまんま。なんかするために、わざと変装システムダウンさせて、俺らだけを転送システム使えんようにした。……学校とここのフィールドし か気配なんてさぐっとらんけど、まぁ、他とか探ったら奇声発して走り出したくなってまうやろけど。とにかく、一部以外が普通すぎる。そういう可能性もあるいうことですわ。アヤトリがきたことでかなりそれっぽいことになってんですけど」
「システム使えねぇの?俺は他のフィールドいたんだが、別に普通だったぞ」
俺の説明をちゃっかり聞いていたアヤトリが答えてくれた。
かなり役にたってる。あとでなでなでしといてと、良平に頼んでおこう。
そんな気持ちをこめて、良平をみるとマジックサイスでアヤトリが近寄らないようにこっそり牽制しているところだった。
そんなにいじめてやらないでほしいものだ。
「と、いうわけや。八割わざとですやろ」
それを聞いて、将牙が、思い出したかのような声をあげた。
「あ。噂なんだが、二年なってすぐ個人に合わせて進級課題つうのが出されるって」
「進級課題というと……あれだな。二年になれたのは仮進級で、二年になってから出される進級課題をクリアしないと学年オチするという噂の」
「へぇ、そんな噂、あるんだ…?」
舞師は将牙に頷いたが追求は知らなかったらしく、首をかしげる。
俺も知らなかった。
「都市伝説みたいなもんだからな」
「あぁ、俺も、その手の話なら、きいたこともなくもねぇ。俺が聞いたのは三年の話だったが」
どうやら焔術師は似たような話をきいたことがあるらしい。
ささやかな噂のようだ。
「んー……じゃあ、その噂が本当だったとする。進級課題ってことになると、何やらわからん課題をクリアせなあかんちゅーことに……」
傍にいた八人が全員、複雑そうな顔をした。
進級なんてできなくてもいいといえる奴はここにはいなかった。
いや、何年留年しようが、年がいくつであろうが構わないのがこの学校だから、俺より年上の一年生なんてのもよくいる。
よく知られる話としては、副会長がそうだ。副会長は、三年ほど別の学校で学んだあと此処に入学している。そのため、三歳ほど年上だ。
俺の知る限りでも、身近にもう一人いる。
他にもたくさん居るのだろうが、見て解るほど年齢が違う人間以外、年齢の話は少しタブーにされているため、あえては聞かない。だが、確実に同じ学年でも年齢はバラけていた。
だけど、それでも、留年はしたくない。
一年多く学費を支払わなければならないし、進級できなかったということに複雑な気持ちを抱くのは何も自分自身だけではないからだ。
「進級課題だとして、これはいったい、なにをしたら、合格となるんでしょうか」
追求が不思議そうに首を傾げたが、皆さっぱりわからないといった様子だ。
正直、事件解決とかいうのは、事件の中心にいる人間や、それに巻き込まれた人間。責任ある立場の人間がやることで、俺たちの仕事ではない。
もし、事件を解決して欲しいと依頼されたなら、それは別の話であるが、システムが一部ダウンしたという以外放置されている状態である俺たちにはなにをしていいのか皆目見当つかない。
「学校に帰るのに特に邪魔されてるっつうこともねぇしなぁ」
焔術師の言うとおり、まったく邪魔なんてされてない。
システムがダウンしただけ。本当にそれだけだ。
これから大きな事件が起こるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
しかし、予測するにも限度がある。
「とりあえず、学校に戻るっていうのはどう?」
人形使いが提案した。確かにそれしかない。
「学校もどっただけで進級失敗とかだと笑おうぜ 」
楽しそうに笑ったのは良平だ。そんな微妙な進級課題はこちらが願い下げである。
「そやね。そんときは、皆で転校してまおうか」
半分本気でいいながら、学校に向かうこととなった。
◇◆◇
皆で転校。
一度もそんなことは考えていなかった。
それが考えられたのなら、少しは違う道を選べたのだろうか。
いや、きっと、同じ道を辿る。
それが、一番に望んだものなのだから。
反則狙撃の予測能力、観測能力、探索能力。どれをとっても実践向きだと言える。
これだけしか与えられていない情報から、それだけ話を広げ、まとめ、絞ることができる。
八人も……アヤトリがきたから、実質九人もいたのだから、それぞれの持っていた情報から推察するということもできた。
