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昔の分です。
いずれ1のように直します。
本文はつづきからどうぞ
目が覚めたら、そこは見知らぬ世界でした。
とかだったら面白いのかもしれない。
残念ながら、よく見慣れた友人が俺を覗き込んでいて、さらに、そこはよく知っている場所だった。
…よく知ってはいるものの、入ったことはない場所で、見上げるか見下げるか。
会長の後ろにちらっと見える程度の内装だったが、確信をもって、俺はこの場所を断定できる。
「…生徒会室」
「…おきて第一声がそれかよ」
将牙が微妙な顔をした。
今、将牙は変装後の姿ではなく、ゆっくりと首が動く範囲で視界を動かし、視界にいれた人物は生徒会会計だった。
けして舞師の姿ではない。
と、いうことは俺も反則狙撃ではなく、今は叶丞なのだろう。
呟いた生徒会室という単語のイントネーションも違っていた。
「おはようがよかったん?わがままさんやねぇ…」
「いや、そういうんじゃなくて、もっとこう…あるだろうが!」
急に怒鳴って胸倉を捕まれガクガクと揺さぶられる。
脳がシェイクされるーとやはり俺は呑気に思う。俺に悔しがってもらいたいんだろうが、悔しいのは寝る前にした。今は現状把握と此処から逃れることが大事だろう。
俺はどうやら生徒会室のソファに寝かされていたらしい。
拘束はされていないが、持っていた武器は軒並み外されたと思われる。
銃がなければ小賢しい避けるのが少々うまい人間でしかないと思われているらしい。
間違えではないけれど、それはそれで酷い。
漸く俺から手を離した将牙は、少し不機嫌そうだ。
自分で罠にはめたくせに、俺がここにいるのが不満なのかもしれない。
将牙は友人を誇っている節がある。
友人と勝負をして勝利はしたいが、こうして負けられても嫌がる。
まぁ、いい奴なんだけど。単純なんだよなぁ。
俺はゆっくりと上半身を起し、あたりを見渡す。 将牙、会計、追求、あと一人知らない人がそこにはいた。
「ええと…どなたさんやろか…」
「…呑気だな、貴様」
「あーまぁ、慌ててもしゃあないし。んー…で、誰ですか?」
美形といわれる類の人であるのは確かだけれど。
あ、でも、見たことあるな。この顔。
ランキングは一応チェックはするんだけど、美形にはなるだけ近寄らないようにしているから、なんというか、あんまり役員以外の顔は覚えないようにしているというか。
でも、この顔は見たことがある。
暫く考えても、相手が答えてくれず、なんだかお互い見詰めたままという変な状態になった。
俺は、ふと、その隣に会長がいる姿を思い出す。
「あ、会長の友達」
「アレの友達というだけか。微妙に不名誉だな」
微妙に不名誉とか。会長、何か言われてますよ。
近くにいる会計と追求が笑った。
不機嫌を顔に乗せたそいつは、俺から顔を逸らし、何かを見詰める。
あれは法術かな、魔術かな…。
法術と魔術には明らかな違いがある。
法術は言葉に重きをおき、法術の上手い人間は『謡い手』と呼ばれることもある。
魔術は術式に重きを置き、その図や解釈から魔術の上手い人間を『博士』と呼んだりもする。
その両方をかけあわせたのが、ご存知の魔法であり、魔術、法術をどちらもまとめて呼ぶとき魔法と呼ぶことが多い。
今会長のお友達が見詰めているのは半分透けた映像だ。
この手の魔法は補助魔法と呼ばれるものであり、魔術より法術に多い。
補助魔術は展開している間、陣が描かれたままになっていることが多いため、陣を見つけることができないこれは法術である可能性が高い。
だが陣がなくなる補助魔術はなくはないし、それこそ、それは魔法なのかもしれない。
すけた映像には、会長が走る姿が見えている。
あ、よかった支えられる程度の術式にはなったみたい。
「何故、迷わなかった?」
映像を見詰めたまま、そいつは俺に尋ねる。
何を迷わなかったか。
たぶん会長を逃がすことだ。
