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犬というと、近所の家に居た犬。
猫というと、近所にうろうろしていた猫。
くらいしか思い浮かばないのですが。
僕×主人
これがおわったらバトルかくんだとおもいつつ。
本文は続きからどうぞ。
主人が実家に帰るとき、いつも俺は主人の帰りを待つことになる。
主人が実家に帰る時期は大体決まっていて、一度帰ると長らく部屋をあけた。
だから、時期が違うとはいえ、倒れてしまったので実家に帰ると言うのだから何時も通り、長く帰ってこないのだと思っていた。
いや、何時もより短いとはいえ、主人の実家での滞在期間は、人間が何か物事を成したい時には長いほうだったと思う。ただ、その途中で俺を連れ出しに一時的に、部屋に帰ったという例外があっただけだ。
そして俺は今、主人の実家で主人の許可を得、一時的に主人の傍に控えることになった。もちろん何時も通り控えているアロウズも一緒である。
アロウズは、主人の部屋にいる間はやたらと話をするが、外に出るととたんに口を閉じた。まるで利口な従者のように振る舞うから、普段からこうであればいいと思ってしまう。
だが、アロウズの性格からいえばこれはおかしなことで、何故、アロウズがこうなってしまうか、主人の実家に来た当初は不思議に思ったことだ。
それも、しばらくすると理由が解った。
ある日、主人に少し面差しが似た人間が、俺を耳の先から尾の先まで見て言ったのだ。
「この程度のやつ連れてくんなよ」
傍に居たアロウズのみならず、主人まで眉間に皺を寄せ、舌打ちせん勢いである。なるほど、従僕の程度がここでは重要らしい。
俺は主人の足に身体をゆるりと接触させたあと、人間をみた。
年の頃は、主人より若いと思われる人間は主人と似ている気もする。だが、人間の美醜からいうと、主人とは違い少し劣る。人間がどういった感覚で格を分けるかはさまざまで分けがたいのだが、俺たちの基準から見ると、格から見ても主人に劣る。
哀れみの視線まで向けてくるが、その人間のほうが、よほど哀れだ。
俺は興味がなくなり、主人を一度見る。
俺たちの見る人間の格の基準というと、内在する力や、俺たちを従わせる能力の高低だ。主人は、この力や能力が、高い。だからこそ、アロウズのような格の高いやつが従うのだ。
俺は主人の格の高さに納得すると、何事もなかったように正面を向いた。
「……その犬、なんか腹立たしいが」
「俺はその態度が気に入らねぇ」
主人はそういって険しい顔をしたようだが、俺にとって、人間の反応は正しいことでしかない。
俺はその人間にも従わせることができる程度だ。たとえ、その人間の中では俺を従わせるには少し手間を要するやつであっても、そうなのである。
主人は、書き物の片手間に呼び出したくらいなので、ほんとうにたかが知れているのかもしれない。
後輩がしきりに、先輩何か言ってやってくださいと言うのだが、もとより人間とは価値観というものが違う。後輩と違って自らの立場や力量を言われ、怒るほどの若さもない。人間との付き合いも何度めかになるのだし、人間というものの種類と特性の違いというやつも知っている。いささか、主人とアロウズが怒りすぎなのだ。
「フィル」
人間が呼び掛けると、鳥がどこからともなく飛んできて人間の肩にとまった。
赤い鳥は、こちらを見て少し戸惑っている。それもそのはず、アロウズは間違いなく、人間のいうところの神属クラスだからだ。
俺たちからすれば、自らより高いか低いかくらいの違いしかないが、人間のいう神属クラスともなると明らかに高く、服従の意さえ示してしまう。
赤い鳥はまだ、戸惑うだけにとどまったのだからいいほうだろう。
しかし、赤い鳥はそのあと、俺を見て、地面へと降り立った。
その上、頭まで垂れた。
「な、なにをやってる、フィル!」
俺は少しの間、鳥を眺めて、ふと気が付いた。
この鳥は知っている。
『先輩、この鳥』
『知り合いだ。あれが幼い頃に、住処より移動させただけだが』
『え、先輩の住処って、あの島ですよね?』
俺はずっと岩ばかりの島に居た。あまり居心地いいものではなかったのだが、慣れてしまうと他に移る気になれない。
不運にもその島に流れ着いて、幸運だったか悪運だったか、生きていた幼い鳥を火の国へと送ったのだ。
あの頃はまだ鳥は幼く、弱っていたが、すっかり大きくなったようだ。
