書きなぐり High&Low2 忍者ブログ

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昔の分です。
いずれ1と同じように直します。


本文はつづきからどうぞ










 戦闘関連の授業に使うフィールドのために無駄に広い敷地。
 それを可能にする面積を擁する僻地。
 僻地にあるが故にあらゆるものを内包した場所。
 それがこの学園だ。
 その学園の名物といっていい大きな画面が設置されている食堂がある。
 画面には朝の占いから、学内の意味の解らないランキングまで、時間はオハヨウからオヤスミまで。とにかく、青春真っ盛りの生徒より騒がしいかもしれない大画面、通称食堂ビジョン……ださい名前の画面には本日のピックアップ戦闘が繰り返しうつしだされていた。
 もう既にピックアップ戦闘に飽きた連中が口々にこういう。
 近々の暗殺者が、カーニバルの反則狙撃に求愛された。
 ……この学校には非常に残念な習慣がある。
 それがこの『求愛』だ。ある条件のもと、ある行為をすることによってそれは起きる。銃ならば、ある条件のもと、心臓を一発でぶちぬくことがそれだ。
 つまり、反則狙撃と呼ばれている俺は、まさにそれを暗殺者にやったのである。
 意図せずして条件が揃ってしまうことも稀にあり、そして俺はその不運をうっかり実行してしまったようだ。
 だが、求愛したからといって恋人になれるわけではないし、告白したということにはならない。
 俺みたいな不運が、稀にだがあるためだ。
 求愛を告白にするにはルールがある。
 変装をといた状態の近々の暗殺者を俺が見つけなければならないのだ。
 うっかりだったため、探すつもりはない。
 大体、変装状態の人間に公開告白などという大胆なことをする奴らはそういないし、変装していない状態の人間を探すのは手間だ。
 今の変装していない状態で見つけた相手に告白するほうが楽だしいいと思う。
 だが、変装状態でも恋というやつはしてしまうもので、変装状態のまま付き合ってしまう奴らもかなり存在する。大変面倒だが、変装状態のままお付き合い、お別れするのだ。
「暗殺者は華奢な体系の見るからに美形系のおにーさま変装だから、ファン多いよなぁ」
「せやね。求愛した反則狙撃もラテン系の細身変装やから、人気あるし」
 食堂ビジョンで放映される注目の戦闘風景によって、校内では人気ランキングなるものがある。
 戦闘スタイル、強さ、変装後の姿により決まるランキングは、変装前ランキングと一緒に掲示され、非常におもしろい。
 変装後にはトップ50に入る俺は、変装前は影も形もないところとか。
「あー。コレに乗じて偽暗殺者と偽反則狙撃カップルとか出来そうだな」
「闇討ちされる危険性があっても?」
「反則とか暗殺とか言われてても、愛されてるし、いい意味で人気あるじゃん」
「せやろけど、恨みもこうとるやろ」
 友人は頷いて、微笑した。
「有名税」
「いらんわ」
 暗殺者が誰かは知らない。けれど申し訳ないことをした。
 近年は性別はどうでもいいという風潮もあるが、家柄や国、宗教によっては大事である。だいたい暗殺者がどうであれ告白されるということは、もともと好感でもないかぎり、目立てば目立つほど受け入れがたい。
 それが大丈夫だったとしても、俺には好きな奴がいるのだから、気もないのに大変失礼なことをした。
「俺、ちょいへこむわぁ」
「俺は応援しとくぞ」
「せんでええわぁ、ボケェー」

◇◆◇

 戦闘で負った怪我は残らない。
 たとえ心臓をぶちぬかれようが、袈裟懸けされようが、残りはしないし、かすり傷にもならないのだ。
 だから、戦闘で遠慮なく刃物を使うし、遠慮なく引き金を引く。
 だが、求愛は別だ。
 例外はあるが、大概求愛はどの専攻どの武器でも致命傷を負わせるような攻撃をしなければならない。しかし他に傷をつけて、傷を分散させてもならないのだ。
 それには技量がいるし、それだけ大変なことなのだから、覚悟もいる。
 当然力量差があれば出来ないことはないし、戦闘不能にするためには心臓を狙うのは当たり前だ。
 だから、求愛には条件がある。
 その条件は偶然そろうことがある。
