書きなぐり 主人は僕に頭が上がらない3 忍者ブログ

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たまにこういうこともありますよ。
会長が学校に帰ってくれないと、会長と思えなくて。

僕×主人

お父さん若いなぁ。


本文はつづきからどうぞ









俺の仕事は、家事をすること、主人の家を守ることだ。
たとえ主人が実家に帰っているとしても、それは変わらない。
家事は、主人の実家では、俺と同じようにそれを仕事としている人間がやってくれるため、俺の手は不要だ。そのうえ、主人の家を守るという仕事も、それを仕事としている人間や、本物の番犬がしてくれている。
つまり、主人が実家に帰ってしまうと、俺にはするべき仕事がない。
強いて言うなら、主人を出迎えるという仕事くらいしかやることはなかった。
しかし、それでも俺の仕事に変わりはない。
だから、夜中に不振な影を見かけ、それが主人の家に入ろうというのなら、俺は先程まで吠えようとしていた番犬と同じくそれを睨む必要があるのだ。
「精霊?」
呟いた侵入者は門番や番犬たちをすばやく眠らせ、俺と対峙していた。
魔法を使うようだし、俺が犬や狼のような動物ではないと気がついた侵入者の手が動く前に、俺は一番近くの屋根へと飛び乗る。
遠くまで聞こえる必要はないが、家の住人に聞こえるように、長く、遠く、一声吠える。
「もしかして、狼?」
侵入者にあまり危機感はない。
何が目的かは解らないが、そうとう自分に自信があるタイプなのだろう。
警告をすることが親切か否かを考えながら、俺は屋根から飛び降りた。
主人の家は、人間の言うところの豪邸というやつだ。門から家まで距離があり、その道すがら眺める風景も飽きることがない整理された美しさがある。それは、庭師と呼ばれる人間が丁寧に緑を慈しみ、整えてきた結果だ。主人が居る場所が遠いとはいえ、それらを壊してしまうのは忍びない。
俺の使える攻撃は燃やす、凍らせる、噛み付く、押しつぶす、引っかくくらいのものだ。
燃やすには少々、侵入者の位置が悪い。凍らせるのも同じ理由でしたくない。押しつぶすのは、やはりこの場に適さない。ならば、引っかいて噛み付くしかない。
俺は地面に着地すると、そのまま侵入者に向かって駆け出す。
侵入者は俺が噛み付こうと飛び掛ってきた瞬間にナイフを手にだし、投げつけた。
空中で身をよじり、地面に着地して、そのナイフを見たあと、喉を鳴らす。
精霊避けの札が貼られたナイフは、物質を透過できる精霊たちにも有効だ。だから、俺にそれを投げつけたのだろう。
だが、そんなものは俺には通用しない。もっと貫通力のあるものでなければ刺さらない。
俺は再び侵入者に向かう。
侵入者の手が素早く動いているのが見えた。
印を結んでいるのだと理解するや否や、俺は口を開けた。
声無く吠えると、空気中に漂っていた水分が固まり、凍る。侵入者に向かって、空中で凍った粒がとんだ。
「氷か」
侵入者は潔く印を切るのをやめると、その場から大きく退き氷の粒から逃れた。俺はそれを追うように飛びかかり、侵入者に牙をむける。
侵入者は自信家な上に、冷静だった。俺が氷を攻撃する手段としたことで、俺の属性を判断した。氷、または水に属するものだと判断しただろう。俺が精霊や妖精、属性に左右される動物ならば間違っていなかった。
しかし、俺は、そのどれでもなかった。
狼の姿をしてはいるが、狼の形をしているというだけで、本当は狼ではない。そして、精霊でもなく、妖精でもない。動物といえば動物だが、人間には化け物や怪物といった方が解りよい生き物だろう。
侵入者の放った魔法の火に食らいつき、噛み殺す。
「へぇ、おもしろい」
そうこうしている間に、背後からよく知った気配が近づいてきていた。
俺は舌先で火を味わいながら、目の前の侵入者が誰かと酷似した味の力を持っていることに気がついた。
息を切らせて後ろからやってきた主人が、侵入者を見て怒鳴りつけるまで、それが誰に似ているか解らなかった、というのは僕失格かもしれない。
「何をやってんだ、あんたは!」
「いや、何。実力テストのようなものだ。うちの門番と番犬は鍛え直しだな。おまえの狼はいいなぁ。うちにほしいくらいだ」
「今日、犬は愛でるくらいでちょうどいいとか言っておいて……!」
「いや、これ、狼だったし。精霊、でもないみたいだが。これはなんだ?」
火を食らうまで、誰かに似ていると思わなかったことにも驚きを隠せないが、それが誰であるか、主人が来るまでわからなかったことにも驚きだ。
「知りません」
「待て、そんなよく解らないものに……」
主人は衝撃を受けている俺の頭を撫でながら、言い切った。
「父上、シェスがシェスで、俺に従うならそれでいいんです」
久方ぶりに俺の感情に反応して尾が動く。
たとえ、俺が主人に従うしか能のない僕で、年寄りでも、嬉しい言葉というのはあるものだ。
俺は主人の言葉に同意するように、頭を撫でていた主人の手のひらを舐めた。
「……シェスも俺がいいのか」
主人はいつでも、俺の言いたいことを解ってくれている。
今度は一つ吠えて肯定を表した。
それを見ていた主人の父君は、困ったように笑った。
「やれやれ、見せつけられた」



