書きなぐり High&Low3 忍者ブログ

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昔の分です。
いずれ1のようになおします。

本文はつづきからどうぞ。





焔術師との約束でヒントを出すといった俺は、何故かあの時手を組んだ連中全員にヒントを出すことになっていた。
「こんな普通なのに何の興味があるっつーんだ連中は」
良平の背中にくっついて笑った男の名前は青磁(せいじ)といって、風紀委員長である。その風紀委員長を背中につけたまま良平が一言呟いた。
「ハウス」
青磁は一瞬泣きそうな顔をして、良平にぎゅっと抱きつく。
「いやだ」
「いやだじゃねぇーよ。おまえがここにいるとオレらが明日から学校で面倒だろうが」
青磁は風紀委員長だ。
たとえ、良平に懐いていても、良平にベタボレべったりなワンコでも、風紀委員長なのだ。
こんな姿を見られた日には良平の机は落書き大会開催地になるし、俺のロッカーは中にあったすべての中身が亡きものになっていることだろう。
明らかにしょんぼりとするワンコに甘い俺は、そうなるとわかっていてもついついこう言ってしまう。
「まぁ、気ぃ遣って来てくれとるし、平気やろ」
ワンコの表情が一瞬にして明るくなる。
俺を普通普通というわりに、ワンコ青磁は俺に懐いてくれているので、許可をするとうれしそうに尻尾をふるのだ。
しかし、飼い主良平は舌打ちをする。
「人がいるとこで遭遇とかしたら出禁だからな」
主人には絶対服従な青磁は、舌打ちにしょんぼりとした後、続いた言葉に何度も何度も頷いた。
「癒されるわぁ」
そんなことを言いつつ、俺は夜間のフィールド使用申請を携帯端末より行った。
使用許可はすぐにおりた。
「アヤトリはこうへんのやんな?」
「おう。知ってるし今会ってっし」
アヤトリこと青磁は頷いて、良平の肩に頬をのせた。
懐いているというよりイチャイチャしているように見えるそれを眺めつつ、さらに携帯端末をいじる。
どのフィールドに何人集まるかを連絡するためだ。
屋内のフィールド…会議室といってもいいのだが、屋内での戦闘行為があった場合を想定した演習のために作られたフィールドである。そのため、会議につかわれたりはするものの、やたら凹みや汚れがあるそこに、双焔の二人と暗殺者、早撃ち、そして俺が集まることになった。
時間は…一時間後。
「ヒントいうてもなぁ」
携帯端末をいじりつつも、眉間に皺を寄せる。
どのようなヒントを与えるべきか悩むところだ。
「容姿系は?」
ワンコの好きにさせたまま友人は首を傾げた。
「メイプルブラウンヘアのフツメンやでーとか?」
「微妙」
首を振る良平に、俺は他の特徴を考える。
普通よりはちょっと背が高いけれど背の順に並べば中程の後半というだけ。
メイプルブラウンの髪は赤みがかった茶色で一般的。
目の色は琥珀色で一般的と言うほどではないが珍しくもない。
普段の格好は銃を武器とする連中の三分の一と同じようなものだ。
最大の特徴といえばおっとりめの口調だが、コレを言えば一発でばれてしまう。
「好みのハナシでもしてくるわぁ」
「あー。わかりそうでわからない、いいヒントだなそれ」
好きな人は、生徒会長だ。
容姿端麗、成績優秀、俺様で自信家。天才肌でプライドが高く、そのくせ少し可愛らしいところがある。そんな人が、好きだ。
好きな食物はトロロで、麦飯にトロロと卵と醤油、鰹節をかけたものを混ぜて頂くのが大好きだ。
好きな授業科目は数学。戦闘系は一点狙撃。
それらをぼかして整理してヒントとした。
「わかるような、わからないような」
そういったのは焔術師。
早撃ちは暫く俺を見つめた後、俺の耳元で小さく言った。
「正解わかった気がするんだけどォ」
ヒントを出しすぎたようである。
しかし、早撃ちとは仲がいいほうだ。余り気にしていない。
「今度変装前姿で挨拶に行くよん」
とも言った。
「こっそりしろよ」
そう返した後、あとの二人の様子を見た。
暗殺者は目を細め考え込むだけであったし、双剣は焔術師と予想を並べ立てるだけだった。
どの予想も外れているようなのでほっとしていると、暗殺者が何か呟いた。
何を言ったかはわからなかったが、何か寒気が走った。
「正解は教えられないけど、解っても秘密にしておいてくれ」
正体が解ったところで、夢を壊すばかりか、付け狙われて疲れる。
もしそうではなく、崇められてもどうかと思う。
俺がそう言ったことに対し、早撃ちだけが面白そうに笑った。
本当に反則狙撃が俺であるということが解っているらしい。
挨拶に来ると言っているが、わかりにくい感じでお願いしたい限りだ。
「あ、そー思えばぁ、アレは?求愛はどうなってんのぉ?」
戦闘前の話題をここに持ってくるあたり、早撃ちの挨拶に来るという行動が心配になってくる。
だが、この際だから、言ってしまったほうがいいのかもしれない。
「アレは、求愛じゃなくて偶然だといったろう?……暗殺者も、あの時は悪かったな」
そういうと、暗殺者は一瞬ぴたっと動きを止めた後、俺を正面から見据えた。
「…訂正も偶然も受け付けない」
それは、求愛ではないと最初から解っているという答えなのか、なんであっても求愛と受け取るということなのか。
「それってぇーどういう意味ィ?」
ニヤニヤと嬉しそうな早撃ちは恐らく勘のいい人間だ。
傍にいる双焔の二人も興味津々にこちらの様子を伺っている。
「求愛として受け取っているという意味だ」
口笛を吹き、楽しそうに笑う早撃ち。
求愛として受け取られても、こちらとしては探す意志がない。求愛成立にはならないのではないだろうかと考えている間にも、早撃ちは余計なことをいう。
「それ、好きってことぉ?」
こんなところで気持ちを暴露されてはとぼけることもできない。
「いや、ものにしたいだけだ」
「はっげしいな、暗殺者」
双剣は暗殺者を激しいと称したが、好きでも嫌いでもないけれどほしいから手を出すと言われたように聞こえた。
物欲が動いたからといった感覚で言われた気がした。
だが、なんにせよ欲しがられているのは確かだ。
「…俺は探す気ゼロなんだが」
「俺が、見つけだして求愛にする」
否定的なことを言ったら、見つけだすと言われた。
寒気はもしかしてこれか?
