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昔の分です。
いずれ1のようになおします。
いずれ1のようになおします。
本選のレースを三日後に控えたある日の昼間。
幼なじみは気晴らしに俺達を誘った。
学園の卒業生と元在校生という身分を使って学内のシステムを使用可能にしてもらった。気晴らしとかいってるけど、戦力を測りたいんだろうなぁ。と思いながら、俺はスコープを覗く。
スコープの狭い円形の中、一織が投げナイフの多くついたベルトを腰に二つ装着し、右の足にいつも使っている短刀を納める鞘つきのベルトをしていた。
身軽さを大事にしている一織にしては重装備である。学園で気晴らしと聞いた途端一織が宿泊先の部屋に戻ってとってきた武器であるのだが、学園で何かある。と踏んでいるということだろうか。
かくいう俺も、あまりいい感じがしない。
学園にいた期間は少ないものの、こちらの学園の人もあちらの学園に負けず劣らずひどいということを知っているからだ。あと、幼なじみの性格からしても無難なことはしてくれないだろうと思ったのだ。
他の三人もさすがに幼なじみ一人対五人はないだろうと思って、幼なじみ以外の五人が参加してくると思い、少し警戒しているようだ。確かに、幼なじみ以外あと二人気配を感じる。なんか、この二つ、知っているような、いないような…。
良平あたりは、俺の幼なじみが曲者でないはずがないと思っているようで、たまに魔術師が使う杖を持っていた。この杖は魔法が安定しやすいようにするための代物で、大きな宝石をつけた棒状のものが多い。良平の持つそれは児童向け番組のヒロインが持つような短い杖でヒロインがもつには装飾が地味なものだった。簡単にいうと短めの棒にちょっと特徴的な文様が刻まれており、なんか石が二、三個ついていると思ってくれていい。
レベルの高い魔術師や魔法使いというやつはあまり杖を使わないため、補助以外は得意ではないと装いたいのかもしれない。
それとも、また、件の今夏の成果というやつの実験か。
どちらにせよ、100パーセントの力を出す気がないようだ。
風紀の二人はいつも通りで、成り行きに任せる気である。
あの二人はあんな学園の風紀委員ということもあって、荒事は得意であるし、臨機応変もよくできる。
たとえ今ここで100パーセントの力を出し切ったとしても、レース本選も問題なく対応してくれるだろう。
「おひぃさん、なんかフル装備っていうか、叶丞何処行ったんかにぁ」
「俺も解らん」
一織さえ解らないくらい息を潜めて狙撃させてもらおうと思っている俺も、全力を出すつもりはない。
「まぁいっかにぁ…どっかからねろとるんやろけど、うちの魔法使いがどうにかしてくれると思うしにぁ」
「他力本願というものだな。やめてもらおうか。あんたが狙われても僕は何もしないぞ」
そのなんだか知ってるような知らないような気配の一つは、すぐに顔を出してくれた。
物陰から出てきた魔法使いだろうその人物は、唇を歪め、親指と人差し指でモノクルを持ち、良平の方を見た。
「彼か?昨日、魔法を書き換えしたのは」
「そうだに。どんなか解るかにぁ?」
「ふむ…力自体は平均より劣る。式の書き換え具合からして知識量がそれを補っているのだろう。それに、最初に使った結界から考えても無駄を省く研究をしているようだな。新しく作ることにも挑戦といった感じか…マーヴェラス!」
うちの学園風に名前をつけるとすると、彼は分析という名前がついただろう。さすがこーくんのお友達です。自分自身を棚に上げて非常に申し訳ないが、濃い。
追求とは違い、自己完結が激しそうなタイプの分析型であるように思える。
「はーい、もういいにぁ。あんまり語るとドン引きだにぁ」
「そんなことはない。もう既に引いている」
「ドンがつくかつかないかは結構大事だとは思わないのかにー?」
槍を持ったまま肩をすくめた。
知ってるような、知らないような気配のあと一人は、近距離型かもしれない。
もし、レースのメンバーであるというのなら遠距離から中距離である可能性が高いのだが、近距離を得意とする人間がこちらにいる以上、こーくんも自分の目的を邪魔されないように調整してくるだろう。
しかし、一織が異様に警戒しているような気もするし、もしかして、それだけじゃないのかな。
戦闘開始はこーくんのコイントスで、ということになった。
コイントスで開始なんてすると、タイミングずらしとかする輩がいるので、うちの学園ではしないのだが。
こーくんは銅貨を投げる。
クルクルと回転する銅貨が地面に落ちたら戦闘開始。
もちろん、うちの面子にはそういうタイミングずらしを得意とする人間がいるのだ。構えているこちらはコインが落ちるタイミングを計らない。
コインが落下し始めたと思うと、副委員長の銃が弾を吐き出した。
銅貨を弾く高音が響く。
俺の見える範囲にいるこー君とそのお友達の分析野郎は一瞬身を震わせたが、飛び掛ることはなかった。
だが、副委員長もそれだけじゃ終わらなかった。
弾かれた銅貨がまだ宙にあるうちに、もう一度、銅貨を撃った。
これにはこーくんと分析野郎もたたらを踏んだ。