主人の父君は、人間の国の政を行う人間を守る仕事をしていた。今現在は、その仕事を主人の兄にあたる人物に譲り、家長として忙しくしているという。
その国にとって重要な人物を守るために身につけた技術の一つである、変幻という魔法に、俺はすっかりだまされてしまったらしい。
人間の魔法というものは日進月歩だ。
匂いだけでなく、気配、姿形も変えてしまう魔法ができているとは俺も知らなかった。
もう少し、人間の魔法に興味を持った方がいいのかもしれない。
「狼が本を読むのか」
昨晩、俺をだましてくれた父君は、主人が出していた本を、ソファの上で読んでいた俺に声をかけてきた。
俺は、本を床の上で読むと汚れてしまいそうであったし、机の上に乗るのはマナーがよくないだろうと思い、主人の部屋のソファの上にて、前足で押さえつけるようにして読んでいた。
俺は父君に視線を向けた後、短く吠える。
「……それは、肯定ととっていいのか?面倒だから話せ。それくらいできるのだろう?」
俺は父君を見つめたまま、ため息をつきたい気分になった。こちらの方が面倒だといいたい。しかしながら、これは主人の父君だ。蔑ろにはできない。
俺は一度身震いをした。
「……本くらいは読む」
俺は人間の形になると、広げていた本を閉じて元の位置に戻した。
本を取り出すのなら、人間の形の方が便利でいい。
主人の本棚から、目的の本を取り出そうと俺は立ち上がった。
「その姿になれるなら、なっていた方が、力は誇示できるのに、ならないのか」
少し楽しそうに聞こえるのは気のせいではないのだろう。いい暇つぶしを見つけてしまった父君に、俺はため息をついた。
やはりこの形をとると、ため息がすぐに口からでていく。
「なる必要性を感じない。主人が求めたのは、家事をすること、家を守ることだ。俺の領分は人の形をして威嚇することではない」
人の家に人がいることは当然のことだ。
だから、それは威嚇にはならない。
人の家に恐ろしげな動物が居ること、特に、家を守るために必要とする動物がいることは、威嚇になる。
普段の姿が楽であるという以上に、あの姿は俺にとって便利であるのだ。
「おまえは、利口だな。あのよく口が滑る竜と違って」
口がよく滑る竜というのは、アロウズのことだ。
なるほど、アロウズが黙っているわけだ。俺は今、ようやく本当にアロウズが普段より無口な理由を知った。
「ところで、ルーゼはおまえに家事を求めたというのはどういうことだ。おまえは攻撃型だろう」
父君の言うとおりだ。
主人が俺に家事を求めてきたことについては、本当に俺も謎とするところだ。だが、その家事が苦ではないため、文句はない。
「主人が俺をどう使うかは、主人の勝手だ。俺は、主人がいいというまで、主人だけが主人だ」
父君は俺が本を選びだして、広げるまで俺を見つめていた。
「……これは、ノロケられたのか……?」
何を馬鹿なことを言っているのだ。
そう思って、ふと、主人の契約時の言葉を思い出す。
あれは、よく考えたら人間の言うプロポーズの内容に似ていた。
そのような関係が一切ない上に、初対面であったため意識もしなかったが、今となっては、少し面白い。
今度、主人をからかおうと思った。