暗殺者といえば、音もなく素早く敵を倒すコトが有名であるが、実は頭のいい人でもある。
自分自身を過信せず、地の利を考え行動し、相手の出方、まわりの状況も考えられる。
超人と称したことがあるが、そうできるようになるまで並々ならぬ努力がいったはずだ。
いつも不機嫌そうな顔はしているものの、話をしてみると意外と話せる。
尊敬すらできてしまうような人物である。
その人物に欲されるということは、自慢してもいいことである気もするが、気分は重い。
戦闘の授業中に追い掛けられるとか、呼び出しされるとか、見境無く探されるとかそういうことはなかった。
それが、もし、生徒会長だったら俺も両手をあげて喜べる。
通り名がついている人間は役員になっている人間が多いと聞く。
もちろん俺のようなケースも少なくないが、役員になるには条件があるため、ある程度は変装後ランキングと被るらしい。
役員は、成績面が優秀であることが条件だ。
座学もそうだが、戦闘成績もそれなりでなければならない。
変装前ランキングでは容姿と戦闘以外の成績が重視されてランクインするのだが、ランクインした以上、プライドの高い奴は戦闘でもランクインしたいと思うらしい。
特にこの学校に入っている以上、才能を一度は認められた人間であるので、プライドもそれなりにあるはずなのだ。
だから、顔が良く、成績優秀な人間が役員には多く存在する。
つまり、役員は秀才集団なのだ。
成績優秀だったから選ばれた役員でも、学校の顔になるのだから、それなりに身綺麗にするし、かっこだってつけるので、『まずい』と思われる奴はいない。
だから、暗殺者が生徒会長である可能性もなくはない。けれど、それは役員全員にいえることであるし、俺みたいなケースである可能性もある。
つまり、戦闘を専攻しているということ以外で参考になることは何一つないわけだ。
ここで、悲しい事実がある。
生徒会長は、魔法科だ。
つまり、暗殺者である可能性はゼロに等しい。
何故ゼロといってしまわないのか。
それは俺の希望的観測と、魔法と武器のダブル専攻をやってのける人間もいるからだ。
少し扱いが違うが、良平もその類である。 表向きには武器専攻であるが魔法専攻の授業もうけている。
ただ、少ない。
やはり可能性はゼロに等しい。
それを思うと、あの優秀な暗殺者に、もしかしたら正体を暴かれてしまうかもしれないと思うのは、心臓に悪く、また、ものにすると言われては、こちらも抵抗したくなるものだ。
「はぁ…」
ため息も出てしまう。
「悩ましい限りだねぇ」
なんて、ニヤニヤしている早撃ちをちらっと見てもため息が出る。
ヒントを出したその翌日。
早撃ちの名にふさわしい素早さで、早撃ちは挨拶に来た。
ニヤリとあげた口角は早撃ちを思わせる。
風紀副委員長、佐々良(ささら)その人だった。
風紀違反だといって、朝から風紀委員室に連れていかれた日にはため息も呼吸の代わりに出てしまう。
ちなみに、風紀委員長に風紀違反だといって連れていかれたので珍獣の気分だった。
サラバ、ロッカーの私物。
「だいだいですね、風紀委員長を使って呼び出しとかですね…」
「ため語プリーズ」
「風紀副委員長にため語だなんて恐れ多いです」
「本音は?」
「…誰かに見られたら『キイキイ!お前なんて、相手にされてないんだから!キイキイ!』って襲われるからです」
副委員長は、へらへらしながらズバッと言い切った。
「それ、もうされてんじゃん」
風紀は、俺の現状をよく知っている。
呼び出されて襲われても、自分の身くらい自分で守れよと武器専攻ならばいわれてしまうが、魔法専攻だとそうはいかない。
魔法専攻で襲われそうな人間は風紀から魔力を小さな電変換する魔力封じ一時解除アイテム…スタンガンのようなものを渡される。
自分の身くらい自分で守れよの武器専攻の人間でも、身を守ることが困難であるとされた場合、風紀からスタンガンが渡される。
一応、逃げ切っている俺はスタンガンを渡す必要はないが、襲われているのは事実なので観察対象なのである。
だから、風紀副委員長は正解を引き当てたといってもいい。
副委員長は俺の担当者なのだそうだ。
「前からそうじゃないかなぁとは思ってたんだよねぇ」
気配の追えなさや、何処にいったかわからなくなるところ。うまい逃げ口。
それらが反則狙撃を思わせるらしい。
うまくやりすぎたってことだ。
「あ、普通なら気付かないだろうけど。やっぱ、戦闘で一緒になってよく組まされるし、偉そうにいうと、俺にかなう同学の銃って反則狙撃くらいのもんだしねぇ。見てたわけよ。ライバルみたいな」
口数が多いのは変装後と同じだ。
かなり見ていないと一致に持っていくにはむずかしいとの意見だ。
難しいくらいではこちらとしても難しい。
眉間に皺を寄せ、しばし考えた。
「まぁ、ええわ」
俺が大雑把と言われる所以がこの辺りにある。
面倒ということもあるが、考えすぎると名案もでなくなるし、行動できなくなる。
