書きなぐり ついては、そろそろいいだろうか。 忍者ブログ

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ヤンキーとヤンキーが出会って、色々あって、結果、こうなりました。
みたいな。
結局学園にもどってくる。

ヤンキー×ヤンキー


実はやっぱりいつも通り。

本文は続きからどうぞ。








友人が隣で重たいため息をついた。
ここひと月は、少しぼんやりする時間ができるといつもこうだ。
ひと月前、友人は恋に落ちた。
嫌いで、嫌いで仕方ない男に恋をした。
男の名前は、磐城幸遊(いわきこうゆう)。この辺りでは知らない人間がほとんどという、知名度の低いヤンキーだ。
友人の鳴瀬朗司(なるせろうし)は、この辺りでは知らない人がいない男前な顔を憂鬱そうに歪めて、ぼんやりと遠くを眺めていた。
「ろー、あと数分後には他の連中もくるんだから、顔引き締めとけよ」
「ああ……」
ぼんやりとしたまま頷く朗司はこれでいてあと数分後にはいつも通りになっている。
ただ、色々なことの合間合間にこの調子になるのだ。
「いつまでもため息ついたって磐城はものにならないぞ」
俺を見て嫌そうな顔をしたのは、俺が行ったことが図星であるからではない。
「それは、手にいれてんだよ」
「じゃあ、そのため息は幸せのため息とかいうの?うわ、うっぜぇ」
「ちげぇよ。磐城がどうしたら、俺に責任とか覚悟とかねぇような、もうちょっと軽いつきあいになるのか」
朗司は、磐城への嫌がらせと、面倒くさいお家騒動からぬけるために磐城と恋人になった。
恋人になってすぐくらいに、磐城は朗司の家の人間から別れるように言われ、こう言ったのだ。
『もう少し、時間をくれませんか。それまでに何かあるようでしたら、それ相応の責任を取ります。それくらいの覚悟はありますから』
覚悟だの責任だの、俺たちくらいの年で言う事じゃない。しかし、磐城は何の違和も感じさないどころか、威圧さえしてみせた。
磐城のその言葉に、態度に、朗司は一瞬にして恋に落ちた。
それ以来、朗司はただただ、磐城に弱い。
「いいじゃん、思ってもらえてて」
「もっと軽くねぇと、いらなくなるに決まってんだろ。重たいんだよ」
「いや、でもそれ、むしろ磐城が重たいんじゃ」
「ちげぇよ。俺とつきあうには覚悟だの責任だのいるって時点で、もう、中学生のつきあいとして重たいつってんの」
確かに中学生にして生涯を誓うような重たさが少しあるようには思う。
しかし、磐城本人がそういったのだから、今はそれに甘んじて置くことこそ、それこそ軽いつきあいとしてはよくあることではないだろうか。
「いやまぁ。なんというか。とにかく磐城に会いに行ったらどうよ」
ここひと月、ため息をつくばかりで、磐城と顔すら合わせていない。その場の雰囲気や人の感情に鋭い磐城に会ってしまえば、たちまち朗司の気持ちはばれてしまうだろう。
朗司はそれがわかっているから、磐城に会いたがらない。
「考えがまとまんねぇまま会って……つうか、家のこと決着つけてからじゃねぇと、会えねぇ」
磐城に惚れてからというもの、朗司の活躍は素晴らしかった。後継者争いなるものが勃発している鳴瀬家で、後継者にふさわしいと思われる人間を前に出させ、あげく、ライバルになるだろう人間を、その人間の下につけた。
朗司自らが、悪役となっての活躍だった。
お家騒動については、朗司の勘当という形で終わりそうなのだが、それでもまだ少し、ごたついている。
「でも、会いたいんだろ」
「……」
不機嫌そうに眉間に皺が集められたのは、今度こそ図星だからだ。
嫌いで嫌いで仕方ない時でさえ、結構な頻度で、朗司は磐城と会っていた。
それはひとえに、磐城が朗司が好きであったからだ。
磐城が近寄ってくるから、嫌いでも、いや、嫌いだからこそ避けるずにいる朗司は、けっこう磐城と会っていた。
「おわらねぇことには、会えねぇよ」
なんて意地を張るものだから、その後二年。磐城に会うことなんてできなかった。
そのあとちょうど、磐城が実家に呼び戻されたせいだ。



