書きなぐり High&Low9 忍者ブログ

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昔の分です。
いずれ1のように直します。







ランドリールームのドアを盾に俺は溜息をつく。
今起こっていることを一言にまとめるとこうだ。
寮室争奪戦。
…長々と、楽しそうに宣言した寮長の言葉をかりるとこうなる。
夏だ!試験終了だ!夏休みだー!むさっくるしい野郎ども、であえであえ!寮室争奪、サバイバル!ポロリは自由に☆
…で、ある。
ポロリはみたくないなぁというのが、俺の感想。
夜の点呼も終わり、誰一人かけてない状態の寮の部屋、寮長の宣言とともに一年生以外の皆が風呂場にいって変身。
ありとあらゆる変装後姿で開始の合図とともに、寮内のどこかに転送された。
ちなみに、一年生は学校側が泊まりの実習といって連れて行き誰一人この寮に残していない状態だ。そして高等部の寮内は戦場に成り果てた。
夏に部屋がえって…と思いはするものの、この学園の寮の部屋は非常にランダムな部屋割りで、特別扱いされている人間以外は年齢学年専攻関係なく適当に部屋に放り込まれるのだ。
その適当に放り込まれる人間がこうして部屋を争奪する仕組みになっているらしいのだが、なんでも戦闘で済ませてしまうのが、この学園のルールのようなものだ。
ちなみに、この寮室争奪戦はやはり強いやつに偏りができてしまうとかいう理由で、名前もちや、戦闘成績がいいヤツにはそれなりにハンデが与えられる。
つまるところ、俺もハンデ…というやつを与えられる立場であった…はず、なのに。
ハンデは一つも与えられないどころか、自由に寮内なら色々な場所にいけるはずなのに、ワンフロアから出られない。
「どうして」
とひとしきりウロウロして呟いた俺に答えたのは、寮内放送だった。
『このフロアに閉じ込められた皆さんこーんばーんはー!皆さんはとても優秀な成績を収めている、もしくは学園で役員の長もしくは副長をしている皆さんでーす。いまから、皆さんはこのフロアだけで部屋を奪い合ってくださーい。特別階の部屋の何処にいけるかは君たちにかかっている!というわけで、俺がそのフロアに行ったら、戦闘開始させていただきまーす』
ということは。
俺は成績上位の三年生そして二年生と部屋を奪い合えということである。
ちょっとまて冗談じゃないといったところで、このフロアでこの放送を聞いている時点で運命は決まったも同然だ。
肩を落としたと同時に、戦闘は開始された。
開始の合図は授業中の戦闘開始の笛の音から始まった。
「面倒だ」
独り言をいっていると、早撃ちにみつかって、今の状態である。
俺が転送されたのは、寮室ばかりがひしめくフロアの廊下。
空いている部屋と個人の部屋ではない部屋以外は一気に施錠されたそのフロアで、早撃ちは遠慮なく俺に銃口を向けた。
すぐそばにあったランドリールームのドアを開け、それを盾にし、誰がこのフロアにいるか、気配をおってみた。
二年は、例の課題メンバーは全員居た。むしろ、その課題メンバーのみかもしれない。
三年はたぶん7人ほど。しかし、これも、俺が今の状態で気配をさがせる範囲で、という話だ。
三年かどうか、というのは、三年の先輩の気配が誰がどれでというのを探ったことがないのでよくわからないが、二年の有名人の気配はだいたい一致できるので、たぶん間違いではない。
今、暗殺者の気配が消えた。
このフロアから離脱したのではない。おそらく、気配を殺したのだ。
俺は一発だけ銃を撃つ。床を狙ってうったソレは床をはね、壁をはね…。
「もー跳弾の計算とかやめてくれるー?結構正確だよねぇ…これだから、反則狙撃に時間と障害物は与えちゃダメなんだよー…」
時間と弾除けさえあれば計算と正確さは上げることができる。さすがに、後ろが怖いので気配が近づいているかどうかは確認しているが。
今のところ幸運なことに、近くにいるのは早撃ちだけだ。
だが、不運なことに良平は三年生二人と空き室でドンパチらしい。風呂場から俺にリンクして、ヘルプコールしてくれた。
俺はただ『青磁くん召喚してください、こちらも交戦中』とだけ返信して、リンクを切った。
それと同時くらいだろうか、何か、生温い風を感じて、俺は即座にランドリールームに入った。
ランドリールーム内には気配を隠していない限りは人がいないはずである。
「槍走(そうそう)!?」
どうやら俺の後ろにいたのは槍走と呼ばれる先輩だったようだ。
外で早撃ちが驚愕の叫びを漏らした。
さすが、三年の先輩。気配を隠すのがうまい。…それとも、誰かの魔法で気配を遮断したのか。高度な魔法であるが、できないことはない。
それこそ、三年の成績優秀者ならできる人間はいるだろう。
槍を振るう際にでた殺気と風に気がついてよかった。
槍走というのは葬送と槍が走るというのにかけられた名前で、文字通り槍を武器としている先輩だ。その突きのスピードたるや、正に、槍が走るようだといわれている。
スピード重視かと思いきや、しっかりとガードもできる人で、間合いを取ることが非常に上手い。
俺みたいな間合いを問わないといってもいい人間と、自分自身と間合いが被る人間ははやめにつぶしておこうとか、そんなかなぁ。と思いつつ、ランドリールームで溜息。
基本的に、建物を破壊することは禁止されている。もちろん、このドアはもうすでに弾除けにされたためボコボコである。だから今更だといって突き破られる可能性がある。俺はランドリールームに設置された椅子や簡易机を倒し障害物を作って銃を構える。
敵はドアからくるとは限らない。
それだけは注意して一度目を閉じ、あける。
集中。
そして、唐突に俺の前に現れた人物に第一射。
「君の背後に飛ぼうと思ったのに、壁際にいるんだもん。まったく、君ってばこしゃくなんだねー。普通ドアの向こうに相手がいるなら、それに集中するよ?噂に違わないね、君は。しかも君の相方には一人やられるし、逃げられるし、散々だよ」
