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どうもふるわないなぁ……といっていたのが、こちらです。
どうも、ふるわない。
で、友人に尋ねた結果、書き直し、もしくは練り直し、もしくは違うものをかくことにしたので、せっかくここまで書いたのだし、こちらのほうにおいておこうと。
BLでファンタジーです。
ふるわない原因は、説明ばかりしてしまったというところです。
話がまったくまったくすすまない。
なんか話っぽくなってる設定集かな?と思って下さると幸いです。
途中で終わりますよ。
どうも、ふるわない。
で、友人に尋ねた結果、書き直し、もしくは練り直し、もしくは違うものをかくことにしたので、せっかくここまで書いたのだし、こちらのほうにおいておこうと。
BLでファンタジーです。
ふるわない原因は、説明ばかりしてしまったというところです。
話がまったくまったくすすまない。
なんか話っぽくなってる設定集かな?と思って下さると幸いです。
途中で終わりますよ。
メイセリアリオ商業国の魔道具調査隊、その遺跡調査班の一つに与えられた一室が俺の職場だ。
班長という、名誉なのか押し付けられたのか解らない職務についてから、これほどどうしていいか解らない事態に陥ったことはない。
「今日からこの班に入るグラディアス・フェンネ・アルス・リンディだ。担当は雑用その他だと隊長に言われている。ここに来た動機は、班長のエルキオだ。エルキオに恋焦がれ、思い余ってここまで追ってきた。そんなわけで仕事も恋もよろしく」
俺はあまりのことに机に積んであった資料の山を崩し、普段は物事をはっきりと言うユンファがぽかんと口を開けた。ユンファの隣にいたサイチはいつも通りおっとりと『おやまぁ』と呟き、始末書を面倒くさそうに書いていたラスティハイは口笛を吹く。
「待て、グラディアス」
きついつり目を更につり上げるようにして表情を引き締めると、グラディアスは首を横に振った。
「甘く、ディアと呼んでくれ」
「断る」
考える前に口から出て行った言葉が俺の正直な気持ちを表す。突然のことで驚き、理由を聞こうと口を開いたら思いもしなかったことを言われた。それは断りたくもなるだろう。
しかし、グラディアスは唇の端を片方上げ、片目を閉じた。
「俺は愛を込めてキオと呼ぼう」
変わりなく淡々と言われ続けていることもあり、わざとらしい爽やかさの演出が薄ら寒い。背中を這う悪寒に耐え、俺は妥協案を出す。
「……勝手に呼ばれる分には俺にどうこうできるものじゃない。だが、ディアとは呼ばない。それでいいか?」
グラディアスはゆっくりと頷いた。
「仕方ないな。キオの照れ屋さんめ」
そんなことは微塵も思っていないと言うような抑揚のない声に、俺は顔に片手をあて、ため息をつく。
昔は現世の生き物だと思えないほど輝いて見えたものなのに、成長とは人を変えるものだ。
俺がグラディアスと初めて会ったのは、実は今先ほどではない。面と向かって会ったのは、過去一度ほどだが、グラディアスを眺めていた時期がある。
初めてグラディアスと出会ったのは、まだ字もまともに書けないほどの小さな頃だ。その時は長い時間一緒ではなかったし、話すことも出来なかった。そんな短時間での出来事だ。忘れてしまってもおかしくない。しかし、俺は今でも鮮明に思い出せる。
グラディアスは、光を入れるための小さな窓がある地下の部屋にいた。橙に近い金髪が窓から入る陽の光で暖かそうに見えた。よく見ると目は縦長の瞳孔で、何故か蛇のようだと思ったことを覚えている。
好奇心から手を伸ばすと、グラディアスは青緑の綺麗な目を細め笑ってくれたのだ。
その時、俺の手はグラディアスに届かなかった。届く前に、俺に気がついた大人に阻まれ、俺は別室に連れて行かれたからだ。
次に会ったのは学生の時である。暖かそうな子供は、すっかり女が放っておかない男前に成長していた。その時も思い出と違わぬ笑顔を別の人間に向けていたように思う。この時は手を伸ばすこともなく、他の級友に囲まれている姿を遠くから眺めるだけに留めた。