銅貨がゆっくりと地面に落ちきったとき、計算どおりと動いたのは副委員長だ。
副委員長が動く瞬間を待っていた俺たちはそれぞれ行動し始める。
一織は気配を消し、いつの間にかどこかへと隠れる。
俺は相変わらず息を潜め、タイミングを見計らう。
こーくんが連れてきた人がレース本選に参加するかどうかはわからない。けれど、そうであったときのためにそれなりに手口を見せてもらいたい。だから、最初からは狙わない。
副委員長の早撃ち具合は、土地が変わっても変わらない。
「いやなかんじにギリギリだな」
「なんで俺には結界張ってくれないんだにぁ?」
「僕の結界内に素早く入ってきてよくいったものだよ。本当に、あんたは台所に出るあの虫よりしぶとい」
ひどい言われようだが、その通りである。
副委員長の放った銃弾は、結界から出たこーくんの白い槍に弾かれる。
「ここも銃弾は弾くの普通なのかよ」
副委員長が面倒くさそうに吐き捨てた。まったく、超人ばっかりで苦労したよ。昔は今ほど狙えなかったけれど。
こーくんはどうやら動くつもりはないらしい。その場で副委員長の相手をしつつ、魔法の気配を読んでいる。
「でかい魔法使うつもりはないんじゃないかに。力の練り方がゆるい」
こーくんは、魔法の気配に敏感だ。
俺が人の気配に敏感であるように、こーくんは魔法の気配をこと細かく察知する。
「それとも、急速にまとめるタイプかにぁ?どうなのかにー?」
「さぁ、どうでしょ」
答えた良平は、力のコントロールに長けた魔法使いだ。
急速にまとめることも、ダラダラ広げていくこともできるだろう。
魔法の気配を読むなんてのは、魔法使いにとって基本中の基本。
でも、精度はたぶん、こーくんに及ばない。
俺の知る限りこーくんの学園生活は、魔法の気配を読むことと機械をいじることとナンパに捧げられていたのだから、研究や勉強に時間を割き、人の後ろにいることの多い魔法使いたちとはワケが違う。
こーくんをベタ褒めするようでいけ好かないが、前に立って魔法を読み、阻止したり、避けたり、防いだりすることは一級だと思う。
魔法使いたちにも、魔法破壊と呼ばれて嫌がられていた。
そんなこーくんは、普通の気配を読むことを得意としない。といっても、それなりには読むので、厄介なのだが。
「んー…良平くんと、叶ちゃん以外は、魔法使わないかんじかに?」
俺は使うといっても補助をする程度だし、石を使って展開できる範囲だ。たいしたことはない。
こーくんの隣にいた分析は、結界を張ったまま、別の魔法を使うつもりなのだろう。結界外に何かの陣が出来上がってきている。
「オーケー。遠くにいる奴らは他に任せて、近くにいる連中はこっちで処理しておこう。ほら、おめでたい昆虫、さっさと奴らに槍を投げるのだ」
「おめでたい昆虫はひどくないかに?俺でも傷つくにぁー。千(せん)ちゃんこそちゃんと魔法発動させてねん?」
「僕に不可能はない」
何か引き続き嫌な予感するなぁ。と思いつつ、俺は銃口をこーくんに向ける。
こーくんが副委員長に向かって槍を投げると同時に、副委員長の銃から飛び出す銃弾。
こーくんの槍は今の今まで大人しくしていた青磁が糸で弾いたようだ。今回は守りに徹するつもりなのかもしれない。
主人が何か言ったら、別だが。
そのご主人様は、こーくんが攻撃を始めたと知るや否や、急速に魔術を展開。
「へぇ、早いねぇ。千ちゃん負けたねぇ」
「だまれ、欝すぎる」
飛び交う炎の塊を軽々とよけ、たまに分析の結界の後ろに隠れながら、こーくんは口角をじわりとあげる。
「来い」
手のひらを返す。その瞬間に、投げたはずの白い槍がこーくんの手のひらに収まる。
こーくんの槍はどんな場所に投げても戻ってくるというだけの魔法武器だ。しかし、それだけの槍がどこにあるか、どれだけで戻ってくるか、どうすれば戻ってくるか、どうすればそのタイミングを変えることができるか。それらを突き詰め、こーくんは魔法の気配に敏感になることを選んだ。…人の気配に敏感な俺が近くに居たっていうのもちょっとあったけどね。
俺側にいる他のメンツはこーくんの武器の特性を知らなかった。
俺が教えなかったから。けど、そんなこと教えなくても、反応してくれる。
青磁が投げた糸はこーくんの手にある槍に絡まる。
動き出した槍に糸を投げたのだ。
引っ張る青磁に、その槍を持ったまま引っ張られるこーくん。
「こーれーはーやばいんじゃないかに?」
「なんとかすればいい。僕はあんたに関知しないぞ」
そう言うと同時、出来上がった陣から青白い狼が出てくる。
魔術師あたりかなと思ってた分析の人は、召喚士のようである。魔術師にも一応種類がある。魔術師というと会長みたいな人が典型で、殆どは元素を利用して魔法を使う。召喚士もそうであるし、他の種類の魔術師だってそれは同じ。違うのは、専門とし特化しているものだ。
「いけ、エルダ」
低く唸ったあと、副委員長に襲いかかる狼。
「え、俺かよ。さっきから俺しか働いてなくない?」
「気のせいだろ」
未だこーくんと引っ張り合いをしている青磁のツッコミが冷たい。
「いつまでも武器の引っ張りあいしてもしっかたないにぁ?」
判断したら行動は早い。