ふわりと何もない空間から舞い降りたのは、協奏(きょうそう)。どのグループに所属してもグループ戦闘のトップを走る三年生で、専攻は魔法、法術。 三年生はどうやら、手を組んでいる人たちがいるらしい。これは早くもピンチなのでは。と思いつつ、俺は第二射を放つ。第一射はすでに何かに遮られている。
恐らく法術の結界だろう。第二射も阻まれてしまった。
先ほどからドア側がやけに煩い。きっと、槍走が来たのだろう。
俺はリンクをする。良平が逃げたということはこの通信手段はまだ使えるはずだ。…ジャミングされてない限りは。
俺が良平に伝えたいのは一つ。『三年生は一部手を組んで行動している。リーダーは協奏』…まぁ、良平は実感しているかもしれないが。
「水はどの石よりも硬く、柔らかく。雨音は針の音に変わる」
術言が紡がれる。言葉の意味を辿ってみると、水系の魔法、しかも、雨、針…というワードから、針のような水が大量に降ってくる攻撃、と言ったところだろうか。うわ、痛そう。
俺はその技が発動するだろうというタイミングを見計らって遮蔽物を飛び越えて協奏の傍に転がる。
「ふふ、慌てないのかい?さすがだねぇ」
槍走がドアを突き破る。
くる。と思った瞬間、結界を張ったままだろう協奏の傍を離れず、また、協奏が術の発動位置をずらしているだろう間に俺は魔法石をばら撒く。
「展開」
展開されたのは結界。
槍走の攻撃と針の雨を防いで、結界と石は壊れる。
俺はそのタイミングを狙って綾菜ちゃんをホルスターから抜いてぶっ放す。
槍走のガードは早い。しかし、一度落としたくらいで追尾弾は追尾をやめない。壊さなければ、執拗に追い続ける。
俺はもう片方の手に持った銃弾を床に向ける。連射して、床に壁にと跳ねるそれに、苦戦している間にできたスペースにはいり、俺はランドリールームから出る。
「さすが、反則狙撃くんだねーでも、簡単に逃がさないよ。立ちはだかるいくつもの壁さえ、君は越えていけるかな?」
急に言葉に意味と力が込められる。
法術は言葉と音だ。言葉と音に込められた力、そしてそれらを組み合わせて作られた術は、たとえ普段の会話であっても発動させることができる。
「壁さえも、彼には一切関係ない。彼は走っていける」
ここにきて第三者の声。
法術を邪魔するには、力の込められた言葉と音を同じく、力の込められた言葉と音で否定する必要がある。
それにはルールがあって、相手の言葉と音と同じルールを辿って否定しなければならない。
その上、否定する力が発動させられた術言より強くなければそれを邪魔することはできない。
「おや、想定外。魔法使いが出てくるとは予想外。でも、君はついてこれないでしょ?何せ、君は遅いもの」
高度な法術合戦をされると、言葉の応酬のように見える。
相手のルールをねじ伏せ、かつ、いかに自分に有利に言葉を動かせるか、また、イメージできるか。それが大事になってくる。
…つまるところ、どんどん揚げ足をとるのが一番有効なのだ。
「残念ながら、僕は一人ではないんですよ、先輩」
俺の前から壁を除去した『魔法使い』のために、俺は銃を乱射する。
槍走を牽制しているのだ。
その間にもリンクして伝えた良平は強力な味方を、こちらに寄越してくれたらしい。
俺の銃弾が飛び交ってもなんのその。
音もなく駆け走り、壁と天上を走り抜けランドリールームへ入り、挙句、背後から攻撃なんて、最早人間の技ではないのではないのだろうか。
「これは、形勢不利だね。槍走、飛ぼう。俺たちはここに居ちゃいけない」
二人の先輩の像がゆらりと揺れる。
怖い人たちに目をつけられてしまったなぁ…。
今の状況をまとめるとこうなる。
二人の先輩から逃げようとした俺はランドリールームを出た。
すると、魔法使い…追求がそこにはいて、法術を邪魔してくれた。
でも、追求は実践があまり得意ではないため、先輩方も二体ニでも余裕と思っていたらしい。
ところが、そこに助っ人の暗殺者が颯爽とかけてきて、背後をとった。挟み撃ちだ。
じゃあ、仕方ない撤退しようか。
と、先輩方はひいてくれた。
そして、俺たちは良平と合流したわけだ。
「…猟奇」
「なんだ、反則」
「アヤトリ呼ばなかったのか?」
「…アヤトリは、犠牲になったのだ…」
かわいそうに、おとりにされたのか…。だが、本人は嬉々としてやったにちがいない。今のところ、アヤトリの気配が消えていないことを確認して、俺は、良平に微妙な視線を向けた。
「問題はそこじゃない。三年生は一部、手を組んでるのかとおもったら、二年はさっさと潰そうって魂胆らしくて、全員手を組んでるようだ。今のところ、俺が一人撃破。暗殺者が三人撃破」
「暗殺者は、行動早いな…」
既に三人撃破している暗殺者…一織は、なんてこともないような顔である。
「最初に転送されたとき、すでに先輩が双焔の二人を狙っていて、こちらに気づかなかったから、いかせてもらった。あと、もう一人は装備が銃だったが、誰かさんのおかげでなれてしまったのか、結構いけた。そのあと、早撃ちにあってしまって。うっかりやってしまった」
殺ってしまわれましたか。
普段の行いが悪いんだろうな、可哀想に。と思ってもいないことを思う。
おそらく、槍走の槍からやっと逃げてきたところを一織にやられたのだろう。
「その次にやられかけたところを、反則狙撃がピンチだ!といっただけで止まるのは、愛?」
「おそろしく気持ち悪いから、全否定してもかまわないか?」
「まさかの本人からの否定か」
良平の発言に、一織が、鳥肌を立てた。
見えるくらいぶつぶつと。それはもう、全力で嫌がられた。その気がなくても、傷つくぞ、さすがに。
「ただ、俺が撃破したかっただけだ」
これはきっと本気である。俺の背筋を何かが走った。
先日から俺に勝てていないことに思うところが一織にはあるらしい。