そしてもう一つ、追求が出題者だと判断したこと。
「一度、うたがっとって。…追求は気づいとったと思うんやけど」
「まぁ。無理めに声を重ねたからね」
にこっと笑った追求は化けの皮がはがれて、何かイイ性格の人間であるように思えた。
「まぁ、疑ったあとわすれとってんけど。人形使いがの手が、握られてるのん見たときおかしなと思うたわけよ。…あまりにも。心配してるわりにあまりにも、支えようという気がない」
ぐったりした人形使いはぐったりとその場に崩れており、追求はその手を握って立っているだけだった。
その姿は呆然としているとも心配しているとも思えなかった。
「大方、なんか吸収したか、人形使いをねむらせたか…まぁ、どっちでもええわ。それが追求の仕業やってことは、俺にかけられた魔法も妖しいし、わざわざ遠距離を…しかも魔術師を。集めたのには意味があるとおもうてね。俺はそやな、邪魔やってんやろな」
「うん、やっぱり君は賢い」
「れ…追求」
「大丈夫だよ、反則くんは本当の意味で賢いからね、斗佳」
「だから心配なんだ」
「そう?僕が呑気なのかなぁ?」
楽しそうに笑う追求は右手をすっ…と空中で動かす。
「右に左に上に下。この世界がすべて」
術言を聞く機会はあまりに少ない。
それは呪文とは違い、組み合わせることで色と意味を帯びる言葉だ。
色の違い、意味の違いで、法術は成り立っている。
もっと使い分けると、その音さえも法術を作る一つになる。
動かした手によって術式が素早く展開し、そこに色と意味がのる。
そう、魔法だ。
「今、人形使いはお休み中。焔術師は鬼ごっこ中。他の四人は片っ端から教室あたってるとこだね。そろそろ伊螺に行ってもらおうかな」
「解った」
伊螺というのは、舞師こと、会計の名前だ。
「糸と意図。紡ぎ、編み上げ、成す力。繋がる世界」
術言を発している間に力で、あらかじめ用意してあったのだろう術式を発動させる。
「魔法ってホンマ、魔法やわ」
会計が魔法の光に包まれて消えた。
たぶんこれが例の転移魔法。
感心してる場合じゃないんだけどなぁ。
上半身を起したまま、俺は自分自身の身体の具合を確かめる。
まだ、身体は重いし、回復したとはとてもいえない。
寝ていたのも少しの間だけであったようだ。
少しだけでいい。
失敗してもいい。
力さえ外に出せれば、問題はない。
「明日はぐったりやわぁ」
なんて呟いて、俺は自分自身の体内にあるはずのものを探った。
「そらおまえ、ぐったりにきまってるだろ、あんだけ疲れりゃ」
将牙は単純だ。
それさえ口にしなければ、きっと他の人間は疑っただろう。
俺の言葉を。
将牙が、勝手に決定付けてくれた俺の言葉を。
◇◆◇
ぶつりと繋がる不快な音。
ノイズ交じりの言葉なのか声なのかよくわからないものが何処か遠い場所で点滅する。
うっすらで解りにくいそれは細い糸となって一瞬にして引っ張られ、切れる。
リンクによって繋げた細い、魔術の糸は、叶丞の位置情報を示す。
そして、うっすらとしていてよくわからないといっていい伝達事項を俺はなんとかうけとった。
「舞師、任せていいか、暗殺者」
俺が仮面越しに笑うと、それを感じ取ったのか、察してくれたのか。
とにかく頭がよく、察しのいい暗殺者はこちらを振り向くことなく、声を出すことなく頷いてくれた。
「通すとおもっているのか?」
舞師が大剣を振り回す。
「お前こそ、出来ると思っているのか?」
「わーお。暗殺者痺れる~ッ」
俺の近くから余計なことを言いながら、正確に素早く撃っていく早撃ち。
珍しく魔術師らしい補助を担当していた俺は、やはり傍にいる青磁の襟首を後ろから引っ張る。
「行くぞ」
ドコに?と聞かないのは察しがいいからではない。
俺のペットであるということの習い性だ。
俺は手を離すと、青磁がついてくるにまかせ、展開した武器で近くにあった椅子を浮かせ、窓を破壊する。
あとで聞いたことなのだが。
