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意外ともそもそとかいてありました。
四つなら、まとめたほうがいいのか、もっとふえるなら、まとめたほうがいいのか……。
本文はつづきからどうぞ。
兄上がおかしい。
「ロノが」
この言葉を吐き出すと、惚気なのか呪詛なのかわからないことを言いはじめる。それは、ロノのことだから仕方ないし、いつものことだ。
でも、兄上が相当おかしい。
「田舎に帰った」
ロノは朴訥を絵に描いたような男で、首都の華やかさに染まれず、すれない、綺麗な心の持ち主……ではなかった。
王族とか王都とか、へーすごいねくらいの遠いものだと思ってて、人生なるようにしかならないと思ってる感じがある。王子に仕えて、しかも望まれて抱え上げられて、失いたくないからと別の地位まで用意されかけても、まるで他人事だ。
そんなロノは、こうして生きると昔から知っていると言わんばかりに、田舎で猟をするという将来にたどり着こうとする。兄上はロノを護衛から下ろすたびに、ロノを田舎へ迎えに行く。実家に帰った妻を迎えに行くようで、兄上が情けなくて、俺はその姿を見るのは結構好きだ。
しかし、ロノにとっては一時帰宅だったとして、ああもそそくさと帰られては、兄上も毎回焦ってしまう。
「王都で職につくのはダメかって聞いたら、ロノ、なんっつったと思う」
「後宮にでもはいりますか?」
「それなら可愛いもんじゃねぇか。冗談だったとしても新しく建てて囲ってやる」
兄上の病んだ発言が怖いので、首をかしげる。
「肉体労働くらいしかできませんし、なら帰りますだぞ? 拗ねるにしても、なら帰るってなんだ」
ロノは兄上を護るということに異常に拘っているところがあった。ロノが兄上を護るきっかけになったことを思えば当然のようにも思える。だからなのか、兄上を護る以外の仕事に魅力を感じていないようだ。すぐに帰るといってしまう。兄上とは主人と従者であると同時に恋人であるはずだ。帰らずに残ることだって一考の余地があるのに、ロノは自分自身と兄上の立場をいつもハッキリと捉えて、思い切りよく決断する。
「でも、兄上が迎えに行ったら帰ってくるじゃない」
「毎回、田舎に帰ったらすげぇ説得してんだよ。今回は足に後遺症まで残ってるから……帰って来ねぇかも」
俺はここに来てようやく、兄上が珍しく悩んでいることに気がついた。
いつでもロノと同じくらい決断が早い兄上は、俺に何か言う前にロノを迎えに行く。
それをしないのは、兄上がロノを本当に護衛の地位から、自らの傍から離そうとしているからだ。
ロノが戻ってくるか来ないかはあまり問題ではない。
「ロノが近くにいないと、気軽に遊びにも行けないし、仕事終わって一緒に飲みにも行けないよ。セルディが信頼おく飲み仲間って少ないよ」
それにしたって、足に後遺症が残ってしまった今では、セルディも許してくれないかもしれない。
「ねぇ、ユキちゃんと遊びたい時だって、ロノがいなきゃ遊べないよ」
魔獣であっても、寿命は100年ほどしかないウルファのユキシロは、お嫁さんを探しに出ているから今はいないけれど。
「兄上がヤりたいとか迫ってきたからって、俺の執務室に遊びにきたりもしないよ」
「探してもいねぇと思ったら、お前のとこ逃げてたのかよ」
近くにいないと護れないといって、兄上の近くにいようと俺のところにきていた。
「俺はロノがいないと、寂しいしつまらないよ。兄上も退屈になっちゃうよ」
兄上は、随分前からロノがいないくらいで退屈だと言える立場にない。
本当はロノがいなくても、何事もなく季節は巡る。悲しいくらい普通の毎日が繰り返されてしまう。
「兄上、俺は嫌だよ、ロノがいないの」
でも、しばらくすれば、それが普通になる。
「兄上、ほら、早くロノ連れ戻さなきゃ。田舎なんてすぐお見合いの話がきて結婚しちゃうよ」
ロノがロノの村ではもてないことも知っていた。
「悪い」
そして俺は兄上が、誰よりもロノを欲しがり傍におきたがったことも知っている。ロノを失うことを何より恐れたこともわかっている。
だから、俺は俺のワガママを言う。
たぶんそれが、甘ったれの弟の役割だからだ。
「いいえー。それじゃあ兄上、ロノ、連れて帰ってきてね」
「おう」
王位について早々、身代わりを立てやらかした話は側近たちによって握り潰されてしまったが、俺はとても好きだ。兄上が本当に情けなくて、人間らしくて、大好きだ。
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