良平が第二射を放つ前に、こーくんが武器を手放す。
その瞬間を狙って、俺は撃つ。
狙いはこーくんの手。とりあえず武器を持つためのその手、不能にしたい。
しかし、こーくんの攻撃を待っていた人がいるように、俺の攻撃を待っていた人がいたようで。
俺の後ろにいきなり二つの気配。
ひとつはよく俺の背後に現れる、一織の気配。いつの間にここまできたのだろうか。
もう一つは、知ってるような、知らないような。
金属と金属がぶつかる耳に痛い音が響く。
「妃浦(ひうら)さん、させませんよ」
「ハッ、成長ってやつか?」
妃浦というと、こーくんとの付き合いは長く…彼女だった時もあった気がするけれど、確かあんな人類の敵と付き合いきれないと別れ、それでもこーくんと友達づきあいができる奇特な女性だ。
ちょっとした知り合い。
あと一つ姿を見せない気配があるんだけれど、こーくんの親しい人で俺が知ってるような気配、その上妃浦がいるのなら、おそらく、それも俺の知り合いだ。
俺は長距離銃はそのままに隠しているんだろう気配に向かって、腰のホルスターからライカを抜き様、撃つ。
「いやぁん、きづかれてたのねぇ」
そんなことを言いながら出てきた黒いのに羽織ったもののせいで派手に見える男が、銃弾をいともたやすく細身の剣で斬る。
「きっしょい声だすな」
「黙らっしゃい」
妃浦がその男の隣につき、鼻で笑う。
「私の弟子はどうだ?具合いいだろ」
「やだわ、下品な言い方」
派手に見える男みーさんが、左でもった剣を後ろに引き、その切っ先をこちらに向ける。
「相変わらずなようですね、妃浦さん」
俺の隣でため息をついた一織は、どうやら妃浦とも知り合いのようだ。
「あーんー?いい具合に付け狙われとるんやけど、どうすれば」
呑気な受け答えをしながら、フレドも抜いて、ライカとフレドを交互に撃つ。
「ふむ。どうしようもできないな。一織はしつこいぞ、叶丞くん」
一歩も動かず銃弾を弾く妃浦。
その横から地面を一蹴り、一瞬にして間合いを詰めてくるみーさん。みーさんなどものともしないスピードでみーさんの背後に一織。だが、そんな時のために居るんだと言わんばかりに、銃弾を弾いた妃浦が動く。 目だけはいいけど、この連中とスピード勝負なんてしたら真っ先に戦線離脱な俺は、再びライカとフレドを撃つ。
狙いは甘い。
その甘い狙いをものともしないのが、みーさんなのだ。
分かっているから俺はその場から右に飛ぶ。
「あら、じっくり狙わないと無理なのかしら、叶ちゃんたら」
「挑発にはのらんから」
「残念ね」
銃弾を剣の切っ先で反らすとかそんなことをする人に挑発されても、のれるはずがない。
俺が右によけたことで、わずかにぶれた剣の軌道はそれでも、俺を確実に狙っていた。
『叶丞、こっち片付いたんだけど』
脳内に直接叩き込まれる良平の声を聞きながら、俺は剣を避けること、その剣の軌道をそらすことでいっぱいっぱいになっていた。
「ちょお、手伝うてよ」
『本気だしたら、やばいだろー?だから、俺、撃沈されといたから無理』
「おいいいいいいいい」
「キョー煩せぇ」
「はいはい、叶ちゃんアウトねぇー?」
細身の剣は確か、刀とかいう種類の剣だ。しかも魔法武器で、特性としては斬撃強化といったところだろうか。切れないはずのものが切れる。強度は場所によってはもろいらしいが、みーさんほどの使い手となると、話は別。
銃の弾を切ったあと、俺の喉に向かって刀が突き入れられる。
あー…と思った時には、良平の隣にいた。
「おお。これは全滅かな」
あたりを見渡すと、風紀委員ズもつまらなさそうに座りこんで良平の覗き見の魔法を見ていた。
「たぶん全滅やねぇ」
ほどなくしてやる気をなくした一織が合流。
完敗である。
「手を抜くにしても全滅はないんじゃないかに?」
首を傾げたこーくんはまったく可愛くなかった。
「とりあえず、私たちに紹介するべきよね、この子達を」
こーくんは、いやに簡潔な説明をしてくれた。
「これが、本線出場メンバー。そんで、あれが叶ちゃん率いる愉快な仲間達」
「死ぬのか?」
諦めたような目で一織がこーくんを見ていたけれど、冷たいツッコミを分析がしてくれた。
「生きる…!詳しく説明するとだに、俺がチームリーダー。召喚士の千想(せんそ)こと千ちゃんと、ナイフ投げでおひーさんの師匠の妃浦。あと、お姉な言葉遣いだけど、立派な男の子、みーさんこと、満(みつる)さんだにぁ」
みーさんだけ、紹介の仕方がちがった気がするが、気にしないことにして、俺はチームメンバーになってくれた四人を紹介する。
「じゃあ、こっちは俺が。あそこでふてくされとって眉毛がないんが青磁。あるのでちゃらっとしとるのが副委…佐々良。俺の隣にいるのんが良平で、あと一人はご存知の一織…で、一応、はじめましての人もおるし言うんやけど、こーくんの幼馴染の叶丞です」
「おお、君が叶丞くんか。学園のシュミレータ壊した」
その小っ恥ずかしい伝説はいつまで言われ続けるんだろうなぁ。
初対面のはずである分析野郎、千想さんが嬉しそうに応えてくれたというのに、俺は複雑な思いでいっぱいだ。
それにしても、千想さんは何かどこかで感じたことがある気配なのだが、他人の空似なのだろうか?