けれど、その八人とも、同じような情報しか持っていなかった。
情報量が多かったのは自分自身の能力でまわりをみていた反則狙撃だけだ。
魔法だって使えたはずなのに、やはり、この状況に戸惑っていたのか、四人の魔法使いは、魔法をつかって探索をしなかった。
いや、探索をしないでいい状況を、もしかしたら反則狙撃がつくったのかもしれない。
それほどまでに、反則狙撃はすばらしい働きをした。
進級どころか、飛び級すらしそうだ。
「伊螺(いら)」
「ああ。わるい」
ぼんやりと考え込んでいたら、小さく名前を呼ばれた。俺は頷いて、一歩、踏み出す。
「今からでも遅くないと思うけどねぇ」
「なんか言ったか?」
「いいや、何も」
小さく、俺にだけ、もしくは他の誰もに聞こえないように呟かれた言葉は、聞かなかったことにした。
学校といっていい範囲内には、すぐついた。
歩いてすぐ!といっていいくらいすぐついた。
「あーんー…ここは…どこやろね」
学校の敷地内であるのは確か。
とっさに伸ばした手でつかんだのは、この前から縁のある暗殺者。
「……第三室内フィールド?」
薄暗い、廃墟の中のようなフィールド。
俺たち九人が学校の敷地に一歩脚を踏み入れたとたん、魔法により俺たちは色々な場所に飛ばされた。
景色が歪む瞬間を見た俺は、とっさに誰かの手をとった。
それが暗殺者だった。
俺と同じような行動をとったのはもうひとりいて、それが、風紀委員長であるアヤトリ。
間違いなく良平の手をとったらしい。
俺がここは何処?とかいってる間にも、良平のノイズ混じりのリンクで、アヤトリと一緒だということを喚いている。
「フィールドなぁ…じゃあ、今から試験やいうことやろか」
「そうかもしれないね」
俺はつかんだままになっていた手をそっと外しながら、あたりを見渡す。
第三フィールドのどのあたりかを判断するため、ぐるっとあたりを見渡しながら、暗殺者に尋ねる。
「暗殺者は、なにができるんですやろか」
「…近接攻撃のみ」
「魔法は?」
「…一切、使えない」
「そですか。俺は、ご存知の通り、超遠距離から一応近距離まで。魔術も法術も補助系が少々使える程度。法力も魔力もそんなにあらへんから、魔法はあてにはならんと思うてください」
ホルスターにさした銃を手に持ちながら、回りに俺と暗殺者以外の誰かがいないか探る。
「ああ。でも、室内やし、中距離くらいしかいらんかもしれませんけど」
「…何故、敬語なんだ?」
「そりゃ、副会長様やからですよ」
「…尊敬もしてないのに?」
確信をもって、暗殺者がいう。
正直、『副会長』のことは確かに尊敬なんかしてないし、会長とよく、似てるなってだけ。
「そう思います?」
でも、『暗殺者』のことは少なからず尊敬している。
まぁ、暗殺者には敬語なんて使ったことはないから、いきなり敬語はおかしい。
敬語といっても、なんちゃって敬語なので、敬うなんて気配がない。
「…でも、そうしとることで、防げることもあるんですよ」
たとえばそれが陰湿な、そのくせ子供っぽい嫉妬であったり、人を殺したいと思えるほどの憎しみであったり。
ただ敬いのない言葉は、人との距離をつくるから。
だから、人形遣いはあえて、俺の微妙な敬語について何もいわなかった。
だから、早撃ちは俺に敬語を止めさせた。
暗殺者は中途半端に疑問を口にした。
「なんや、人間関係って慎重にいかなあかんなぁということです」
「…そうだな」
頷いた暗殺者にも、おそらく思うところがあったのだろう。
しかし、そのあと続けた言葉は意外な答えだった。
「じゃあ、俺も止めようか」
「はい?」
「俺も、嘘くせぇ、当たり障りのねぇ口調、やめるってこった」
急にがらっと変わった口調に、ますます生徒会長とそっくりですよ、副会長!などとおもう余裕が俺にはまだあった。
…あったとおもう。
「それは、敬語もやめよねってことですか?」
「そうだな。止めろ。…敬われてないうえに同学だぞ?それに、今更、ってかんじもするからな。大丈夫だ、俺と少々仲がよくても、弟とちがってやっかまれたりはしねぇから。一応フレンドリーに対応してあるから」
外面いいやつってこれだから!となんとなくおもうものの、暗殺者がそういって楽しそうなので、ま、いいか。とおもった。
似てるけど、似てない。全然似てない。
「ん?そうなると、あれやないですか。変装前状態のときも、マイフレンドってことに」