思わず、その身体に身体を沿わせ、無事と大きさを確かめたくらいには懐かしかった。
「シェス」
主人が訳が分からないというように声をかけてくるので、主人に一声吠える。
「……知り合いか?」
返事をするように、もう一度吠えると、主人が納得したように頷いた。解ってくれたようである。
「お、おい、フィル!」
あわてたように声をあげた人間には視線を向けず、フィルと呼ばれている鳥にもう一度だけ身体を寄せた。
人間は我慢ならなかったようで、俺からフィルを離そうと手を動かしたが、俺が離れるほうが早かった。
「食われたらどうする……!」
主人に傲慢な態度をとるわりに、かわいいことをいう人間に、俺はわざとらしく牙を向く。
『食いなどしませんよ』
「だが、アレを見ろ!」
『あれは、からかってるんですよ。彼は昔、僕を助けてくれましたし、鳥など食べません』
心温まる主従の会話を聞いていると、斜め上から痛いくらいの視線を感じ、俺は顔を上げた。
主人の視線は、お前もああやって話ができるのではないかと語っていた。
返事をする代わりに声をかみ殺すように中途半端に吠えると、主人は、大きく舌打ちをした。
これだけ伝わっているのだから、今更、目の前の主従のような会話をしなくてもいいではないかと、俺は目を細める。
「先輩、俺は別に通訳でもいいんですけど、ルーゼ様と対話をするのは、ちょっと違う気が」
後ほど後輩がそうボヤいていた。
主人に突っかかってきた人間は、主人の親戚にあたると、主人からではなく、その親戚から説明を受けた。
主人はあのあと、俺とアロウズをつれてある部屋へ向かったのだが、その部屋の主は俺を部屋へ入れようとしなかった。
門前払いのようなものされて、仕方がないので俺はお利口に扉の横で座っていた。
それを見かけた親戚とやらが俺をじっとみたあと一度通り過ぎた。どうも俺のことが気になるらしく、何度か俺の前を通り過ぎては俺を見るので、小さく吠えてやる。
「……まぁ、なんだ。寂しいだろうからな」
主人が別室にいるくらいで寂しいと思うこともないが、顔を少しだけ横に倒すと、そいつは俺の隣に立った。
しばらくそいつの独り言が続き、堪えきれなくなったように、そいつが俺の頭を撫でた。俺がされるがままにじっとしていると、今度は座り込んで犬を撫でるように全力で俺を撫で始めた。
人間は何故か、俺を犬のように撫でたがる。
俺は主人に腹をみせたこともない。
よって、他人に見せる腹もない。
「おまえ、大人しいな。もっと噛みついてくるかと思ってたのに。あのアロウズとかいうやつみたいに」
アロウズはどうやら、この隣人によく何か言っているようだ。実力行使などはしていないと信じたい。
「おまえは悪くねぇんだよ。能力がどうのとか、人間の都合だし。この部屋、俺も入れねぇし」
この人間は、俺と同じような理由で主人がいる部屋に入れないのだろう。
主人が部屋のドアを開けてすぐ、俺は主人の父君にあたる人間から言われたのだ。俺は、俺の主人と一緒に部屋に入ることは許されないと。
それは、その部屋に入れるほどの能力がないと、主人の父君に思われているからである。
主人は、何も言わなかったが眉間に皺を寄せた。
俺たちは、ある意味人間より厳しい実力主義の世界にいる。主人の父君にされたことは、むしろ当然のことのように受け止められた。
それを受け止められないのは、アロウズのように能力が高いが故に、そういった待遇を受けたことがない者や、若いが故にそういった待遇を受ける機会が少なかった者だ。
主人の場合は、お気に入りがその程度と言われたようなものだから、気に入らなかったのだろう。
そう、だから、俺を撫で続ける人間が申し訳ないと思う必要は一つもない。
俺はわざと頭を人間の手に擦りつけ、また、短く吠えた。
「……もしかして、お前、いい奴か」
いったい何を思っていいか悪いかを判断するかは、相対する者によるが、俺に悪意はまったくない。
以後は何もせず、静かに主人を待っていた。
だが、人間は俺を撫で続けた。
いい加減飽きないのだろうか。大人しいが、尾を振ることもなければ、見せてやれる腹もない。愛想がないにもほどがある。
実のところ、俺は撫でられ疲れた。
部屋の扉が開いたとき、俺はこの撫でられ地獄から解放されるんだなと思った。
それほど黙々と、隣人は俺を撫でていた。
「……シェスを返せ」
奪われた覚えもなければ、この撫でることが好きとしか思えない人間のものになった覚えもなかったが、主人が部屋に入るときよりも、険しい顔をして言った。