 戦闘を行い、仕留める時間と、仕留める位置。そして、ソレが戦闘終了であること。
 傷痕は魔力痕と呼ばれる傷痕で、本来ならば傷つかないように施された魔法が付ける傷である。
 何れ消えるその魔力痕を思い出し、その上にある服を握る。
 アレは偶然の出来事だった。
 それはよく、わかっている。
 しかし、それでも、心臓を撃ち抜かれた瞬間思ったのだ。
 反則狙撃ならば、いい。
 探しになど来ないだろう事はわかっている。
 それならば俺が探せばいい。俺はゆっくりと笑った。
 絶対見つけてやる。





 求愛とかいう残念な習慣があるわけだが、残念な習慣はそれだけじゃない。
 変装前ランクトップ10には近寄ったら小さいものなら子供の嫌がらせ、大きいものなら傷害罪の被害者になるというものだ。
 戦闘訓練などを受けてはいるが、専攻が違えば得意とすることも違う。
 授業をしているときと違い、死なないようにしているということもない。
 そのため、力を封じたり、武器は携帯できないようなっていたりする。
 それをしないと、喧嘩一つで大惨事になってしまうからだ。
 そうなると単純に腕っ節と体力、筋力がものをいう。陰惨なことが考えられる頭脳もものをいう。
 だから俺のような直接攻撃と縁のない武器を持つ連中や魔法に頼りきりな連中、単純に賢い連中は人気者には近寄らない。
 というわけだから、キイキイ! オマエなんてこうしてやるー! みたいな展開は望んでいないわけだ。
 望んでないわけだけど。
「なんやのもー……」
 小さな嫌がらせはなかったけれど、突然呼び出された挙げ句、あんた生意気なんだよと言われたら、ため息も出るというものだ。
 目立つ行動も戦闘以外ではしていないし、頭はまぁ……いいほうではあるけれど、突き抜けてはいない。運動神経はいいけど、武器専攻の連中は大体運動神経がいいはずだ。目立つ容姿もしていない。
 しいて言うなら、友人がちょっと特殊なだけだ。
 原因がソレしか見当たらない。
「あんたなんかが、魔法武器選択の方と……!」
 そう。友人の良平(りょうへい)は、魔法武器を使っている。
 魔法武器を使う奴ってのは多くない。
 魔法武器自体が少ないし、それを使える人が少ないからだ。
 良平の場合、ちゃんとした魔法の武器ではなくて魔術の一種で、それを使える奴は多いのに、魔法を使う連中はその魔術を使うことを好まず、主要の魔術なんかにはしない。
 だから、良平は珍しい。
 珍しいということは人物を特定することが容易である。
 戦闘の授業はいちいち変装する授業とそうでない授業があったりするから、誰が何の専攻であるかはすぐにわかるのだ。
 魔法武器を使うなんて珍しいやつでも一学年一クラス分はいるので、良平は武器を扱う体術や体力、身さばきの関係や、その上で魔術を学びたいってこと、あと身バレを考えて武器専攻に交じっているわけである。
 魔法武器専攻だと魔法がいやに中途半端であるし、魔法と武器を掛け合わせて行使するという授業が多くなるし、魔法専攻で魔法武器選択になると、今度は武器の授業が減ってしまうらしい。
 魔法の授業は武器の授業より多くて時間が取られる。武器の扱いをマスターしたい人間には不向きだ。
 それなら、自分のとりたい授業を選択してとったほうがいい。
 そんなこんなもあってか魔法武器使ってる奴はそれでも全体からすれば少ないし、魔術も使えれば武器も使えるというから、エリート扱いだ。
 普通の武器専攻で目立つ様子のない俺は友人というだけで羨まれ、やっかまれる。
 しかもそれが、同じ武器専攻で近距離だとか中距離型でも得手が長物だとかいう奴らにとっては銃を使うやつなんてと思ってしまうものらしい。
 飛び道具だし、自分の力で投げたりひっぱったりしていないしとも思うようだ。
 銃を武器としてる奴らは事もなげにガンガンぶっぱなしてるから、使ったことのないやつらは知らないだろう。けど、仮にも火薬で押し出して飛ばしているものの反動だとかあるから連射だって容易じゃないし、反応速度に的確さ、そんなものが要求されるのだから、引き金弾いてるだけじゃないし、バカにされるいわれはない。
 長距離狙撃にしたって、一発で仕留めないと位置を把握されるし、弾だってそうあるわけではないのだ。