「なるかもなぁ…」
「いやいや、そういう言い方やったよ?ねぇ、ちょっと」
「あ、俺のことは一織(ひおり)とよんでくれてかまわない」
「や、話聞いて?」
暗殺者…一織は、普段とはちがった爽やかさを微塵も感じさせない笑みを浮かべた。
口角がじわりとあがり、目元を少し笑わせたそれは、少しニヒルでかなりクール。
そしてだいぶダーティ。
「きかねぇよ。ほら、お前の名前は?反則狙撃」
一織はきっと俺が名前をいうまで責め立ててくれるのだろう。
なんとなくそういう雰囲気だ。
…やっかいな人に目をつけられたもんだ。
「……叶丞」
「キョースケ?」
そんな発音しづらそうな名前だっけ?となんとなくおもってしまうくらい、一織は片言で名前を呼んだ。
声も会長に似てるだけあって、非常に複雑だ。
ちなみに、会長には名前を呼ばれたことはない。
片想いって切ない。
俺と暗殺者がいる以外気配のしない廃墟から出るために歩きながら、探索領域をひろげていく。
相変わらず気持ち悪い感覚だが、この際仕方ない。
ある一定でいいといえばいいのだけれど、常に先手をうっておきたい。
「キョー」
呼びにくいらしい。
『スケ』すら取れた俺の名前を呼びながら、一織は更に尋ねてくる。
そう思えば、この人、結構質問してくるよな。そういう癖でもあるんだろうか。
「なん?」
「進級試験、どうおもう?」
「どうとは?」
暫くの間沈黙があった。
言うか言うまいか迷っているようだった。
「……俺は、ご存知の通り、ここには三年遅れて入っているわけだが」
副会長の家は、つまるところ、会長の家でもあるわけだが、とにかく二人の家は、魔術師の家系で、代々有名な魔術師、魔導師を輩出している。
魔法が使えて当たり前。この学校の魔法科に入り、名を馳せなければ、落ち零れ。
つまり、魔法科に入っていない一織は落ちこぼれ、ということになる。
しかも、一切使えないと、嘘か本当かはわからないが言っていることから、かなり肩身の狭い思いをしているに違いない。
会長はそれと違って、一族全員に祭り上げられるほどの天才にして秀才。特に火を使う魔術、法術を得意とすることから焔術師と呼ばれている。
一織は、一族の落ち零れだが、おそらく最低でもこの学園に入れといわれたに違いない。
魔法ばかりを学んできただろう彼が、この学園に入るには魔法では無理だった。
では、どうすればいいか。
その結果が三年遅れの武器科入学。
その、三年遅れた分だけ、彼は知っている。
「一応、他の学校に居たんだが、この学園…内部情報が他に流れないことで有名だった」
「…ここから転校していく生徒たくさんおんのに?」
「そうだ。流れる生徒の話でさえ…噂さえ操作している節さえある」
「…ここの生徒が流れても、大丈夫なくらいの秘密主義ってことなんかな、それは」
そう思えば、変身の魔法システムは少々…否、おそらく多大に脳に働きかけているはずだ。
洗脳するのも簡単なら、記憶をかえることだってできなくはない。
そう思うと、ぞっとする。
「もともと、進級やその手の類の試験、三年になってからの就学システムには今現在三年に進級するべき二年でさえ、よくわかっていない。三年になってからなにをするだとか、そういうのは、パンフレットにのった項目だけ」
そう思えばそうである。
俺は中等部からここにいるため、気がつかなかった。
その上、中等部と高等部では経営者が変わったかとおもうくらい就学制度に違いがあるのだが、当然のようにここの高等部にいくとおもっていたから、そういうものだと思って疑問にもおもわなかった。
それに対し、暗殺者は高等部からの入学で、この学園に入るために時間を費やしたようだから、それなりに思いいれもあり、外部にいる間…もしかしたら、この学園にはいってからも調べていたのかもしれない。
「それだけ秘密にしているものが、こんなに簡単にわかるものなのか?」
「…試験やとわからんくすることさえできるいうことやね…?」
「そうだ」
「それは、たぶん…秘密にせんことが試験の一部やから、やないかなぁ」
秘密にしていたことを秘密のままにしていることは簡単。むしろ、秘密をとくことこそ試験としてしまえば、試験問題ももう少し簡単なんじゃないかと思う。
秘密を秘密でないようにすること。それにより難易度を上げ、目的を変える。試験だと油断をさせる。試験だと身構えさせることに目的があるのだとしたら?