用心しすぎると逆に足をすくわれることもある。
そして単に、真剣にとらえすぎるのは疲れる。
「とりあえず、暗殺者にみつからなんだらええし」
「あぁ…そこまで避けることなのかねぇ、それ」
「やって、好きな子とちゃう思てるからねぇ」
「見つけられてもどうこうならない…」
「とは言い切れんよ。やって、暗殺者、執念深そうやし」
手に入らなければ、どんな手を使ってでも迫ってきそうなものだ。
「それはまぁ…でも、負けを認めると潔いだろ」
「潔く開き直られたらどないするん?それでなくても、副委員長みたいに有名人かもしれんのに」
やっかいなことになったなぁと思っては、ため息が出た。
「大丈夫、お前も『あのちょっと羨ましいけど哀れなフツメン…』という意味で有名だ」
「嬉しないよ…」
哀れってどの辺からくるんだろう。
友人に理不尽にも木刀で追い掛け回される辺りだろうか。魔法武器専攻ってあたりが目立つけど、時間が経つとあのサドと友達だなんてって思われるあたりなんだろうか。
皆目検討……つけたくない。
「なんやまわりから身バレしそうやわぁ。一人でおったら、あの変わった口調の人やのに…」
「まったくだねぇ。口調ばかりが印象に残るのにねぇ」
◇◆◇
口調ばかりが印象に残るのは確かな事実だ。
しかし、話をするとこちらを穏やかな気分にさせてくれるのは、なかなかないものだと思う。
それはのんびりした口調のせいもあるし、本人の性格のせいもある。
反則狙撃の叶丞が友人であるから、魔法武器の良平さんも新しいクラスになるたびサドだと気付かれるのに時間が掛かる。
叶丞が友人であるから、人体武器選択の将牙(しょうが)は木刀を振り回してまで怒るのだろう。
良平さんがサドだと気付かれにくいのは、叶丞といると良平さんはそれを発揮しないからだ。叶丞といると、穏やかな気分になることもあるし、わざわざそこまでいじめて楽しもうという気も失せるらしい。そして良平さんは大抵叶丞といるから、あまりサドっけを発揮することなく、ちょっと意地悪でちゃっかりした性格だと思われがちだ。
将牙は、何もしていない友人が不当な評価を得ている事が気に入らないし、その誤解をそのままで逃げるばかりの友人を腹立たしく思っている。
本当は、友人関係を人の物差しで相応かどうかということで決めること自体、おかしな話ではあるのだ。
けれどそれを思ったとしても、これ以上となく相応しい友人なのにと、歯痒い思いさえあるらしい。
それを穏やかに宥めてしまう。ないことにしてしまえる。
友人を誇ると共に、友人を腹立たしく思い、いらだち、将牙は木刀を振り回してしまうのだ。
その結果がどう働こうと、関係ない。
「将牙はアレだねぇ、一途だよねぇ」
「いや、それ…何か間違った発言だろ」
叶丞がいなくなった風紀委員室。
風紀委員長と一緒に緑茶を啜りながら、呟いた。
委員長は叶丞も叶丞のまわりもよく知っているというよりも、良平さんのまわりをよく知っている。
良平さんつながりで友人関係があるといっても過言ではない。
「ところで、委員長は何の資料見てんですかね」
「…新歓のトーナメントについて」
新入生歓迎会のくせに、二年、三年しか参加権がなく、一年生を観客に行われるグループ戦闘のトーナメントが、その、新歓のトーナメントだ。
観劇くらいのつもりでみれば、確かに歓迎会の催事かもしれない。
「…めんどくせ。毎年、怪我人でるやつじゃん」
参加者に、というより観客にけが人が出る。
参加者は魔法によって守られているし観客よりも安全といってもいい。よからぬことを考える奴がいない限り。
「今年は俺らも参加で、さらに面倒倍。…できたら、良平さんのグループ入れてもらいてぇなぁ…」
委員長はそういって、何処か遠いところに意識を飛ばし始めた。
去年は歓迎される側だったのだが、今年は、歓迎する側だ。正直、面倒くさい。
いつもトピックスを賑わせているコンビ戦闘ではなく、四人のグループないし五人のグループを自分たちで作らなければならない。しかも興奮した観客を宥める役目も上級生に任されている。
その上、それが強制参加なのだ。
わりと頻繁に授業として行われているコンビ戦闘もコンビを組めないようなら参加しなくてもよいとされているのに、何か大きな大会だとかイベントで行われる戦闘行為は強制参加だ。意味がわからない。
「どうせなら、ランダムで決めてくれないもんかねぇ」
「お前、コンビも組んでねぇしな」
そういう委員長も、現在、コンビを組んでいないそうだ。
委員長は特殊武器使用者であるから、当然といえば当然なのかもしれない。
特殊武器は特殊といわれるだけあり、集団にまざることを良しとしない武器が多いのだ。
まったく、面倒なもんだ。
「コンビねぇ…いい人いたら、考えるけどねぇ」
原則として、授業でのコンビ戦闘は同じ学年の者のみとコンビを組むことになっている。
学年単位でコンビ戦闘を行っているためだ。例外は今のところ、いない。