 マシンガンだのガトリングガンだのを使うにしても、それなりにリスクがあるし、あれらは射出も早いけど弾切れも早く、射出が多い分、反動も大きいし、それを軽減させると弾は軽くなって攻撃力が減る。ねらいなんてあってないものだから、数撃ちゃ当たる戦法であるし、動けない形式の物もある。
 そんなわけだから、どの銃がどの場面に適しているだとか、あくまで一つの銃しか扱わないのなら、それでどうやって勝ち残るか考えなければならない。
 それはどこだってそうのはずだ。
 そういう文句をいいたい気分である俺は、現在、裏庭にて、屈強な人たちに囲まれて襲われている。
 これでも武器専攻の俺は、その人たちの攻撃を避けて避けて避けまくる。さすがに、銃ぶっ放しては逃げ、ぶっ放しては逃げなんてことしてるから、避けるのは得意だ。一応、弾切れ時のことを考えて、体術なんてのもやっているけれど、武器専攻の近距離武器系と人体武器……普段から拳を武器にしてる方々相手に下手打つのは得策じゃない。どっか痛めたら、次の戦闘の授業に響く。
 せめて何か武器があるといい。けれど、それがあるのならば、襲ってくるこの人たちも使っていただろう。
 だから避けて避けて、避けまくっている。体力と根性はあるのだ。それがないと狙撃なんてお話にならないのである。
 あと冷静さ。それもないと、お話にならない。
 素手なら、急所にガツンと一発。
 でも、かかってくる連中だって馬鹿じゃない。俺の隙なんていくらでもできるだろう。この間戦った超近距離型の暗殺者ならこんな状況でも淡々と一人ずつ確実にしとめそうなものだ。けれど、あれは超人の域だと思う。
 残念ながら俺は超人じゃない。
 確かにあの時は勝った。しかしあれは良平が先に舞師とけりつけて、魔術を使ってくれたからであって、俺だけの勝利じゃない。その上、俺がやっているのは中距離から超長距離であって、接近戦は得意ではなかった。
 たとえ相手の実力がまぁまぁでも、得手が使えない今、無理はしない。
 だから、足元の小石を蹴り上げて、指弾で石をはじき出す。意外と石が大きくて指が痛い。
 それはもちろん、避けられる。けど、そんなのは計算済みだ。
 その隙に逃げるわけである。
 でも、相手は一人じゃない。後ろの奴の攻撃避けて、何個か小石蹴り上げて、さらにその小石をけったり、弾いたり。
 狙いが甘いから避けられるのはわかってる。
 逃げたいわけだからそれでいい。
 俺はそいつらの輪の中から飛び出す。
 なんか投げられたらひとたまりないよな。なんて思いながら、見事逃走した。
 あとは適当に隠れて気配を消す。
 気配消すのも、狙撃の基本だ。あんな奴らには見つからない自信がある。
 そして、索敵も得意だ。気配が充分はなれたあと、溜息をつく。
「ほんま、呼び出し応じるのやめんとあかんなぁ」
 新学期始まってすぐは、やたらに絡まれたりするので、やめなければとは思っている。暫くすると絡むやつはいなくなって来る。理由はたくさんあるのだが、最たる理由は良平との共通の友人と俺の喧嘩のせいだと思う。
 この時期、俺はとても絡まれてしまうがために、友人達はそれはもう、他人事のように様子を見ている。だが、本気でまったく関係ない友人が『男なら逃げるな! 戦え!』とか言って教室で木刀を振りかざしてくるのだ。最初これをやられたときの対応は避けるのみだったが、良平が見るに見かねたらしく、木刀をだしてくれるようになった。
 ちなみに、友人は木刀を振りかざしてくるが人体武器選択で、ナックル装備が基本であるため、手加減といえば手加減である。俺の方が圧倒的ふりだけど。
 そのおかげでちゃんばらの真似事くらいはできるようになった。喧嘩するたびに木刀ふりまわされてはうまくもなろう。
 そんなわけで、友人が怖いのか、俺がかわいそうなのか。
 その喧嘩をするとぱったりとその手のお呼び出しはなくなる。
 それまでは、もてもてで正直困るくらいだ。
 はぁ……と大きな溜息をついて、俺は木の上からするりと降りる。
 人はあまり自分の視線より上を探さないものなんだそうな。
 特に焦ってたりすると見ないものだろう。だいたい逃げてる人間が素早く木に登るなんて考えないだろうし。