本当に厄介な進級試験である。
「…面倒だ」
「同感やわ。なんや、とばされたんはいいけど、まったく仕掛けてくる気配すらないしなぁ」
「放置もいい加減にしねぇと、こっちから襲うぞ」
「ややわぁ、短気はあかんで、一織さんや」
あ、『さん』ってつけたら嫌そうな顔された。
そういう表情、兄弟だなぁと、やっぱり俺って呑気。
室内第三フィールドは、廃墟の室内を模している。たまに建物が崩れたあとがあったり、瓦礫が邪魔であったり、下に抜けそうな床があったり。
おおよそまっすぐ進むということは難しいフィールドであるのだが、誰も何も仕掛けてこないのなら色々探っておくに越したことはない。
「あー…あんな、感覚、広げとるから、できたら、なんかしゃべったって。何処に、おるかわからんなるんや」
不機嫌そうな顔をしたと思ったら、急にだまってしまった一織に、気分にムラがあるのか、話すという行為にムラがあるのか。そんなどうでもいいことを考えながら、気配を探るために感覚をどんどん広げ、一織の後ろにつきながら俺は言う。
ほんと、平らになってしまったら、ここがどこなのか、自分自身がどこにいるのかがわからなくなる。この状態は続けるべきではないし、自分自身の身があぶないのだが、どうも嫌な予感が納まらない。落ち着かない。だから、どんどん探索範囲を広げている。
人の気配を、一人、一人と数えながら、一緒に居た残りの七人の気配も探る。
「…何か、か…?」
「何でもええねんで。あ、会長のこととかどうなん?」
まぁ、純粋に下心なワケだ。
一織は少し、考えて、口を開く。
「十織は、かわいいな」
「あ、お兄ちゃんからしてもやっぱり、そなん?」
第三フィールド内に俺と暗殺者以外はいないことはすでに確認済みだ。
その外を出て、隣接するフィールドへ。このフィールドには人がいないようだと気がついた。フィールドとフィールドをつなぐ場所には人が数人いたが、どれも知り合いではない。
「『も』?あれは、お前にとってなんだ?十織も、お前のことをいっていたぞ」
「お。何っていうとった?」
「『変態』」
「……えー…ちゃいますよー」
漸くとらえた二人…良平と風紀委員長は学校内にいるようだ。
この第三フィールドも学校内といえば学校内なのだが、離れのようなものだ。座学が行われている場所とは離れていて遠い。
しかし、それにしても、学校内の気配が騒がしすぎる。
敷地内にいるときより騒がしくなってないか?
