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まさかの連続。
本文は続きからどうぞ。
俺には、きっかけがなかった。
松見を気にしだしてから、これでも俺は色々試したのだ。わざわざ図書室が見える渡り廊下を歩いたり、借りたままになった本を読み返したり、元図書委員長とメル友になったりもした。
けれど、図書室に通って、松見に近づくという行為がどうしてもできずにいたのだ。
それでも接点を求めた俺は元図書委員長にメールをし続けた。
元図書委員長は俺が本を読みたいという理由をつけて接触をしたため、メールで様々な本を紹介してくれたものだ。おかげで、図書室にはいけぬまま、俺の部屋に通販した本が積み上がった。
元図書委員長は本を紹介しているうちに、松見の名前を出すようになった。俺が元図書委員長の紹介する本の偏りを指摘したからだ。さすがに元図書委員長の趣味であるドロドロの恋愛は食傷気味だった。
元図書委員長いわく、松見は様々な本を読むらしい。松見くんに聞いておくねとメールをくれるたび、くわしく話してくれと返信すべきかいなか悩んだ。
松見のオススメ本だというものを確認し、読むたびに、松見がどんな人間かを想像した。松見は本当に色々な本を読む。オススメされた本で本棚を形成しても、松見がよくわからなかった。
そうして時間は過ぎ、俺は最終学年になったのだ。
このままでは松見と接触などできやしない。きっかけなど、図書室に行くだけで作れるではないか。そうは思うものの、図書室に行くというきっかけを作れずにいた。
しかし、ここにきて俺にチャンスが到来したのである。
新入生という存在だ。
そいつは、俺の親族にあたり、入学してしばらくするとホームシックにかかった。
外国から学園に入学したのだから、わからないではない。国内にいてさえ、それにかかるものは少なくないのだ。国を超え、使っている言語さえ違う場所にくれば尚更だろう。
そいつは寂しさのあまり、親族である俺の部屋に住み着き、そいつの母国語で何か話せというのだ。
会話をすれば良かったのだが、俺はここで思いついた。
本だ。本を読み聞かせたらいい。
そして俺は元図書委員長に本を探していると言ったのだ。
図書室に案内して貰って、かりる。そうすれば図書室に行けるし、あわよくば松見に会えるだろう。かりたら返さねばならないし、うまくすれば二回もチャンスがある。
探す本を王子さまにしたのも、下心あってだった。
その下心をうすうす感知していたのだろう。元図書委員長は俺に、松見を紹介したのだ。
結論からいうと、俺は松見が好きだった。
呼び出して顔を合わせた松見は、有名人すぎて面倒であろう俺に臆することなく、ついでとばかりに本をすすめる。
しかも、本を探せとなぞなぞまでだす始末だ。
俺はそれを楽しんだし、ちょっと乗り気ではないふりをしたりもした。
松見は楽しそうであるし、親族も読み聞かせを楽しんでいて、俺は毎晩急かされる。
ついでにわざわざ、話を読んだ後に違う言語で説明している間に、俺の言語能力もアップしたと思う。
俺も楽しかった。
しかし、松見はある時をさかいに、俺に適当な態度を取り始めた。慣れや親しさではなく、それは、遠ざけたい態度である。
俺が読むといったあたりだ。
松見は明らかにおかしかった。食い下がって月の話までしたというのに、余計におかしくなった。
月が綺麗ですねと軽口のように言ったが、俺は松見に同じように綺麗であると言って欲しかった。俺は、松見がいればどんな月とて綺麗に見える気がしていたからだ。それを不実の証だいわれたら、食い下がりたくもなる。
しかし、松見は俺に有無を言わせなかった。仕方なく俺は本を見つけ出し、おとなしくそれを読んだのである。
読んだ怪人の恋物語は、悲しいだけで面白く感じられなかった。
早々に本を読んで図書室で松見を確保してみれば、月なんてなければいいという。
恋したのは夢幻だと、松見に月が綺麗だなんていってしまう俺にいうのだ。
ちゃんと告白する前から、俺は振られた気分になった。
そうして、俺は机に本を2冊並べたまま返せないでいるし、かりられないでいる。
『でもぼくはまだ、あまりに子どもで、あの花を愛することができなかった』
それは、松見が気恥ずかしいといった言葉だ。
俺は、何度も何度もその部分を読み直し、思う。
「読んでもらいてぇなぁ」
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