それからは暖かそうな金髪を人の合間に見つけると、眺めることを楽しみにしていたと思う。結局、近づこうともしないまま時は過ぎ、いつの間にかグラディアスの姿は学び舎から消えていた。
そう、何の接触もしなかったのだ。お陰で俺は今の今までグラディアスがどういった人間かを想像したことしかなかった。
初めて会った時の出来事のせいか、暖かそうで、綺麗で、触ることも出来ない存在だと思っていたし、自己紹介をされた今でもまだそう思っている。
きっと、学生の頃は淡い恋心があったのだ。だからこそ現実を見ても、幻想を抱いているに違いない。
そう思うと湿気た恋心から学生時代に暇さえあれば眺めていたのだから、想像するとおりの人物ではないと知っている。知っているが、昔の恋とあっては美しいばかりだ。想像の上でいつもグラディアスは儚い存在である。
だから、淡々と恋や愛と言われても、理想と現実が邪魔をして何と言っていいかも解らない。
「……班員の紹介をする」
どう反応していいかも解らず、俺は結局その話題から逃げることにした。
「ルオ、かっこ悪ィ。逃げてやんの」
黙っていればグラディアスよりもいい男だろうラスティハイは、口を開くと急に柄が悪くなる。その口の悪さ故か、女よりも男に囲まれていることのほうが多い。
ラスティハイは書き終わったらしい始末書を片手に立ち上がった。
「ディアちゃんコンニチハ。副班長のラスティハイ・セス・ダッカートだ。面白そうなんで、しっかり恋は応援してやるよ。仕事はルオに手取り足取り腰取りしてもらってくれ」
「任せろ」
一体何を任せろというのだろう。ラスティハイが手を伸ばし、グラディアスと固い握手を交わした姿に憂鬱な気分になった。
「じゃあ、次は僕が」
今度は座ったままサイチが頭を下げる。常におっとりとしているサイチは、あまり物事に動じることがない。グラディアスの突然の告白にも動じていなかった。
「サイチ・サイキュウです。僕は主に班員の援護を担当しているけど、すごくまれに現場にも出ていくよ。班長と副班長がどうしようもないときは僕に相談してね。たいてい班長と副班長でどうにかなるけど」
自己紹介を聞く限り、グラディアスの恋について言及するつもりもなければ、応援するつもりもないようだ。
もう一度座ったまま頭を下げた後、隣を見て、サイチは苦笑する。この班のただ一人の女、ユンファはまだ口を開けたままだ。
「ユンファ、自己紹介だって」
「あ……すまない」
サイチに声をかけられ、ようやく一度口を閉じ、ユンファは誤魔化すように咳払いをした。
「ユンファ・レジアーフだ。ごらんの通り女ではあるが、男勝りでな。男友達のようなものとしてつきあってもらえると嬉しい。班では主に魔法関連を担当している。サイチも魔法担当のようなものだが、私は一緒に現場に出ることが多いと思う。よろしく頼む」
ユンファもサイチと同じように、グラディアスの恋について触れないつもりのようだ。ユンファは他の二人よりも驚いたが、他人の恋路に首を突っ込んで楽しむ趣味はない。驚いてしまったのは、おそらく同性への恋であるにも関わらず、堂々と宣言したグラディアスのせいだろう。
グラディアスの態度は珍しいものだった。
同性間の恋愛は、この国では禁止されていないが、歓迎されてもいない。禁止している国もある。同性での結婚についてはもっと複雑な考え方を持っている国もあった。
当然、恋愛については個人個人の見解次第である。しかし、環境によって人は左右されるものだ。生まれた国次第、周りに居た人次第で見方は大きく変わる。
ユンファやサイチ、ラスティハイは、恋愛がどうこうというよりも、他人のことなのだから、余程何か問題がない限り関係がないという考え方だ。
だからこそラスティハイは、首を突っ込んでからかう姿勢であるし、ユンファとサイチは話を流す事にしたのだろう。
「ラスティハイ、ユンファ、サイチだな。改めてよろしくお願いする」
目を細め笑う姿は、幼き日とやはり変わりない。見ているこちらも目を細めたくなる。