「そうか?俺はそうは思わないが」
良平とのリンクは一応繋がっているのだが、良平の方になにかあったのか、ある時からまったく良平の声が聞こえない。
「それは俺が変態やいうことですか」
「違うか?」
「ちゃいますよー」
騒がしすぎて頭が痛い。わざと騒がしい気配を追うのをやめて、良平と風紀委員長の気配を点として、更に感覚を広げていく。
「じゃあ、なんだ?」
「や、ふつーの学園生…ちょっと名前通ってるけど」
「ちょっとか?」
結構テンポよく話してくれる暗殺者に、首を傾げておく。
中庭には人形遣いがいた。
何か人間でない気配もあるのだが、おそらくこれは人形遣いの人形…ゴーレム、あたり。
ゴーレムを展開しなければならない状態って、警戒なんだろうか。緊急なんだろうか。中庭だから、きっと材料には困らなかっただろう。
「ちょっと…だいぶ」
「わかった、だいぶだ」
「え、決定?」
その人形遣いとゴーレムも点にしてさらに広げる。
いよいよ、自分自身の感覚がうすくなってきた。
俺は歩いているのか、前を見ているのかさえぼやけているようによくわからないが、ただ、一織の声をとらえることができる。
俺は暗殺者の声を点にして、答えることで俺をつないでいる。
「変態で有名人とは難が多い」
「え、変態も決定?」
ボロクソいわれていいつっこみが出てこないのは俺の心がブロークンしているのか、それとも感覚広げすぎて頭がついていかないのかはわからないが、一織いうなぁというのだけは、わかる。
「そんなこというてもたら、一織も難儀なやつやない?」
まぁ、ふだんならいわないようなこともいってしまった。
「…あの家に生まれて、魔法が使えないことか?それとも、この性格か?」
自分でいっちゃうんだ…と口を開閉する。
意外と、一織は家のことをすでにあきらめているのかもしれない。
「…俺は落ち零れで家を出て、弟があの家を継ぐ。それが全て。これは、仕様」
「いや、当たり前みたいにいわれても」
漸くもう一人点をみつける。
これは、追求だ。
どうやら、俺と一織、良平とアヤトリ以外はばらばらに飛んだようだ。
追求は、たぶん走っている。たまに魔法も使っている。
追われている…?
そう思った瞬間、俺は中継点にしてきた点を手離す。
追求だけに集中。
追求は走っている。おそらくここは研究塔。追求の城と言っていい場所。ここは一番俺から遠い場所。
「…から……キョウスケ…?」
「え、あ。…あー…すません、ちょい、感覚手離してしもて…」
人の声が聞こえないほど。
名前を呼ばれて、漸く戻ってきた。
そのかわり、広げた感覚はある程度もとに戻った。
「いや。気にしなくていい」
「あー…はぁ」
納得しないというように頷いて、俺は手に持った銃をゆっくり構える。
気配があったのだ。
「どうした?何か、違う気配でも?」
俺はゆっくりとその気配に銃口を向ける。
「そやねぇ…」
気配を探るのをやめ、それに集中する。
「なんやおかしなぁ…と思うとってん。いつや?いつ入れ替わった?なぁ…?」
斜め前、副会長の顔をした人間に、にこりと笑う。
「そうだな、いつか…わかってるんじゃねぇの?」
声が変わる。
姿が変わる。
「今さっき推測してんけどやね…副会長の性格の話になったくらい?」
口調が変わっていた気がする。
感覚を広げている間、記憶には残るが違和感を違和感ととらえることができない。
「ビンゴ」
振り向きざま、そいつは銃をぶっ放す。
早撃ちの名にふさわしい、狂いのない弾道、素早さで。
そう、そこには一織のかわりに早撃ちがたっていた。
俺は銃弾の弾道をそらすなんて神業は、こんな状態でできない。
できるのは一つ。
振り向くと思った瞬間、コロコロと横に転がり、弾を避けた後、定まらない狙いで追尾弾を一発発射。
もちろん、早撃ちはそれを銃弾で破壊。
「たくもー!これがほんまの変態やっちゅーねん!」
先ほどの一織とのくだらない問答を思い出し、怒鳴りつつ彩菜ちゃんをあと二発うってから、立ち上がる。彩菜ちゃんをホルスターにいれたあと、さらに二発、他の銃を両手に持って撃つ。
「あんだよ、俺が変態?ありえねぇだろ」
彩菜ちゃんからの銃弾を落としつつ、他の二発も避ける。
弾が小さくては早撃ちに撃ち落されてしまう。
「くっそ。面どいやっちゃで…!」
瓦礫の後ろに隠れると、俺はウエストポーチから石を取り出す。
それは魔法石と呼ばれる。
