×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
まるで初めて書いたかのように見せかけようとしましたが、タイトルを考えるのが面倒で…
元会長が登場です。
本文はつづきからどうぞ
「僕も早瀬(ハヤセ)くんと平和にいちゃいちゃしてたかったんだよ……!」
そんなことは知ったことではない。
その場にいる一人を除く誰もが思った。
冴島芥(サエジマアクタ)は長くなってきた前髪を指でつまみ、つまらそうに華宮景(カミヤケイ)を見上げる。
空は青く、雲ひとつなく、少しだけ肌寒い。こんな日は、陽の光が無くとも空の青さが目をさす。相変わらず人通りのない裏庭で寂しくサボりをしていた冴島に、デートのお誘いをしにきた西秋(ニシアキ)、さらに近頃冴島に付きまとっている樹(イツキ)は、若干もじもじしている華宮を三人ともに同じような気分で見上げていた。
冴島が一番最初に昔と今とが結びつけられない華宮から目をそらす。すると冴島の目にはやはり昔の華宮とは違う地味な茶髪が映った。
華宮は冴島が邪魔なものをすべて潰しまわっていた際、最大の邪魔だった人間である。気がつけば色が変わるサイケデリックな髪と、強い彩色者やカラフルにはとりあえず噛み付く凶暴性を備え持つ、元生徒会長だ。
その凶暴な元生徒会長は、たった一人の男にうつつを抜かし、生徒会を引退した。引退後は冴島同様、大人しく地味に学校生活を楽しんでいたのだ。
しかし、華宮は、元風紀委員長である最大の敵を見つけ出し、言った。
「ちょっと。ちょぉっとだけ、早瀬くんを殴って、コテンパンにして、使いもんにならないと言わせればいいんだよ。あの会長に」
「華宮ァ、お前さんが潰せばいいだろ?したら、カッコイー髪の毛も蘇るし、そのきめェ喋り方もなおせるだろうが」
話しかけられてもいない樹が、冴島よりも先に答える。冴島は今度は自らの長い前髪を後ろへ流し、しげしげと華宮を見つめた。
華宮は昔と違う。
髪の色が地味になったというのは、もはや問題ではないくらい変わった。
出来るだけ小さく見えるように背を丸めており、きっちりかっちり制服を着る。鋭い目を和らげるために着用された眼鏡も、昔は無かったものだ。
「早瀬くんに嫌われるからしない」
華宮は元生徒会長である。目立てば様々な厄介ごとが舞い込む。だからこそ、昔とは違う姿をして隠れている方が平和に過ごせる。
しかし、華宮のこれは違う。華宮は、四ノ宮早瀬(シノミヤハヤセ)の好みを知って、姿形を変えたのだ。
「昔と今とじゃ、ちげぇだろ」
冴島が思わずこぼすのも無理はない。華宮は昔、美少年だった。だから、可愛く振る舞い可愛い格好をし、可愛い顔をしておけば、可愛く見えたのだ。
しかし、成長期は残酷だった。
華宮はすくすくと育ち、高等部一年の頃に彼氏に追いつき、二年に上がる頃にはその背を追い越したのだ。
その上細くしなやかな美人に成長するならまだしも、見事な男前に成長し、すっかり違和感を醸し出し、似合わない格好のせいで逆に格好悪く見せていた。
「黙れ、俺だって似合わないことは百も承知だ。クソ……ッ」
だが、華宮はそんな成長期の残酷さのせいで、恋人に逃げられ、昔の敵に報復しろと迫っているわけではない。
「俺の格好とかはこの際どうだっていい。あの会長サマときたら、俺のもんだから返せだと?人様の恋人をなんだと思っている。俺のものに決まっているし、返すいわれもない。大体あのクソ会長サマではなく前会長のだっただろうが。だが、前会長にいわれたところで俺は返さない。なのに早瀬クンも言われた通りするから、驚きの成長期のせいでただでさえ嫌われそうなのに、殴ったりしたら完全アウト。それでも万一俺が殴ったりしたら会長奪還とか騒がれるし、だからお願いしにきたんだよ、わかったか」
お願いをする人間の態度ではないなと、冴島も樹も思った。関係がない顔をして、蜻蛉の行く先を眺めていた西秋ですら思っていたのだ。もちろん、本人とてわかっていた。
「いや、本当、頼む。あいつが帰って来るなら、なんでもする」
手を合わせ、頭を下げる様子はかつて傲慢なベビーフェイスと呼ばれた人間には見えない。
そして何故か、一番興味なさそうにしていた西秋が一番最初にため息をついた。
「華宮がそれでは調子が狂う」
この中で華宮と一番長い付き合いがあるのは、実は西秋だ。生徒会に引き入れたいからと槙(マキ)に拝み倒され、仕方なしに華宮と最初に接触したのは西秋なのである。
「……西秋ではダメだ。もちろん、樹もだ。なぁ、わかるだろ、冴島」
西秋は生徒会補佐の槙と繋がりがあり、生徒会に戻った早瀬に殴り込むのは、やはり裏切りや下剋上と言われ騒がれてしまう。樹は生徒会との繋がりなど一切ないが、つい先日まで騒ぎを起こしていた。これも生徒会への反乱だと騒がれる。
しかし、冴島ならいつも通り急に現れ、通り魔的に殴ってしまえば、騒ぎは最小限だ。
なるほどと頷き、西秋が冴島を見つめた。
「レッドん時はなんもいわなかったろうが」
「槙のはなんの利もない話だが、これはある」
「あんだよ?」
「普段から素でふるまって貰えるようになるだろ」
華宮はなんでもすると言ったのだ。それも華宮の頼みをきけば可能だろう。
「……本末転倒だろ」
ぽつりと反論をした冴島の言う通りだった。だが、樹には名案に思えたらしい。しきりに西秋のことばに頷く。
「早瀬の前だけ今まで通りならいける」
西秋のいうとおりだと華宮がいい顔をした。冴島は西秋より大きなため息をつく。
「いけねぇよ。この際ぶちかませ。そうじゃねぇとやらねぇからな、俺は」
「……善処する」
何かすっぱいものを食べたような顔をした華宮を見た後、冴島は立ち上がる。
「仕方ねぇ……四ノ宮潰すか」
華宮は冴島の最大の敵であったが、けして仲が悪いわけではなかった。お互いに暇つぶしが出来て楽しい相手だったのだ。
このように昔の面影を殺した華宮をみると、冴島は寒気が走る。西秋のいうとおり、冴島もやめてもらえるのならば、やめて欲しかった。
「あー……やっぱ芥のそばは暇しねぇナァ」
PR