こーくんは魔術師に知り合いが多い。妃浦とみーさんは固定であるのだけれど、レースに出るたび出るたび魔術師が違う。今回も変えてきた。だから、知り合いじゃなくてもおかしくないのだけれど。
そう思えば疑問がもう一つある。
「ところで、妃浦、ひぃの師匠なん、マジで?」
「おーマジマジ。気がつかなかったか?」
「あ、やー…妃浦の戦こうとるの見る時、いっつもみーさん前衛、妃浦後衛やってん」
「…それは、ナイフしか投げないな」
おかげで妃浦は俺のなかで投げナイフの人。
本人も直接攻撃をするより、ナイフを投げる方が得意であるらしいから、ああして一織と切り合いをしている姿を見てようやっと短剣使いでもあるんだなと気がついた。
「そやから、ひぃもすっごい装備やってんなぁ…」
「そうだな。妃浦さんが投げてくるようだったら、投げるつもりで持ってきたが…やはり投げるより直接攻撃の方が性に合うな」
頷いて、手のひらを開いたり閉じたりする一織。
師匠と方向性とか変わるもんなんだな。
「弟子の旅立ちってのは早いもんだな…私も年をとるはずだ」
「あらやだ、おっさんくさいわよ。もうちょっとわかぶりなさいよ」
「わかぶるのも結構疲れるものだぞ、親友」
何か若くない会話をしているが、年齢的に二人とも若い。ただ、妃浦が急に世界を見てくると言って飛び出して帰ってきて復学、意気投合したみーさんを連れてきて、みーさんの実年齢を知りびっくりした。という経緯があり、みーさんのほうが妃浦より年下だったはずだ。
「…反則のまわりは濃いなァ…」
思わずつぶやいた副委員長に言わせていただくと、あんたも十分濃いですよ。
昨年のレースで好成績をとったチームは、予選を受けずに本選のレースに出られる。所謂シードってやつになれるわけだ。
そのシード権を持っているこーくんのチームは、本選で初めて今年の魔法自走をお披露目、となるわけだが。
この前と同じ食堂で同じように食事をしながら、こーくんは設計図を描く。これが今年のものではないことは分かっていても、思わずじっくりと眺めてしまうのは、生粋の魔法機械都市人だから仕方がない。
「叶ちゃんの視線が熱いにぁー。そんなに好き?叶ちゃんなら…俺、いいと思うんだに。お付き合いでもしとく?」
何がいいんだ?俺のケツ処女が危ないということか、それとも、こーくんのケツ処女が危ないということなのか。
とりあえず冗談であることはわかっている。
「断る」
俺が何か言う前に一織が断ってくれたんだが、普段の一織ならここは、茶化すところではないのだろうか。しかも、ブラックというか、こーくんと一緒になってからかう方向に。
「断られたにぁー」
「にぁーにぁー言ってると、犯すわよ」
ふふ…と笑ったみーさんは、綺麗な箸使いで川魚を解していた。
こーくんを見もしないで、見るからに面倒くさそうである。
「敵ばっかりだにぁ…」
「寿なら仕方ない。叶丞、あんな野郎になってはいけないぞ」
せっかく気を使ってスプーンを持ってきてくれたというのに、スプーンも使わず豪快に口に入る限界まで麺を巻き込んだフォークだけを口元に運ぶ前に、妃浦がそれで俺を指した。
「無作法だぞ、妃浦」
良平に食ってかかっていた千想が、ちゃっかり注意した。食ってかかられて辟易していた良平はこれ幸いと青磁と席を交代する。これまたちゃっかり隣に座っていた青磁が素早く交代することにより、ご主人様を煩わしい話題から遠ざけることに成功したようだ。
副委員長は一人、鼻歌を奏でながら妃浦と同じ料理を口に運んだり、みーさんの刀について尋ねたりとなんだかご機嫌なご様子。
「なぁ…なんで、副委員長、ご機嫌なん?」
「んー?面白いことに気がついたから」
「やな感じやわ」
楽しそうな副委員長は、くるくると麺をフォークに巻いていく。どこかの誰かとちがって綺麗に、無理のない量を巻き取って、副委員長は続けた。
「そうだろうよ。ま。反則には関係ないことだな」
「なら、ええかな」
薄情なようであるけれど、関係してこないことには首を突っ込んでも面倒くさいことになってしまうだけの可能性だってあるわけだし。
できたら何もしないでいたいなとは、思っているのだ。
結構トラブルって勝手にやってくるけどね。
「それより、副会長、なんで反則の代わりに断ってくれてんだ?」
「それは、俺も聞きたいわァ…」
「いいのか?聞いて後悔しないのか?」
一織は、食べていた蕎麦を食べることをやめるだけでなく、箸を置いてまで尋ね返してきた。
もしかして後悔するようなことなのだろうか。ちょっと気まぐれで庇ってくれたのか、こーくんに対しては常にあんなものなのかと推測していただけに、ちょっと聞くことを躊躇う。
「後悔するん?」
「言った俺が後悔する」
「…一織さんや、それは言わんほうがええとおもうよ…」
「副会長、そんなキャラだったか?」
今まで一織と深いお付き合いをしてこなかった副委員長も食事の手を止めた。そう、一織は割とそういう性格である。
「まぁ、簡潔に言うと」
「言うんかい」
「十織と付き合うならまだしも、冗談でも寿と…ちょっとまて、今、鼻で笑えるほどおかしい事を言った気ぃする」
会長!お兄ちゃんから微妙に許可が出ましたよ!付き合ってください!…といったところで、会長にその気はない。悲しい妄想をした気分だ。
ちょっと会長のことが出て心がはしゃいでしまったが、一織のいっていることはまるで、俺が好き…みたいな。それでいて、こーくんをすごくぞんざいに扱ったような…。
「ぽろっと告白された気分やわぁ…」
「求愛しておいて、今更か」
「そんなつもりあらへんやろ」
「そうだったな。あのときは」
おとなしくお話を聞いていた副委員長と、相方が二ヤァ…と笑った。
◇◆◇
