書きなぐり 見るのは穏やかな夢 忍者ブログ

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タイトルで解るかな。
とある三男の話。
というか、長男と人間の話かもしれない。
でも、しっかり三男。


ちらっとのつもりが、けっこう詳しい。


人外と人間です。
あと、御伽噺は残酷です。



本文はつづきから、どうぞ。










「君に、面白い話を聞かせてあげる。なんてことはない。少し前の話さ。君が若くて、そう、兄上がまだいらっしゃった頃の話」
男は床の上でぎくりとした。
会ったときから変わらぬ姿の男を見上げたまま、首を動かすこともできない。
「その頃、俺はあることに興味津々。君は実験と研究に忙しくて、俺の相手なんかしてくれなかった。だから拾って来た。でも拾って来たはいいけど、兄上に取り上げられちゃって、あーあー」
わざとらしく肩を下す仕草、少しだけ芝居がかった言葉も動作も、慣れてしまえば少し悪い癖と想うだけで、とてもなじむし、少し笑みさえこぼれる。
しかし、男にとって、今はそれが恐ろしい。
「兄上は見たまま律儀だし、情に流されて、まぁ、大事にしてたと思うよ。俺たちの大事にするじゃあ、たいしたこともできてないと思うけど。俺もね、取り上げられてるだけじゃつまんないし、それを見に行ったり構いにいったりしたんだけど、まぁー俺も流されちゃって。最後には、兄上の味方までしちゃったわけだ」
笑みが零れる。
いつもなら、それにつられて笑うこともできた。だが、男は床の上に居ながら、寒さを感じた。
「その上、兄上が最後まで付き合ったとかいうじゃない。めでたしめでたし、幸福な終わり方……でもね、これには続きがあったし、お話の最初はね、最初じゃなかった」
男が漸く目をつぶった。
もうやめてくれと言えない変わりに、うめき声が漏れる。
「兄上は次第に昔の兄上ではなくなった。当然だ。本当は大事にしたかったし、納得したはずだったのに、失ったんだ。しかも、自分でなくしちゃったんだ。でも、兄上は信じることにしてた。失くしたんじゃない、返したんだ。でも、その証拠もない。休むたびにうなされた。食事するたびに思い出した。もっと柔らかかった。もっと喉を潤すほど濡れた。一滴も残らず自分のものにしたかったから、噛んだのは一度、丸のみだった。何も忘れたくなかったから、最後の感触まで追った。だから、兄上は覚えてた。香りは?感触は?味は?一つも逃さなかった。だからって、他に同じものを求めることもなかった。だって、違うから。兄上に選択させたのは、それと同じもの。だけど、違うもの。何も思ってなかったのに、憎しみさえ芽生えた。だから、俺にはおいしい役目が転がってきたわけだ」
ろくろく動くこともできない男は、ただ床の上で震えた。
耳を覆うこともできない。
「兄上は食事をとらなくなった。休むことも好まなくなった。当然衰弱した。衰弱して、そろそろ動けないかなってくらいになって、ある場所を訪ねた。そして、兄上はいなくなった」
男の上にかかっている掛け布も、男が震えるにあわせて震えた。
それほど、男は恐れていた。
「それが、お話の、本当の最後。さて、じゃあ、誰も知らなかった最初と、最後の少し前に起こったこと、そして、兄上がおかしくなった原因の話をしようか」
男はもうこれ以上聞きたくなかった。
閉じた瞼を開いて、視線で訴える。
やめてくれ。
「お話は、あるものが召還されたことから始まる。それを召還したのは、人間だ。その人間は呪術師だった。呪術師は、研究に実験にと大忙し。俺が人間に興味を持つ一端を担った人なんだけど、そのときもミミズどもに食い合いをさせたりして忙しかった。そんな中、人間の代表に頼まれて、あることをした。他の世界の人間の召還だ。興味があった。召還した。うまくいった。でも、目的の人じゃなかった。捨てた。うまく拾われた。でも、この人は拾われちゃいけなかった。この人がいるともう一度召還はできない。そうして、この人をこの世界から追い出すことにした。返す方法を知らなかった呪術師はこう言った『殺してしまえば、この世界からはいなくなる』こうも言った。『死んだ人間に意識なんてないだろう。うまく騙して殺せばいい』哀れ、兄上はそうして人間を食った。人間はいなくなった。でも、兄上はどんどん衰弱して、何か代わりを見つけることもできぬまま、ただ暗い思考にとりつかれる一方。でも、兄上は律儀で理性も強い方だったから、殺さなかった。ただ、引き篭もった。そして、もうそろそろ動けなくなるという頃、呪術師に会いにいった。そう、君さ」
