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思い立ちまして、久々に。
解る人だけが解ればいいやーと思ってかいたのに、カテゴリで丸解りです。
とても残念仕様。
本文は続きからどうぞ
解る人だけが解ればいいやーと思ってかいたのに、カテゴリで丸解りです。
とても残念仕様。
本文は続きからどうぞ
効きが悪くなった胃薬を往生際の悪さで使い続けていた。
さすがにこれでは穴が開くと違うものを使い始めたのが数年前だ。もう、店頭や他人が持っているところしか見ることはないだろう。
そういった感傷とも無縁な胃薬が、目の前に差し出された。
俺は胃があるだろう場所を押さえたまま、薬を持つ指先から視線を上へと向けて眉間に皺を寄せる。
「……よ、久しぶり」
覚えているよりも年を取り、幾分かくたびれたように見える顔がそこにはあった。
「ああ……」
薬は受け取ったものの、その薬が効かないことは解っている。ポケットから小さなケースをだすと、そこから薬を取り出し飲み込む。
「……元気?」
「……元気そうに見えるか?」
平日の昼間に、公園のベンチに座り込み胃を抱える働き盛りの成人男性は健康そうには見えないだろう。俺の前に立ったまま、そいつは笑った。
「見えないが、元気そうだ」
そして俺の隣に座る。横を見ると、年をとったとはいえ誰もが羨んだ男前が居た。
「いい男が三割増しだな」
昔と同じようなことを言うそいつは、目を細めて遠くを見ているようだ。俺も昔の自分自身を思い出し、苦笑する。
「……より一層怖くなったとはよく言われるが」
ちらりとこちらを見た後、そいつは首を振った。
「そうでもない。俺に対する反応なんかは柔らかくなった」
そいつの言うとおりかもしれない。
大人になったと言えば聞こえはいいが、その程度のことはどうでもよくなったのだ。この程度のことで何か言うのも疲れるといってもいい。昔はよく無視をすることで対応していた。
「今、何してるんだ?」
「ちょっと前までは海外でフラフラしてたんだが、今はこの辺でフラフラしている」
事細かな情報が知りたかったわけではない。話題として出しただけのことである。答えはどうでもいい。しかし、あまりの答えに俺は笑う。
「自由だな」
「そうかもな」
昔は、俺が話しかけずとも、そいつが勝手に話していた。話題を選ぶことも、提供する必要もなければ、話をしようとも思わなかったように思う。それは俺がそいつに興味がなかったと言うわけではない。そういうバランスの元、俺とそいつの関係があったのだ。
「なんというか、明日どうなるとも知れないと思っていた」
そいつには俺と会う前にすでに人生が変わるようなことが起こっていた。俺の知る、それだけにしては、少々達観しすぎている。その他にも俺に会う前に何かあったのだろう。
今になってこんなことを言われても、驚かない雰囲気がそいつにはあった。
「ああ、それなら、もっと身勝手にしたほうが俺らしいと思って、日本に帰ってきたんだがなぁ」
のんびりと間延びして聞こえる声が、昔とは違う。だが、とても懐かしい。
「逃した魚は本当に大きいものなんだな」
「逃げたのは俺じゃねぇよ」
「そうかもな」
かもではなく、そうなのだ。逃げていったのは隣にいる男前で、俺ではない。俺は追いかけなかっただけだ。
まるで、約束事のように事あるごとに俺たちの関係は卒業までだと言われていた。約束を守る必要はなかったというのに、律儀に追いかけなかったのはこの先がないことを知っていたからだ。
「しかし、さらにいい男になったなぁ……」
昔を懐かしむようにポツポツと話すだけで、直接触れてこないそいつが、二の足を踏んでいるような気がして、俺は先手を打つ。
「付き合ってはくれねぇのか」
「……そんなに俺のことが忘れられなかったのか。まったく愛い奴だな」
そうは言うものの、手を伸ばしてくる様子もない。
「そうだな、忘れられれば可愛げのねぇ野郎を囲わずに済む」
「……そうだな、昔より怖くなったな、志川」
怖いだなどと言いながら、諦めたような横顔をさらしたそいつに、俺は首を傾げた。
「名前は呼んでくれねぇの、浪治」
昔と同じように、浪治が笑う。
「ベッドの上でなら」
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