部屋に入ってきてすぐに言われた事は、嘘だったのかもしれない。
「ああ、キオは三人よりも、もっとよろしくしてくれ」
思い出したように俺に顔を向け笑顔を仕舞って、言われたことにより、気分は一気に沈んだ。やはり、嘘ではなかったようだ。
俺の職場があるメイセリアリオは商業が盛んな国である。興りは一つの商業組合で、少しずつ他の個人商店、組合と手を組み、あるいは吸収して大きくなり、ついには一つの国となった。
首都には組合本部や、各商店本店、小さな商店、屋台など色々な軒が連なり、賑やか過ぎてうるさいくらいだ。朝も早くからセリの声や、商人達に足を運んでもらうために朝食を作る店からの湯気で活気付く。夜もロンディウム機国から輸入された電燈が灯され、夜を彩り寝る暇を知らない。
その国の事業の一つが俺の仕事の大本である魔道具の調査である。
魔道具とはおおよそ五百年前に神の怒りを買って湖に沈んだとされるアザラ魔法国が作った魔法の道具のことだ。魔法をこめた、もしくは魔法を行使する上で役に立つ道具である。
アザラは大変魔法の発展した国だった。現代の魔法使いたちではとても適わぬ技術を持っていたのだ。現代の魔法使いは魔道具を喉から手が出るほど欲しがり、美術品としても一級であることから、魔法使い以外も欲しがった。
アザラの魔道具は、色々なものがあった。寝物語になってしまった化け物の封印から、神の怒りに触れたといわれるほどの余計なものまで作られていたのだ。それがアザラ国内だけではなく他国の辺境や、地下、ひっそりとあるいは堂々と、そこまで隠す必要があるのかと疑うような建物まで作って研究されたり保管されたりしていた。
当然、魔道具の用途どおり使われ、その場に残されたものもある。そのため、アザラが滅んだ後、魔道具は遺跡などに取り残されることとなったのだ。
魔道具は既に滅びた国の品である。今後生産されることはない。すると、これらの各地に散らばり隠された魔道具は、それを欲した人間たちにより奪い合いをされるようになった。
そこで商売を第一とするメイセリアリオは、魔道具を売り買いしようと考えたのだ。誰よりも先に手にいれ、あるいは掠め取り、高値を付けて売り出そうという魂胆である。
かくして、魔道具調査隊、遺跡調査班ができた。
調査隊は俺たちだけではなく、他国にも似たような集団がある。俺たちはその集団と争い、時に協力し、遺跡から魔道具を持って帰った。
魔道具は誰もが使える安全なものから、そうでないものまで色々だ。それ故、魔法を使えない、詳しくない人間が無事、魔道具を持って変えるのは難しい。また隠された魔道具などは罠もあり、魔法使いだけで魔道具を持って帰ることも難しかった。
化け物を封印するために使われた魔道具は、封印を解かないようにしなければならないし、もし、解いてしまったのなら化け物と一戦交えなければならない。
だから、調査隊の求める人材の不足で、人員は常に募集されている。
そうなると腕っ節が強いだけではなく、魔法まで使えるのならば、即採用だ。
そう、班員の前でした挨拶が班長である俺にとって問題があっても、グラディアスが優秀なら何の問題もないのである。
「嫌というわけではないんだがな……」
俺は独り言を呟き、今朝から起こっていることを思い返した。
昔の憧れが職場に来て、愛の告白のようなものをし、挙句、訓練場で同僚と剣を交えている。
実力を見るためにも、親交を深めるためにも、一戦交えようというのはラスティハイの案だ。俺は審判だといわれ、ラスティハイとグラディアスが戦っている姿を見ることになった。グラディアスの告白から現実逃避するにはちょうどいい時間、二人は戦い、審判が何を言う必要もなく、戦いは終わったのだ。
俺たち以外の班員であるサイチとユンファは、先日行った遺跡について上に報告書を作ると言い部屋に残った。遺跡には先に誰かが入った跡があり、何もなかったが、他人に荒らされたにしては綺麗過ぎることも気になり、二人で話し合いたいとも聞いている。
二人の言うことに嘘はないのだが、班長と副班長が見届けてくれれば、何の問題もないだろうから汗臭い仕事はそちらの二人でやってくれという態度でもあった。