いやらしく笑った良平さんを見て、俺は叶丞を見る。
うわぁ…やっちまったな。という顔をした叶丞はしばらくからかわれることだろう。
良平さんをそれとなく眺めながらも、隣で悔しそうにしている千想に少し気を向け、佐々良に視線を移動させた。
佐々良は、視線が合うと叶丞に向けた笑みとは違う笑みを俺に返して、口を少し動かした。
読み取りづらいそれを読んで、俺はため息をつく。
良平さんが巻き込まれねぇのなら別に何があっても構わねぇし、佐々良の人を馬鹿にした態度にも慣れきっている。人が拗れる様子を楽しんでいるところも簡単に無視できる。
たとえ少し親しい人が巻き込まれようと、それは気にするほどのことではない。
しかも、佐々良の言うとおりにすることで良平さんが巻き込まれることを未然に防ぐことができるというのなら、俺は簡単にそれに従う。
だから、佐々良の提案を黙って頷きもせずのむことにした。
「青磁」
少し不機嫌そうな良平さんの声を聞いて、視線を再び良平さんに向ける。
おそらく佐々良の唇を読んだのだろう。さすが、良平さんだ。
「良平さんにも、叶丞にも、関係ねぇよ」
「ならいい」
良平さんの言葉は簡潔だった。
声を大にするような話題でもないと判断したのだろう。時間は限られているのだから、できるだけ無駄は省きたいというのが良平さんの考えだ。俺はその考えに則ってできるだけ良平さんの無駄となることは近づけたくない。…だから、風紀委員などという面倒極まりないことをしているのだ。ちょっとやりすぎた感は否めないが。
「ところで、一織は叶丞をどうしてぇの?寿をコケにしたいのはわかる」
「お前、本当、人の話理解しようとしないよな」
どういうことかわからない。というより、あまり興味がない。だから、深く考えないし、理解もしない。言葉は自分に必要だと思ったことをつなげて聞いている。
だから、言葉を音として聞いてはいるものの、意味としては理解していない。
「そんなに…今は、大きくねぇんじゃないかな…。時間の問題のような気もするし。叶丞がなぁ…会長に本気なのかそうでないのか」
ぼそぼそと俺にだけ聞こえる声で、口元をパンで隠しながら話してくれる。
「あれは、本気だ」
俺は読み取れないようにあまり口を動かさないで話す。
良平さんのことではないが、良平さんの興味の範疇である叶丞自身のことは把握している。…友人であるということも、ある。
「ふうん…泥沼だな」
先とおなじように二ヤァ…と笑った良平さんから視線を外して俺は思う。
たぶん、それはないだろう。
良平さんも口ではそう言うものの、そんなことは一つも思っていないに違いない。
一織はちゃんと宣言しているのだから。
本選第一レース。
といっても、対学園戦だとかいう大規模な就職活動でもなければ学内トーナメントでもない。レースの形式は何台かが同時にスタートするタイプだ。
スタートの合図と共に走り出す魔法自走。その数、十。ちなみに、今回のレースには、こーくんのチームはいない。しかしながら、良平はお目当てのチームを見つけたようだ。ニヤニヤと笑っていた。…さすがに執念深い。
「あれだけ大見栄きったんだから、そうこねーと」
それはたぶん悪役のセリフだよ。と言えないのは主人の怒りは我が怒りと、静かに殺気立つワンコがいるからです。
「いやぁ…怖いねぇ…しっかり結界張っといてね」
仕事する気ないんじゃないかとしか思いようのない副委員長は置いといて。
俺は魔法自走を走らせながら、他九台のデータを出した。
良平と一織によって改造された魔法自走は素晴らしい走りで、序盤でデータを出すくらいには余裕がある。
「良平が落としたいのはこれやけど、速さ重視の防御型やね。んー…どうなんやろ…」
幸運でここまできました。という感じの強い、最新型微改造。速さ特化で魔法使いが2人その他二人の計四人。魔法使いは防御につかって、魔法使いではない人一人が魔法自走を操作、もう一人が攻撃。
一応バランスはとれている。
「あれを落とすには邪魔なのが何体か、だな」
良平を助長するのは一緒に怒れる忠犬だけではない。
我らが男前副会長様もノリノリで計画に加わってくれている。
「せっかくだ。減らせるだけ、減らす」
戦闘民族怖い!できたら全滅って呟いたのが聞こえた。
「俺は運転に集中させて貰うで」
攻撃に夢中になって鳶が油揚げってこともあるだろうし。
良平も一織も快く頷いてくれた。
「とりあえず、あそこの二台、落としてくる。リョーヘイ、よろしく頼む」
「おっけ。いってらっしゃい」
何がオーケーなのかは俺も知らない。良平と一織は、つい先日から何やら色々話し合っているようで、知らないうちに今日の襲撃作戦も立ててしまったようなのだ。
「キョー、スピード上げろ」
良平にはよろしく頼むで、俺には命令という親しみなのか、扱いの差なのかを考えつつも否やはない。一織がそういうのなら、従って悪いことにはならないと、それなりに信じているからだ。
俺は障害物を避けるとすぐに、速度アップを念じる。イメージは急行から快速。いや、もともとそれより速く走らせていたがイメージだから。
コースは時々障害物があるものの基本的には連続カーブや直線、緩やかなカーブ等が作られている。普通の車のレースとあまり変わりない。
スピードを上げるのはやはり直線。すぐにカーブがあるが、俺は減速しない。カーブにさしかかろうというところ、一織は席から立ち上がり、魔法自走の硬い部分を蹴る。
序盤といえどそこはもはや戦場。銃弾が飛び交い、魔法が飛び交う、そんな場所。
うちはどこよりも早く結界を張り、結界を破壊されるのも邪魔して、ぶつかってくる魔法自走も軽々と避けてきた。
まだ一台も脱落しておらず、銃弾も余裕な序盤。初めての大技は貧乏神様、宙を舞うとは…。
