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一年以上前が最後とか。
まさかの続きです。
ちょっと気分転換に。
なんだか文学少年っぽい図書委員×博識会長
本の読まなさもそうですけど、引き出しのなさに参りました。
インターネットって便利。
本文は続きからどうぞ。
「『恥の多い生涯を送って来ました』」
昼休みに貸し出しカウンターで本を読んでいると、会長の声が間近に聞こえた。
カウンターの机に手をつき、俺の読む本のタイトルを見ながら呟いたのだろう。顔を上げても視線が合うことはなかった。
俺は本のページを戻し、口を開く。
「『自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです』……見当つかないっすか?」
会長は緩く首を振り、俺の持った本の頁を幾つかめくった。
「『しかし、嗚呼!学校! 自分は、そこでは、尊敬されかけていたのです』」
「……既に尊敬されてますし。『尊敬されるという観念もまた、甚だ自分を、おびえさせました』」
人を騙していて、それが明るみに出て恥かしいと思うようなことが会長にもあるのだろうか。
俺が文字に少し目を走らせると、興味が失せたのか、会長の手が動いた。
俺は会長の手が本から離れていくのを、目で追う。
「……この本、お勧めされたとき、松見怒ってなかったか?」
かりていた本をカウンターに置いて、本を触る様子は、本が好きなようにしか見えない。
「……いや、怒ってはねぇっすよ。怒っては」
嫉妬して、不機嫌になって、さらには焦ってしまったから、追い出したかったとは言えなかった。
「次、聞きに来たんすよね」
「……そのつもりだったが」
会長は俺が開いたまま持っていた本を指で抓み、持ち上げる。たいしてしっかりもっていたわけではない俺の手から、本が簡単に逃げて行った。
「これをかりていく」
本を片手で閉じる姿が様になる。
会長は憎らしいほど男前だ。
見惚れてしまったあと、俺ははっとして、何事もなかったように振舞った。
「い、いんすか、読んだことあるんすよね?」
会長は迷いなく頁をめくっていたのだから、そうなのだろうと思う。
しかし、会長は何か満足げに笑うばかりだ。
「いい。読みたくなったんだから」
「そっすか」
会長は手に持った本を俺に渡そうとして、本を裏に返し、首を傾げた。
本には貸し出しに必要なバーコードは着いていなかったのだ。
「なぁ、これ」
「俺の私物なんで、そのまま持ってってくださいっす」
俺はカウンターの返却ボックスの中から、適当に一冊取り出すと、本を後ろから開く。あとがきに載っている本の些細な情報が知りたかったのだ。
「……やっぱり怒ってないか?」
「いえ、怒ってはねぇっすよ、怒っては」
いつもなら、人と話をしているときに本に意識を向けるようなことはない。
会長もそれには気がついていたようで、俺があまり会長を歓迎していないようにみえたのだろう。
俺は、内心、会長が図書室に来てくれたことに喜んでいたし、こうして特別構ってくれているような状態にあることも、踊りだしてもいいくらいに思っていた。
しかし、同時に、こうも思っていたのだ。また、会長は誰かのために本をかりに来たのかもしれない。会長にとって俺は便利な検索機でしかないのだ。俺に会いに来ているのではない。
俺の思うとおりだった。
会長は本をかりに来ているのであって、俺に会いたいわけではないし、図書室とはそういう場所である。そして、本の出し入れをしている図書委員長に、本が何処にあるか尋ねることもなんらおかしなことではない。
俺の期待が、おかしいのだ。
嫉妬をしている、おかしな期待を勝手にしている、それに気がついて、俺のほうこそ、恥かしい。
それこそ、甚だ俺を、おびえさせた。
「じゃあ、不機嫌なのか?」
俺は本をカウンターに置き、顔を手の平に埋める。
「……俺は、恥の多い人生送ってきた方っすから」
「意味がわからない。あと、十数年で人生がどうとか、人間五十年だろ」
今日はいつになくおしゃべりだなと思い、そのまま俺は笑う。
「今は八十以上生きるっすよ」
「それでも、夢幻みたいなもんだろ。十数年で恥が多いだとか、言ってる場合か」
俺は手を顔から離し、会長を見上げた。
呆れた様子も、男前だ。
「死のうは一定ってやつすかねぇ」
「……何か思い切ったことでもやりたいのか?」
「夢幻に恋したようなもんすよ」
会長があまりに怪訝な顔をするものだから、俺の口からポロリと言葉が零れていった。
会長が再び何か言う前に、俺は会長から目を静かに逸らす。
「つきが」
「……ま」
「月が不実で、太陽が恋人なら、月なんて太陽追い掛け回して何が楽しいだって話すかね。いっそのこと狼にでも食われればいい」
俺はそういって、また逃げる。
返却用の本を数冊手に持って、会長が追ってこないことをいいことに図書室の奥へと急いだ。
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