…単純に、悔しい。っていうのもあるだろうけど。
「なるほどね。ちなみに僕は、焔術師の要請で動いてるよ。僕の口調をちゃんと申請してもらえたからね。勝手にかえることはできるんだけど、やっぱり申請してもらって、変えた方が気持ちはいいからねぇ」
「焔術師…?……まさか、あいつも俺に止めを刺したいんじゃなかろうな」
「たぶんそうだよ?もってもてだねぇ、反則くん」
実に楽しそうに追求が言った。
俺は味方と言える人間からも狙われてると、そういうことか。
「ま、とりあえず、休戦なんじゃない?僕はもともと単一で行動することが苦手だし、仲間は探してたんだけど、ばったり双焔にあっちゃって。双焔の二人は僕の前に先輩方と対峙してたらしくて、一人撃破したけど、一人逃がしたって」
ここまでのことを考えると、先輩は全部で四人居なくなっている。俺が気配を探ったとき七人しかいなかった。
気配を感じていなかった槍走、おそらくその槍走に魔法をかけた協奏は気配を探れていなかったとして、あと五人がこのフロアには残っていることになる。
もう一度ざっくり気配を探って、二年の残りを数える。
早撃ちはもちろん、いない。アヤトリも何時の間にか消えている。将牙と舞師もいないようだ。早撃ち以外はおそらく、寮室はどこでもいいからさっさと撃破された連中だ。…将牙は戦闘自体に手を抜くことはないが、三年生がさっさと手を下したと思われる。
計画を引っ掻き回すということにおいて、あれほど才能を発揮できる男はいないからだ。
だいたい、三年の先輩方があっさりと四人もサクサクいなくなっていることがおかしい。
いや、それ以上に、何か引っかかる。
「んー…なんだ。今、消えている連中。なにか共通点とかあるのか…?」
とりあえず、気配が消えている連中の話をすると、追求がにやりと笑った。
「舞師と破砕はもう、二年生じゃないよ?もともとクラスはいったりきたりしてたみたいだしね。三年生とも仲いいんじゃないかな?」
ああ、それか。
舞師と将牙。
三年生が手をくだしたのではなく、三年生と手を組んでいたのなら?
「……このパターン。まさか、追求も仲間でしたーとかないよな?」
思わず疑いの眼差しを向けてしまったが、追求は首を横に振る。
「今回はないよ。今回というか、もしかしたら、三年生にとって恒例行事なのかもね。二年生をさっさと潰すっていうの」
恒例行事。
課題のときは敵だった追求であるが、邪魔もしてくれたが手助けもしてくれた。今回は手助けだけをしてくれているのだから、これほど心強いやつはいない。
「なるほど。それは確かにあるかもしれない。ここはやたらと恒例が多い」
そういって溜息をついた一織は、そのあと、『しかしそれを裏切ることも少なくない』という一言を付け足した。
つまり、出方は解らないし、後輩を潰してまわる理由なんて今は考えたって仕方ないということだ。
では、やられてしまった、もしくはやられてくれた先輩方はいったいなんなのか。
「やはり、協奏が何かたくらんでいる…もしくは、何か隠されたルールがある?」
俺の推測に、その場にいる全員が唸った。
何かたくらんでいるにせよ、隠されたルールがあるにせよ、面倒なのはかわりがないのだから。
◇◆◇
ふわりと力を保有した生温い風が吹く。
綺麗に描かれた円陣の中、人形たちが次々と起き上がる。
「んー上出来かなぁー?」
カタカタと動き出す操り人形を前に、三年生の先輩は眉間に皺を寄せる。
「人形で俺に勝てるとでも、人形遊び」
久方ぶりに呼ばれた『人形遊び』に俺は溜息をつく。
生徒の大半は俺の名前を『人形遊び』と呼ぶ。けれど最近、近くにいる人間は俺のことを『人形遣い』と呼んでくれるから、久しぶりに呼ばれたような気になった。
その上、前よりもその呼ばれ方が不快だ。
「お人形さんでままごと遊び。だなぁんて、嫌味、言っちゃうセンパァイに負けるつもりはありませぇん」
『人形遊び』も『人形遣い』も俺が人形を使うことを表す名前だ。けれど、その言葉の響きは俺にまったく違う意味を与える。
通りとしては『人形遊び』の方が通っているし、『人形遣い』と呼んでくれる人間は少数派なのだけれど、俺としては『人形遣い』の方がいい。
それこそ、ちょっと前まで『人形遊び』を普通に仕方ないと受け止めていたのに。
「それにねぇ、一応、仲いいんだぁ。目の前でやられちゃったらさぁ…そりゃあ、僕だって腹が立ちますよぉ」
人形が三年の先輩に襲い掛かる。二つ名はなんであったか。もう、腹が立つので忘れた。
俺の目の前、俺をかばうようにして撃破された破砕。
破砕はずっと、俺を『人形遣い』と呼んでいる数少ない人間の一人だ。もし、今のような状態になくとも俺は腹を立てたに違いない。たとえ、破砕が俺をかばわずとも。
集中する。でも、集中しすぎない。
これは最近、反則狙撃くんにいわれたことなのだけれど、俺は集中しすぎるせいで単一で動くと不利になるため、人形をうまく使えない。
それを解消するには、集中しすぎないことが大事だと、反則狙撃くんがいっていた。
反則狙撃くんといえば、彼も俺のことを最初『人形遊び』といっていた。
正体がばれてからちょっとして、彼は俺の名前を改めたけれど。
たぶん、彼は自分の正体をさらすにあたり、俺に蔑称である『人形遊び』を面と向かって言うのを改めたのだろう。今は彼にとって俺がわりと近くにいる存在となったから、『人形遣い』というようになったのだと思う。
推測であるのだが、それが正しいのではないだろうかと俺は思う。
そう思えば、彼と一緒にグループ申請にきた舞師も俺を昔『人形遊び』といっていた。
破砕とは双子であるのに、本当に似てないなぁと、思いつつ、俺はイメージをする。
上手く人形を繰るためには、俺にはまだまだ集中力が必要となる。
けれど、三年の先輩にはソレこそ、人形で遊んでいたら勝てはしない。
「先輩、僕はねぇ、変わることを知ったんですよぉ」
それってすごくない?