此処から下へと落ちることを決めた俺は、いかにも叶丞の相方だった。
俺が破壊した窓を更に綺麗に窓の破片を壊した青磁は、今度こそ俺の思惑を察していた。
さて、あとは叶丞の思ったように行動してやろう。
どこまであの狂ったように先を読もうとする友人に添えることができるかはわからない。
しかし、俺の判断を間違っていないと褒めた友人に、そして俺を魔法使いだと言ってくれた青磁に。
俺の、マホウツカイの本気を見せてやろう。
生徒会室に篭る利点は多い。
生徒会役員は座学、演習、両方がそれなりに優秀な生徒が選出される。
いくらブラックな学園でも、いや、ブラックな学園だからこそ優秀な生徒の身を案じ、生徒会室内の結界は強固なものを敷いている。
それこそ魔法を使い、システムを使い、生徒会室に入った人間を守る。
外から様子を伺うことも難しければ、外からの魔法も無効化できる。
視界に入れれば見ることは可能であるのだが、気配を読むことや、魔法で中を覗くことは出来ないようにされている。
そして、俺にとっても、他のメンツにとってもそれは当たり前すぎて、逆に気がつかなかった。
その上、役員がいなければ生徒会室の扉は開かないようになっているし、入室許可がなければ入室することは不可能なのだから、会長と副会長がこちらにいる時点でその可能性を自然と除外してしまっている。…入室には、生徒会長または副会長の許可が必要なのだ。
しかし、変装システムが弄れるということは、学園のシステムである入室許可のシステムも弄られているということもありえたのだ。
まして、魔法を逆に利用できる追求がいたのならそんなもの、ないに等しいシステムだったに違いない。
「いや、もう、ぐったりやわぁ…」
「だから言っただろう!こいつは危険だッ!」
再びソファーにぐったりと横たわった俺を指差しながら、そういった会長の友人に、まぁまぁと緩く笑って諭したのは、おそらく出題者のリーダーである追求だ。
「そうだね。けど、一瞬のリンクでどれだけ伝えられたんだろうね。ちょっと面白いよ。それに、二人だけじゃここは突破できないよ?」
走り出した良平とアヤトリを映した映像を指さし、追求が楽しそうに笑った。
彼は勝敗云々より、いかにこの状況が自分自身にとって楽しいと思えるものになるかを考えているように思う。
「そやねぇ。会長のお友達が誰かは解らんけど、ランクの有名人やとしたら、ま、あれやね。俺が会長の友達ってわかるくらい仲ええ人やし…双剣かな。となると、双剣、破砕、追求がここにそろっとるわけやけし?二人。しかも魔法使いおらなんだらねぇ。しかも、お荷物が二人」
魔法使いはいる。
でも、猟奇と言われる良平は魔法使い扱いされていない節がある。攻撃方法が武器では、魔法使い扱いされなくても仕方がない。
良平がそれでよく、悔しい思いをしているが、それは良平の手段なのだから、良平自身も仕方ないと諦めている。
俺からすれば、良平は猟奇などではなくて、ただの詐欺師だ。
良平はあくまで、魔法使いなのだ。
反則に詐欺だなんて、どんなコンビだと思うが、実に似合いではあると思う。
それに、俺の相方が俺の発言を受け取ってくれたのなら、きっと、魔術師を連れてきてくれるだろう。
問題なく生徒会室に入ることが出来る、そして入室許可を与えてくれる魔術師を。
あと、舞師の名前を出さなかったのは、舞師は確実に離脱させてくれるだろうと残ってくれた暗殺者と早撃ちを信じているからだ。
「斗佳、正体ばれてやんの」
「うるさい。決定付けたのは貴様だ」
双剣が将牙を殴る。
双剣は嫌味っぽいし、慎重派だけど、やはり武器科だけある。
手は意外と早い。
性格悪いってきくけど、結構可愛らしい人なのかもしれない。何か憎めないコミカルなものを感じる。…まわりの人間のせいかもしれないけれど。
「さすが、反則くん。本当、抜け目ない」
「そ?抜け目なかったら、研究者ごときに出し抜かれたりはせぇへんよ」
嫌味は効果的に使うといい。
