書きなぐり 俺のそばに犬はいない。1 忍者ブログ

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もちろん続きますというか、犬サイドも打ち込みたいので。

主人×犬

本文は続きからどうぞ。











国道で寝転がるバカはいない。けれど、歩道で寝転がる酔っ払いはたまにいる。
そしてゴミかなと思うような汚れた犬を路地裏で拾うことも、あるかもしれない。
しかもそれが、家に連れて帰って洗ったら、どこのサラブレッドかな?という毛並みと面構えを持っていることだってあるし、どんな状態であっても可愛くて仕方ないことだってあるだろう。
甲斐甲斐しく世話を焼き可愛がる友人を見ていた俺は、その時思ったものだ。
あれほど懐いて可愛いのならば、もし、そんな偶然が俺の目の前にあったら、連れて帰ってみよう。
それより十余年たつ。
俺は何故か路地裏にいた。
頭はくらくらするし、血が固まって顔はひきつるし、どこが痛いかもよくわからないが眠たい気もして、いっそ意識を失いたい。
そう、ゴミみたいに転がってるのは俺だった。
友人のように拾ったわけではないが、可愛いがっていた犬に手を噛まれ叩き出されたのだ。面食いの俺らしい、綺麗な面した犬は俺を叩き出すと新しい主人に尻尾をふった。新しい主人は、俺に追っ手をかけ、俺は逃げながらあたり散らし、今に至る。
ボロボロになった俺を拾う人間はいないし、この状況で拾うものもないはずだった。
しかし、こういった時に限って転がってくるものだ。
そいつは、俺の目の前で崩れ落ちた。
汚い狭いだけが取り柄の湿気たそこは、身を隠すにはちょうど良かったと思う。そうでなければ、俺もここには居なかった。
そいつにとっては先客なんていないはずだったし、俺からしてみても俺以外の客がいるはずなかったのだ。
そいつは俺を見た瞬間、身体に力を入れようとしたに違いない。身体が震え、這い蹲る場所を変えた。
暗がりであったし、何より俺は意識を失いたいほどの状態だ。そいつがどんな奴かなんてわからない。
だが、昔、友人が連れて帰った犬のことを、どうしてだか思い出す。
俺は犬で失敗したばかりだというのに、意識を失う前に決めた。連れて帰る場所もないし、そんな余裕もないくせに、よく心にきめたものだ。


女運や男運みたいなもんで、俺は犬運というものがない。
そうでなければ、噛みつかれながらも拾ってなんとか可愛がっていたやつに逃げられることなどないはずだ。いや、もしかしたら、噛みつかれ嫌がり続けていただけなのかもしれない。
俺の犬は、俺と意思の疎通が難しかった。どこの国だかよくわからない言葉を時々呟いていたし、俺に喋りかけようとも、返事しようともしていなかったように思う。
まったく懐かない犬は、姿形のせいもあり、かなり可愛げがなかった。
鋭い目つきにいいがたい、整えればそれなりどころか俺の前から女が消える色男だ。俺の僻みもはいって、本当に可愛くない犬だった。
それでも可愛がるのは、いつか友人のように懐いてもらえると思っていたからだ。
しかし、一度ならず二度までも逃げられた。
こうして逃げられて、俺が懐いてもらえないのは可愛がり方に原因があるのかもしれないとやっと思い至る。
腹に刺さったナイフをそのままに、また路地裏に座り込む。
やはり汚くて狭いそこで、そろそろ疲れたなと思う。
行き場もなく、帰る場所もなく、ただ追われるだけの日々だった。
連れ回した犬も誰かから逃げ続け、たまに口を開けば『カエリタイ』と呟くばかりだ。同じことばかり呟くから覚えてしまったが、何を言っているか尋ねることもないまま月日が過ぎた。
そうして腹にナイフをさして、今日が晴れていることくらいしか良い点がないと嘆いている。ある意味出来過ぎた最後だなと思った。
今回は、腹ばかりが痛くて意識が朦朧とする。このまま意識を手放してしまえば、情けないやら虚しいやら寂しいやらよくわからないもやもやとした気分も消えて無くなるのかも知れない。
なんとも感傷的でロマンチックだ。
俺は朦朧とする意識のなか、腹の辺りを探る。熱くて痛くて仕方ないのに、寒い気もした。
これから俺は、もしかしたら死んでしまうのかもしれない。考えることができるだけ、まだ余裕がある気もする。しかし、どうにも寒い。いつも何歩か後にいた犬がいないせいだろうか。あれほどの距離があれば、温度など変わりようがない。センチメンタルが過ぎるというものだ。
汚くて狭くて薄暗いだけが存在意義みたいな路地裏で、小さくなり暖をとることさえできない。動くことが億劫だ。こうなると犬がここにいないのは、暖をとるにも不便であるような気さえしてきた。
ただでさえ犬がいないだけで、いないという事実確認に忙しい。それだというのに、俺はだんだん考えたり思い出したりするのも面倒になってきた。
目を開いていても汚い建物の壁しか見えないが、閉じた途端にここがどこかもわからなくなりそうだ。その瞼を上げるだけでも力がいる。ろくろく壁すら見えないというのに、俺はぼんやりした視界にやはり、犬の存在を確認していた。
いたって、振り返らなければ見つけられない犬だ。いつも俺の後ろにいて、どんなに離れても、嫌がっても振り返ればいたのである。犬にも行き場がなく、頼りが路地裏に転がるしか能のない俺しかいなかったからかもしれない。
今は、振り返らなくてもわかる。俺の背後には壁しかない。そこに背を預けているのだから当たり前だ。
もういいのではないだろうか。小さなナイフに削られ続けた生命力も、このままでは尽きるだろう。俺が目を開けていても気を張っていても、遅いか早いかの違いだ。
どこにも犬の姿がないのなら、そうだ、もういいだろう。
瞼の重さが増した気がした。
それでも閉じなかったのは、何故だろうか。
俺が抵抗をやめかけた頃、一人の足音が駆けてきた。追っ手に見つかってしまったのだろう。俺は漸く目を閉じた。
しかし、そばに来たやつは俺の知る言葉ではなく、理解できない音が吐き出す。
懐かしい声だ。とうとう幻聴が聞こえ始めたか。
俺は自嘲し、意識を手放した。