俺は笑った。
あの課題は失敗だったけれど、失敗じゃなかった。
俺は役に立てなかったけれど、得たものは多い。そう思う。
「だから、先輩。負けてくださぁい」 

魔法科の魔法使いは三人。
焔術師、追求、人形遣い。
武器科の魔法使いは二人。
双剣と良平。
あとあぶれてる武器科の人間は二人。
俺と一織。
この七人が、今現在残っている二年生だ。
残念ながら風紀の二人と仲良し双子はこのフロアを既に離脱している。
敵対…なのかどうかはわからないが、とにかく味方ではない三年生はこのフロアに四人。
依然として協奏と槍走の先輩二人組みの気配は読めないでいるのだが、おそらくこのフロアにいるだろう。
最初いた先輩方の人数が七人と気配の読めない二人で九人。すでに半数が減っている。
ソレなのに俺たちは七人も残っている。これは明らかにおかしい。
「んー…恒例行事説ありだと、思うよぉ」
漸く生き残りの二年が集まった。
また一織と一緒だった俺に嫌そうな顔を隠しもせずにやってきた焔術師に心を折りながらも、俺は集まった面子に現状を説明、推測を述べたところだ。
「隠されたルールもありだな」
このフロアから出て行くことに何かあるのかもしれない。
「アヤトリがいなくなったのは、誰がどうやったかわからないから聞かないとして、いなくなった連中はどういう状態で消えていった?」
「んー…破砕は僕をかばって撃破されたよぉ。で、その撃破した先輩はぁ、僕がぁ…撃破したんだけどぉ…」
「けど?」
「なんかぁーちょっと、余裕っていうのぉ?先にねぇ、ちょっと会話したんだけどぉー嫌味、いってた割には、負け惜しみがないというかぁ、あっさりみたいなぁ?」
「あ、それは俺も。二人でかかってきた割には連携をあまり取らなかったし、すんなり一人やれたってかんじか?協奏がたくらんでるって聞いたとき、ちょっとおかしいと思ったくらいだ」
協奏が絡んでいる場合、それはもう計算につぐ計算がされている。関わっている人間の性格から、未知なる1%までも計算しつくそうとするその姿勢が、噂ではよく囁かれる。
そんな協奏の計算にしては甘すぎる組み合わせだったと良平はいう。
「あ、それぇー解るぅー。あの先輩もぉーもっと遣い方あったっていうかぁー…僕を挑発するだけしたって感じもあったかもぉー。怒ってたからそのときはね、あんまりだったんだけどぉ」
人形遣いも怒るんだな。というのは置いておいて。
少なくとも二人は違和感を感じている。
「暗殺者はどうだ?」
二人も撃破しているのだ、何か思うところがあるかもしれない。
「一人目に関しては完璧に不意打ちだったと思う。こちらに振り向きもしなかったし、わざと離脱というにはあまりにも身体に動きがなかった。あとのもう一人は結構いけたと思っていたが…そうだな、言われてみれば…銃選択の人間にしては素直にきたな」
それは、銃選択の人間はひねてるとでも言いたいのか。
いや、ま、飛び道具だけど、銃弾なんて弾きますよ。結界で完璧に防ぎます。避けるのなんて朝飯前さとかされたら、ちょっとひねますよ。仕方ない仕組みだろ。特に成績上位の連中なら。
「いきなりグレネードとは思い切ったなとは思ったが」
今、怪我一つない貴方は、そのグレネードをどうやって避けたのですか。結構いけたということは、グレネードぶっ放す前にいけたということではないんだと、俺は思うわけだが。
そういう興味深い話はあとできくとする。
とにかく、いきなりグレネードぶっ放す先輩がやられたのはおかしいなと思うわけだな。
「じゃあ、双焔の二人は?」
不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた焔術師が呻くように答えてくれた。
そういうところは律儀だ。
「猟奇のいうように、連携が上手く取れていなかったように思う。…というより、連携を取るつもりがなかった。利害の一致で一緒にいる各個で動いているという印象もないでもなかった」
「結構そういう風だった。俺らは連携でやったけど、先輩は悔しそうですらなかった気がする」
なるほど。
ついでに俺はもう一人離脱した時の状況がわかるだろう人物の話をきく。
「早撃ちは?」
「…なにかから逃げてきたところを狙ったわけだが、俺が先輩を一人やったときを見ていたらしい。出会い頭に口元が『何故』と動いた」
「……早撃ちが?」
「ああ」
早撃ちが『何故』というほど、その先輩が倒されるのは意外だったということだろうか。
俺は、とりあえず三年の有名人で銃選択の先輩を頭に思い浮かべる。
…数人は、いるはずだ。
そう思えば、このフロアにいる先輩方は最初から思ったより少なかった。
気配をけしているのかと思ったが、これだけ集まっても、気配を殺していなくてもやってこないことから、先輩方はアレだけしかいなかったのだと思う。
銃選択だけではなく、魔法使いにも広域魔法型の有名人がいたはずだ。
その先輩が魔法を使えば、俺たちはあっという間にいまの状態ではやられている。
何せ、結界すら張っていない。
驚くほど、スムーズに集まることができたことから考えて、おそらく今は襲撃されることはない。
先輩方が俺たちを警戒してそうしないのではない。
何かある。そして、何かを気づかせるヒントを俺たちに与えている。
「恒例行事、確定でいいと思う」
俺は呟いたあと、思考を戻す。