冷静な判断を適度に失わせておくのは大事な行為なわけだ。
じゃないと、うちの相方が二人どころか三人でくるかもしれないことがばれてしまうかもしれないし。
映像に集中されたらかなわないし。
でも、追求は冷静だった。
そりゃそうだ。この仲間からの裏切りの連続をつくったのはこの人なんだろうから。
「誤魔化されないよ、僕は」
ああ、なんか視線がいたい。逆に俺が挑発されたようだ。
じゃあ、簡単に沸点でも上げておこうかな。でも、それは俺らしくない。それは、おかしい。
「そうかーそりゃしかたないわぁ…やったらどないしよかな。人形使いでも起すことに尽力しよかな」
「身体動かないのにか?」
嘲笑ったのは、双剣。先ほどまで将牙とやいのやいのと騒いでいたのになぁ。
「んー…ちょっとだけさわごかなぁとかそういうね」
「魔法で眠ってるから、体力使うだけだとおもうんだけどね」
「はぁ。ええこときいた。やったら、寝てまおうかな」
「人質っつー自覚あんのか」
「あ、そなん?困ったわぁ。俺、ちょっとおひぃさまやん」
きゃーこわいーと棒読みで言った時点で、半透明な映像では、焔術師と良平、アヤトリが合流していた。
「これ…は…」
「へぇ…猟奇くんが頑張ったのかな…んー…がんばったは頑張ったんだろうけど…仕掛けは君かな、反則くん」
追求は、俺が仕掛けた出来事の方に引っかかったようだ。
急に映像を見詰めながらぶつぶつ言い始めた。
曰く、届いたリンクがどうの。良平の力の残存力がどうの。
簡単に良平の残存力はわからないと思う。
魔法使いほどになればそれも何となく解るし、普通に魔術師達は残存力を計算しながら戦う。だが、良平は正確なそれを悟らせることはないだろう。
だから、今魔法使いが計算している残存力は間違い。
俺は内心笑いながら、目を閉じる。
「ま、仕掛けは俺やということと、…猟奇は俺の自慢の相方やいうことは宣言しときましょ」
自慢の相方が相方のペットと大好きな会長とやってくるまで少しお休みしとくことにしたわけだ。
二度目のお目覚めは、すっきり爽快ってわけではなかったが、将牙煩いな。とわりと普通に起きられたと思う。
将牙が、人質お構いなしに扉ぶち壊して入ってきたうちの相方に絡みにいっている。
将牙は俺にはよく飛び掛ってくるが、良平に飛び掛ることはない。
良平の非道な攻撃についていけるかなぁ。本能的で素直な将牙は。
良平の後ろからすんなり離れて糸を投げるアヤトリ…今は風紀委員長の姿の青磁が双剣の腕を糸で捕らえている。
双剣も剣をひらめかせ、その糸に応対する。
糸はすぐに切れて、双剣の腕は自由になった。
しかし、双剣の意識は青磁にむいたわけだ。
こうなると未だに入り口を盾にしつつ術式を展開している焔術師は追及と対峙ということになるわけだ。
人質である俺は少し回復したので、気配を読み始める。
気配読んでるな。なんてことは言わないと解らない。
察知できるかもしれないのはその気配に触れた人だけ。
俺が探したのは、人形使いただ一人。
人形使いがいくら人形を使うことを魔法とする人間でも、追及を仲間と信じていたとしても、魔法というすべがいくら『魔法』であっても。
人形使いが魔法から逃れる術を用意していなかったとは考えにくい。
魔法使いは武器の攻撃に弱い。
だから、武器に対抗するための魔法や防具を用意する。
しかしそれ以上に魔法に対する防御を用意する。
追求は、研究者だ。
実践は得意ではない。こうして人を動かすことが出来、思った以上に動くことが出来ても。それは変わりない事実のように思う。
どれほど考えても、しらべても、それがすべてではないということをまだ理解しきれていないと思う。
今は人形使いは寝ているかもしれない。
魔法でどれほどの効力設定かはわからないが、それが思った時間作用していられるか。
人形使いは人形を使うがまごうことなき魔術師だ。
法術を防御するのことは難しくても、魔術であればそう難しくはないはずだ。
