書きなぐり これもここひと月ほどの間に 忍者ブログ

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書いてたんだよ!
というわけで晒しているわけですが。

反省して別のものを書いたのですが、これはもっと早く手を止めました。
こちらは、男女もの。

それでやはりファンタジー。
こちらも途中で終わります。







 冬は寒くて、夏は暑い。春と秋だけは何とか快適に過ごせる、賃貸料三万ギニの小さな店が彼の城だ。
 いつもは立地と狭さのせいもあって、人が少ない彼の店は静かである。しかし、近頃はいつもはない忙しさがあった。
「どいつもこいつも祭り祭りって楽しみやがって……!」
 彼の店がある町では年始に祭りがある。
 他の村や町では実りの神を祭っているため、秋ごろに祭りをするのが普通だったが、彼が住まう町は違ったのだ。
 人々はその日が勝負だとばかりに装飾品を買いに来る。彼は祭りのために着飾る人々のためでなく、彼は祭りの日に出店で出すための商品も作っていた。
「俺も可愛い女の子と祭りに行きたい……」
 彼は机の上に置いた木材を前に項垂れる。この稼ぎ時を逃しては、一年を生き抜くことは困難だ。
 想い人に少しでもよく思われたくて装いに花を添える首飾りも、恋人と祭りを楽しむために着飾る女の髪飾りも、祭りに結婚を申し込むために用意する腕輪も、これからも長く一緒に居る誓いを立てる指輪も、注文があれば笑顔で作らなければならない。たとえどんなに、幸せに脂下がった顔をした男が羨ましく妬ましくとも、彼は作らねばならなかった。
「呼んだかえ?」
「は……?」
「可愛い女の子と祭りに行きたいのじゃろ?」
 自らのことを可愛いと言い切る女の知り合いは居なかったはずだ。
 彼、セーファイスは、顔を上げ、振り返り、絶句した。
 セーファイスが振り返ったそこに、見たこともない美女が立っていたからではない。
 そこが見慣れた小さな店の中ではなかったからだ。
「何が起こった?」
 よろよろと立ち上がり、膝の上から厚い羊毛のひざ掛けが落ちたのも気にせず、セーファイスはあたりを見渡した。
 優しい色の壁と、高い天井。光をとる窓の姿はどこにもないのに、暗くも眩しくもなく、部屋の隅々まで見える。家具は少なく、机もないが、それが不便そうだという印象も与えない。
 三、四歩歩けばすぐに壁に当たり、奥行きがほとんどなく、装飾品を作る作業をするにも不便な店とは明らかに違った。
「つい、出来心での」
 出来心でやることに、いいことはあまりない。
 セーファイスは断言できる。
 彼の目の前で唇を尖らせ、言い訳を口にしたのは国が傾きそうな美女だった。
 夜でも月明かりを移して光を撒きそうな銀の髪、長い睫毛に滲む薄青い目、透き通るような肌のせいで、儚くも見える。
 そして、彼女はさらに言った。
「妾はただ、腕輪が欲しかっただけなんじゃが、主はもっておらぬかや?」
 いつもならセーファイスも、小首を傾げる様子に計算しつくされた美を感じることができただろう。それを見て慌てて自らが身につけているかを確認し、腕輪を入れた記憶のない小物袋まで探ってしまったりもしたかもしれない。
 しかし、その時のセーファイスは違っていた。目の下に隈を作り、寝不足から目を血走らせ、暗い色の髪すら艶を失く、更に暗く見えるような状態だったのだ。
 そう、セーファイスは疲れていた。
 だから、ただ美女を見つめることしかできない。
「……納期」
「なんじゃ?」
「納期……」
 他に言うことがあっただろう。しかし、セーファイスの口からはその言葉しかでなかった。
「こんなとこ居たら間に合んねぇよ……」
 彼女はそれを聞いて笑う。詩人ならば花が咲いたようなと形容しただろう笑顔は、今のセーファイスの心にはまったく響かない。
「大丈夫じゃ。ここは神の領域。隠された四の通りの一つ。主らの領域と時間を別にする。主がここに居た時間は主らの領域の一瞬にもならん」
「神の領域……なら大丈夫か」
 セーファイスがあっさりと頷いたことに、彼女は少し驚き、首を再び傾げた。
 神の存在は信じられている。しかし、見たというものは少ない。だから、神の領域などといわれたら誰もが、驚くか疑うはずだ。
「驚かないんじゃな」
「神さまに会ったことがあるし、これより酷い招待のされ方をしたことがあんだよ」
「なんと。しかし、妾はあまり神には見えんといわれるんじゃが。その……神にしては、貧相じゃと」
 彼女の言うとおり、彼女は他の神とは違って飾り気がなかった。どの神が描かれた絵も、身体の一部であるかのごとく装飾品を多く身につけている。それと比べると、確かに彼女は貧相だ。祭りに着飾った女よりも装飾品を身につけていない。
「神さまって言われたほうが納得のできる姿形してんだから、問題ないんじゃねぇの」
「……今、妾、褒められたかの」
「事実を述べたまでだ」
 セーファイスは目を擦り、座りなおした。本人は可愛い女の子と言ったが、彼女は美しいというのが相応しい容姿だ。
「それはご機嫌じゃの」
 嬉しさが零れてしまったような笑顔は、美しくもあるが可愛らしい。彼女の笑顔は見ている人間にも嬉しさが伝播しそうなものだった。





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