銃選択の有名人の先輩。グレネードを普段から使っているのは?そこまで思い浮かべて、重火器なんて呼ばれている先輩を思い出す。
「…暗殺者が倒した先輩は、重火器か?」
「………いや…」
そこで、暗殺者が愕然とした顔をした。
重火器ではない?では、一体だれだ。
「焦点、だった」
焦点。狙った相手は何が何でも倒すという執念を見せる先輩で、サイレンサー付きの銃を好んで使う。
グレネードなど音もでかいし、狙った相手を倒すために追いかけまわすに向かない武器だ。
それは、早撃ちも『何故』というだろう。
「これは…おおきなヒントだな」
何故、一織はここまでなんとも思っていなかったのかが疑問に思えるくらいだ。
一織ならば、その名前で三年の先輩方の特性くらいわかるだろうし、有名人の顔がわからないということもないだろう。トピックスなんていう、戦闘スタイルも変装後の姿もモロバレの情報源があるからだ。
「わざと、やられてる、な」
では、わざと撃破されたとして、何があるのか。
この戦闘を続けていくことが面倒であるのか、それとも、この戦闘を続けていくことがデメリットなのか。
…三年の先輩方は、したたかだ。
部屋がどうでもいい人間も少なくはないだろうけれど、戦闘行為に負けるということにメリットがなければ、わざと負けることはあまりないだろう。
「俺か猟奇、どちらか撃破しないか…?」 
わざと撃破さることで何かあるのなら、こちらもわざと撃破されればいい。
できれば強固な通信手段を持つ人間がいい。
ならば、俺か良平、どちらかがわざと撃破されればいい。
部屋のことならば問題ない。
俺は別に部屋は今のところより狭くならず、使い勝手が悪くならなければそれでいいし、良平も似たようなものだ。
俺も良平もこれが戦闘でなければ、早々に戦線離脱をしていただろう。
戦闘ならば、それなりに成績を残すようにしなければならないのは、ここの教師陣はみていないようで見ていて、うっかり真っ先に脱落しようものなら、後ほどちくちくちくちくいってきたり…もしくは授業の手伝いを過分にさせられたりするからだ。
「なら、俺が」
良平が手を上げた。
珍しく自分から立候補だ。まさか、アヤトリに対して罪悪感を感じているわけでもあるまい、本当に珍しい。
「何故?」
なんとなく尋ねると、おそらく良平は仮面の下でわらった。
「焔術師と暗殺者が怖いってのと、あと、お前と協奏の化かし合いをみたいってところかな」
そう思えば、一と十の兄弟に狙われていた気がする。
怖いので、俺もさっさと撃破してもらいたくなった。ましてや、あの協奏と化かし合いなど。疲れるに決まっている。
できたら避けて通りたい。
「いや、俺はぜひ、離脱……」
したいんだが。という前に、合わせて十一の兄弟に睨まれた。
本気で、戦え。全力を尽くせ。そういうことでしょうか。
この兄弟、執念深い。
「じゃあ、決定だねぇー?どうしようかー誰がとどめさすぅー?」
気持ち的には俺が刺したいが、相方にはどうやら希望があったようだ。
「三年何人か巻き込んでくる」
もし、この離脱になんの意味もないのなら、悪戯に数を減らしたことになる。三年生を巻き込むのは妥当だ。
しかし、今、三年生は離れた場所にいる。
そして、良平は方向音痴である。
「…だれか、猟奇に着いていってくれるやつ、いないか?」
もしかしたら、良平と一緒に撃破されてしまうかもしれないが。
と、俺がいうまでもなく、皆わかっている。
解っているために、暫くその場に沈黙が落ちた。
しかし、それもすぐに消えた。
「俺が行こう」
そういったのは暗殺者だった。
「撃破されても、既に三人撃破している。問題ない」
確かに、問題なさそうに思える。
「というわけだ、反則狙撃。今度時間が空いたときに、俺に付き合ってくれ」
撃破を諦めてくれたのかな。とおもったら、条件付でした。
そのお誘い。ちょっとそこまで買い物とか可愛らしいものでないに違いない。想像するだけで身震いする。
「あ、暗殺者、それは…」
あわてて、焔術師が声をかけてくる。俺と時間が空いたときに会う約束を取り付けようとしていることを止めようとしているらしい。
「焔術師、反則狙撃を見事に撃破してくれ」
にこっと滅多に笑わない暗殺者が笑った。その姿で笑われても、ブラコン焔術師には充分だったらしい。
憎憎しげに俺を睨んでくれた。
この巻き込まれた感と、憎しみの視線。
ここまで来るとすがすがしいかもしれない。
「じゃあ、話は纏まったな?反則、場所よろしく」
そのあと、魔法使いと武器使いが並走しているはずなのに、おかしなスピードで走っていく二人が居た。
「猟奇くんはすごいね…普通、魔法使いならあれはない」
俺は二人の気配を読みながら頷いた。
良平は実に実用性を重視した魔法使いだ。
魔法に使われる時間や力をカットし、さらにはその短い間に襲われる危険性を減らすために武器を使っている。
「魔法使いというのは、手品か奇跡だといっていた」
理論やルールがあって、行使されることが手品や奇跡であることはないそれを、人がみたら、そう見えることが『魔法』なのだと。
その魔法が手品や奇跡に見えないのなら、それをそう見えるようにしなければならない。それが、良平の持論だ。
もしも、武器すら『魔法』になるのなら、良平はそれを行使する。
「なるほど。面白いね。やっぱり猟奇くんをもっと追求すべきだね」
可哀想に、追求に目をつけられて…
ざまみろ。 
◇◆◇