二年だ。
俺は二年待った。
正確に言うと、二年と一ヶ月。
好きになったばかりのやつを追いかけることもできず、家のことが終わって連絡だけをとりあうようになって、そう、二年だ。
磐城は律儀にも、必ず戻ってくると言った。
俺はそれを磐城と同じように律儀に待っていた。
なんだかそれが俺の、磐城に対するけじめのように思っていた。
「ろー、ご機嫌だね」
「当たり前だろうが。磐城が帰ってくるんだぞ」
「あ、今日なのか。もうちょっとそわそわしてくれたら分かりやすいものを、今日になって初めてこれだから」
俺もできることなら、まだかまだかとカレンダーの日付を睨んでみたりしたかったものだが、磐城の連絡が唐突だった。
明日、そっち帰る。
本当に唐突だった。
「磐城が昨日連絡して来やがったんだよ」
「あーなるほどね。了解した。で、ろー」
「あん?」
「もしかして寝てない?」
改めて俺の顔を見た刹那(せつな)が尋ねてきた。
刹那の言うとおり、俺は寝てなかった。
「……磐城が、帰ってくるからな」
「あ、うん。なんか、俺、いろいろ覚悟したよ、今。で、磐城、何時頃何処だって?」
「……それが、楽しみにしてろって、教えてくれねぇ」
そんな曖昧な情報でよく喜べたものだ。
俺は、自分自身に鼻を鳴らす。
「磐城も楽しみにしてくれてる証拠でしょ。うん、覚悟したからね、俺」
その覚悟というのは、俺の二年分の想いに対するものだろうか。
両想いであるというのに、お預けを食らってしまった二年間。磐城に対する態度や考え方も迷いに迷って決めた二年間。
それは積もり積もって、はじけてしまっても仕方がないと俺は思う。
「ところで食堂騒がしくない?」
「騒がしいな」
「俺もろーもまだ、食堂入ってないよね」
「ナルシストな発言の気もするが、そうだな」
俺と刹那の通う学園は、顔のいい者に対して騒ぐ傾向にある。しかも、生徒会役員選挙という人気者を決める完全他薦の投票で生徒会役員がきまる。
俺も刹那もその役員選挙で生徒会役員となってしまっているため、食堂に行けば無駄に騒がれる。
「なんかあるのかな」
「イケメン転校生でも来たのか」
俺がそういって、冗談にして笑う。
「え?」
「数日前に、宇佐見が案内をするといっていた」
「いや、そうでなく、今日?」
「……今日だな」
俺は、今日という日に転校生という符号に、まさかという思いがかけ巡り、足を止めた。刹那も同じ考えらしく、俺の顔を見て神妙な顔をしたあと、食堂にそろそろと隠れるようにして入った。
そしてすぐに、俺の元に走ってきた。
「大変!もっさりが!」
「いや、それだけ聞くと大変なのはおまえの言動だ」
「いや、でも、もっさりが!」
言葉をまとめることのできない刹那に、緩く首を振った後、俺もこっそりと食堂の中を覗いた。
こっそり覗いた際に、他の生徒に見つかったが、人差し指を口元に持っていくだけでことは足りた。
食堂のほぼ中心地、そこには確かに、何かもっさりしたものが頭についている生徒がいた。
そのもっさりは、宇佐見といやに親しげにしている。
俺は、刹那のもとに戻り、数度頷いた。
「もっさりだな」
「でしょ、もっさりでしょ!」
「で、何が大変なんだ?」
「もっさりが、宇佐見とちゅーしてた」
「……宇佐見、趣味わりぃ」
俺が思わず言ってしまった言葉に、刹那が大きく頷いた。
「だよね!俺も思う。どうしよう、食堂いきたいない」
「じゃあ、帰るか」
「やだよ、ここまで来て。俺の舌はもうビーフシチューなの。つうか、あのもっさり転校生じゃないだろうね」
もし、転校生であったのなら、転校生は磐城ではなかったということだろう。
俺は断言できる。
「転校生だったとして、磐城じゃねぇから。無視しておけばいい」
「あ、そうなの?ていうか、何、その磐城への絶対の信頼感……」
俺の二年間は伊達ではないというだけだ。