それ以外のトーナメントだの大会だのはどの学年と組んでもいいため、こうして同学年と組まなければならない授業のコンビ戦闘に参加しない奴は少なくない。
「組んでは止める奴もいるだろ」
「俺は、固定のがいいんだよねぇ」
試してみる。という手もあるけれど。
「今回は俺と組め。そして、アイツを潰せ」
友人が俺の相方を奪って、開口一番そういった。
友達がいのない友人を見ていると、友人……将牙の言葉に、その隣にいた相方の良平が頷いた。
「オッケー。叩き潰してやろう」
本当に酷い友人を持ったものである。
それじゃあ、この二人からハブにされた俺は誰と組めばいいんだ。
『反則狙撃』としての俺は引く手数多だが、だからといって適当に四人組作るのはいやだ。しかも、今のところお誘いされた中で魅力的だと思えるものがない。
友人二人と俺をいれ、あと一人法術師か、魔術師をいれようと思っていたのだ。頭数に入れていただけにショックを受けても仕方ない。
仲良さ気に肩まで組んで鼻歌でも歌いそうな、ご機嫌な二人の後姿を寂しく見送っていると、携帯端末が腰のあたりで震えだした。
着信は暗殺者。
……ここで、動いてくるのかと思いながら開いたメールには、グループを組まないかとのお誘いだ。
焔術師も一緒だという話である。
魅力的なお誘いではある。
しかし、これでバレでもしたら、面倒くさいじゃない。断るべきだ。
即決で、俺は断りのメールをいれた。それはもう、神のごとき速さだ。
誰と組むのがいいのか。
強制参加でさえなければ、観客に交じって野次を飛ばして観察を楽しめただろう。俺はため息を吐いた。
他に組んでみたい友人のアヤトリは、主人と対決を嫌がるであろうし、他の有名人である早撃ちとはなんとなく組みたくない。双剣は性格が悪いと聞くし、少なくとも俺の正体を知りたいと思っている。
三年生ともグループは作れるが、三年生の数自体が少ない。
三年ともなるとコースが分かれる。武器科なら、実戦コースと競技コースだ。
実戦、競技、共に、厳しい現実をさらに突き付けられ自主退学していく人間は多い。
三年生の授業には実地訓練や実習が多く、それらの授業のために軍にいく生徒から警察にいく生徒まで様々だ。そのどれもが過酷であり、今まで魔法に守られた生徒たちには少々荷が重い。
競技は、今まで戦闘の授業やイベント事でやっていったトーナメントなどと同じだが、今まで以上の才能や修練の世界に放り込まれ、さらに経験がものを言う。
高等部は、学年を増すごとにリタイアする者は多くなる。
在席しているだけでは、卒業などできないのだ。
進学すれば実習などから逃げられるかと思えば、そうでもない。武器科で進学をする場合、勉学が必須事項で、軍と警察である一定期間研修、競技には何度か出場しなくてはならなかった。
そんなこんなで、三年生は新学期はじめであるにもかかわらず、三学年で一番、人数が少ない。
転学してきた人間よりも転学、退学していく人間が多いのだ。
それでもこの学園に残るような根性のある三年生で、二年の甘ちゃんと組もうなんて人間は非常に少なく、また、二年の中でも三年生の認めた人間というのは更に少ない。
今のところ、お誘いも打診もうけていないことから、三年生は反則狙撃には興味がないのだろう。
逆に、自画自賛になるためあまり考えていないが、反則狙撃という戦力は大きいため、牽制しあっているということもある。
どちらにせよ、三年生と組むのは難しいわけだ。 携帯端末を見て、どうしたものかと悩んでいると、ふとあることに気がついた。
そう思えば、暗殺者は焔術師と一緒だといったが舞師と一緒だとは言っていなかった。
もしもの可能性にかけて、俺は学校側が用意した掲示板から舞師が一番最近書き込んでいる記事に、グループ組みませんかという書き込みをした。
返事は、すぐに返ってきた。
どうやら舞師もグループメンバーを探していたらしい。
快諾してもらえた。
そのあと、誰か他にグループメンバーはいるかとか、あてはあるのかという話をしたかったため、さっさとアドレスを交換した。いくつメールのやり取りをした結果、廃墟が立ち並んでいるフィールドで話し合うことになった。
現在そのフィールドは、新歓のグループを組むために人が集まっているため、組みたい人物を探すには好都合だからだ。
「まさか、私にお誘いが来るとは思っていませんでした。アンが誘うといっていましたし、今に見てろみたいなこと言ってましたし」
「誘われたけど、断った。今、すごく狙われている」
「なるほど。アンはしつこいですから、頑張ってください」
「いや、あんまり頑張りたくはないんだが」
舞師は舞っている様に見える剣技の使い手だ。
穏やかな性格で、丁寧な言葉を使い、頭もいい。その上、察しもいい。そのため、話はもめることもなく進んだ。おかげで軽い世間話まで飛び出した。
ただ、グループを組む上で、少し注意しなければならないこともある。
剣を振っているとき彼は、あまり物事を考えていないようで、本能に突き動かされているようだと人はいう。
