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そんな歌があったなーと思いつつ。
化物とマニアック会長の七夕話です。
七夕だし、ちょっとだけイイ思いさせてやろうぜ。
ちょっとだけだがな。
という話。
では、本文はつづきからどうぞ。
この時期はだいたい雨だ。
雨が降らなくても曇りで、晴れて星空を見ることはあまりない。
元々は旧暦でのことであり、新暦である現在は梅雨であることが多い。
場所によってはひと月ほど違ったりする。
それが、七夕だ。
だから、七月七日に天体観測は向いていない。
しかし、俺はキーホルダーについた鈴を鳴らしをながら、階段を上っていた。
七月七日。なんてことはない日。
屋上のドアを預かった鍵で開ける。
相変わらず空気が悪い。
天気も悪い。
俺がつけた踊り場の電気くらいしか明かりをとるものもない屋上に、雨の中うっすらと煙が立ち上る。
白い筋が雨に邪魔されることなく何処かへ消えるのは、屋上にはあまりない軒下にいるからではない
屋上であって屋上ではない場所にそいつがいるからだ。
濡れることもなく、煙草のようなものを片手に、そいつは何処かを眺めていた。
「今日は何の日か知っているか?」
「最近は昼か夜か、学校が休み否かくらいしかわからない」
振り返りもしないで、答えたそいつに近づくため、俺は屋上のドアを開いたまま傘をさす。
降水確率は確認しなかった。
雨が降りそうな天気だったし、湿気もあった。
だが、俺は傘も持たず、ここにやってきた。
今さした傘は、友人に押しつけられた。
そして、友人の言うとおり、雨は俺が校舎を歩いているうちに突然降り出した。
「七夕だ」
「……そんなロマンチストだったか?」
振り返ったそいつは、激しい雨に霞んで見えた。
友人が返さなくていいといった傘は、ボタボタと派手に大きな音をたて、雨を弾き、流す。
透明な安いビニール傘を手に、そいつに近寄った。
「俺がロマンチストじゃなかったことがあったか?」
相変わらず、雨の中立っているそいつに傘の先が触れる。
傘の骨が先端からじわじわと錆びていくのが見えた。
いないけれど、いる。
「俺の知る限りでは、現実主義だったが」
「現実主義?」
ならば、見えているのに見えていない存在に関わったり、それを商いとすることもなかっただろう。
まして、化け物を追いかけ、それに執着するなどあり得ない。
「……、てめぇこそ、雨ん中、何やってんだよ」
「誰かが校舎に入る前は降ってなかったが」
「ふうん?」
そいつがわざと傘に触った。
ビニールは傷み、骨が崩れていく。
「濡れる」
俺がそういってビニール傘をよけると、そいつがぽつりとつぶやく。
「干渉できる」
俺が手を伸ばすと、そいつは少し後ずさる。
「なんで?」
「干渉できたとしても、また倒れる」
俺は次第に錆び付き、ボロボロとこぼれていく傘を投げ捨て、そいつの胸倉を掴む。
「そんなの、どうでもいいだろうが!」
思った通り、掴んだにも関わらず、手を握りしめた感覚しか伝わってこない。
冷たい、暖かいはもちろんのこと、布の感触もなにもない。
視覚だけで掴んでいるという情報を得る。
意外と、むなしい。
「どうして、てめぇは毎回毎回、俺に言わせるんだ……」
力なくつぶやく。
俯くと、何をしているのか解らない。
むなしい。
「どうしてだろうな」
ため息のような苦笑のような、仄かな諦めが込められた声だった。
俺はもう一度、文句を言ってやろうと、顔を上げる。
掴んだ時より、そいつが近くにいた。
密着していた。
見えないから何をされているかよく解らない。
けれど、たぶん、そいつの手は俺の腰や背中にある。
「どうしてだろうな……」
もう一度呟かれた言葉を合図に、俺もそいつの背中に腕を回した。
何をしているか解らない。
感触は伝わってこない。
けれど、気分は悪くなる一方だ。
「……これは夢だ」
「そうだろうな」
雨に濡れる不快さも感じない。
俺はそいつの、紅丈の肩に額をのせる。
何のにおいもしない。
けれど、もう少しだけこうしていたい。
「……また」
紅丈の声に、俺は遠のく意識を必死にとどめようとしていた。
「今、度は……げん、じつ、で」
紅丈の言葉を遮って、俺はいう。
紅丈がいつものように、苦笑した気がした。
目が覚めると、俺の身体はソファーの上にあった。
「寝てた!寝てた!」
何が嬉しいのか、ユキリが俺を指さして楽しそうに繰り返していた。
「るせぇ……」
身体を起こし、辺りを見渡す。
見慣れた部屋の様子が俺を落胆させた。
「ついてる!ついてる!」
子供特有の丸い手が俺の頭を目指す。
届くことのないその手の代わりに、俺の手が俺の頭に延びた。
「……夢、か」
手に着いた錆を親指と人差し指で擦り、笑う。
ふとみた窓の外は雨雲一つない青空だった。
「会いに行くか」
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