視点をいくつか作っていた俺は、一織の狙った二台がうちの魔法自走の後ろについた時、後ろに飛んでいく一織を見た。…心臓が止まるかと思った。
タイミングよく良平が相手さんの結界を瞬間破壊。飛び移った一織はニヤリと笑ってナイフを投げつつ、もう一台へと飛び移る。もちろん、そこも結界は崩されていて、一織は難なく飛び移ることに成功。そのまま勢いを殺さず手に持った愛用のナイフで車体に真一文字を描く。そして再び宙を舞う。トラウマものだ。
「雷撃、展開」
その後を追うように滅多に使われない良平の攻撃魔法が飛ぶ。雷撃とはなるほど考えてある。刺さったナイフとざっくり出来た傷を狙って、最小限の力で機械類をダメにする。外装はそれなりに攻撃を耐えるようにできているが、内部は繊細なものだ。ちょっとした電撃でアウトである。傷をつけた方は運悪かったのか、それも計算の上なのか。ちょっとした爆発を起こしてしまい炎上までした。その爆発によっておこされた風に乗り、中にある何かをけった上でこちらまで戻ってきた一織を青磁が糸でキャッチ。
「すっげ。何の神業?」
度肝を抜かれた。というよりとても心臓に悪い光景でした。
しかし、このカーブを利用して攻撃を仕掛けたかったのだろうな。というのはわかる。
先行するうちの魔法自走が曲がりきったそこで、遅れた魔法自走から最短距離で…曲がる前と曲がりきった後のすれ違うような瞬間を狙い、飛び移りたかったのだ。
飛び移るにはどうしても風の抵抗だとか、距離だとか、魔法自走の走る早さだとかが関係してくる。
先行しているものから、後ろへと飛ぶのは並んでいる状態で抜くや抜かんやと競っている時よりは、難しくない。…いつ平行がずれるかわからないものに飛び移るのは精神的にくるのだと、一織は後に教えてくれた。
カーブを狙ったのも距離の問題もあったのだが、スピードも考慮してのことだ。運転している奴らは、カーブが差し掛かると集中を余儀なくされ、他のことなんてしやしないし、ある程度スピードを落として曲がり切ろうとする。俺は上げたスピードでも曲がり切ることができたからそのまま最短内側で曲がったわけだが、安全で、できるだけの速さで曲がり切るためにスピードを落とすものだってもちろんあるわけだ。
カーブでクラッシュしちゃやってらんないし。特に、学生で、初参加。幸運にも本選に残った連中にとって、分かってはいても安全を取りたくなるところ。
それらをすべて考えたうえで、序盤にあの二台を狙ったのだろう。計算されたものでも、心臓にはとても悪い。
「ひぃ、宙でなんか蹴っとらんかった?」
「あぁ…糸を」
どうやら青磁の糸は一織を受け止めるだけでなく、途中にも用意されていたらしい。障害物とコース案内のために浮かべられたコーンのようなものに糸をはって、そこを通り過ぎる際準備していたようだ。
熱風で焼けてしまわなくてよかったなぁと思う。
しかし、そこも抜け目無く考えられていたらしい。
「一応筋力強化と速度アップと補助のために風も起こして、爆風からの防御のためにちょーっとばっかし簡易結界発動させといた」
結界の細かい位置指定はお手のもの。動く一織の服に位置と速さを考慮した上で結界をはったらしい。ちょっとでもずれたら、どうなるんだと、すごく恐ろしい。もちろん、糸にも強化をかけたらしい。
今回の夏休みは、ドーピングのための魔術も瞬間展開できるようにしてみました。と、良平は自慢げだ。
今までのアレやソレやはドーピングではないと言い切るつもりか。
「良平、それ…力の残りは?」
「大丈夫。そこはちゃんと最小限で計算してある」
使うつもりはないけどドーピング用品もあるし。と出してきたのは先日も見かけたステッキ。補助用品は補助用品でも、力の補助。足りないものを補うものらしい。
「棒状じゃなくてアクセとかなら使いやすいのに」
と、良平がぼやくので、後々こーくんにお願いにあたった俺は友人思いといえたかもしれない。
さて、早々に二体撃破で、しかも貧乏神様が舞うという、あいつら狂ってる。という印象を植えつけたのだろう。なんか若干避けられている。もうこれ以上は貧乏神様発動しないって。警戒されてるし、神経使うだろうし。
二台落としたあとの俺達といえば大人しいものだ。良平はまだ憎らしい敵機に攻撃を加えるつもりはないらしいし、一織に至ってはもう仕事は終わったなって気配すらある。副委員長は最初っから見物気分だし、青磁はだいたい主人の動きに従う構え。
防御と回避を繰り返しつつ、なんだ、あれはあの時しかできなくて、攻撃もこの程度しかできないのか。と思わせ、油断させるという、いい方向に考えることもできるが、このメンツに限ってそれはない。
ただ単に今は他の機体が減るのを待っている。といった感じだろうか。
「…残りうち合わせて、五台」
しばらくして俺が残りの台数を告げると、良平がもぞりと動いた。
「まだ落とされてないな。防御と速さ、だけじゃなさそうでなにより」
良平の笑い方が非常に悪役ばんでいたので、操作を誤るかと思いました。
スピード上も、撃破数も、現在トップの俺達チームは、あいつら狂ってると思われていることもあってのうのうとコースを走り続けている。
もちろん、最大速度はだしていない。
どころか、直線なら俺がちょっとくらい手放してもいいくらいの余裕がある。
「そろそろ他から攻撃来るっしょ」
「そやろねぇ…」
副委員長が呑気に後部席で足を組む。
本当にレースを一番いい席で観覧してる気分だ。
「じゃあ、しばらく結界はらないから、回避と防御よろしく」
「…はい?」
「ちょお、良平…」
「ドーピング使ったら、ドーピングだからってまたブーブー言われるから」
それはわかる。わかるが、結界なしで全力で戦えと?