俺が父に細かな仕事を押しつけられ、それを終わらせ戻ってくると、父の書斎に人間姿のシェスがいた。
「この狼、俺にくれないか」
優雅に軽食を食べながら、紅茶を飲む父に俺は思い切り舌打ちをした。
「シェス!」
父の傍で人の姿で控えるシェスがこちらに振り向き、小さく笑む。
「お帰りなさい」
いつもとは違う姿のくせに、いつも通りこちらに向いて目を細め、少し嬉しそうにおかえりなさいというから、質が悪い。いつもなら、狼姿であるから、頭を撫でてただいまと言えばすむことだが、人の姿ともなると、感じ方が違う。
無駄に男前に見える。
だからどうしたという出来事ではあるのだが、相手はシェスだ。
見慣れていないが、見慣れた様子に混乱しつつ、いつも通り出迎えられるのにほっとしたような、照れくさいような複雑な気分になった。
これがシェスでなければ、無視できた。
「……ただいま」
視線を逸らして返事をした俺のなんと、惨めなことか。
父が面白そうにしている様子が目に入って、異常に腹立たしい。
「また見せつけられた。いや。いい。とにかくコレがほしいんだが」
昨日は、書斎に入れることなどできないといって追い払ったくせに、何故、こんなにもすんなりシェスを侍らしているのか解りたくない。
机の上の皿を飾る焼き菓子二種と、サンドイッチを見て俺は眉間に皺を寄せた。
鶏の香草焼きと思わしきものが、パンとパンの間に挟まっている。
「いやです。シェスを気に入るのは、俺が気に入ってるんだから当然でしょうが、シェスは俺のものであって、貴方のものではありません」
「家長の命令でもか?」
なんとも嫌なことをいう。
俺はサンドイッチを睨みつけたまま、奥歯を噛みしめた。
「……今の主は、おまえではない。主人だ」
シェスがそう言って、父から離れ俺の傍にくると、いつもの狼の姿に戻った。
そして、俺を慰めるようにその身体を擦り寄せてくれる。
「その狼はいい。是非ほしいが、ルーゼ」
「はい」
「おまえが今、学園で起こっていることを収束できたら、取り上げないでいてやろう」
俺は笑ってしまった。
「その程度でシェスを取引するくらいなら、最初からお断りします。家長命令には、……従いますが、シェスは取り返しますので」
シェスが俺の隣で笑った気がした。
ちらっとシェスを見ると、やはり、目が笑っている。なんだか楽しそうだ。
「本当に、見せつけるな……。いい。からかっただけだ。その狼がほしいのは確かだが、息子から奪うほど愚かな父親ではないつもりだ」
だったらからかうのもやめろ。
何か、今、シェスが笑っているせいでまた恥ずかしい思いをさせられている気がする。
シェスが珍しく、人に聞こえる声で呟いた。
『何せ、家を守って家事をしろとプロポーズされた立場だ』
おい、何言ってんだ。
そう言えない。
この前照れたことといい、いやに恥ずかしい思いをさせられることといい、シェス相手になにをやっているんだと思う。
思うのだが、狼姿でも何故か恥ずかしい気分だ。



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