作戦を間違えてしまうと、敗因となってしまいかねないのだ。
そんな舞師とぶらぶらとあたりを見て回る。
既に俺と舞師が手を組んだという情報は流れているようで、ちらちらとこちらを見てくる人間は多い。
困ったことに、二年のトピックス常駐の殆どの連中は既にグループ申請を終わらせていて、次々と発表されていくグループに名前を連ねていた。
一応、舞師のほうに思い当たる人物がいるらしく、このフィールドに来て、少し話をすると舞師は迷いなくある場所へと向かった。
「魔法使いなんですけど」
「魔法使い?まさか、追求じゃないだろうな?」
トピックスではあまり騒がれない魔法使い……魔術も法術も使う魔法科の有名人だ。
トピックスにあまり顔を出さないのは、対人戦闘で活躍することがないからで、魔法使いは研究に授業にととても忙しい人間だ。
魔術も法術も習っている人間は非常に多いのだが、本当に『魔法』を使うという意味で魔法使いと呼称される人間はそういない。
そして、二年の魔法科の人間でそういわれるのはたった一人だ。
対人戦闘で活躍することがないながら、二つ名を持つ人間。
「追求はあまり戦闘行為に興味がありませんからね。研究対象として興味深い人間にしかついていかないでしょう」
俺は舞師の言葉に思わず頷く。
魔法使い『追求』。その名の通り、魔法……魔術と法術の可能性を追求し続け、研究をしている。
そのお眼鏡に適う人間は、だいたいが魔法科の人間であるのだが、だいたい魔法科の人間はプライドが高く、高慢な奴が多いため、研究材料にならなって貰えないらしい。
高慢な奴らは名前の通った同じ年頃の人間をあまり好まないのだ。研究したいといっても当然のごとく断られてしまうわけである。
しかも、二年は名前を付けられた人間が少ない。
理由は、二年生が不作だからだ。
不作の理由はそういう年もあるとしかいいようがないのだが、不作だからこそ群を抜いて癖の強い連中が残ってしまうのは仕方ないことだ。
そんなわけで、魔法科には片手で数えても指が余るほどしか名前もちがいない。
名前を持つということは、良いか悪いかは置いて、何かぬきんでて目立つ人間だ。
だから『追求』のお眼鏡に適う二年の魔法科の人間という奴も非常に少ない。
「それでは、俺たちも興味対象外なのでは?」
「ええ。だから、追求の興味をひいている魔術師を引っ張ってきました」
二年の魔術師の名前持ちは二人だ。
焔術師、人形遊び。
それ以外の魔術師となると転学してきた人間ということになる。
「人形遊びか?」
俺の言葉に、舞師が少しだけ眉間に皺を寄せた。人形遊びという名前は通りがいいけれど、あまり良い意味で言われている名前ではないからだ。
「……ええ。あの人が残ってる理由は…まぁ、わかると思います」
俺はまた頷く。
人形遊びは、やはりその名の通り、人形を使った戦闘を得意とする魔術師だ。彼は人形を操って戦闘を行うが、人形を操る魔術の元を辿ると死体を自由自在に操るという……所謂ネクロマンシーの術である。
だからこそ、人形遊びは嫌悪感から人形遊びと呼ばれていた。
「特殊な魔術師ですが、悪い人ではないんです」
「いや、しかし、残ってくれていて助かった。魔法使いをひっぱれるってのは強い。だが、前衛が頼りないことにならないか?」
俺は超長距離~中距離を攻撃範囲としている。近距離の対処するのは得意ではない。
舞師は強いが、強いだけじゃグループ戦を勝っていけない。
「いえ、人形使い、……人形遊びがゴーレム精製してくれると思いますので。ただ、それまでの間、私と貴方が頑張らなければならないと思います」
「ゴーレム精製は、確かに時間がかかるな」
それで失敗している人形遊びをたまにトピックスで見かける。そして、メンバーにしようとしている追求は、ほぼ研究職のようなもので、戦闘を得意としない。
「ええ、ですので、今回、貴方には近距離射撃を頑張ってもらおうかと」
反則射撃は、近距離射撃を苦手としているという話は有名である。
超長距離から中距離が得意なだけで、近距離もダメだというほどではない。本人の苦手意識は別として、むしろ、上手いほうに入る。
人が反則というだけあり、わりと何でもできる印象が彼にはある。
魔法も少し使えるし、何処にいても役に立つあたりが、何でもできるように見せていた。
追求と人形使いに合流したあと、彼らとアドレスを交換し、打ち合わせをした。
話は意外とすっきりまとまり、その場はすぐに解散となった。
私は……俺は今、暗殺者と一緒にいる。
「悔しそうな顔するくらいなら、最初から宣言しなければよかっただろ」
「あれほどはっきりいわれたら、やってやるという気持ちにもなんだろうが」
「そういうところが考えなしなんだよ、お前は」
眉間に皺を寄せ、相棒は溜息をついた。
自分でも、やってしまったと思っていることらしい。
「あいつなら別にいいと思ったから」
「まぁ、珍しいことではあると思うが。引け目感じてるもんな、才能あるやつに」