俺にはたぶん恋人がいる。
もっさりと華やかな美形のキスシーンを近いとも遠いともいえない位置でぼんやりと眺め、水を飲む。
「磐城、何ぼんやり見てんだ?」
「華やかな美形ともっさりのキスシーンだ」
「お。副会長、おっさかーん」
同室者の杉野(すぎの)が口笛を吹いた。
「あれ、副会長なのか。つうか、ここの顔面偏差値おかしくねぇか」
「んー、まぁ、ちいとおかしいけどよ。俺たちには関係ねぇだろ」
それが大いに関係あるのだ。
俺の、たぶん恋人は、顔がいい。
出会ったときからその美形具合を遺憾なく発揮していた。二年たったいまでは、予想通りなら思わず振り返って二度見してしまうほどの美形になっているはずだ。
そう、どう考えたって顔面偏差値が高いこの学園でも目立ってしまうほどの、美形だ。
「俺、人と会わなきゃならねぇっつってただろ」
「おー」
「たぶん、すんげー美形なんだけどよ」
「……おまえの屍は拾ってやるぜ」
もっさりと美形への周りの反応を見る限り、俺とおそらく恋人であるやつとの感動の再会もあまり歓迎されないに違いない。
俺はもっさりではないが、目立っていい男でもない。
たかだか頬にキスした程度でこの、騒ぎなのだから、俺がどれほどの男になったかわからないが、この学園でもさぞ目立っているだろう人間と、曖昧ながら恋人であるとばれたら、きっと、いいことはない。
この先が思いやられるな、俺はそう思って、スプーンで米を掬った。
スプーンに乗った米は卵がかかって見事な黄金色だ。
そんなことを思って米を見ていたせいだろうか。それとも、これからのことを考えてため息をつきたかったせいだろうか、急に再び、キスシーンとは違った騒がしさが食堂に広がり、俺は顔を上げた。
目があった。
認識した瞬間、しまったと思った。
わき目もふらず、俺を睨みつけたまま、ズンズンと歩いてくるそいつから、俺は目が離せなくなっていた。
まさか、会長様まで転校生に!?と騒いでいる周りを無視して、もっさりした転校生を通りすぎ、そいつは俺に向かって一直線に歩いてきた。
俺が間抜けにもスプーンを持ったまま、そいつを見上げていると、そいつは歩いて来た勢いのまま俺の胸ぐらをつかんだ。
杉野が『おいおいまじかよ』と小さく呟いたときには、唇を奪われていた。
手がはえぇよ。
そんなことを思いながら、そいつから目が離せなかった俺も、離れようとしているそいつの後頭部に手を回し、唇を奪い返した。
俺が満足して、手を離した時には、ふにゃふにゃと俺にもたれ掛かり、そいつ、鳴瀬朗司は言った。
「……待ってた」
俺は、その言葉に、ニヤリと笑う。
「待たせた」
柔らかく髪をすいたところで、俺の意識は食堂へと戻る。
静まり返っていた。
「ええと、磐城、久しぶり」
「あ、おう。ええと……河埜(こうの)か?」
「うん。そう。そうだけど。ええと、ううん。どうしよう。あと。とにかくあとで、ちゃんと、みんな、説明するから。ええと……磐城、今とりあえず、逃げよう?」
俺はおもむろに頷き、俺から離れない鳴瀬を引きずって食堂をでた。
食堂をでたあとしばらくして、食堂から阿鼻叫喚が聞こえてきた。
やっちまったな。



磐城が転校生の陰になる位置で座っていたのを見つけた瞬間、いてもたってもいられなくなった俺が悪いような気もしていた。
しかし、磐城だってよくない。
「もっとちゃんとしてきてくれれば良かった」
「いや、そのもっとちゃんとしてきた結果、怖がられてお話になんねぇから、急遽、風紀委員会からだっせぇメガネ借りたんだよ」
もっさり転校生の陰に隠れていた磐城は、絵に描いたような根暗に見えた。
長すぎる前髪、何処で買ったかわからないやすそうなフレームの玩具のようなメガネ。顔がよくわからない。
髪だってスプレーで染めたのか、わざとらしい黒で少しぺったりとしている。
メガネをはずして、久しぶりの顔を確認するように不躾に眺めたら、そんな文句もでてしまうくらいの顔だった。
明らかにふつうじゃない雰囲気がある目つき、ほりが深いのも怖いと思わせるのに一役かっている。
「元の色は、何色だ」
「赤にちけぇ茶」
「それは、さぞチンピラに見えただろうな」
ヤンキーにチンピラとは今更な話ではある。
「怖がられて廊下歩けば土下座されるわ、喧嘩売られるわで、迷惑した」
その怖い顔のままであったのなら、食堂の事件も少しは和らげられたかもしれない。
そう思いたい。
もしかしたら、先ほど以上に凍った空気になるかもしれないが、そう思いたい。
「まぁ……それは、今後どうにかするとしてだ。俺は今すぐ、この、少し引き気味な調子をなおしてもらいたいんだが」
俺が机を挟んで向かい側から手を伸ばしてしげしげと眺めている間、磐城は少し引け腰になっていた。
「いや、だっておまえ、出会ってこの方、こういう接し方はされてねぇっつうか……なんかちけぇんだけど」
「当たり前だ。俺は二年待ったんだぞ?待って待って、慎重とかいう言葉は一目見た瞬間に吹き飛んだ。会いたかったしさわりたかったし、なんつうか、いちゃいちゃしてぇだろ」
磐城が困ったように刹那のほうを見た。
その気持ちはなんとなく解らないではないが、俺はそれが気に入らない。
思わず舌打ちして、顔をこちらに無理矢理向けさせた。
「ちょっと俺の想像したのとちがって、磐城が常識人だったカンジ」
「刹那、それはなんの感想だ」
「気にしない気にしない。それより、これからのことを考えよう?俺ね、親衛隊にどう説明するかに鍵があると思うんだけど」
そんなものに説明をしなければならないことに嫌気を覚えもした。
だが、今はそれより、この、俺と磐城の間にある机が邪魔だった。
何故、机を挟んで向かい側に自身の位置を定めてしまったのだろう。
「あ、なんか、だめだね。ごめん、磐城。たぶん説明うまくいかないわ」
「いや、そういうのは、俺の責任でもあるから」
相変わらず責任感が強い。
そういうところが好きだが、その言葉をきくと無条件に不機嫌になってしまう。
先ほどから机が邪魔であることにも気分を害しているが、その言葉にも幾分機嫌を落とされた。
「なんかどんどん不機嫌だね、ろー」
「そうだな、とりあえず再会を喜べってことだろうか」
二人が頭痛そうにしているのが更に腹立たしい。
おまえら、いつの間にそんなに仲が良くなった。





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