書きなぐり 主人は僕に頭が上がらない6 忍者ブログ

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ひさびさです。
物事はシェスが日向ぼっこしてる間にも進むけれど、主人以外はどうでも良さげなシェスにとって、重要なことではない。

僕×主人



本文は続きからどうぞ。










昼間、窓から入る陽が暖かく、うたた寝をした。
住処では起きている時間を探さねばならないほど寝て過ごすが、こうして主人のもとにいると寝ている方が珍しい。
珍しいことをしたせいか、これも珍しいことに、夢を見た。
かつての主人たちの特に記憶に残った言葉や出来事をなぞるだけのものだ。契約を違えて腕を食いちぎった主人や、人と獣の魂を混ぜ結果を望んだ主人、次第に僕を忘れた主人、ただただ耐えることを強いた主人……色々な主人がいた。
形を成し、記憶を繋ぎ、年月をいくら重ねても、十数人の主人を忘れることはない。
夢の中、最後まで現れなかった現在の主人はそのどれとも違う。
人はすべて同じようで違った。
だが、どの主人にもない、明白な違和感がある。主人が俺を戦うお手伝いさんにしたことが違いではない。
おそらく、俺の心持ちが違うのだろう。
本当の意味で他の主人と違うわけではない。所詮人間は人間だ。人間以外の何にもならない。
それは主人だけではなく、こうして珍しく現れた侵入者にも当てはまるものであった。
「久しいな」
俺はゆっくりと首をもたげた後、その姿を確認し、再び伏せる。知り合いだった。
「冷たいな、かつての主は無視か?」
それは、魔導の王と呼ばれた男だ。夢を見たのは、もしかするとこの男のせいなのかもしれない。
生前より生気の薄い顔に一瞥をくれてやる。
「さっさと帰れってことか?」
男の言う通りだ。害意がないようだから、あくびもする気が起きなかった。しかし、部屋を守る役割を与えられた身としては、速やかに帰って欲しいものだ。
まだ暖かな陽だまりも堪能していたいのだから、辛気臭い元主人など、本当に早く帰ればいい。人の理から外れ、主人としての契約も、とうにないものになっているのだから尚更だ。
「まぁいい。お前は賢いし、鋭い。だから少し、待って貰いたくてな。お前の主にも伝えてくれないか。俺は確認さえ出来たら、ここを去るから待ってくれと」
たとえ、魔導の王で主人だった男でも、従う理由は微塵もない。
俺が従うのは主人と、主人に利があると考えたことのみだ。死霊になり、魂を変質させ、人としての終わりを妨げた存在など、害意がなくとも人にいい影響を与えはしない。
主人に近づくことを厭うべき存在だ。
「無視か。本当に冷たくなったものだな」
笑いながら手を伸ばしてきた男を避けるように、顔をそらす。
元主人であるだけに、俺が主人に何も言わないことを理解しているのだろう。
男の手が俺を撫でることはなかった。
「じゃあ、またな」
男はそう言って姿を消したが、もう二度と会うことはない。男には死の匂いが濃く染み付いていた。
男が人の理の中に居なかろうと、やはり、人間には変わりないのだ。死んでその姿形を変え、魂を歪めようと、終わりは他の人間と同じく用意されている。おそらく、迎えが既にやってきていることだろう。
冷たいと言われる態度をとり続けたが、黙っておくのは元主人への餞のようなものだ。
俺は再び、陽だまりの中瞼を閉じ、考える。
いつか、主人にも、そうして迎えがくる日があるだろう。それは当たり前のことだ。
俺たちや精霊、妖精、他の動物とて長短あれども終わりはくる。
その長さが違いすぎることが少し寂しいと思えるのは、俺が長く人間といたせいではない。
それこそが、主人を違うものたらしめる。
元主人と同じ末路を辿るのは、人としては願えぬもので、主人にはないだろうことだ。
主人がせめて、魔女を継ぐようなことがあればいいのにと愚かにもほどがある願いが掠めた。
せっかくの暖かで穏やかな午後が、少し寒く感じられる。知り合いと言えど部屋の中に通すのではなかったと、俺は尾で床を撫でた。
すると程なくして、バタバタと主人が珍しい時間に騒がしく帰ってきたのだ。
人との長さの違いなどと、どうしようもないことを考えていただけに、反応が遅れ、出迎えも遅れてしまった。
「無事か……っ?」
息を切らしてまでやって来た主人に、俺は慌てて立ち上がり見上げることしかできない。
侵入者が部屋にあったことを、主人は気がついたのだ。
心配されるほど弱いつもりはない。
しかし、俺を鼻の先から尾の先まで見て、抱きしめた主人に何か言う前に可愛いなと思ってしまった。部屋の中の大事そうなものより、人でも身近な動物でも家族でもなく、化け物でしかない従僕に、これ程まで気を向ける主人が哀れで可愛いらしい。
俺は身体を擦り寄せ、一つ吠えた。
主人は腕から力を抜き、俺を撫でる。
「シェスほど強ぇのも、そういねぇのにな」
主人の部屋には結界が施されていた。俺が守る必要がないくらいのもので、それが破られたことに主人は慌てたらしい。
もう一度吠えて同意しながら、その結界を破られたことで慌ててしまうほどの信頼しかないことに気がつき、主人の腕から逃げるように身体を動かす。
「いや、信じてるんだが、そうじゃなくてだな……シェス、頼むから拗ねたみたいに身を離すのはやめてくれ」
アロウズが後々、この時の俺と主人の様子を見て、浮気の言い訳をする父さんと拗ねた母さんのようだったと語ってくれた。
俺の戦闘能力に対する信用にも関わることなのだが、その通りだ。しばらくの間、主人が帰ってきても知らぬふりをしてしまったのだから、悪いことをしたと思う。



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