どれほど防御したか。おそらく眠ってしまった姿を確認して、追求はそれを追求しなかったはずだ。
人形使いが動けるようなら、それも頭に入れて行動すべきだし、人質は少ない方がいい。
だから、俺は気配を探しているわけだが。
人形使いは生徒会室の隣の会議室にいるようだ。
人質として呼び出すことが容易であるのか、それともそうするつもりがないのか。
まぁ、人質は二人より一人の方がいいのはなにも味方だけではない。
なので、人質は俺だけなのかもしれないけれど。
俺が考えている間にも戦闘は続く。
ちょっと攻撃当たりそうで怖い。特に魔術師と魔法使いの攻撃。
さらにいうと魔術師の容赦ない攻撃。
俺が人質ということは魔術師にとってはコレ幸いだったのかもしれない。
俺に火の粉がまさしくかかっても、気にはしないだろう。
もしかしたら、間違えたすまんといって俺に攻撃してくるかもしれない。
きっと、窓から落としたことは恨みに思われているだろうし。
うわあ、味方からの攻撃で戦線離脱か。すごく怖い。
とりあえず相手にされてないので、ソファから落ちてころがってもいいのだが、そうすると気がそれてしまって勝敗とか決してしまうかもしれない。
味方が勝てば問題ないが、味方が負けてはことだ。
おれはじっとしておくしかない。
余計なことをするには、まだ体力も気力もたりない。というのもあるのだが。
それにしても、防御が固い追求に焔術師が苦戦している。
焔術師は魔術師のくせにまっすぐな気質だ。
俺のようにごちゃごちゃ考えるのは好かないし、兄のように冷静に分析することもあまりない。
もともと力が強いから、ということもある。
たいてい力押しでなんとかなってしまうのだ。
その上で、コンビを組んだのがあの双剣では、コンビネーションもあってそれで勝ち抜くことが出来てしまうだろう。
考える必要がない。
ある意味幸運であり、不運だ。
考える力はあっても、戦闘経験が足りない追求は防御はできているが、攻撃ができていない。
追求の防御すらも力押しでどうにかしてしまおうとしている焔術師の術式の展開の速さについていけていないのだ。
一方、よく動くため同じ角度からはあまり離れていないこのソファーから観測できない青磁と双剣はたまに見える範囲では、どちらとも決め手を決めかねている印象がある。
何処を突けばいいのか、何処でしかければいいのか。
青磁が特殊武器なだけに双剣は慎重であるし、青磁は青磁で複数人で戦うことを得意としない。
良平にくっつくことだけには抜け目がないため、味方が自分自身含める二人である場合、糸に巻き込まないように戦うことは可能だ。
このような一対一であるのに、近くで二人以上の仲間が戦っている状況である場合、それを避けるために糸を張り巡らせることができない。
味方を阻害せず戦うということが難しいらしい。
なので、いつもより糸の本数を減らし、わりとまっすぐ、敵を部屋の一角に追い込むことに終始しているようだ。
時間はかかるが、間違いない。
ただ、双剣も只者ではないため苦戦しているといっていい。
俺がばっちり見える範囲で展開してる戦闘は、将牙と良平の二人の先頭であるのだが、こちらはそろそろ決着がつきそうである。
何せ、自慢の相方。
将牙の単純な攻撃を煙に巻き、近接戦はこちらも得意と将牙を間合いに入らせない。
将牙は素直で卑怯が嫌いなため、勝負は真っ向勝負。人質をつかうことも思いつかない。俺のことは今現在脳裏から消えていることだろう。正に一対一だ。
そんな将牙の性格を知っている良平は、マジックサイスで良平の防御を削るようなことをしている。
舞師と戦うことができる技量を持つ良平に、いくら破砕と呼ばれる将牙でもその破壊神っぷりは簡単に発揮できない。
少しすると良平は将牙を罠にはめることにしたらしい。
良平が将牙を将牙の間合いに入らせた。
「油断したな…!」
「将牙、俺がマジックサイスしか作れないと思うか?」
マジックサイスしか使えないとおもうのか?