相棒の眉間の皺は治らない。変装時には美少年といっていい容姿で、変装をといた姿も変わらず美形の類で少年と言えないほどの男らしさがあるため、その皺が相棒に普通よりも凄みのある顔に変えてくれた。
おかげで不機嫌にも見えるその様子は、少し柄が悪く見える。
「詮無いことだ」
暗殺者と呼ばれ、ランキングに堂々と名を連ねる有名人であるにもかかわらず、才能のある人間にあまり近寄りたがらない。
その上、社交性はそこそこあるくせに、狭い輪に留まろうとするきらいがある。
こうして変装前と変装後を知っている友人がいるというのはいいことなのだが、俺を含めあと一人しかいない。
別に変装後と変装前の友人を一致させる必要はない。けれど、相棒はそれが全部一致してしまうのだ。
つまり、相棒の友人といえる人間はこの学園では二人だ。
ほかは当たり障りがないというか、相棒に友人だとは思われていない。
だから、こうして反則狙撃に興味を持っているということはいいことだ。
それが、どういう感情であっても。
「求愛されても不快じゃないってのは、恋愛感情なのか」
俺が唸ると、相棒は首を振った。
「ドキドキはしねぇ。あと、やりてぇと思わない」
「わかりやすいな。でも、やりたいとかさらっというな」
「男だから仕方ねぇ」
気持ちはわからなくもないのだが。
不運な事故ってあるもんだ。
思わず感心してしまった俺は呑気というか、馬鹿なのかもしれない。
俺は少し前を振り返る。
打ち合わせと四対四で戦うために連携の練習をしにきたフィールドで、他のグループと戦うことになった。
そのグループが暗殺者のいるグループだった。
ここまではあることだろう。
むしろ俺の正体を探る暗殺者が何か仕組んだとしてもおかしくない。
だから、そこまでは気にしていなかった。
それが不運の始まりだ。
授業外の戦闘といえど戦闘は戦闘。
フィールドにいる以上は魔法に守られているのが当たり前。
変装も当然のごとく完璧。
たまたま起きた戦闘でまったく勝ち目がなかったという程度ならよかった。
不運……不慮の事故というにふさわしい事が起こった。
掠めた剣先が服を切り裂いた時点で、既におかしかったのだが、次の瞬間に視界がブレたあと、背格好、髪色、輪郭が変わった瞬間にこれはおかしいと気がついた。
「魔法が、切れた?」
スコープから目を離した俺は、自分自身の声と発音に舌打ちした。
普段と同じ声、同じイントネーション。
切りかかっていた暗殺者も動きを止め、それを止めようとした舞師も止まった。
後方にいた焔術師や追求、ゴーレムを作りかけていた人形遊び、よりによってこいつらと組んだのかよと文句の一つも言ってやりたい性格の悪い良平や将牙も止まった。
超長距離から攻撃しようとしていた俺はかなりの遠方にいるし、変装もヅラとサングラスを着用している。ぬきんでて背が高い、低いということもないためばれにくい。
しかし、不幸にも目撃してしまった。
俺は遠方からスコープで、暗殺者を狙っていた上に、各人の様子を見るため、視点を複数用意し、遠見の魔術を使っていた。
つまり、俺が混じっているグループの三人と、他のグループ四人の姿もみていたのだ。
将牙と良平はいい。もともと知っていたし、変装アイテムも眼鏡とヅラだったり仮面だったりと魔法が解けたってわかりづらい。
焔術師も目深に被ったフードのせいで変装前がわからない。追求も魔法アイテムとして使っていたゴーグルとヅラのおかげで、体格くらいしかわからない。人形遊びなどは魔法が切れたと思った瞬間に素早い動きで形成しかけたゴーレムに隠れた。
しかし、俺は余裕でその姿を追ってしまった。
帽子は被っていたが美化委員長だった。
その上、舞師と暗殺者も見てしまった。
「みたらあかんものみてもた……」
舞師は生徒会会計。
変装時は眼鏡をかけていたが、それくらいで誤魔化せるものじゃない。
暗殺者は二度見までしそうになった。確かめることが恐ろしくなり、二度見しそうになって慌てて視点を減らしたくらいだ。
それくらい信じられない姿だった。
銀髪のヅラ。あとはなんの変装アイテムを与えられたかわからなかったが、変装前も美形だ。
だが、見惚れることはなかった。よくみたことのある顔だった。
「うん、嘘。あれはきっと、妄想。そうにきまっとる」
そう思うことでしか平静が保てない。
そうやって思い返し、ひとり遠距離で悶々としていると、良平から連絡が来た。
『おい、フィールド離脱すらできないぞ』
魔法によって届いた音声は、困った事態を告げていた。
「えー……それは、学園のシステムが落ちてもうたってこと?」
『らしい。追求はそう言っている』
さすが、追求。
既に原因究明に乗り出していた。
「俺、この学園通いだしてはじめてなんやけど、こんなん」
『俺も。とりあえず誰も怪我してねーから良しか』
良平の言葉に衝撃ばかりが先立って、何も考えてなかった俺はようやくそれに気がついた。
優先順位が人と少し違うと、たまに他人に言われる俺らしい。