「……そこで、何している?」
 木の下から、声のほうを振り向いて俺は苦笑する。
 どうやら生徒会室の下にいたらしい。逃げ込むなら、ここと風紀委員室、職員室ほどいいものはない。
 そこはさすがに計算ではなかったのだけれど。
「何もしとりませんよ」
 なんて言ってはみたけれど、見上げる相手の顔は眉間に皺が寄っている。
「追われていただろう」
「見とったんなら、助っけてください、会長」
「助ける必要性を感じなかった」
「ええ……そこは、生徒会長として助けるべきやと思いますよォ」
「死なねぇかなと思ってみていた。残念なことに死ななかった」
 舌打ちまでしてくれました。酷い。
「そりゃあ、残念すぎますがな」
「だろう? 早く、俺のためにも死んでくれ」
「出来たら会長の胸に抱かれて死にたいんですわぁ」
 そう言ったら、ぱんっと窓を閉めて会長は窓越しに、『シ・ネ』と口パクをしてくれた。
「いけずやわぁ」



生徒会長。
変装前トップ10にて第1位のイケメン。
その人が大好きで、人がいないとき、気配がないとき、慎重に慎重に行動してアタックしてるわけです。
そう。俺の好きな人、生徒会長の十織(とおり)。
美人さんでカッコいくて可愛くて、それはもう最高の男です。
でも、俺のことはキモい変態認識してくれています。いや、キスもしたことなければ、抱きついたこともなく、触ったことすらないし、発言もいっつもあの程度のものなんだ。
だけど、変態認識、なんだよなぁ。
臭いとは思うけど、変態か…捕らえ方だと思いたい。
「良やん、良やーん」
「ハイハイ、叶丞(きょうすけ)くん、何ですか」
「俺って変態なんかなぁ」
「…恋する男が少々キモいのは仕方ないと、俺は思うぞ」
「わかった、キモいわけやね」
それは、ちょっと、うん…理解してる。悲しいけれど。
「うん、でも、まぁ、うん…うん」
何か、言いようのない悲しみってあるよね。
「友よ、強く生きろ」
「うん、泣かん」
ぽんと肩を叩いてくれる友人の手が温かくて染みるぜ。
そんなことをしながらも、俺と友人は寮の部屋に向かう。
この部屋が、俺たちがこの学校に入学してからずっと多目的に使うものであり、夜寝る場所であり、疲れを癒す場所である。それが、一人一部屋あてがわれているわけだ。
戦闘関連の授業の一部はそこのシャワールームから目的のフィールドへ転送という非常に面倒くさいシステムをとっている。
しかし、それをしないと正体がばれてしまうのだ。
自室に辿り着いた俺は、水滴も落ちていないシャワールームでコースローのヅラを被ってアクセサリーをつけ、目的地を防水仕様の端末で入力する。そうすると、転送をしてもらえる。
もちろん、強制的に転送されることもある。魔法ってやつはずるい。
フィールドに転送されると、先に、良平がやってきていた。
「今日は射撃訓練だっけ、反則くん」
「おー。猟奇は確か、魔法だっけ?」
声も姿も変わっているけれど、口調や抑揚も変わっている。
もちろん、学校側が正体がばれないように配慮して、頑張ってくれてるわけだ。
けれど、こえが結構、体さばきとかでばれたりもする。まぁ、喧嘩とか、襲われたりとかしない限り、普通にしていれば観察でもしていない限りバレれないし、実力のある奴ほどそういうのはわかりにくいし、うまく隠す。
目のいい奴って、いるけどね。
それすらも誤魔化す。それが上位の人間は当たり前。…もしくは、まったく隠さないで、返り討ちにするってやつもいなくはない。
俺はそういう面倒は避けたいほうだから、隠すほうだ。
「じゃあ、また、あとで」
良平と別れたあと、俺は射撃訓練が行われている場所に向かう。
急がなければ、射撃の的にされてしまうため、全速力で走る。
遅れた奴は射撃の的にされ、撃ちながら逃げるだなんて面倒なことをさせられるのだ。実は昔、一度やらされたことがあるのだが、その頃、俺は反則狙撃だなんて呼ばれていなかったし、今ほど身体が動かなかった上に長距離狙撃しかできなかった。いや、ほんと、あの時、死んだ。
でも、それのおかげで、動体視力と反射神経のよさを確信したからね。…動体視力はそれなりによくないと狙撃なんてやってはいられないけど、反射神経はおもったよりよかったのだ。