学園創立以来の変り種。
そう呼ばれている人物を知っている俺でさえ、今年の二年生の有名人たちは面白い。
「槍走」
楽しそうに笑った変り種が、俺の槍を撫でた。
三年の間では壱の槍とも呼ばれるその槍は、シンプルすぎる先の尖った槍だ。
柄に布を巻いて滑らないようにしただけの、人を刺すためだけの、槍というよりも、棒のような、それ。
「面白いねぇ、二年生。暗殺者と猟奇がきてたの、どう思う?」
「実験じゃないか?」
槍を宙に放り投げ、キャッチする。
まるで棒のようではあるが、重たいであろうそれを軽々と扱う変り種を見るともない俺に、そいつはふふふともう一度笑った。
「槍走もそう思うなら、そうかも」
もう一度同じ動作をして、俺に槍の先を向けたそいつに、俺は溜息をつく。
「いい加減一人でやれよ、お前は」
「やだね。僕は君を買ってるんだ。それに、大好きなんでね、君のことが」
向けられた槍の先をもう一つの槍で跳ね上げる。
加減はあまりしていないが大丈夫だろう。思ったより跳ね上がった。おそらく、自分で槍を上げたのだろう。
「お前の『好き』は面倒臭い」
参の槍と呼ばれる槍を抱えながら、首を横に振る。
「そうだね。僕は、そんなことはなかったんだけど、君の事だけは別だね」
「口説くな」
「素だから、許してよ」
もう一度溜息をつく。
「…あちらは、おそらく、反則狙撃がフル回転だ」
「あの子すごいんだよねー。僕一人じゃ、絶対騙しきらないよ」
このクソ野郎が。
と、悪態をつけたらどんなにいいか。
変り種は、もってまわった言い方はするくせに、異常に素直だ。
「本領発揮、すべきじゃない?ねぇ?」
やる気がない。
この戦闘についてくる部屋を自由にする権利も、三年生の威厳も、後ほど与えられる面倒も、興味がないからだ。
「ねぇ。僕は、見たいんだけどね。君が完全に勝利する姿が」
「お前のわがままに付き合っていたら、疲れるだろうが」
「いいじゃない、恋人の我儘だよ?」
「せめて相方のわがままくらいが楽だ」
恋人のわがままなら、期待に何がなんでも応えなければならない気がする。
相方とて、変わらない気もするが、少し格好がつかなくても平気な気がするからだ。
「どっちもだよ。僕の君はいつもカッコいい」
参の槍を変り種に渡して、一度目を閉じ、ゆっくりと開く。
「仕方ない。結局お前の頼みなら、どうにもならない」
「やった。じゃあ、僕も少し、頑張ろう」
「少しか」
「当たり前じゃない」
俺は三度目の溜息をついた。


良平と一織の気配が消えたのは三年生全員の気配が消えた後だった。
気配の読めない二人組がいなければ、俺たちだけがこのフロアにいることになる…のだが、あの二人はまだこのフロアにいるだろうと、なんとなく思う。
俺はリンクをつなぐジャミングはどうやらされていないようだ。
『調子は?』
『…最悪…なんつーか…最悪』
良平がうんざりといった調子でぼやく。
何がそんなに最悪なんだと聞こうとしたときに、邪魔というのは入るものだ。
「やあ」
軽く手まであげて、挨拶をしてくれた協奏は、軽く先制攻撃をしてくれた。
「君たち仲よしさんだね。でも、何時までも仲よくなんていられないでしょ。そろそろ、バラバラになろうよ」
力も言葉のルールも強くない法術は焔術師の全否定により、力を失う。
「大丈夫だ、もとから仲良くない」
法術も使えたんだーという関心より、全否定に心が折れそうだ。魔法の効力だと思いたい。
焔術師の援護、というよりも全体的な援護を行うつもりなのか、一歩ひいた場所で魔法の準備をする追求をチラリと見たあと、協奏は続ける。
「仲悪いなら離れなよ」
と、上げ足とりを始めた協奏を援護しているのか、それともただ攻撃しているだけなのか。
槍走の突き三連発が双剣を襲う。
双剣は、その名の通り二つの剣を駆使し、その三発を防ぐと、防いだ剣の流れを利用し一撃。
しかし、槍走も早い。
上方に弾かれた槍をくるりとそのまま回転させ、下段から上段へ捻り上げる。
俺はもう一度意識をリンクに戻す。
急にむくりと起き上がった人形遣いの人形が槍走に奇怪な動きで襲い掛かっているのを視界に収めつつ、良平の話をきく。
俺はその話を聞いたあと、素早く銃弾を二発撃つ。
「……君は、僕がこうすることを見込んでいたのかな」
焔術師に向けられた銃弾は宙で何かにさえぎられ、落下する。
焔術師がこちらに向いて、驚いている。
「いや?しかし、わざと撃ちはしました」
良平はこういった。
撃破されてたどり着いたのは別のフロアだったと。 そして今、別のフロアにて戦闘中だと。
「この戦闘は、俺達のハンデ、ですか?」
俺が尋ねる中でも双剣側の人間は動きを止めない。あれはしんどいだろうなぁ。
「気付かれちゃったね?…そうだよ。ハンデも兼ねてる」
兼ねてる、ときたか。
他に何があるのか聞いてみたいものだが、どうやら、この二人の先輩方は、今まで撃破してきた先輩方とは違い、本気のようだ。
槍走の槍が走る。
突くためだけに用意された槍は放り投げられ、彼の手には攻防一体になっている二槍が握られている。
「二つ!?」
双剣が驚きの声を上げる。
え、驚くとかちょっと、情報収集不足なんじゃ、双剣。
槍走の槍は俺と同じようにいくつもある。俺がトピックスで確認した限りでは五つは使いこなしていた。
「ふふ…余裕だね。でも君を逃すつもりはないからね」
協奏が足で床を鳴らす。