このフィールドだけのシステムがおちたのか、そうでないのかはわからない。
このフィールドにはチーム戦闘のために移動してきたので俺を含め八人しかいないが、他のフィールドでもそうだというのなら、大変な事態に陥っていることは想像にたやすい。
まして、陸続きなのだから何時かは辿り着くとはいえ、この広大なフィールドを転送システムなしで学園に帰れというのはかなり酷な話だ。
早く気がつけてよかった。
「とりあえず、そっちに合流したほうがええね」
『そうだな』
この際、変装前が後がといっている場合ではない。 
集合してみると、そこには焔術師と舞師の後ろに隠れる暗殺者、ゴーレムの影に隠れる人形遊びがいた。
舞師はもう、逃げも隠れもしないようだ。
それが気に入ったのか、それに対抗したのか、将牙も変装をといている。
俺も、口を開いたら変装していても仕方ないが、なんとなく、口を開く前からばらすというのも気がひける。
だいたい、そんなに有名なほうではない。いくら将牙の件で哀れまれているとしてもだ。
「各人、離脱はためしてみましたが、無理でした」
追求は落ち着いた声でそういった。
俺は今更ながら、魔法の偉大さに内心手を叩いた。
自分自身に魔法がかかっているときは、気持ち悪いとしか思わないのに、人に魔法がかかっていた事実を前にして、初めてすごいと感心させられたのだ。
追求の変装後の声は少し高めでヒステリック。いつもどもっていた。
「魔法使える連中全員で転送系の魔法使ったんだが、全然さっぱりだった」
俺がここに来るまでの間に色々していたらしい。
追求のあとに続くように状況説明を始めた良平は、なお続ける。
「遠見もなにかに阻まれて、学園が見れねー。でだ、遠くを見れるといえば反則狙撃だ」
つまるところ、スコープで学園のほうを見て欲しいらしい。
だが、学園をみようにも、このフィールドが何処にあり、どれくらいの距離に学園があるかはわからない。学園がここからは見えないのだから、かなり遠いはずだ。
そして、それをスコープでみようというのはかなり無謀だ。
俺は首を振る。
それだけで、良平はわかってくれたようだ。
「やっぱ、無理か」
俺は頷く。
「何処に学園あるかさえわっかんねぇもんなぁ」
将牙が笑うしかないといった調子で、空元気な声を出した。わりとポジティブ思考な将牙でさえ、これだ。
他の連中も少なからず、この状況にショックを受けているはずだ。
俺は状況説明をされた現在も、ああ、不運だなぁ……と呑気に思っていた。
学園のシステムが復旧するまで待つのが賢いのだろうが、今までなったことがない事態だ。
それが、俺がこの学園に来てからはなかったことなのか、それとも昔あった事なのかによって、深刻さは違う。
それを知りたくて、俺は口を開いた。
「会計さんでも、ええんやけど……生徒会のやつやったら、しっとるかもしれんいうことで、聞くで」
俺の声とイントネーションに反応したのは、焔術師。
身体を僅かに震わせた。
そして、まったく動かない暗殺者の影に、俺は溜息をついた。
「前にもこんなことあったん?」
あったほうが嬉しい。それだけ対応ができる。
焔術師は、首をふった。
声をだしたら、正体がばれるということだろう。
なるほど、こんな時なのに焔術師と暗殺者の正体がわかってしまった。
「あー……なんや、俺が変装してんの、もう無意味やから、蒸れるし、変装グッズ外すけど、秘密にしといてな」
この言葉を使うのは学園探しても数名。そして、武器科ではさらに少なく、銃選択は俺しかいない。
「暗殺者も、こんな不慮の事故や。諦めてぇや。いうても、俺やし、なにもせんやろけど」
変装をといて、視界を遮るサングラスも片付け、変装グッズを小さくしてしまうと、ポケットの中にしまう。
こういった魔法アイテムは魔法によって収納もコンパクトにできる仕組みになっているのだ。
変装魔法は学園のシステムと連動しているため、解けてしまっているが、コンパクトにする魔法は発動した。
それを実行して、ふと、俺は思った。
学園に直接転送することはできない。では、その近辺ならどうなのだろう。
「なぁ、り……猟奇」
何歩か退いている焔術師に申し訳なくなって、良平に近づくふりをして焔術師から距離をとった俺は、良平に声をかける。
「ん?」
「学園の近くのフィールドには飛べへんの?」
それに、今気がついたという様子で魔術師連中が短く声を上げた。
どうやら、皆、それなりに気が動転しているようだ。
「やってみる」
ふわりと光の文字が良平から漂う。
地面にあっという間に走る文字を追いながら、何処に行くかを確認する。
良平が使う転送系の魔法は、人間を二人運ぶのが限界だ。
俺は良平が作った魔法式の外にでて、将牙を中にいれる。
そこのあたりは俺の友人だ。意図を理解してくれたらしい。
すぅ…っと二人が消えた。
そして、暫くすると良平の声が耳に届いた。
遠距離にいたときに良平が俺にとった連絡法と同じだ。