素敵な班員に恵まれたものだ。
「どうだ、合格か?」
「文句なしだ。相変わらず、すごいんだな」
グラディアスは、ラスティハイに一礼するやいなや訓練場の隅に座っていた俺の元にやって来た。
まっすぐ俺の元に歩いてきたものだから、遠くからラスティハイが腹立たしいよいしょをしてきたが、俺は聞こえないふりをする。
「いや、剣術はキオほどではない。昔と変わりない、もしくはそれ以上になっているのだろう?」
俺を見下ろしてくるグラディアスに、汗を拭くための布を渡す。
「俺のことを知っていたのか」
グラディアスはそれを受け取り、しげしげとそれを見つめた。珍しいものではなかったのだが、グラディアスは何かを確認したいようだ。畳まれたままのそれをくるくると回したあと、布の端を持ち、片手で布を広げていた。
渡した俺から見ても、おそらく渡されたグラディアスから見ても、ただの安手の布である。何の特徴もない。
見るだけ見ると何かに満足したらしく、グラディアスはそれで汗を拭い始めた。
「あの学校の同世代の連中でキオを知らないやつはいない」
グラディアスの奇妙な行動に首を捻りながらも、その言葉に昔を思い出す。
俺はあの頃、注目を浴びていたという自覚はある。だが、それ以上にグラディアスは目立っていた。何をやらせても人並み以上にでき、特に魔法は教師ですら舌を巻いたほどだ。それほどの男である。俺など気にも留めていないだろうと思っていた。暇さえあれば遠くから眺めていたグラディアスとは一度も目が合ったことがなかったこともそう思わせた。
「大体、知らなければ恋焦がれようがない」
「……あまりにもすんなり言われていて、実感がないんだが、それは本気か」
グラディアスは一瞬動きを止め、少し遅れて手から鍛錬用の木剣を落とす。愕然としたような顔をされたが、どうにも、わざとらしい演出に見えて仕方ない。
「俺が冗談で恋焦がれてるというように見えるのか」
「見た目から言えば、恋焦がれてるとも言いそうにないが」
「心外だ。俺がこんなに愛しているのが解らないのか」
やけに大きな身振りで大げさに嘆かれると、冗談にしか見えなかった。口調が淡々としているのは、元々そういう風なのだと思えば、まだ納得する。しかし、この大げさな身振りやわざとらしい仕草が、口調に見合っておらず、また首を捻ってしまう。
「解らないというか……態度で示してもいないような気がするんだが」
「先程も愛していると言った」
「言うのと、態度で示すのは違うだろう」
まるで恋人と拗れた女のような言葉だ。陳腐なことを言ってしまったと謝る前に、グラディアスが先に問うてきた。
「では、何をすれば態度で示したと言える?」
そんなことを聞くこと自体、恋の駆け引きとしてはうまくないだろう。俺は腕を組み、グラディアスの言ったことを考えるふりをして別のことを考えた。
冗談だとしても少ししつこい。何か思惑があってやっているにしても上手くないし、誰かにやらされているだろうか。
誰かにやらされているにしても、天才と名高かく、なんでもよくできるといわれていた男らしくない。それとも、演技は得意ではないのだろうか。
考えがまとまらぬまま、黙ったままでいるのも気まずい。
俺は思いついたように見せかけ、口を開く。
「下心を見せる、とか?」
それこそ冗談のつもりであった。最初から下心が透けて見えてしまっては、言い寄られているのが男でも女でも殴りたいような気分になることの方が多いからだ。
「なるほど、純粋すぎたということだな……」
淡々としていながらも、いやに納得したといった風にグラディアスが頷く。
「待て、納得するな」
「恋というのは下心が派生するものだと、ラスもいっていた。寝込みを襲うことができなくとも、唇くらいは奪っても罰は当たらないと」
「だから待て。冗談だ。あと、ティーハがなんだって?」
俺の問いに答える代わりに、グラディアスは怪訝な顔をした。
「ティーハ?」
「聞きたいのはそこなのか……」