俺の使っているそれは召喚器具の一種にしてあって、魔法の力が込められており、良平のように人間は呼び出せないが、俺にとってとても大切な武器なら呼び出せる。
「召喚!」
欲しい武器を思い描き、召喚。
魔法石は石自体に魔力があるため、俺の魔力自体は使わない。そのかわり、限界まで使ったら壊れてしまう。
これはこれで限界だったようだ。
俺の必要とした武器。それは、猟銃の一種。
一発しか銃弾は入っていない。
よく俺が撃っては投げ捨て走って逃げて撃っては投げ捨てる。というときに使う銃だ。
「おーコワ。すぐに対応する…。だから、銃のトップなんだろな」
「そないなこというても、騙されんで。早撃ちとは特性がちゃうだけ。俺の方が攻撃範囲が広い分、落とされることが少ないだけや」
「そういう、冷静な分析もみられてるんだっつうの」
そんなことを言っている間にも、一発ぶっ放して、走る。
相手が悪い。
正確さと素早さを売りにしている人間にたいして、俺は遅すぎる。
ぶっ放して銃を捨てたあとは、ホルスターに残っていた銃を再び片手にとって、躊躇なく引き金をひく。
「手当たり次第だな」
まったくもって余裕ときたか。
しかし、俺だって考えないわけじゃない。
銃弾は跳ね返るものだ。
「へぇ、跳弾も使うか。さすが」
でも、まだ早撃ちには届かない。
もう片方の手に再び魔法石を複数とり、ばら撒き、イメージ。術式を構築。俺は叫ぶ。
「召喚!」
「おいおい、一個しかでてねぇぞ」
魔法石の優秀なところは、術式を覚えることとそれ自体が力を持っていることにある。
ばら撒かれたそれぞれの石にはそれぞれ、術式が組み込まれており、そして、俺の手元に残っている石にも術式が組み込まれている。
俺がわざわざイメージしなくても、構築しなくても、発動させるためのきっかけさえ与えればいい。
「俺が、反則な理由、知っとるか?」
「範囲と視点か?」
「それもあるやろけど…!」
早撃ちの銃弾は容赦がない。
避けはしたものの、腕をかする。
服が破けて、肌が覗く。仄かにあついことから、おそらく、怪我をした。
それは、今、どうでもいい。
俺は引き金を引く。
石のある場所に行く度、一つ、一つと一瞬にして姿を現す銃器を狙いも甘い状態で次から次へとぶっ放す。
「…魔法と物量をつかうからや」
最後の一本を早撃ちの脳天に向けたあと、鉄壁のガードのシステムも落ちていることを思い出した。
集中力って怖い。危うく一人殺しかけた。
◇◆◇
こいつも弟か。
何となく思う。
話題として出たのだろう。そう思いはするものの落胆を隠せない。
久しぶりに欲しいと思った。どうしてほしいのか、どういった形で欲しいのか。わからないが欲した。
軽い話題にもっていく。探索をしているため俺についてきている反則に振り替えることなく話を続ける。
そういう俺こそどうなのだ?というようなことを聞かれ言葉につまる。それは、どういう意味で?口を開こうとした瞬間に手を引かれる。
昔からよく知った…昔は俺がよくひっぱった手。 弟の、手が。
「…ほら、あれも同じ」
舌打ちし、俺の手を引く弟は、怒っていた。
反則は気配が解らなかった?
俺も解らなかった。
「何をした?何処に居た?」
問うと弟は詰まる。
表情はかわらなかったが繋がれた手が動揺を伝える。
生まれてから十九年。俺はずっと弟をみてきた。そばを離れた三年間でさえ、外から弟を見ていた。
傍に居れば気付かないことにも気がついた。
「お前が俺の、課題か…学校側は正しいな」
弟の手を振り払う。
簡単に外れたそれを見つめ、弟は苦い顔をする。
「…兄貴は」
構える。
意識を殺す。
考えてはならない。やらなければ、ならない。
「何をそんなに…アレに期待した…?」
意識の端、僅かに切れた服を思い出す、システムは切れたままなのだろうか?
ならば、刃物を使うのは危険だ。
弟のことは。
憎く思ったこともある。自分自身にないものに羨望したこともある。
しかし、殺したいわけではない。傷つけたいわけでもない。
おそらく、嫌いには一生なれない。
いつも、欲しいものを持っている弟に劣等感を抱いても、それは俺の都合であって慕ってくれる弟に他意はない。
だからたとえ、久しぶりに欲しいと感じたものが弟を求めても、仕方ないと思いこそすれ、ショックなど。
それでも、一瞬の転換を逃すほど。
それこそ、俺が聞きたい。
一体、反則狙撃…キョースケに何を、期待した…?

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