法術は、音と言葉と法則で作られる。しかし、何かが欠たら法術にならないということはない。
すべてが揃った法術は所謂お手本のようなものだ。 それが一番正しい形であり、形成しやすい。
しかし、言葉で魔法が推測できるのは弱点にもなりえる。法則さえわかれば全てを防ぐ事も不可能ではない。
そして決まった言葉を使う…呪文で発動する法術が大きな威力の攻撃ばかりが残り、補助魔法が残っていく中、自由に言葉を使う法術が不自由ながら、形を為した。
この自由に言葉を使う法術は、呪文で発動するものとは違い、不安定で時に暴走し、時に発動すらしなくなる。
俺のまわりの連中はだいたい、この不安定な法術を使うわけだが、三年生の協奏も例外ではない。
通常の会話を音にし、言葉を繰り、法則を作っている。
そして、その言葉を省いても、音と法則で魔法を使うこともできる。
そう。先程のように、床を鳴らすという行為だけで、魔法が使える。
それは簡易な物ほど発動しやすい。
だがそれは、ただでさえ不安定な自由に言葉を使う法術の言葉さえ抜いてしまった魔法だ。難易度は高い。
俺はこれをトピックスで何度か見ているが、何がくるかはわからない。床をたたく長さだとか回数だとかリズムとか、果ては強さだとかも関係しているらしくて、非常に難解なのだ。
「何者も妨げにならないッ」
音を鳴らす行為と言葉を発する行為とじゃ、動作の手間は全然違う。
しかも、鳴らし終わるタイミングで言っちゃったら、魔法を使ってくれた追求には悪いけど間に合わない。俺は何が起こるかわからなかったが、魔法を使われたと思った瞬間には横に飛んで転がって銃を双剣に向ける。
まずは一人、戦線離脱してもらわないと。
恨まれるだろうなぁ…と思いながらも、説明はしない。
舌打ちをしたのは槍走だった。銃弾を弾かれる前に邪魔するために銃連射。
双剣は忌々しそうにこちらを見詰めながら、戦線離脱。
「なんなんだ、さっきから!」
相棒が消えたのを茫然と見ていたかと思うと、焔術師に叫ばれる。
「……っ、……」
声が出ない。
どうやら、先程の魔法は消音の魔法だったようだ。対法術師魔法とされている魔法だが、凡庸性が高い。
困ったなとか参ったなとかジェスチャーする暇があったら、恨まれてもいいので銃を続けて焔術師に向ける。
フードで隠れて表情は見えないが、まぁ、怒ってるんだろうなぁ。
しかし、俺は迷わない。人形遣いが人形で槍走を退けてくれている間にやらねばならないことがある。
それは二年生の全滅だ。
これは、寮室争奪戦のハンデなのだ。できるだけハンデをなくすことがベター。
三年生が適当にここから消えたのは、消耗というハンデを少なくするため。協奏の話ではハンデ以外の何かもあるようだが、それは恐らく三年生の面目。ここに二人しか残っていないのは、恐らく二人が三年生の代表であるから。それと同時に、片方がこの場の責任者であり、片方がそれに付き合わされているから。
最初にこの場所を特別にした人間、そして最後にここにきた人間。
寮長だ。
寮長は魔法科…つまり法術使いの協奏である。
付き合わされている人間である槍走の正体は、おそらく生徒会書記ではないだろうか?
寮長と一緒になって代表になれそうな役職で、かつ、単純に仲が良い。
二人の正体がわかったところでどうしようもないのだが。
しかし、俺は何か引っ掛かりを覚える。この二人が代表になったのは、本当に役職のせいなのか。
思考を纏めるには邪魔がおおい。
表情も変えず銃を打ち続ける。弾倉が空になると弾を入れる。
焔術師が完璧に俺を敵だと判断する前に、撃ち落とす。…大きな舌打ちが聞こえてすごく、心が折れそうになったが、できないことはなかった。
焔術師が双剣のように、消えていく。
「思い切ったことをする…」
あと、全滅まで二人。というところで、槍走が不思議な、いや、いっそ、舞うように動く。
僅かな靴音がリズムを刻む。それは単純で複雑、単調で…はっとした時にはすでに遅い。
邪魔しようと銃口を向けなおした俺より早く、協奏が駆け出した。
「残念ながら、うちの槍走はダブル専攻でね?」
僕もご多分に漏れず。
銃弾が見事に槍に弾かれる。
その槍は槍走が放り出したつくための槍で、今は協奏が持っている。
槍走の法術が発動する…いや、何の形にもなっていないから、もしかしたら、不発に終わった…?
などと思っていると、俺が仲間を攻撃し始めたあたりから何か悩みつつも援護をしていた追求が不意に、合点がいったという風な顔をした。
「ハンデ…ハンデか!なるほど、先輩方は俺たちのハンデですか!さっさと離脱した方が賢いってことか…!」
ちゃんと考えてくれていたようだ。
説明もしていないのに、理解してくれて助かる。
その声はもちろん、この場に残っている人形遣いにも聞こえたようで。
「なぁーんだ。反則くんがーついに本気反則しはじめたんだとおもってぇーわくわくしちゃったぁー」
などといいながら、人形を協奏、槍走に執拗に絡ませる。
こちらに近づけないのは鬱陶しいだろうな…と思っていたが、ふと、俺は思う。
ドアを破壊してやってくるような突破力のある先輩が、単調な動きの数が多くもないものに、苦戦?
またもや、できすぎている。
追求と人形遣いは、どちらかというと援護系だ。
とくに、追求は前に出る人間がいない状況で戦況を維持できるほどの戦闘力を持たない。
これは、もしかして、この二人を残してる?