副班長のラスティハイは名前が長い。グラディアスもそうなのだが、名前が長い人間は、愛称で呼ばれるものだ。グラディアスは自己申告までしてくれたが、本人の言うとおりにするのも癪である。だから、好きに呼ぶと言ったのだ。
それとは別に、ラスティハイも班員の前で自己紹介をした時、ラスと呼んでくれと言い、他の班員はラスと呼んでいる。
「初めて会った時に、ティーハと呼んだら、えらく気に入られて、そのままだ」
ラスティハイは懐かしいと言って、俺にラスと呼ばせようとはしなかった。
「悔しいし負けた気がするから、俺も何か呼ぶといい」
「遠慮していいか」
「だめだ。特別そうで、羨ましい」
まったく羨ましそうに見えないグラディアスに、俺はまたため息をつく。
自分自身の話題が出たことに気がついたのか、こちらをニヤニヤと笑いながら見てくるラスティハイが恨めしい。
「特別ではないから、気にするな」
「特別であっても人はそう言う」
俺がラスティハイを特別に思っていると言われるのは、鳥肌がたつ。ニヤニヤしている奴を睨みつけたあと、俺は再びグラディアスに目を向ける。
「やめてくれ、趣味を疑われる。ラスティハイという名前は、俺の出身地域では愛される名前として大人気で、それをティーハと呼ぶのは特にいいことだというだけだ」
遠くから『やったね、愛され系じゃねェか俺ときたら』と大声で笑っている奴に今すぐ始末書を再提出させたい気分になった。何でもそつなくこなす要領のいい奴なので、提出された始末書もおざなりな態度のわりに完璧だ。そんなことをしてもただの八つ当たりにしかならない。
「でも、ラスはキオに特別そう呼ばせているのだろう? それなら、特別は変わりない」
それは俺の特別というよりも、ラスティハイの特別だ。やはり遠くから『やっだァ、アイシテル、ルオ』とからかってくる奴がうるさい。いったいどうすれば奴は黙るのだろう。目の前の問題より面倒な奴であるのだが、気を逸らすには役に立つ。
「それにルオというのも、珍しい。特別な感じがある」
「それも特別ではないんだが……班員は皆、そう呼ぶ。むしろキオの方が珍しい」
また少しの間固まった後、グラディアスが目を見開いた。それはやはり、わざとらしく見える。
「ならば、俺が特別だな。よし、結婚しよう」
「結論が飛んでいったな。断る」
「……これでいけると聞いたのに」
グラディアスが誰にどう相談したかは知らない。知らないが、相談相手を間違えていると俺は思う。
布を握りしめて、少し不服そうな顔をするのは、今のところ一番それらしい表情に見えた。
「そんなに特別がいいのなら、ラースと呼ぼうか」
俺の出身地は、エンオーヴェ蛇座国の辺境にある。そこは、こちらと愛称の付け方が違う。俺が愛称を考えると、大抵、グラディアスの言うところの特別になってしまうのだ。
だから、特別な気持ちもなく、軽く言ったことだった。
しかし、グラディアスにとってそれは、本当に特別な事だったのかもしれない。
「そん……、なん、え、あ……お、うん……」
なんとも歯切れの悪い返事をした上に、グラディアスは顔を赤くした。
先程まで愛しているだの、結婚だのと淡々と言っていた男と同一人物のように思えない姿だ。
「間違い……違う、間違いではない、ないが……すまない、ちょっと待ってくれ」
顔を布で隠したグラディアスを、俺は見上げたまま待った。相変わらずうるさい奴もいたが、今度はグラディアスから気を逸らすことなく待つ。
「その……よろしく頼む」
ついには顔を俺から背けてぽつりと呟いた。
俺はその様子を穴が開くほど見て、思う。これは、誰の差し金でもなく、本当に好かれているのかもしれない。
「なァ、そろそろ俺を無視するのやめようぜェ、若人たち」
俺たちの様子を見るのもからかうのも飽きたのか、ようやくこちらに近づいてきたラスティハイが木剣で肩を軽く叩きながら、呆れたような笑みを顔に浮かべた。
「無視? 何か言っていたのか」
ラスティハイが近寄って来るなり、グラディアスは後ろに振り向く。その際に、ほんの少し安堵の表情が見えた。助かったと思ったのかもしれない。
「ものすごく言ってたよなァ、ルオ」