俺と良平はコンビを組んでいるため、リンクという魔法を使っている。リンクは相性が関係していくるのでリンクできない場合もあるのだが、俺と良平はなかなかリンクの相性がいいらしい。遠く離れても、声は届く。
距離が遠いため、俺の魔法を使う技量の未熟さや力のなさ故に良平からのみになってしまうが、大変便利だ。
『いけた!』
「ん。……りょ、猟奇、転送できたみたいや」
「そうですか。それなら、焔術師、僕、人形遊びは転送が使えますから、手分けして皆移動します。それで、いいですか?」
「ええよ」
転送の魔法が使えないのは、舞師、暗殺者、俺の三人。二人一組で転送することになった。
舞師は追求と、暗殺者は焔術師と、俺は人形遊びというふうに、わりとすぐに決まった。
追求は変装前の姿がわからないから誰でもよく、人形遊びは逆に誰にばれても困るといった調子で、焔術師は俺とはいやだと話を聞いた瞬間に後ろをむいた。
俺は人形遊びの正体を知ってしまったため、それを暴露して、自然とその形にまとまったのだ。
次々と消えていった連中に後ろを向いて、気配だけで見送り、溜息をついた。
「なんやもう、人生って世知辛いもんなんですね」
「僕もそう思うよ、反則くん。君さ、もしかしなくても、全員の正体見破った?」
「あー……あんな、ぶっちゃけ、猟奇と破砕はもともと知っとってんけど。暗殺者と焔術師と舞師はわかった。追求はなぁ……知らんけど、俺と同じやと思う。委員とかではないんやろし、変装前は目立たん奴。もし、学校でおうたら、わかってまうわ」
人形遊びこと美化委員長は、微苦笑を漏らした。
「洞察力、観察力、頭も回るし、記憶力もいい。さらに、動体視力もいいから、わかっちゃうことが多いんだろうけど。わかるとつらいことってあるよね」
「そですね。暗殺者みてもたんでしょう?追求と猟奇、破砕はみてないと思いますけど…」
「うん、目が合っちゃった」
そうして会話をしていくうちにも、魔方式は完成していく。どうやら良平とは違う魔法式を使っているらしい。物珍しいので思わず食い入るようにみてしまう。
「君も舞師も破砕も、後々面倒なことにならなければいいね」
「はは。破砕も舞師ももともとああいう性格やろし、別にやと思いますよ。このメンツなら、大丈夫。ただねぇ、俺は焔術師にごっつう嫌われてますから」
「そんなに?」
ええ。と答える前に、魔方式は完成され、俺と美化委員長は魔術に取り込まれた。
これからのこと考えると欝だ。
◇◆◇
わざと空間を歩いて移動する転移魔法を使い、後ろからそろそろとついてくる兄に、俺は言った。
「あいつは、やめとけ」
「はぁ?いや、求愛については非常時だし、なしにするが。欲しいものは欲しい」
「ダメだ。いくら優秀でも、あんな変態」
あのイントネーション、あの話し方。声を聞いた時点でビクついてしまった。
いつからだったか、俺のことを『好きだ』といって、会うたびに口説いてくる男。
いつも会うのは、誰もいない場所。
次第におかしいと感じるようになった。だから、場所を選んで会いにきているのはすぐに理解した。
俺の気配を読んでいるのというのなら、気配を消してみたらと試したこともあった。
それすら読まれる。
執念か、ストーカーか、すごいやつなのかと思っていたが、『好き』といわれてそこまでされると、ストーカーにしか思えなくなってくる。口説き方も何かくさいので、俺はアレをみたら、悪態をつくことにしている。
嫌いかといえばそこまでではないが、好きかときかれたら、好きなわけを知りたいと問い返せる。 そんなストーカーに、たとえ恋愛感情がないといえど、兄をやれるわけがない。
兄と俺は容姿が似ている。
けれど、兄弟だから似ているというだけで、見分けがつく。そっくりだと思うのは最初だけだ。
気配を読むことができるこの学園の人間は、気配に鈍感な人間でないかぎり、俺と兄を間違えることもない。
気配も似てはいるが、容姿ほどではないからだ。
「変態なのか、反則は」
「変態だ」
「へぇ。お前にそこまで言われるとは……だが、あんな視点を複数認識、展開できる男が変態だとか変質じゃなかったら、おかしくねぇか?」
「兄貴、それはさすがに偏見じゃないか…?」
たしかに、一部やっかみもこめて、反則だと呼ばれているし、変態だとも言われている。
兄にすれば、それが今更のようだ。
「安心しろ、俺も変態だ」
「安心する点じゃないし、兄貴は変態じゃない」
確かに、兄である暗殺者といえば戦闘スタイルのこともあって、暗いイメージがあったりして、変質者とか変態呼ばわりされることもあるだろう。
しかし、生まれてこのかた、兄を変態だと思ったことは一度もない。
そう、一度もないのだ。
「そうか?変ということにおいては、間違えがないと思うが」
本人がソレを肯定しようとも俺は認めたくない。
俺は、堂々たるブラコンだから。





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