俺のことは逃さないとか言っていたし。
くそ、話せないと他から情報を得るのが難しい。
俺はウエストポーチに手を伸ばす。
俺の魔法石で言葉をカギとせず、魔術が展開できるものは少ない。
法術は勉強しかけで、まだうまく使えた覚えがないため魔法石に応用できてもいない。
「とりあえず、いきなり無言になったのは、やっぱり法術かな?って、僕は思うわけだよね。不便なのは困る。ねぇ、反則くん?」
追求がそう言っただけで、何かが喉を暖めるような感覚が走る。
「あと、先輩方も…面倒なので」
追求は、魔法使いであるが、魔術より法術に長けている…ように思う。
俺は、声を出す。
「ここから全力で離脱!あと、俺らは残されてる。何か他にも狙いがある」
俺は石をばら撒く。
あんまりやると次の戦闘時に使用できなくなるからしない方が賢いのだが、ここの戦闘は甘くない。
俺の攻撃を避けることなく当たってくれよ。と思いながら、俺は言葉を発する。
「展開!」
「忘れていた、とは思わないけどね?」
人形遣いに、俺の魔法は当たった。当たったし、離脱もしてくれた。
けれど、俺と追求に向けた分の魔法は弾かれた。
槍走の法術だ。
「発動してもわからないのなら、発動失敗と思われても仕方ない」
「そうだよね。とても巧妙だもんね。君の法術は」
魔法石が魔術を展開した瞬間に罠のように発動したのは結界だった。
俺と追求を守る結界。
「うん、完璧にのこされちゃったねー反則くん」
呑気に結界内で笑う追求は結界に触れて、なにやら嬉しそうだ。
…おそらく、研究対象が増えたと思って喜んでいるのだろう。これだから、研究者というやつは…。
俺は溜息をつく。
此処は結界内。誰も入れない、誰も攻撃できない。
この結界を壊す方法も、解く方法も俺には解らない。畑違いってのもあるけれど、力不足ってのもある。
ならば。
「…先輩方は、結局、何が目的で俺たちを残してるんですか?」
「あれ?それ、いつもみたいに読み取らないの?」
協奏が首をかしげる。
ウエストポーチに手を伸ばし魔法石を触って溜息。残りが少ない。このあとの戦闘は惨憺たる結果になりそうだ。
「ええ、もう、疲れたんで」
「最後まであがけ」
厳しいお言葉をありがとう、槍走先輩。
俺はこれでも、最後まであがいているほうだと思う。
まぁ、これは、あくまで、学園のシステムがあるから取る方法であるし、二人とも俺がまさかそうするとは思っていないだろうから取る方法でもある。
そして、今、こうして目的を尋ねているのは、一応気になるし、今からやることを防がれても困るので、ちょっと気をそらせる。
「僕も知りたいんですけどねぇ。教えてくれませんか、先輩方」
「んーどうしよっかなぁ…君たちが、僕と槍走の度肝をぬいたら教えてあげるよ」
俺は、ニヤリと笑ってみせる。
「じゃあ、あとで、教えてもらいますからね?」
…此処は結界内。誰も入れない、誰も攻撃できない。
けれど、それは外からの話。
内側は計算されていない。
一人を閉じ込めた内側。自分自身を損なうだなんて普通はしないし、すべきではない。自分自身に銃口向けるなんて、なかなか思い切れない。
俺は胸部に向かって銃を向けると、急に硬くなった引き金を両手で引いた。
…やっぱ、自分に向けるのって、傷一つつかないって解ってても、怖いもんだわ…。
◇◆◇
協奏が心底嫌そうな顔をした。
槍走がなるほど、と一度頷いた。
離脱方法としては最低な方法で、反則狙撃はその場から消えた。
「あれはないね」
「びっくりはしたがな」
「するよ。けど、あれは、解決にならない。すごく、腹が立つよ、あれは」
「怒ってやれるのは優しいな」
槍走の言うとおり、なのかもしれない。
俺は怒るというよりも、その抜け道を使ったことに感心した。その上、度胸があるとおもった。…そのような度胸はいらないし、人にいい思いもさせないし、解決策として最低だし、この学園のシステムでなければ、そう、それこそ、解決はしなかった。
もちろん、反則狙撃もシステムがなければやらなかっただろう。
震えて、ぶれる銃口を自分自身に向けて、こちらが何か反応を返す前に両手で引き金を引いていた。
普段なら、引き金なんて指一本でいとも簡単といった風に引くくせに。
「俺は、この先を思うと有りかとも思ったが」
「なしだよ。僕はそういうことするのは嫌い。潔いだなんて思わない。それこそ、死んでも!」
恐らく、槍走のいう『この先』とは、此処を卒業または退学、転学してからの話だろう。
国に軍があるように、他国にも軍があり、テロ集団があれば、反対勢力もあり、争いもある。
この学校ではなくても、世界は穏やかなだけじゃない。
反則狙撃が穏やかではない世界に進むかどうかはわからないが、もし、ぶっそうな世界で生きるのならば、それを選ぶ日も来るかもしれない。
機密のためであったりとか、自分自身の悲嘆を思ってか。
「だいたいね、そういう状況下に追い込まれないようにすることが大事なの。今回の彼は大失敗だよ!取り返しつかないよ?離脱させるのは正解だけど、自分自身の離脱のさせ方はダメ!」
「最後に一人残るのも自己犠牲だとかいって嫌がるくせに」
「一人ではすべて解決なんてできないってこと、怒っておこう。あとで。…彼のことだし。たぶん、正体ばれてるだろう」
黙って二人の話を大人しく聞きながら、僕は結界を触る。
この結界も、猟奇なら壊せたのだろうかとか、僕に焔術師のような機動力があればもうちょっと頼りになったのかとか。
たぶん、反則狙撃は無意識ながら、僕と人形遣いを残した。
残ってしまいそうな二人から倒した。
力不足を感じる。
「まったくもう…ま、結果的には一人に絞れたし…あとでこってりしぼるだけにしてあげよう」
「甘いし、優しいな」
「でしょ。惚れ直す?」
「いや、別に」
人が感傷に浸っている間に先輩方がイチャイチャしはじめた。
イチャイチャするなら、他所でしてもらいたいものだ。
「さてと…君に残ってもらった理由だけどね」
「あ、はい」
急に話をふられたので、ちょっと思考が他所に行っていたのだが、戻ってきた。
「君は今日から副寮長だから」
「…え、副寮長…って、いましたよね?」
「うん、先輩が卒業なされるまでは、僕がしていたよ」
「はい?」
「僕が卒業したら、君が寮長。アンダスタン?」
…わかりたくないなぁ…
「ちなみにね、寮長には寮長に伝わる魔法があるんだけれど…」
「あ、お受けします」



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