ラスティハイが来たことによって助かったと安堵したのは、グラディアスだけではなかった。どうしていいか解らない俺にとっても、それは助けである。遠くでうるさくしていてくれたことも、俺にとっては助けであった。
「そうだな、相手にすると付け上がりそうなことを言っていたな」
「やだァ、班長きっびしィ。こんな愛され系の俺に向かって」
ラスティハイは、その名前が愛される名前である理由まで知っているはずだ。確認するように俺は口を開く。
「愛されてるのは、境目に座る蛇であって、お前ではないからな……?」
「でも、その境目に座る蛇に愛されてるのがラスティハイなんだろ。ほら、愛され系じゃねェか」
確かに、俺の出身地域のみならず、エンオーヴェでは愛されている名前である。
境目に座る蛇というのは、エンオーヴェの歴史を元にした御伽噺に登場する蛇だ。その蛇は国境に座りエンオーヴェを大国の脅威から救ったのだという。
その蛇が境目に座っていた理由は諸説あるのだが、一番人気がある理由が愛した竜の目覚めを待つために座っていたというものだ。
その竜の名前がラスティハイである。
「その境目に座る蛇というのは、竜王の伴侶のことか」
「竜王……そうか、ラースの故郷はリンデガルだったな」
ラースと呼ぶだけで一瞬、グラディアスは動きを止めた。だが、顔をゆっくり横に向けることで再び動き出す。
「そうだ。……それで、リンデガルにも似たような話がある」
「竜の嫁取りだっけェ? エンオーヴェと違って、最終的に竜が待つんだろ」
エンオーヴェの隣にあるリンデガル竜王国は竜を王とする国だ。竜は存在しているが、数は少なく、その上、王は存在しているが眠りについているという。竜が眠りについている間に王を勤める人間が幾度も代わるくらい、竜王は眠ったままだ。すでにその竜王も御伽噺のような存在である。
竜王は幾分自由な気性であったそうで、竜王にまつわる話は国中、どこに行っても残っているらしい。そしてその話の一部は寝物語として子供たちに伝わっている。
その一つに、竜王が嫁をとる話があるのだ。恋物語として紆余曲折あり、嫁が帰ってくるまで待つという話だったと思う。
「ん。だが、少しその話はおかしい」
「もしかして、話、ちげェ?」
「話自体は間違っていない。嫁取り自体がおかしい」
エンオーヴェの国の人間としては、嫁取りどころか竜王の話自体がおかしいと言いたい話だ。エンオーヴェで蛇は御伽噺で、リンデガルで竜王は眠っているといえど現存しているという話だ。その竜王の伴侶とされているのが御伽噺の蛇ときては、食い違いどころではない。
どちらの国の人間でもないラスティハイはニヤニヤと笑い、グラディアスに続きを促しす。
しかし、続きはグラディアスから聞くことは出来なかった。
「班長! 遺跡の再調査に行くことなったぞ!」
訓練場の扉を乱暴に開け、勢いよくユンファが入ってきたからである。
遺跡の再調査はよくあることである。
アザラは各地に建物を隠すような国だ。当然のように建物内でも部屋が隠されていることがある。
調査をする側も、隠した側に負けじと魔法まで駆使して建物内を探索した。しかし隠した側がこちらより魔法技術が上である。隠された部屋が遺跡発見よりも随分後になることが多々あった。
今回、再調査することになった遺跡は、他人が入った形跡がある。だが、そのわりに荒らされていなかった。これは、先に入った人間が隠し部屋を見つけ、その部屋から出られなくなった可能性がある。上はそう判断したらしい。
「行きたくねェ……」
遺跡に行く前に呟いたラスティハイの気持ちもよく解る。
隠し部屋から出られなくなった可能性があるということは、何らかの仕掛けがその部屋にあるということだ。俺たちも出られなくなる可能性もあるし、その前に高確率でいつ閉じ込められたか解らない人間と会うことになる。
その人間が、いつ閉じ込められたか解らない以上、生きているか死んでいるかも解らない。生きており、弱っているのなら救出すれば済むことだ。もし、元気が有り余っていたり、閉じ込められたということで病んでしまった場合、悪くすればこちらが襲われる。死んでいる場合は死ぬようなことがあったということであり、こちらも死んでしまう可能性が高くなってしまう。