中距離射撃で走り回れると思うくらいには。
それでも、もう二度と遅刻しないと俺は思った。
思ったし、遅刻はしなかった。最後にギリギリってわけでもなかった。
しかし、現実は非情だった。
「はーい、28番は一年生の的ねー」
「…何故」
思わず呟いた。
戦闘訓練時、教師は生徒を出席番号、もしくはうっかりついてしまった通り名で呼ぶ。理由は、もちろん、誰が誰かばれちゃ不味いからだ。
「反則狙撃くんが、今のところ二年銃選択のトップだからです」
「…えー…」
「一年生のトップとトレードして的にすることにしたので……、完膚なきまでに倒してくれないと、先生、一学期の的係として、反則狙撃くんを任命しちゃうんだから!」
一人で二年の威厳を守ってこいというのだろうか。それはあまりにも酷い申し出だ。
だが、軽く脅されているわけだし、いかなくても一学期的にされるんだろなぁ…と思ってしまうと行かないわけにもいかない。
「大丈夫だよ、反則くん。他のクラスの子たちもかりたから、存分に叩きのめしてね」
あくまで、一年生を叩きのめす方向のようだ。
でだ。
一年生の銃選択のやつらだけを相手にすればいいのかなと思っていったら、一年生武器専攻、剣、銃、特殊武器選択と魔法専攻のやつらがずらっとあつまっていた。
聞いてない。
そして、俺の味方となるのはそれらの選択では有名な奴らがやってきていた。
剣からは先日戦って、なんか今会うのは気まずい気もする、短剣の暗殺者と、双剣使いの双剣。銃からは俺と早撃ち。特殊武器からは、糸使いのアヤトリ。魔法専攻からは焔術師。
バランスいいような、悪いようなメンバー。
「反則、ひさしぶリィ」
「反則って通り名、好きじゃないと知ってていっているな?」
「反則って呼び方以外に呼び方ないじゃない。番号で呼ぶのは味気ないでしょー?」
その通りだった。
おどけた様子で話しかけてきたのは早撃ち。
その名の通り、正確無比な早撃ちをするやつだ。カウボーイの変装になっているため、ガンマンとも呼ばれている。
「あったりまえ~。あ、そう思えば、求愛したんだって?そこのに」
暗殺者をちらっとみて、そんなことをいう。
「偶然に」
「あら、災難。でも、美形カップルって騒がれてるよー」
変装前だと、俺は特に目立つことのない姿である。美形とは程遠い。もちろん、暗殺者も美形とは限らない。
「そだ、答え聞いてあげるね」
余計なお世話であるうえに、災難といったさきから、これである。
溜息だけついてやった。
「ああーん。スルーだなんてぇ。ねぇ、アヤちゃん」
アヤちゃん…糸使いのアヤトリだ。アヤトリは迷惑そうに顔を歪めた。
「反則、同情」
片言で同情された。
アヤトリは友人の友人で変装前の姿もよく知っているし、おそらく俺の友人でもある。
「アヤちゃんもこーれぇえー?ええと、じゃあ、焔ちゃんは?」
「は?話しかけてくるな」
「あ、ワリ。焔、興味ないから、そういうの。あと早撃ちのこと好きじゃないらしいし」
焔術師がフードのしたから不機嫌そうな声を出した。
焔術師の態度の悪さを謝ったのは双剣。この二人はコンビである。双炎という名のコンビであるが、皆、悪魔と呼ぶ。
性格がよくないらしい。
らしいというのは、俺はまだ、この二人と戦ったことはないし、かかわりもないからだ。
「はーい、上級せぇのみなさぁーんお揃いですねぇ?一年生の皆にーそれなりに健闘してくださーい。グッドラック!」
一年特殊武器担当の教師がそういった。
こちらは担当教師に脅されてきたというのに、健闘か。倒してくれる予定らしい。
教師がいなくなったあと、俺は再び溜息をついた。
「…この戦闘、負けたくはないんだが」
急にそういったのは、今まで黙っていた暗殺者だった。
「あー俺も俺も。負けると的にされちゃうんだー」
「お前もか」
「あ、反則も?ひどいよねぇ」
「まったくだ。単体で動いていても勝てないだろうし、手を組まないか」
「構わない」
俺の提案に同意したのは、双炎のコンビ二人以外だった。あのコンビは暫く悩んで、焔術師がこういった。
「あとで、お願いを聞いてくれんなら、双炎も手を貸す」
「どんな?」
「…反則狙撃の、正体とか」
「普通」
俺の正体を普通の一言で済ませたのはアヤトリだった。
