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ブログの方では、あと一記事とかなんとかいってましたが、すみません、あともう一記事いきます。
つまりまた、おわりませんよ!
あと一つはかきますから!
あとひとつは!!
本文はつづきからどうぞ
俺に剣を刺す作業は、実に地味に行われるようだった。
あの広すぎる城で、二匹の竜に見守られ、俺は少し灰色の人と向き合っている。
あの深緑の竜は、俺が見た人型のどの竜よりも人らしくなった。膜はなく、鱗も少なかった。
深緑の人じゃなくて灰色なのかと思うことで、剣で殺されるという事実から目をそらそうとしていた。
無視しようにも、目の前にたっている深緑の竜の持つ剣が目に入ってしまうため、そうすることができなかった。
『おまえが竜の姿のまま、人間に会うのはめずらしいな』
『そうかなー?まぁ、見送りくらいはね。正式な格好しておかないと』
黒い竜が興味なさそうにうなずいているように見えた。
深緑の竜は、人の姿を模してもなお、表情はかたく、何だか悲しそうに見えた。
俺も悲しい。
震えながら立っているのもようようで、その場に縫い付けられたみたいに足は動かないし、何か別のことを考えなければ助けてと叫んでしまいそうだ。
だから、俺は目の前の人になった竜について考える。
目は三兄弟全員、金色で、人の形になってもそれはかわらない。
深緑はどこに消えてしまったのか、髪の色は黒で、少しある鱗は灰色。
だがよく見ると、鱗の輪郭部分は濃い色をしており、あの深緑を思い出させる。
深緑の竜は一言も告げず剣を構えた。
俺がここで逃げてしまったら、一息で殺すと言ってくれた竜の狙いがそれて、一息では死ねないかもしれない。
身をかたくし、歯を食い縛り、目蓋を閉じた。
少ししかたっていないのかもしれないし、俺が感じたように随分時間がたっていたのかもしれない。
熱いと思った。
痛いと思った。
でも、生きているし、痛いのも盛大に段ボールで切ったみたいな痛みだった。
それを、腕に感じたあと、床に固い、何かがぶつかる音がした。いつまでたっても、俺のよく知る部屋の匂いがせず、俺は目蓋を開こうとした。
すごく生ぬるい熱風がふいて、何かに捕まれてしまったため、目蓋をしばらく開くことはできなかった。
『できねぇよ』
呟きがきこえ、目蓋を開くと、見覚えのある荒れ地の上を飛んでいた。
「……なんで……」
答えはかえってこず、やがて、これもまた見覚えのある風景にたどり着いた。
砂漠だ。
竜の住まう場所から、人間がいるのかいないのかよく解らないけれど、でかい虫が存在する場所。
そこに、そろそろとおろされたあと、俺は俺を掴んでいたやつを見上げる。
深緑色の竜だった。
『何故邪魔をした』
『俺ねー、兄上は殺せないと思ってたんだよね』
『それだけでは理由にならない』
『兄上はさ、俺より人間に思い入れが強いだろうから、俺は兄上がすることに従おうと思ってた。……でもさ、俺も、毎日毎日、人間と話してたから。兄上ができないなら、逃がしてあげようって思ってさ』
『あれは殺しておくべきだ…!』
『確かに、交渉とかうまくいかなくなるかもしれないし、ただの飯食らいだし、他の人間もさ、アレがいたら呼びたいものが呼べないから殺したい。殺してくれるなら交渉に応じるとかさ、殺したら意識なんてないから帰ったか帰らなかったかなんて人間にはわからないとか、切り捨てちゃってるくらいの不要物かもしれないよ』
『ならば』
『でも、俺も、特に兄上には切り捨てられないし、不要なものじゃなかったんだ。絶対、必要ってわけじゃないし、代わりなんていくらでもいただろうけど、俺も兄上も、人間を選んだ』
『くそ…ッ、だから人間など……ッ』
『人間は弱いって兄上はいうけど、強いよ。強かだ。俺はそういうの、嫌いじゃない』
『おまえが』
砂地にたったまま見上げた深緑の竜は相変わらず、悲しそうで、今にも泣きだしそうだ。