遺跡調査はどういった状態でも、危険が付きまとう仕事だ。調査に向かう人間としては、できるだけ危ないことは避けたい。
「初仕事が隠し部屋探しとは……見つからないといいな」
遺跡の入り口でグラディアスの背中を軽く叩いたユンファの気持ちも、これもまたよく解る。
学術的な面や、魔道具を探すという目的からすれば、隠し部屋は見つなければならなかった。
けれど、調査班にいる人間が熱心な研究者ばかりというわけではない。遺跡を荒らすような人間は一儲けしようという考えであるし、俺の班の人間は、滅びた国の文化や魔法の発展にも興味がなかった。
俺たちは強いて言うなら、一儲けしようという人間に考えは似ているだろう。
魔道具を手に入れることで、給料を貰い、あわよくば臨時収入を得たい。それが、俺たちである。この仕事を選んだ理由は各々色々あるが、現在はそれが目的だ。
「研究施設じゃあなァ……鍵なんてみつからねェよ」
そうして給料のため、あわよくば臨時収入のために遺跡に入ってしばらくした頃に、再調査にやる気を見せなかったラスティハイがぼやいていた。
それを思い出したのだろう。遺跡内で静かに魔法を使うに徹していたグラディアスが口を開く。
「ラスが言っていた鍵とは隊長どのが言っていた、使い魔を従わせることができる鍵だろうか」
その言葉によりグラディアスが調査班に加わったばかりで、俺からは何の説明もしていないことに気がついた。
俺は薄暗い元研究施設の廊下の壁に触れていた手を止める。
「隊長から詳しい話は聞いていると思うが……そうだな、少しだけ説明しようか」
同じ魔道具調査隊の中でも、遺跡調査班は複数あった。調査班は、年がら年中新しい発見を探している班から、あるといわれている魔道具を探す班まで様々だ。俺たちはその、あるといわれている魔道具を探す班である。
「俺たちの班は、魔獣を従わせることができるという魔道具を探しているということは隊長から聞いたよな?」
「ああ、それが鍵だというのも聞いたし、その鍵を探すのを手伝うのが俺の仕事とも聞いた」
「その通り。今回の再調査対象は研究施設だという話も、此処に来る前にしたよな」
「聞いた」
「隠し部屋の発見、魔道具、もしくは何かしらの研究資料の回収が目的というのも話したな」
グラディアスを見ると、グラディアスが大きく頷いた。
俺も同じく頷くと、再び手を動かし、何か仕掛けがないか探す。
「此処に最初に調査にやってきたときの目的は?」
「聞いていない」
何の変哲もない古びた壁を、なおも慎重に触りながらゆっくりと施設の奥へと向かう。
施設には幾つか小さな部屋があり、最奥に大きな研究室がある。その最奥の研究室を調査する前に、手分けして隠し部屋を探していた。俺は魔法が使えないため、いつも補助に魔法を使える班員が一緒にいるのだが、今回は初めての遺跡調査ということもあり、グラディアスが俺の後ろから魔法を使いながら着いて来てくれている。
遺跡の入り口で手分けして探そうと班員と別れた後、二人っきりになった。幼いころは何か言う前に手を伸ばしたし、学生時代は遠くから見ているだけだったのだ。元々、他人と話すときは話題に乗るほうである。自分から元憧れの人に何と話しかけていいか、まだ少し迷うものがあった。まして、グラディアスがもしかしたら本当に俺に好意を持っていてくれているのなら尚更だ。そうなると、黙々と仕事をするしかない。
不甲斐ない話だが、グラディアスが話しかけてくれなければ、まだ黙って壁の傷を探っていただろう。
「最初の目的は、その鍵だ。鍵がこの遺跡にある可能性が高いと予測し、遺跡が見つかってすぐに俺たちが調査に入った」
「遺跡が見つかったときは他人が中に入っていたということは解っていなかったんだろう? 何故、鍵があると思った?」
グラディアスの言うとおりだ。
本来ならば、何があるかは目録でもない限り解らない。しかし、それがあるのならば話は別だ。
