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空腹とはちがって、こちらは企画のほう。
こちらもたまったら、本ページにアップ予定。
もちろん、空腹は空腹で気まぐれに進行中です。
タイトルとしての読み方は、からしら。
本当の読み方はもちろん空白です。
主人公は予告どおり、できのいいほうの弟子。
本文はつづきからどうぞ。
ずっと他人の後姿を見てきた。
祖父母に俺を任せた母。
父の変わりに俺の前を行く祖父。
振り返って俺がついて来るのを待ってくれた祖母。
だから正面から、俺を見たのはその人が初めてだったかもしれない。
母も、祖父母も、優しかったし、俺が勝手に家から出てしまって帰っても、一晩中叱られはしたが受け入れてくれた。
それでも、その人が、初めてだった。
その人は俺が家出をした理由も解っているようだったし、家に帰ることができたのもその人のお陰だ。
俺はその人の背中をみたことがなかった。
いつも俺が大変な目にあっていると助けてくれたのに、その人の背中を見ることなんて一度もなかった。
守るとか庇うとか、そういうことをしない人だったといってもいい。
俺を助けてくれたけれど、俺の後ろからいつも手を伸ばしてくれていた。
その人の背中を初めて見たのは、一人でも自分自身を助けられる力を学びに行った時だった。
夜中、電気もつけずに、延々と再生される画像を見ているその人がいた。
机に肘をつき、退屈そうですらある人の背中は、疲れて見えた。
「……何見てるんですか」
「てめぇこそ、何見てやがんだ仁瀬」
一定のリズムで再生される画像は、同じ位置から撮られただろう同じ風景写真だ。
時々制服姿の人間が映る。
「シギさんの後姿」
しばらく画像をぼんやりと眺めていたが、いつも映る人物は同じだ。
たまにその人物以外も映るが、その人物が風景の中にいないとき、他の人間は映らない。
「……今は」
「………画像」
「見てんじゃねぇよ」
時々その人物と映りこむ人間は、目の前の人に似ていた。
目の前にいる人は、制服を着るような仕事はしていない。
「記念写真にしては遠景ですね」
「だから、見んじゃねぇよ」
画像となっている人物は遠景のあまりか霞んだり、ブレタリ、薄ぼんやりして見えた。
そのせいで、それが同一人物であるということに気がつくのに少し遅れた。
「聞いていいですか」
「……まぁ、見られてるしな。答えてやるか。こいつは、俺の所有物」
聞く前に答えられる。
ぶっきらぼうで、適当そうに聞こえるそれに、ため息をついてしまった。
「もう少しやわらかい言い方はできないんですか」
「じゃあ、恋人にしておくか?」
いくらぼやけても霞んでも、その人物は男のように見えた。
「男に見えますが」
「男……性別は確認したことねぇけど、男だろ。なぁ、リツ」
急に人影が増えた。
よく知った人影だった。
「そうだよ。男だよ。人間の形してたときはわかりやすかったけど、ずっと男だったよ」
「だとよ」
恋人というのは異性でなければならないというわけではない。
だが、俺の知っている恋人というのは異性であることが大前提だった。
同性が恋人であるということがないことではないと、知ってはいても、触れることのない世界だったのである。
特に偉そうに声をかけてくる男が、男を恋人にするような男には見えなかったのだから、首を傾げたのも仕方なかった。
「人間の形って、人間じゃないみたいに……」
「人間じゃねぇよ。この状態でカメラに映ってんのがおかしいくらいだしな」
お相手が男であるということにも首を傾げたのに、男である以前に人間でもないと言われては、冗談にしか思えない。
「冗談じゃねぇからな」
俺の思考を読んだように目の前の人物、琴田信貴さん、後に俺の師となった人は言った。
「このカメラは、あいつを監視するためにつけたらしい。微妙な角度の上に、遠いだろう、この写真。あいつを撮るためだけに無理をしたらしいが」
マウスが動いた。
強制終了により、少しだけ遅れて画面上に展開していたウィンドウが消える。