そういう問いかけが二重音声で聞こえるようだ。
マジックサイスが霧散し、焔術師よりもはるかに早く、武器化の魔術は展開する。
将牙が驚いた時にはすでに、将牙はフィールドアウト。
戦線離脱をシステムよりされている。
今頃あいつは自室のバスルーム。
それを視界の端にとらえた慎重派双剣が驚愕に目を見開いたときの隙を逃すような良平ではない。
あちらが良平を視界の端に捕らえたように、良平も双剣を視界にとらえていた。
「待て」
ポツリと呟いたのは青磁に向けて。
誰よりも良平の言葉を拾うその耳で拾った音を、青磁はきちんと理解していた。
ぴたりと動きを止めた。
マジックサイスばかり使い、たまに攻撃魔術を使う良平の結界はそれは見事なものだった。
一瞬のうちに展開し、その発動位置をたがえることなく双剣をとらえる。
「そこからは、出さない」
一瞬で展開した結界は拘束力が弱い。
内側からの破壊は可能だろう。
しかし、結界にとらわれ驚いた一瞬をさらに良平は逃さなかった。
その結果の強度を、マジックサイスを強化するのと同じ要領で力を流し強化する。
だから、詐欺師だというんだよ、良平は。
それはやはり最小限の力で、最小限の維持力で。
今の残存力はいかほどのものか、俺もよくは知らないが、息も切らさない。
憎らしい限りだ。
「おい、寝るな」
「えー…あかんの?」
良平の戦いが終わった時点で、魔法が飛び交っていることしかわからない焔術師と追求の戦いに目を向けることはやめた。
勝利を確信したとかそういうことではなく、ただたんに疲れたし、俺にできることはないなと思ったためだ。
「最後まで戦えよ、お前も」
「やって、俺、フル稼働で疲れた。むっちゃ疲れた」
「最終戦だろ。温存するな、全部使え」
いやいや、それは良平くんにいいたい。
向かい側のソファーに座って優雅に足組んでる場合じゃないだろ。加勢してあげるべきだろ。結界維持はしてるだろうけど、それ、片手間でもできること俺、知ってるから。
青磁があえて動いてないのは、焔術師の魔術と相性がよくないからだってのはわかってるから。
「あそこに加勢してこその魔法使いやないの?」
「…地味で小細工な魔法でよろしければ?」
「カーニバルの魔法使いは派手で大味な魔法なんぞつかわんやろ」
正確で最小限で最大限の力。
良平が笑った。
いくつもいくつも素早く展開していく術式がその場で折り重なる。
それを読み取ろうとしたのか、結界からこちらを見ている双剣が途中で悪態をついた。
早すぎて読み取れないらしい。
更にその魔術式の展開に防御をしながらこちらにむいた追求はやはり研究者だ。
焔術師は攻撃色がない良平の魔術式に一度気は取られたものの、攻撃を続けた。
追求はこちらを見たままだ。
「展開」
その一言を言わずともその術式は展開する。発動する。
しかし、あえて良平はそれをいう。
それによって追求がさらにこちらに気をとられるとおもったからだ。
ぱりん…といい音がして、追求の魔術で構成された部分の結界は崩される。
あとは、焔術師の魔術が追求を戦線離脱させるのは難しくなかった。
「これで終わりやろか…」
呟いて転移システムを利用してみた。
気がついたらお疲れなのに、自室の固いバスルームの床の上。
ひどい、あまりにも酷い。
◇◆◇
いつも通り食堂の大画面に映されるトピックスは、一年生の鬼ごっこ、二年生の鬼ごっこだった。
そう思えばこの時期はこんなトピックスもあったな。
などと思いながら、俺はいつもは兄が持ってきてくれる食堂特製の金魚蜂スイーツを食べる。
「結局、僕が起きた頃には終わってたんだけど、こんなことになってたんだね」
俺と一緒に金魚蜂をつつく人形使いこと美化委員の和灯(かずひ)がトピックスを見て笑う。
一応、映像は弄られて、俺たちは全て変装後の姿で右往左往、編集でいいところばかりが映されていた。もちろん、校舎内に入ってからの映像だ。
今回の鬼ごっこの勝者は猟奇となっている。
俺も生き残ったうちに入るのだが、校舎内に入るまでに一度兄に負けているため、最後の最後に活躍した猟奇が勝者となったらしい。
「俺、このあと校舎内の残りの生徒狩りもさせられて、つかれたわー」
アレの相方というだけあって、呑気に言いはするものの、よくも言ったものだ。という顔をせざるを得ない。