途方もない美形みたいな噂がとんでいるのが悪い。
「普通?ああ…まぁ、興味あるから、その辺。見せてもらえる?」
「…ヒントくらいなら」
なにせ、反則狙撃なんて呼ばれる人間だ。
あらゆる意味で狙われている。
なまじ、変装後の姿が美形の類であるため、貞操まで危機にさらされている。変装前なんて、アイツ誰?なんていわれないほどの普通さなのに、だ。だから、正体がばれるとリスクが大きい。
「まぁ、それは仕方ない」
納得してくれたようだ。
「できることは有名人ばっかだし、わかるよー。とりあえず、超長距離、長距離、中距離、近距離、超近距離と、揃い踏みなわけだけどぉ」
俺はそっと、手を上げた。
進行役を買って出た早撃ちが、頷いた。
「はい、反則ー」
「今回俺は、射撃訓練中に呼ばれたが、中距離射撃のつもりで、武器は中距離用しかもってないし、特殊弾ももってない」
「あらま。俺も射撃訓練だったけど、普段と変わりなしだから関係ないけど…ほか、不都合あるひといる?」
ソレを聞いて、焔術師が手を上げた。
「俺は使用限定がかかっている状況下における対処の授業中に呼ばれたから、広範囲型魔法は無理」
ということは、だ。
超長距離は無理。長距離は糸を使うアヤトリが正確さをかく部分はあるができるという話だし、焔術師もできないことはないという。
「うーん正直さ、反則には超長距離で数減らしてほしかったんだよねぇ」
「あの集中力で、周りも見られるというのは貴重な能力だ」
先日戦った暗殺者がベタ褒めしてくれた。
後ろから迫った暗殺者に気をとられたから、実はちょっと狙いが甘かったとかそれのせいで、条件があっちゃって、求愛しちゃったとか、そこのとこは言わない。恥かしいから。
「近距離系のお二人さんは、弾はじくなんて楽勝だろうけど、普通に考えて、多対一でいちいち弾くなんて論外だし、避けても数に負けちゃうこともあるし。魔法もあるし、特殊武器なんて、何がくるかわかったもんじゃないし。まず確実に戦闘不能者数増やしたいんだよね。そこは焔ちゃんに期待してたけど、制限かかってたらお話にならないし。チマチマ潰すのはたしかにまぁ、できるけど。たよりはアヤトリの絡め手だけど…」
アヤトリの『絡め手』は同時に複数の糸をだして、それを駆使するという技だ。大変な集中力が必要なことと、数を増やせば増やすだけ攻撃が単調になってしまうのだ。
単調なものは避けられやすい。そして、アヤトリが相手だということはそういう攻撃も来るだろうと一年生も知っている。なにせ、俺たちは皆、通り名なんてつけられている有名人だから。
どうしたもんかと考えていると、ポツリと暗殺者が提案をした。
「…焔術師、武器精製魔法は使えるか」
くるくると回る魔方式図の中、長距離射撃の奴から奪った銃を持って俺は焔術師、アヤトリといる。
俺は銃を構え、長距離から皆を援護する。
「銃器、長距離、沈黙。武器はあつめた。二分後、乱射開始」
作戦はこうだ。
長距離攻撃連中をさきに片付け、近距離から中距離の連中を倒そうというやつだ。
近距離の二人には苦しいだろうがその間、的をしてもらった。
神業だったよ、あの二人。
超長距離は長距離連中を倒してる最中に全員発見して、焔術師が一人ずつ転移爆炎で戦闘不能にした。
転移爆炎は狙いをつけるのが難しいらしいが、そこは長距離狙撃を得意とする俺がサポートして、確実にしとめた。
長距離連中も、魔法使いから順に倒していった。俺は長距離用の武器が欲しかったため、まず銃選択のやつから倒したけど。俺がスコープで確認できる位置を爆走していたからって、慌てていてはまだまだだなぁ、一年生。
そして、拝借した武器で、近距離の二人を援護。 俺が長距離から攻撃してると知って、一年生は俺の位置を探ろうと躍起になっている間、近距離の二人はすさまじかった。面倒な魔法使いを担当した超近距離暗殺者がすっぱすっぱと一年生を戦闘不能にしていく。
双剣は噂に違わぬ技巧派っぷりをみせつけ、無駄のない剣さばきで相手の急所を切りつけていく。