もしかしたらまた、俺が泣きたいのかもしれない。
『おまえが死ぬのは、嫌だ』
漸く、本音が聞けた気がした。
『冗談じゃねぇ……夢なんかじゃねぇよ、現実なんだよッ……たとえ夢でも』
言葉をつまらせた竜は泣いているのかもしれない。
涙は一滴も流れていないが、それほどまでに、竜の言葉が辛い。
そうか、悲しかったんじゃない。ずっと、この竜は辛かったんだ。
『夢でも、俺にとっては現実だ……』
そして、俺も寂しくて悲しくて、辛い。
『あんなに、傍に居たくせに笑んじゃねぇよ』
少し仲良くなったなんて大嘘だ。友達になりたいだなんて生ぬるい。
結構仲良くなっていたし、俺はこの竜が好きだ。
好きで、好きで、好きすぎて、もう色々どうでもいい。
「あんた何ていうんだ?」
『……はあ?』
「俺は、カナミ」
『……何を』
「あんたは賢いしさ、責任感強いし、律儀だし、……優しいから、本当はきっと俺を殺したくなくても殺さなきゃならない理由があるんだ」
『どうして』
「そうじゃねぇと殺そうとしないって、俺のこと、そうやって迷うくらい好きだって、思いたいから」
竜の金の瞳が揺れたように見えた。
竜のでかい目は、そう見えるだけでかわりない。
けれどきっと、俺のせいで泣いてくれている。
「ごめんな、俺を殺してくれって頼んで。ごめんな、それでも、頼む」
『……ひでぇやつ』
すっかりいつもどおりなんだろう言葉で話してくれるのがうれしい。
「でも、俺、絶対起きるから。絶対目覚めて見せるし、死なねぇから。ここに死体すら残さねぇから」
だから、殺せだなんて、ひどいお願いだ。
殺されて、目が覚めるとは限らないのに。
殺されたら、終わりの、現実かもしれないのに。
「なぁ、あんたの名前が知りたい。あんたを一つ持って帰りたいんだ」
しばらくの間、竜は沈黙した。
何も尋ねない、動かない。
俺と竜の重さで軋む、砂の音と、遠くの風の音。
寂しくも穏やかな気がした。ちょっと痛い気もした。
もう少し長く、この沈黙が続けばいいとちょっとだけ思った。
『……そこにたて』
「ん」
竜が小さく、沈黙を破った。
言われた通りたつと、めずらしいことに雨がふってきた。
この夢を見はじめて、かなり寝起きした…たぶん、ひと月くらいしたけれど、雨は一度も降らなかった。
『俺はシロウ。どうせおまえが、カナミがいなくなるなら、殺されるなら……俺がカナミを食う。俺のものに、してやる』
後悔するだろう。
すでに後悔しているのかもしれない。
それでも他の誰にも渡さないと、俺の死体すら晒さないと、弱々しくも確固たる言葉が落とされた。
深緑の竜、シロウがとても愛おしい。
また会いたい。ずっと傍にいたい。きっとまた会う。
俺は竜を見上げたまま、竜は俺を見つめたまま、やはり何の合図もなかった。
身体が痛い。
そう思いつつ、薄目をあけ、身体を起こす。
いつものソファ、投げ出されたカバン、見慣れた部屋。
もそもそと取り出した携帯に表示された時刻で、一時間ほど寝ていたことを知る。
スリッパを脱がなければ。そう思って足元を見る。
スリッパは存在しなかった。
ああ、スリッパはぬいであったのかと、やけに傷だらけの足を眺める。
なんだか俺自身が臭い気がするし、服もなんだか汚い。
俺は立ち上がる。腕の辺りが破れている。
どこで引っ掛けたか知らないが、捨てたほうがマシだなと、ゴミ袋を取出し、その中に服を捨てた。
なんだか洗っても無駄な気がして、現在着用しているものはすべてゴミ袋にいれたあと、俺は風呂に入った。念入りに全身くまなく洗った。
洗って気が付いたが、腕には怪我があって、腹の辺りに、丸いあざみたいなのがいくつかできていて、きれいに並んでいた。
俺は風呂から出ると、やっぱりえらく疲れていて、さっさと布団に潜り込む。
夢は見なかった。
翌日、いくら探してもスリッパはどこにもなかった。
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