「のこってねぇんだ」
先生は、デスクの傍らに置いた刀を触って自嘲する。
「これくらいしか、のこってねぇ」
それは、ここにその人が居ないことを示す言葉だった。
祖父母に俺を任せた母。
父の変わりに俺の前を行く祖父。
振り返って俺がついて来るのを待ってくれた祖母。
だから正面から、俺を見たのはその人が初めてだったかもしれない。
母も、祖父母も、優しかったし、俺が勝手に家から出てしまって帰っても、一晩中叱られはしたが受け入れてくれた。
それでも、その人が、初めてだった。
その人は俺が家出をした理由も解っているようだったし、家に帰ることができたのもその人のお陰だ。
俺はその人の背中をみたことがなかった。
いつも俺が大変な目にあっていると助けてくれたのに、その人の背中を見ることなんて一度もなかった。
守るとか庇うとか、そういうことをしない人だったといってもいい。
俺を助けてくれたけれど、俺の後ろからいつも手を伸ばしてくれていた。
その人の背中を初めて見たのは、一人でも自分自身を助けられる力を学びに行った時だった。
夜中、電気もつけずに、延々と再生される画像を見ているその人がいた。
机に肘をつき、退屈そうですらある人の背中は、疲れて見えた。
「……何見てるんですか」
「てめぇこそ、何見てやがんだ仁瀬」
一定のリズムで再生される画像は、同じ位置から撮られただろう同じ風景写真だ。
時々制服姿の人間が映る。
「シギさんの後姿」
しばらく画像をぼんやりと眺めていたが、いつも映る人物は同じだ。
たまにその人物以外も映るが、その人物が風景の中にいないとき、他の人間は映らない。
「……今は」
「………画像」
「見てんじゃねぇよ」
時々その人物と映りこむ人間は、目の前の人に似ていた。
目の前にいる人は、制服を着るような仕事はしていない。
「記念写真にしては遠景ですね」
「だから、見んじゃねぇよ」
画像となっている人物は遠景のあまりか霞んだり、ブレタリ、薄ぼんやりして見えた。
そのせいで、それが同一人物であるということに気がつくのに少し遅れた。
「聞いていいですか」
「……まぁ、見られてるしな。答えてやるか。こいつは、俺の所有物」
聞く前に答えられる。
ぶっきらぼうで、適当そうに聞こえるそれに、ため息をついてしまった。
「もう少しやわらかい言い方はできないんですか」
「じゃあ、恋人にしておくか?」
いくらぼやけても霞んでも、その人物は男のように見えた。
「男に見えますが」
「男……性別は確認したことねぇけど、男だろ。なぁ、リツ」
急に人影が増えた。
よく知った人影だった。
「そうだよ。男だよ。人間の形してたときはわかりやすかったけど、ずっと男だったよ」
「だとよ」
恋人というのは異性でなければならないというわけではない。
だが、俺の知っている恋人というのは異性であることが大前提だった。
同性が恋人であるということがないことではないと、知ってはいても、触れることのない世界だったのである。
特に偉そうに声をかけてくる男が、男を恋人にするような男には見えなかったのだから、首を傾げたのも仕方なかった。
「人間の形って、人間じゃないみたいに……」
「人間じゃねぇよ。この状態でカメラに映ってんのがおかしいくらいだしな」
お相手が男であるということにも首を傾げたのに、男である以前に人間でもないと言われては、冗談にしか思えない。
「冗談じゃねぇからな」
俺の思考を読んだように目の前の人物、琴田信貴さん、後に俺の師となった人は言った。
「このカメラは、あいつを監視するためにつけたらしい。微妙な角度の上に、遠いだろう、この写真。あいつを撮るためだけに無理をしたらしいが」
マウスが動いた。
強制終了により、少しだけ遅れて画面上に展開していたウィンドウが消える。
「のこってねぇんだ」
先生は、デスクの傍らに置いた刀を触って自嘲する。
「これくらいしか、のこってねぇ」
それは、ここにその人が居ないことを示す言葉だった。
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