魔法使いは魔法を使われると厄介だけど、用意が出来てなかったら、それほどじゃない。用意が出来る前に、暗殺者がその速さでもって突っ込んで、混乱している間に双剣がつっこんだから、対応がバラバラ。近距離だと味方を巻き込むため、術も限られてくる。中等部からこの学校にいても、高等部あがってすぐ、集団の混乱で冷静にいられる魔法使いなんてまだまだ少ない。しかも、通り名もってて、変装後ランクに存在する上級生に迫られて混乱しないやつは相当。
選択が銃の連中も、乱戦になると弱い。正確さを追求されるし、飛び道具なんてさらに混乱を招いてしまったりするから、よほどの信頼と、覚悟がいる。
「ぞっとする光景だな」
自分自身の身に置き換えたか、そういった焔術師は、そうでもない表情で呟いた。
「まぁ、そういわず、そろそろでしょ。俺、武器専攻つぶしにいくからー」
今まで、長距離連中を倒すためにここまできていた早撃ちが、近距離の二人を助けにいくために、走っていった。
「いけるか、二人とも」
スコープを覗いていた俺が尋ねると、魔法式図をいくつも展開した焔術師と、糸をいくつも放ち、既に繰っているアヤトリが僅かに頷いた。
「反則狙撃こそ、この数、いけるのか」
「やってみせる」
にやりと俺は笑った。
◇◆◇
反則狙撃が反則たる所以の一つは、だ。
狙撃とあるのに、超長距離~中距離、あるいは近距離といってもいい。その広域を攻撃範囲とし、精確な射撃ができることにあるとされている。
しかし、それだけではない。それだけでは反則というに足りない。
冷静さと、状況判断の正確さ、何より複数の視点を展開できるところにその反則性はある。
複数の視点をもって、すべてに集中するということは難しい。
けれど、反則狙撃は、その精度を下げ、複数の視点をある程度のレベルまで持っていくことができる。それを均すだけでなく、ある程度ならばらつきをもたせることもできるというあたり、反則の反則たる所以だ。
それはもちろん、反則狙撃が自分の才能に気がつき、開花させたことによってできることだ。
だから、反則狙撃は、一年の半ばあたりまでパッとしない戦闘成績を収めていた。
けれど、その才能を開花させた彼は、あっという間に有名人になった。
複数の視点をつかうことは早々ないことで、知るものはすくない。
コンビ戦闘ならば、余計に、彼の複数の視点に気づくことは難しい。
実際、コンビ戦闘時は複数方向からの攻撃をされることが少ないからだ。
もし、何か同時攻撃をしていれば、彼はいくつか視点を用意し、対応したことだろう。
反則狙撃の複数の視点。それは補助魔法を使うとぐんと、数を増やす。
あまり長時間使えるものではないし、反則狙撃自体も疲労するため、あまり使わない。
そして、武器専攻といっても魔法が使えるものが少なくない。当然、魔法専攻には劣るが、できないことはないのだ。
そのできないことはない一人である反則狙撃は、今、複数の視点を用意して、補助魔法を駆使し、焔術師のサポートと自分自身の早撃ち狙撃に対応している。
長距離からの援護に慌てることなく動けるように。
慌てるくらいなら、回避することに集中するように。
そうきめて、俺と双剣はフィールドを駆け回る。 途中から、早撃ちも参戦。
相変わらず、中距離戦闘を得意とする銃選択のやつらはタフだ。フィールド内を距離を問わず駆け回っている。
「ファイア」
魔法で運ばれた声が聞こえた。
それと同時に一年生を襲う爆炎、次々と打ち出される銃弾。
一年の近距離攻撃隊は糸に阻まれこちらまで来られないでいたが、その糸が近距離隊に襲い掛かる。
次々と戦闘不能者が出て行く中、もう一度、声がした。
「第二射、ファイア」
この間隔で五回。遠距離連中は優秀すぎる。
そんなことをなんとなく思いながら、ひとりずつ確実に戦闘不能にしていく。
単調になるといっていただけあって、糸の攻撃をかいくぐってやってくる一年生は多い。
けれど、糸の攻撃のせいで上手く立ち回れる一年生は少ない。
「通り名持ちもいるはずだが」
などと呟きはするものの、二年の通り名持ちは少ないが、おかしい、人間ではないといわれるだけあって、超人的なことをする者が多い。
それと比べられては一年生とてたまったものではないだろう。
「マスターとか、聴音とか、…一年生上位は今、二年に四苦八苦してるずだし」
近くにいた双剣が俺の疑問に答えた。
そう思えばそうだったなと思いながら、一年生に悲鳴を上げられながら、跳躍する。