男は、呪術師は、唇をかみ締めて耐えた。
自分自身のしたことを悔いていた。
それは若い頃は感じていなかった。けれど、この目の前の男と付き合ううちに、心の奥底に後悔が積もった。
それと同時に、不安と恐怖を少しずつ育てた。
「兄上は、君のしたことを知っていた。君が言ったこともたぶん知っていたよ。だから、兄上は人間のいうことを信じ切れなかった。でも、信じたかった。すがってたのかもしれない。そして、君にお願いをしたんだ。『同じ場所に行きたい』君は、それを叶えてあげたね」
哀れと思って、その願いをかなえたわけではなかった。
呪術師は、それを馬鹿だと笑って、実験の道具になると思って、叶えてやったのだ。
「ああ、哀れ!兄上は水槽の中へ。はからずしも、同じ場所に行ったのかな?まぁ、俺は兄上じゃないから解らない。これで、お話は本当におわり。まぁ、めでたしめでたしなんじゃないの?」
男が一息ついて、笑った。
相変わらず、呪術師の体温ばかりを奪う声だった。
「俺は、まず大事な方の友人を失って、尊敬もしてた兄上も失っちゃった。あーあー。しかも、それがほぼ、恋人の仕業。あーあー。どうしようか?」
震えが止まらない呪術師の皺だらけの手をとって、男は、緑色の男は口付ける。
「黙ってたよ。ずっと黙ってた。大事だったんだよ。友人も、兄上も、たぶん大事だった。それと同じかそれ以上に、君が大事だった。でも、ずっと、ひっかかってた。君達には随分前でも、俺にとってそれはちょっと前だ。まだ、簡単に思い出せる。欠けることなく、思い出せる」
その手を優しく撫で、緑色の男はもう一度笑う。
「だから、黙ってた。君にそれ相応の復習をしたい気持ちがあった。君に優しくしたい気持ちもあった。俺は、その両方をすることにした。教えてあげる。最後の前に起こったこと」
呪術師は男の言葉に、目を見開く。
皺だらけの顔に埋もれたような目に、少し光が入ったようだった。
「兄上は頭のいい方だったから、人間の使う呪術もしっていたし、長生きな分、君よりずっと知識を蓄えていた。君にお願いしたのは保険、みたいなものだったんだろうね。自らにまじないをかけた。本当に、頭のいい竜だったから、そう、君がどういう行動をするかも、あらかたわかっていたのかもしれないけど。ああ、だから、君のもとにいったのかな。復讐だ。俺とのことも知っていたようだし。人間がどういう生物かもわかっていたようだし。君がどうなるかも、うすうす感じてたんじゃない?すごい竜だったんだ。王になる予定だったんだし、当然か」
目を見開いたまま、呪術師が涙を流した。
その涙を見つめて、緑の男は続ける。
「で、まじないなんだけど。それこそ、君に願った通りだよ。同じ場所に、同じ姿で。あ、ちょっと違うね。でも、どうなったかは俺も知らないよ。だって、死んじゃったら、解らないじゃない。生きてる俺たちには」
はらはらと落ちていく涙を、男が優しくぬぐった。
「それこそ、信じるしかないよ。二人は、同じ場所で同じ姿で会ったんだって」
涙をぬぐった手が、頬を撫でる。
「でも、確かめる方法はある。君はもうすぐ、死ぬだろう。寿命だ。でも、死ぬ前に、兄上と同じ呪術を使うことができる。俺はね、兄上に、教えてもらったから」
少し寂しそうな顔をする男に、呪術師は首をゆるく振った。
「馬鹿なの?確認できるかもしれないんだよ?」
「……クルガが、いない……」
「……人間って、馬鹿だなぁ」
寂しそうな顔をしたまま、緑の男、クルガは持ったままであった手を握る。
「また、俺のもとに生まれてくれるの」
呪術師がゆっくりと頷いた。
「そう。待ってるね、エンシエ。……おやすみ、穏やかな夢を」
再び、呪術師がゆっくりと瞼を閉じた。
ゆっくりと遠ざかっていく生の気配を辿りながら、クルガもしばらく目を閉じた。
握っている手が冷たくなったあと、クルガはふいに呟く。
「兄上、人間は強いよ。でも、儚いね」





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