なんだあの術式の展開の速さは。あの結界もすごいが、なんだあの解除術式は。文句を言って問い詰めたいが、俺よりもワクワクが止まらないといった様子で追求が猟奇を見詰めているため、それが出来ない。
そちらには目を向けないようにアイスクリームを口に入れる様子が少々かわいそうな気もしなくはないからだ。
「良くいう。アヤトリに手伝わせたくせに」
そういって俺の取り皿からチーズケーキを奪おうとする双剣こと斗佳から皿を逃しつつ、俺は斗佳をにらむ。
「ダブル専攻だったってのは初耳なんだが」
あの進級課題が終わったあと、簡潔にされた真実が携帯端末に学園側から送られてきた。
それは、それぞれの所属と進級、追試の有無、その他諸々を示したものだったのだが。
個人個人に送るならまだしも、今回の出題者と出題された側の結果を一気に閲覧できるようにするのはどうかと思われる。
…とにかく、それが送られてきたわけだ。
そこでまず解ったのは、ダブル専攻者が二人、一学年上の人間が二人いるということだ。
ダブル専攻…主専攻が二つあるのは、斗佳と追求。
斗佳は法術と剣術。追求は魔術と法術。…追求にいたっては、学園のシステム開発に現在関わっているらしい。あれだけ学園のシステムが弄れるのだから、当然といえば当然だ。
一学年上の人間というのは破砕と伊螺。
どうでもいいのだが、二人は実は兄弟…というか二卵性の双子なのだそうだ。破砕が一学年下で違和感なく馴染み、進級課題をクリアすることが一学年に上がるための課題だったそうだ。
それが三年続いているらしい。自分の学年に戻る課題は未だクリアできず、一年遅れてしまっているらしい。
一人じゃかわいそうだと何の温情かもうひとり、双子の兄弟が巻き込まれてしまっているのがかわいそうでならないと伊螺がいっていた。
今回、結局最終決戦に加われないように粘り、暗殺者…兄を道連れに出来たため、元の学年にもどれるとか。…つまり、三年生になるんだそうな。
兄は伊螺に道連れにされたのか…と思うと腹立たしいが、もっと腹立たしい結果が携帯端末には映されていた。
俺と早撃ちが進級課題追試なのはいい。アヤトリが画面に名前が出なかったのも対象者じゃなかったのだからあたりまえ。
人形使いが追試なのもわかるし、兄が二学年進級となっていたのも当然だ。
もちろん、能力を晒し、さらに高い能力を示した猟奇が特進と進級を得るのはわかる。
反則狙撃が、特進で進級というのは…解るけど納得したくない。
なんというか、無性に腹が立つ。
確かにアレが一番活躍したのはわかるが。
「それにしても、特進ってなんだろうね」
和灯が首をかしげた。
それに答えたのは、追求だった。
「ああ、ダブル以上の専攻資格だよ。まぁ、だいたい身がもたないからダブル専攻にするんだけど」
「はぁ、そんなんくれるのか…。確かにもたない。身が」
今でさえもしんどいのに。としみじみと呟いたのは猟奇だ。
猟奇は魔法武器専攻。魔術も武器も主専攻しているといっていい。
「あ、でも、法術ちゃんと専攻したいかも」
マゾな発言が聞こえた。
「反則くんはいったい何専攻するんだろうねぇ」
「あーあいつ、特殊専攻だと思うわ」
「特殊…何を?」
「魔法機械学」
「え…ああ、反則くん魔法機械都市からの編入だっけ?」
それはまた、初耳だぞ。思わずチーズケーキの警護が遅れた。
チーズケーキは俺の皿から離れ、斗佳の胃袋に納まった。
「学園側からしたら、さいしょっからあそこにつっこみたかったらしいけど、アイツ都市にいたときからずっと銃だったらしくて。魔法を科学するなんぞ都市でやっとけばいいって」
「うわぁ、なんというからしいね」
一時一緒に行動していた和灯が、猟奇に頷いた。
「卒業してからでもできるって考えもあったらしい。独学でざっくりやりつつ、今は魔術も法術もかじってるみたいだが」
「そっかぁ」
というか、一時期有名になった魔法機械都市からの編入生だったのがアレだったのに驚いた。
有名になれど、まったく名前も顔もあがらなかったあたりがアレらしいといえばアレらしい。
だいたい魔法機械都市といえば、兄も…ああ、いやだいやだ。
何か繋がりそうで、果てしなくいやだ!
何度も言うようだが、俺は、ブラコンである。
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