「弾くらいいくらでも避けたりはじいたりできるだろうし?避けきれなかった魔法は、俺が最小限の結界はって途中で邪魔してやるし?」
それが自信満々に宣言できるのは良平くらいだろうよ。
「…全力で叩き潰したあとは、張り直すし」
さようで。俺は少し悩んだあと、ため息をついた。
いつも頼りにしている相棒のわがままだ。しかも、魔法使いとしてのプライドでのお願いだ。
叶えてみようか。レースにも参加してもらったことだし。
「ひぃはお疲れやろうけど、流れ弾よろしゅう。青磁はわかっとうと思うけど、魔法自走防御。副委員長…」
「佐・々・良」
「はいはい。佐々良も軌道そらし、あと、できたら攻撃も頼んます」
狙撃用の銃を副委員長…佐々良に渡して俺は視点を増やす。
「俺は指示と運転、あとちょこっと補助に集中するから…あ、良平」
「あいよ」
「何かするときはちゃんとお話しといてくれると嬉しんやけど」
「あー…こっから魔法が飛び出すことはねーから…んー…転移弾みたいなもんをあっちに直接やる予定」
「ん、了解。じゃ、あとは各個信じとるから」
ふと、隣で一織が嬉しそうに笑った気がするが、気のせいだろうか。愛用のナイフを片手に、もう片手には投げナイフを構えた。
良平は当然だろう?という顔をした後、結界を解き、魔術の術式をイメージし始めた。組立はおそらく一瞬だろう。
青磁は一度頷き、目蓋を閉じたあとゆっくり開いて、手のひらを閉じたり開いたりを繰り返した。それだけで糸が流れ、風を計算しながら指の細かい動きで動かしていく。
その中、佐々良が鼻歌を歌いながら普段はあまり使わない狙撃銃を構える。
「ノーコンでも許せ」
そうはいうものの、狙撃の成績だって悪くないことを俺は知っている。
一応制御システムに車体を揺れないようにするためのソフトもインストールしてあるし、俺も運転するうえで気をつけてはいるが、揺れるものは揺れる。
どこまでやってくれるかはわからないが、あの正確で嫌味な速さと銃弾の軌道の読みを俺はとてもあてにしている。
攻撃は、やはりスピード勝負を得意とする佐々良から始まる。
一発目は、おそらく試し撃ち。
一応他の魔法自走に当たったが、ここから風の抵抗、銃器の癖などを考慮して微調整しながらの攻撃が始まる。
「さすが、反則の銃。素直な軌道だな」
癖があるのは貸さない。計算できるといっても、手間は省くものだ。
「次、エンジン部に続けて三発。反則」
「叶丞ていうてくれてもええよ」
「…ちゃっかりしてる。叶丞か良平さん穴開けられる?」
良平は答えない。どうやら魔術に集中しているようだ。
では、俺が応えてみよう。
「秘密兵器なやけど、これ、良平の術式入り」
もちろん結界を破壊するための。
全部を壊すこともできるだろうが、最小限に済ませられるのならそれがいい。小さい穴だけでいいのなら、それだけに集中させていただく。
「できるわけか。さっきの着弾タイミングはどうせ見てんだろ?撃つ合図はする。あとのタイミングはよろしく」
「はいよ」
片手に弾丸を二つ、切り替えレバーと一緒に持って、スコープを覗く。
おそらく、早撃ちが早いのは瞬間の判断だ。どこを狙うか、狙いを定めるか、いつ、引き金を引くか。
一瞬という点において先読みもそれなりに得意なのだとおもう。
「撃つ」
カウントもなく第一射が発射される。
「展開」
俺は着弾スピードを予測、計算し切った上でギリギリに結界に穴を開ける。この手の計算は得意中の得意だ。
第一射を撃ったかと思うと、切替レバーを引き、空の弾薬を銃器から落とすと、レバーを押し、再び弾をセット。それを第一射が着弾する前にやってしまい、立て続けに第二射。それにあわせて、貼り直された結界を壊す。それをあと一回。寸分違わず第三射。
その頃にはこちらに飛んでくる銃弾と魔法。
飛んでくる銃弾をナイフを投げて対応する一織は、ほぼ同時に三本ナイフを投げて空中で追尾弾を落とす。という器用な真似までしている。
青磁は青磁で、各個の視界を邪魔しないように糸を広げ、その一本一本を器用にも操るという超人ぶりで見事に機体を守ってくれている。
俺は第三射が発射されるや否や、スピードを上げ追ってくる銃弾や魔法を回避。
「これやっぱ、風の抵抗しんどいんやろねぇ…半分でもフロントつけといてよかったわぁ」
結界があれば、それも気にせずうまいこと風よけを作ることもできるのだが、今はそれがないため、風の抵抗を受けまくりである。
「ま、とりあえず一台撃破できたようだし、いいんじゃねぇの?」
一仕事終えたというように、佐々良が愛用の銃を構えた。
どうやらもう撃墜する気がないらしい。
敵機残り三台。
良平の手が動いた。狙っているところからの攻撃だったらしい。こちらに向かう途中、良平の結界に阻まれる。同時進行とか、頭おかしくなるって。
「叶丞、も少しおとせ」
そんな相棒のいわんとするところをそれだけで理解した俺は、スピードを心持ち落とす。
「上出来」
良平がそう言うと、拡散していた力が、一瞬にして形を成す。
良平の狙っている魔法自走の真下と真上に、だ。
その術式は結界を崩し、上と下で雷が光の速さで何度も行き交う。
「……あれは、中の人は大丈夫なんでしょうか、良平さん」
術式のコントロールはまだ続いているようで、話してはくれないのだが、ニヤリと笑ってくれたので、たぶん同時に中の人を守るための結界でもはっているのだろう。
よくよく術式の多重展開が好きな男だ。
「大活躍だったにぁ、叶ちーん」
最終的にはうち含む三台が残り、うちは第一レースのトップでゴールした。
第一レースは初参加をまとめ、予選通過の成績が悪かったチームをいれているため、トップだったとしても大したことはないと思われがちだ。
だから、レース常連のこーくんに誉められても嬉しくない。
「私怨に走った結果やしなぁ…」
「でも初参加、初本選で、四台撃破とか…鬼の所業だにー」
第一レースは、初参加と成績の悪かった連中を集めたレースであるためあれほど一チームが飛び抜けて撃破するということがあまりない。
第一レースに配されたチームは大体が、いっぱいいっぱいだからだ。
せっかく参加したんだし楽しんでよというレース管理側の意図もあるのかもしれない。
今や常連であるこーくんも、初参加時、撃破は二の次でぶっちぎりゴールをしていた。…たぶん、撃破に興味がなかったのだ。