第五射が終わる頃、現場に残る一年生は早撃ちのいうところの『いちいち潰していける範囲』になっていた。
第五射が終わったあとも、長距離からの援護があることには、驚いたが。
「あーつっかれたわぁ」
「見たぞー戦闘トピックス。焔術師って魔法武器精製もできたんだなぁ」
「ん。おかげで、銃弾気にせんと撃てたんやけど、おかげで使われてもたわ」
銃弾には限りがある。
いくら俺が複数の視点をもっていて、視野が広くても、パカパカ撃っていたのでは、銃弾も尽きてしまう。
それを補ったのは、魔法武器精製で作った銃弾だ。
材料は魔力。良平のマジックサイスと同じ魔法だ。
それを魔法で強化した銃をつかって撃っていったわけだ。
ちなみに、五回の射撃は、普通の弾をつかった。さすがに一年生の長距離隊もいくつか弾を用意してあったから、助かった。
「その上、人の銃なんて久々に撃って、誤差修正大変やったから、なんやもう、終わったあと授業ぶっちして、寝てもたわ」
「ああ、それで、組み手いなかったんだ…」
授業をぶっちぎって寝たわりには疲れがとれていない。
甘いものが食べたいと思いつつ、食堂のメニューに視線を落とした。
食堂のスイーツはどれも甘ったるそうで食べることをためらう。
甘いものは嫌いではない。しかし、一口でいい。
「なんでこんな多いんやろ…一口でええのに…」
クッキーとか、日持ちしそうなものなら食べたが、ケーキだのパフェだのと明らかにすぐに食べなければならないものが並ぶ。
ため息をついてメニューから目を離すと、す…っと甘そうな何かがのったトレーが目の前でとまった。
特大金魚鉢チョコレートパフェというそれには、三角のチョコレートケーキが二本ささり、チョコプレッツェルが何本も刺さる。
生クリームは特盛りで、オレンジはきれいに切られて丸々一つ、りんごやメロンや苺まで金魚鉢を彩り、チョコレートシロップはこれでもかとかけられている。
アイスクリームはチョコ、バニラ、ナッツ入りのチョコ系その他を盛り付け、ソフトクリームも使われている。
スポンジケーキとシリアルコーンも見事なバランスで配置されている。
まごうことなき特大パフェが目の前にあった。
パフェから視線をゆっくり上へとずらし、それを持った人の顔を見て、言葉を失う。
美人で可愛くてかっこよくて、学園のトップに君臨する、好きで好きでたまらない生徒会長とよく似た顔を持つその人は、副会長、一織(ひおり)。
顔と名前が示すとおり、会長とは血縁関係がある。
…兄弟だ。
「一口、どう?」
俺のつぶやきを聞いていたらしい副会長は、武器専攻でクラスは違うがたまに会う。
その上、生徒会長とは違い、頻繁に見かけ、かつ、フレンドリーであるため、接触してもわりと騒がれない傾向にある。
「…副会長、ソレ食うんですか?」
思わず聞いてしまった茫然と俺に、副会長は他人事のように言った。
「そうだね」
ふ…と綺麗に笑ってみせるサービス精神は生徒会長にはないもので、柔らかで穏やか、その上爽やかなその笑みと口調から、人は副会長を王子と呼んだ。
「いや、でも」
「気にしなくていいよ、いっぱいあるしね」
そういって備え付けの小皿にアイスとケーキの一部をわけて入れ、そっと机のうえに置き、彼は生徒会連中が溜まっている二階席…生徒会専用席と呼ばれる個室のような場所へとさっさと行ってしまった。
穏やかで王子スマイルを身につけた副会長は、優しくて男らしいというのも有名で、この程度のことは誰にでもやってしまうたらしであるコトでも有名だ。
生徒会長にベタボレな俺としては、違うとわかっていても生徒会長に優しくされたようで、背中に脂汗が伝う。
優しい生徒会長など、嫌な予感しかしないと思う辺り、たまに自分はマゾなのかと疑ってしまう。
「相変わらず、副会長はたらしだな」
隣で呟いた良平が一口、副会長がおいていってくれたアイスを食べた。
「それ、俺のなんやけど」
「いいじゃん別に。俺だって、脳が甘いもの欲しがってんのよ」
そう言った友人はその日魔術の授業を受けていたらしい。
それなら、いつもどおり自分で頼んでくれよ。ソレ横から食うから
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