目がさめる。
死後の世界とやらくらい、薄暗くなくてもいいのではないだろうか。
こぼれる光と嫌な匂い、ビニール袋のようなガサガサと擦れる音、身体自体も重たいが、何かがのって重たい。
寒さはない。暖かい気もしたが、とにかく重たく、悪夢が見れそうだ。
手をつくと地面にしてはいやに柔らかく、砂や埃ではなくビニール袋のような感触と水気を感じる。俺はそれでも手をついて上半身を起こす。
目で確かめた現状は、死後の世界とやらがこれでは世知辛すぎるだろうと思われた。
俺はゴミ袋の中に埋もれていたのだ。
汚いし臭いし重いし水気がある。生ゴミだ。確かに俺は生き物である。埋葬されず、心ない処置をされれば、そこにいることもあるかもしれない。
こんなゴミ捨て場のような場所が、俺の死後行かなければならない場所ならば、俺はよほどのクソったれだ。否定しようがない事実だが、目をつむりたい。
俺はゴミ袋から抜け出し、もう一度辺りを見渡した。まだ、ゴミ収集車は来ていない。この辺り全体が暗く、俺がとらえた光は街灯のものだった。
よく見ると知らなくはない景色だ。このごみ捨て場からしばらく歩くと、俺が転がった路地裏がある。化けて出てしまった可能性がよぎった。それにしては、身体が重い。
しかし、死後のことなど死んだ経験がないのだ。わかりようがない。
「霊体って……やつは、重てぇ、の……かな」
やたら出しにくい声は夢と同じような感覚なのだろう。
ため息をつき、俺は確かめるためだけに歩く。
もちろん、幽霊についてくる犬などいない。確認するまでもなかった。
俺は俺が死んだのだと確認するために、俺の死体を探したかったのだ。
トボトボゆっくり歩いてたどりついた路地裏には、でかいシミと、シミの一部に沈んだオモチャみたいなナイフしかなかった。
誰かが死体を処理したのだろうか。
俺はナイフが刺さっていた辺りをさする。ナイフは当然刺さっていなかったが、痛みもない。
服の穴に指を突っ込み腹を確認する。ナイフが開けた穴もなかった。
中途半端な再生をするものだな、霊体というものは。そう思い、やることもないので、ごみ捨て場の方へと戻る。
街はごみ捨て場からしばらく走った場所が一番賑やかだ。なんとなく、中心地に向かおうとしていた。霊体なら誰にも見えないだろうという軽い気持ちからだ。
ごみ捨て場の前まで来ると、ゴミは収集されている最中だった。
「兄ちゃん大丈夫か、腹ンとこ!」
「……大丈夫ですが」
「そうかい。けど顔色悪ィし、さっさと帰って寝な!」
「はあ」
収集車のゴミを潰し混ぜる音と、エンジン音のなか、俺に気づいた作業員が肩を叩いて笑う。笑顔がまだ見えない陽の光くらい眩しい。
もしかして、俺はまだ死んでいないのだろうか。
「じゃあな、兄ちゃん!」
また俺の肩を叩いていなくなった作業員を見送り、俺は脈を確かめる。親指に一定間隔で伝わってくる感触に、俺は頷く。
「生きてるな」
確認ついでに後ろに振り返り、当たり前の光景に落胆する。
わかりきっていたことだ。
犬の姿はない。
生きているのならば、また、逃げねばならないだろう。
犬が後ろについて来なくても、そう、逃げなければならない。
俺は回れ右して、明るくなり始めた場所から背を向けるように、薄暗い道に戻る。
路地裏に来ても、もう、犬は落ちていなかった。
探したところで、俺の後ろについて来てくれる犬はいない。
そう、いないのだ。



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