「や、でも経験者一人、別のレース経験者一人やから、こんなもんやって」
「こんなもんとかじゃないにぁ絶対ないにぁ。おひーさんとか、新たに疫病神ってあだ名が」
「…へえ?」
一織がいかにも嫌そうな声をだし、嫌そうな顔でこーくんをみたが、こーくんはお構いなしだ。
「あと、良平くんは結界と機械類の敵ってことで、破壊神」
「神様が好きなんだ…?」
目立ったのはこの二人であるため、恥ずかしげな名前がついたのはどうやらこの二人だけのようである。
「寿、そろそろ行くぞ」
「あ、了解。…というわけで行ってきますにー」
ぶんぶんと音が出そうなほど手を振って去っていくこーくんを見送ったあと、エントランスのソファを占拠して、レースを観覧することにした。
学園のせいでモニターを見るくせがついている我がチーム面子は誰一人として、疲れたからと寝に帰るような奴はいなかった。
「この前の戦いくらいじゃこーくんの実力とかさぁーっぱりやと思うから、じぃーっくり見とくとええよ。こーくんちが厄介なんは魔法自走。あと妃浦さんの防御力…は、まぁ、ひぃみたらわかるわな。千想は今日実力発揮してくれたらええね。あと、最悪なんはみっさん。衝撃波とばしよるんよね」
鋭くて素早くて、範囲の広い一撃で、これが厄介なこと防御が難しい。
みっさんの武器である刀は、いわゆる妖刀と言われるもので、切れないものも切るということで有名だ。 切れないもの…魔法で作った結界であるとか、魔法そのものであるとか。
つまりあれを防御するには衝撃波を散らすか、衝撃波が貫通してしまわない壁をつくるしかない。
みっさんはフラフラとどこかへ旅に出ってしまったりしてしまうため、参加していない時もあるが、常連たちのチェックは早く抜け目ない。
一応なんとか回避という方向にでている。
ただ、いちいち回避行動に出なければならないため、牽制としては大変役にたっている上に、魔法すらきってしまうため、防御力も高い。
「せんせーこーくんの槍はどうなんですかー?」
「ええ質問や、副委員長!」
「佐々良」
「あ、佐々良君。で、や、あの槍、何度投げても戻ってくるだけの槍なんやけど。その特性を最大限に利用しとるのがこーくんで…まぁ、みとってみ?」
「はーい」
佐々良のいい返事を聞きながらモニターを眺める。本選第二レース。曲者ばかりを揃えた色ものレースの開始はもうすぐだ。
「どうせ、トップで疾走するのは寿だろ」
俺の隣に座ってモニターを眺める一織が呟いた。
「せやね。毎回、撃破数がたりひんで、トップにはなられへんけど」
トップになるためにレースに参加しているわけではないこーくんにとって、トップなんてたいしたことじゃない。
「けど、俺が出るんやったら話は別や。全力で邪魔してくんで、こーくん」
モニターを眺めていた一織が俺を見てきたが、俺はモニターから目を離さない。
モニター内では千想さんの召喚獣が飛び回り車体を攻撃している。
魔法ってほんと、すごい飛び道具。
「ちょっとしたな、こーくんのプライドやねんて。たぶん、ひぃにはちょっとわかると思うで」
「……?」
「んー…ま、好きゃねんって話やんなぁ」
「…あの野郎は許さんぞ」
俺は他のチームも視線で追いつつ、笑ってしまった。
「こーくんはないわ」
◇◆◇
幼馴染が魔法機械都市から出ると言った時、快く見送ってやる気がまったく起こらないくらい、俺は反対をした。
幼馴染が俺の最優先で、俺のすべてにおいてスペシャルだったからだ。
しかし、俺にも一つプライドがあって、それだけは幼馴染が何かを望んでも、俺がどんなに後悔しようとも貫かなければないらないものだった。
俺は、プライドのために、俺のスペシャルを諦めた。
その代わり、約束をした。
俺が学園を卒業し、ちゃんと就職したら、帰ってこいと。
幼馴染…叶丞は『めっちゃ、こーくんの都合こみこみやん』と言いながらも了承してくれた。
叶丞は約束を守る。
たとえ俺の優先順位が変わっても、俺のスペシャルが変わってしまっていたとしても、期間延長を申し出ても最終的には守ってくれる。
俺は知っている。
「なぁ、やっぱり戻らなならんのかなぁ」
第二レースを終えたあと、俺と二人っきりになると叶丞が呟いた。
本当は、前の年に帰ってくる約束だった。
今は、昔ほどこだわってはいない。けれど、叶丞をこちらに戻したいのにも俺の都合以外にも理由があるのだ。
叶丞も解っているからこそ、強くでない。
「もう、一年半くらい延長したしにぁ…」
あと一年半くらいなら待てそうなもんだと思いつつも、それを言ったりしない。
「なぁ。こーくん」
「なんにぁ?」
「戻ってくるのはええんやけど…むしろ、こっちにおった方が俺の都合もええし。わかっとるんやで。でも」
「あと、一年半?」
「そや」
頷いて、しばらく叶丞は黙って、そのあと困ったように笑った。
「好きなん」
「…恋愛?」
「それも。でも、や。ほれたはれたくらいやったら、こっちに帰って来とったよ。それ以外にもちょっと、あっちに作りすぎて、楽しみすぎたん」
見たらわかる。
慌てないなら、いずれ、卒業という別れがくるのだから、叶丞は必ず帰ってくる。
時間はあと一年半も残っている。
けれど、その一年半を待てないことだってある。
「俺は、もう一年半くらいええんやにー。けど、一年半が無駄と判断されたら、こっちに戻ってこざるをえんやろにぁー」
「今の一年半も無駄ではないんやけどねぇ。去年も成果は見せたから、あれから一年、延びたんやけど」
今年はどやろなぁ…なんて、叶丞に言われてしまうと、叶丞をこちらに連れ戻しづらい。
一年半、またなくていいのなら、俺は引っ張ってでも、嫌がられても、叶丞をこちらに戻す。
「別に悪いことでもないのににぁ」
「今みたいなんは今じゃないとできひんからなぁ」
わかっとうから、渋っとるん。
そう聞こえたようで、今度は俺が困ったように笑ってしまった。
「やったら、成果とやら、みせつけたらんと」
「そやねぇ…って、こーくん。言葉言葉」
「しもた。俺としたことが、油断大敵だにぁー」
「それにしても、他の連中遅ない?」
「置いていかれたに一票」
「んー…気配が遠のいていっとるなぁ」
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