主人は不機嫌なようである。
俺を撫で続けた人間は、今度は俺の首に手を回し抱きつく。
「なぁ、こいつ、俺に譲ってくれねぇ?」
「シェス!」
主人が呼ぶので、俺は一度身震いして小さくなると、人間の腕から抜け出し、主人の足下に走った。
「……子犬……!」
なにやら嬉しそうに人間が呟いたが、今は主人の機嫌を直さなければと、主人の足元を一周したあと、主人を見上げた。
「……芸達者め」
俺を非難したそうな声を出した主人であったが、俺を見るその表情は、不機嫌どころか上機嫌だった。
人間の気分は山の天気よりも不安定だなと思いながら、だめ押しに足に身体をすり付けると、主人の手が俺を拾い上げた。
「こずるい姿になりやがって」
主人の腕の中に難なく収まると、アロウズが何かもの言いたげにこちらを見る。
『……人間は、だいたい小さいものが好きだ』
「確信犯……!」
世にも恐ろしいものを見たような顔をされても、傷つかない。
その程度のことで主人の機嫌がいいのなら、俺の気分が悪くないからだ。
シェスは大人しい。
俺が課題の片手間に、お手伝いがほしいなと適当に呼び出してしまったときから、何の抵抗もなく俺に従っていた。
どういうことが主人にとって不名誉かとか、どう振る舞えば主人の気分がいいかということを良く知っていて、こうして腕の中に抱え、歩いている今も、たまに思い出したかのように身じろぎして、身体をすり付けてきたり、前足を無意味に動かしたりして、こちらをたまらない気持ちにさせてくれる。
シェスだと思えば、それらは明らかに媚びた様子なのだが、小さい姿になっているというだけで許せてしまうのだから、本当にたまらない。
靴下をはいたかのような白いふわふわの前足が、小さく動くたびに、無意味に悪態をついてしまいたいくらいだった。
「先輩の作戦ですよ、ずるい、本当にずるい。俺なんて怒られたら、長いこと口も聞いてくれないどころか、無視もされるのに!俺も小さかったらそうなるんですか……!」
アロウズがブツブツと小さく文句を言ってきても、俺は小さなシェスを腕からおろす気などない。
だいたい、俺が不機嫌になったのは父の態度と親戚のレリスの態度のせいであって、けしてシェスのせいではないのだ。
アロウズが俺を怒らせるのとはわけが違う。
「大きさは自由自在なのか?」
アロウズは無視してシェスに尋ねると、シェスが首を振った。
「……だから、こういうときこそ俺を通訳に使わないでですね……う、うう。ご飯はほしいです。小さいのはどこまででも小さくなれるそうですが、大きいのは、ある程度までだそうです。……先輩、今日、肉団子のスープがいいです。てか、してくださいね。絶対ですからね」
俺はそれよりも、シェスの作る鶏肉の香草焼きが食べたかったが、家に帰ってきている以上は、シェスの作る料理はお預けである。
「そうか。普段あの大きさなのは、番犬のつもりなのか?」
いつもより少し高い声でシェスが吠える。
どうやら、番犬のつもりであるようだ。
本来のシェスの大きさは、アロウズいわくかなり大きいようなのだが、俺が描いた魔法陣からは大型犬ほどの大きさでしか出られなかったそうだ。シェスが普段、大型犬のような大きさなのはそのせいもあるだろう。
「ああ、先輩とルーゼ様は、話す必要なんてないかもしれませんね」
「いや、ある程度はわかるが」
言いかけて、俺は足を止める。何を言いたかったかを考えて、首を傾げた。
シェスと今まで通り過ごすならば、このうるさいくらいの通訳にたまに通訳してもらうだけで事足りる。それほど、シェスが俺に伝えてくることは解っているつもりだ。
ならば、シェスと言葉を交わす必要はない。
けれど、俺もたまにはシェスと話がしたい。
「……シェスと、話ができたらたぶん、嬉しい」
独り言のように理由をつぶやいた後、どうしようもなく恥ずかしいことを言ってしまったような気がして、俺は腕の力を緩める。
腕の中にあったシェスがすり抜けて落ちていくのがわかり、あわてたが、シェスはうまく着地をした。
着地した後、少し歩くとシェスはいつもの大きさに戻り、こちらを振り返った。
薄い黄緑の目が笑っていた。
「笑うな。くそ。やっぱり話さなくていい」
シェスに話などされたら、もっとシェスに何もいえなくなってしまうに決まっている。
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