書きなぐり あなたが好きだった。6 忍者ブログ

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最後が2014年とはおそれいったぜ。

図書委員長×生徒会長


本文は続きからどうぞ










生徒会長なんて面倒なこと押し付けられて、イメージたもてだとか、じゃなきゃ犯されるやべぇとか、まだいわれていた時だ。
言われるがまま、傲岸不遜だがいい生徒会長ぶるのは疲れてしまっていた。
生徒に追いかけられるのもいやで、図書室に逃げ込んだ。
そのへんにあった本を脚立に積み上げ、カートをそばに置き、その陰に身を隠すと小さくなって息をついた。
深く、長すぎるため息は、本に音を吸われたのだろう。頼りないか細いもののように聞こえた。
「もうちょっと読んでくれてもいいんじゃないかな」
そこに明るい、図書委員長の声がきこえてきたのだ。
俺は吐いたばかりの息を詰め、身を更に小さくする。
「俺が何度も聞かせるような本じゃないっすから」
図書委員には珍しい、体育会系のようなものいいの男が、図書委員長に何か強請られているらしい。嫌がる声は俺のいる場所の近くで止まった。
「読ませるってのがいいんだよ、ほら、読んで。委員長命令」
「仕方ないっすね……」
こんなところで読むのかよと、文句をいいたくなりながら、俺は俺の腕を掴む。そうして動かないように気を配っていた。
そこに来たのは俺を見つけて騒ぐタイプではないと、会話からわかっていたが、なんとなく出て行きづらかったのだ。
「『ぼくはあのころ、なんにもわかっていなかった!』」
少しすると、委員長命令をされた男の声がした。情感を込めているわけでもなければ、特にいい声をしているというわけでもない。
けれど、たくさんの生徒がいながら静かな、物音ひとつたてまいとしている教室で教科書を読んでいるような響きがあった。
「『ことばじゃなくて、してくれたことで、あの花を見るべきだった』」
よどみなく、一定のスピードで本を読む声に、俺は不思議と落ち着いた気分になったあとそわそわし始めた。隠れているにもかかわらず声の主が気になりはじめたのだ。俺は欲望のまま顔を上げる。
「『あの花はぼくをいい香りでつつんでくれたし、ぼくの星を明るくしてくれたんだ』」
俺が顔を上げると、本を読んでいたはずのそいつは、一度声を止めた。
本から顔を上げ、こちらを見たらしい。こちらからは本越しにしか、そいつが見えなかったし、そいつも俺がよく見えなかったようだ。
しばらくこちらに目を凝らしているようだった。
「え、もう終わり?」
「終わりたいんすけど」
「せめてセリフの最後まで読んでよ」
そいつは、どこかにいるだろう図書委員長に促され、迷ったふりをして、片手を……おそらく指を一本、口元にもっていて、これもたぶんだが、笑ったのだ。
「『ぼくは、逃げだしたりしちゃいけなかった!』」
その動作が何を示すか一瞬わからなくなり、俺は身動きが取れぬまま、その声を聞く。
「『あれこれ言うかげには愛情があったことを、見抜くべきだった』」
すぐに口元に持っていた手は本に戻り、先と変わらぬ調子でセリフは紡がれた。
どこかで聞いたことのあるセリフだ。
「『花って、ほんとうに矛盾してるんだね!』」
俺が顔を元の位置に戻し、なんのセリフであったか思い出している最中に、声は再び止まった。もしかして、セリフは全部終わってしまったのだろうか。
「だーかーらー、セリフ、全部読もうよ!」
「嫌っす。気恥ずかしいんで」
「ちょっと王子さまが愛とかいうだけだよ?」
「そろそろ罰ゲーム止めましょうよ」
本棚に何かを入れる音がして、そいつの声が遠ざかる。
「えーケチだなぁ……」
図書委員長の声もそれに続いた。
どうやら、本を本棚に納めにきていたらしい。
俺は、図書委員長とそいつが離れてしまうまで待って、それがなんであるかを確かめた。
「星の……?」
ハードカバーだ。
高等部の図書室に置くようなものではないような気もしたが、その隣に、それだけでも数種類の言語でかかれた本が置かれていた。
数冊パラパラとめくり、それらは寄贈されたものであることがわかったのだ。
俺は最後に持った一冊を手に、来たとき同様、こっそりと裏口から図書室を出た。
その本は、実は今でも俺の部屋にある。
それが、そいつ……現図書委員長の松見が読んでいた本だった。
俺は借りたままの本と松見の本を並べて、呟く。
「『でもぼくはまだ、あまりに子どもで、あの花を愛することができなかった』」
あのときより、俺は松見が気になって仕方ない。



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