「最近見つかった遺跡の一つに、このあたりの研究施設や魔道具保管庫などに保管されている魔道具一覧表が出てきた。どこに何の建物があるかは記されていなかったんだが、その一覧表の中にあったのが、魔獣を従わせる鍵だ。しかもそれが、王鍵(おうけん)だ」
「王鍵……」
「そう。魔獣たちの王をも従わせる魔道具だという話だ」
王鍵はその特性から、実在を疑われている魔道具である。魔獣の王というのは、ほとんどが御伽噺や神話の存在であり、誰もその姿を見たことがないからだ。
「本当にあるのか」
「さぁな。それを探し出すのが俺たちの仕事だ……だが、一覧表によると研究施設には鍵がない」
「だから、ラスは嫌そうだったのか」
「鍵が見つからないと臨時収入は貰えない上に、成果がないと収入は減るばかりだからな……」
それを思うと、この世の無常さを噛み締めるばかりである。
「だが、ユンファは見つからなければいいと……」
「目的のものもないのに、危険を冒したくないというだけだ。せめて、何か研究資料でも見つかればいいんだが、この研究施設は、不自然なほど何もない」
「何もか」
「何もだ」
ラスティハイやユンファが調べてくれている部屋も、研究員の部屋のようだったと記憶していた。それが幾つかあり、会議室のようなものが一つだけある。規模の小さい研究施設だったらしい。
「一番重要そうな奥の研究室ですら、研究に使っていたであろう機材しか見当たらなかった」
「それは残念だったな」
ようやく廊下の終わりが見え、俺はグラディアスに振り返った。
「壁には何も仕込まれていなかったが、魔法探知はどうだ」
「廊下には何もない」
「解った、ありがとう」
「そして、こんな薄暗い所で足場もいいとはいえないというのに、俺とキオの間にも美味しい出来事がなかった」
「それはなくてもいいというか、何を期待しているんだお前は……」
足場はいいとは言えないが、そう悪くもない。敷き詰められていた陶器が一部剥がれてしまい、破片になったりしては居るものの綺麗なものだ。風化によって少し落ちてしまった土壁も邪魔ではあるが、避けるのは難しくない。
「こういうちょっと気になる同性と一緒にいるときは、そういう、美味しい出来事があるものだと教わった」
「誰に教わったんだそんな余計なこと」
「ラス」
ラスティハイといつの間にそんなに仲良くなったのだろう。
訓練場で汗を流し合い、交友を深めたとは思えないのは、俺が見ていただけだからだろうか。
グラディアスの戯言を聞きながら、俺は研究室の前まで行くと、ラスティハイとユンファを待った。此処で集まり、研究室は全員で探索することになっていたのだ。
「ティーハの言うことは信じていいことはあまりないぞ」
「それは、本当か」
俺は自らの指を一本一本数え、途中でその仕草をやめた。両手では足りないほど、ラスティハイの言うことを信じてろくでもないことにあっている。
「本当だ」
「……俺は、相談相手を間違えた、ということだろうか……」
「おそらく」
薄暗い廊下にグラディアスのうめき声が響いた。
普段のラスティハイは気に入った人間をからかうことを楽しみにしている。要領もよく頭もいいので、いかにも本当そうな嘘を信じ込ませたり、本当のことを嘘のように偽ったりすることがうまく、出会った当初はよく騙されたものだ。
「今度から人を選べばいい話だ」
それでその話を終わらせると、ちょうど陶器の破片を踏みしめる音が廊下の先から聞こえ、その角から俺たちの電燈以外の明かりが漏れる。音と明かりが近づくと、それはラスティハイとユンファだった。
「なァ、お前ら、俺の話とかしてた?」
「していたが……どうした、その格好」
俺たちの前に現れたラスティハイは泥と埃で薄汚れており、白金の髪も何かの破片付けていて、男前が台無しである。
「すげェ、くしゃみしてこけちまった」
「普段の行いが悪いからだな」
「その程度で何かを左右する慣習は俺には通用しねェな」
普段の行いが悪いという話がその程度ならば、くしゃみを噂話のせいだというのも、その程度ではないのだろうか。