書きなぐり 夢を見るなら楽しいほうがイイ3 忍者ブログ

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人外に優しくない鶴義です。(開き直った)
いえ、人外好きなんですけどね。

これで終わりじゃないですから!
終わりじゃないですから!!



本文はつづきからどうぞ。






ついにスリッパも限界を訴え、サイドが破れて履けなくなった。
この荒地を歩くにはどうしても、必要なアイテムであったため、どうすればこのスリッパは再び使えるようになるかを検討する。
接着剤はここにはない。裁縫道具くらいならあるかもしれないが、竜には必要ないため、それらもここにはない。
だいたい、ここの竜は俺が何かを言っても快く聞いてくれはしないし、聞いてくれたら奇跡だと思うかもしれない。
少し話を聞いてくれそうなのは、始めてここに来た時会った黒い竜や、マイス、クルガ、そして深緑の竜なのだが、黒い竜はあれ以来見かけないし、マイスもクルガを連れ戻しに来るときくらいしか見かけない。
クルガはよく、俺に会いに来るが、満足するまで俺といるだけだ。話はするが、お願いは聞いてくれなさそうな雰囲気がある。
深緑の竜は、それが必要だと感じたら、俺のお願いも聞いてくれそうだが、芋の採取場所を教えてくれてから、会っていない。
そうなるとスリッパは今、ここにあるもので何とかするしかない。
俺はスリッパの底板を細く長くちぎった布を、自分自身の足に巻きつけるという方法で、それをクリアした。
「おーいにんげーん」
そうやって朝からちょっと大変な思いをしてつくった靴っぽいもので歩いていると、いつもどおり、クルガが俺の芋掘りを見に来た。
よく飽きないものだ。
俺など芋はもう食べ飽きた。だが、それしか食うものはない。
「人間にんげーん」
「……返事するまで、言い続けるのか」
「おう。俺、寂しがり屋だから」
それはきっと嘘だろう。
俺は態とらしく首を傾げたあと、芋を風呂敷にしている布に入れた。
「何、疑ってるの?いいけど。あ、でさー人間」
クルガは飽きっぽい。
すぐに話題はコロコロと変わるし、芋掘りの手伝いと言って二、三個芋を掘ってやめたりもしていた。
こうして俺に会いに来ているのは、クルガの暇つぶしの話し相手が俺くらいしかいないからだろう。
マイスと話せば、説教じみた話になり、兄と話せば小言を聞かなければならないとそんな話を聞いたことがある。
「兄上、交渉一旦終わって帰ってきたよ」
「そうか」
「え、反応うっすいの。毎日俺に聞いてくれるのに、なんで、そこで反応薄いの?」
帰ってきたなら会ってくれるというわけでもないだろうし、会ったところで何を話せばいいのかもわからない。
会いたくないかと言われれば、そんなことはなく、とても、そう、とても会いたい。
ただの穀潰しである俺を文句も言わず、律儀に淡々と構ってくれた。毎日傍にいたものだから、いないのはいやに寂しいし、仲が悪かったわけでもない。良かったというわけでもなかっただろうけど、少なくとも、俺は友達になりたいと思っていた。
友達にはなれないと言われたようなものだけれど、それでも、この夢の中では誰より俺の傍にいる竜だった。
「まーいっかー。で、兄上、会いに来るって」
「……は?」
「会いにいくって言ってた」
この時の複雑な気持ちをなんと言い表したものかわからない。
とりあえず、芋をもって俺の住まいに帰ろう。そう思った。



そそくさと家に戻ると、そこには久しぶりに見る深緑の巨体が居た。
「……こんにちは?」
なんと声をかけていいかよくわからず、なんだか泣きたいような気分で、挨拶をしてみると、深緑の竜はこちらにゆっくり振り向いたあと、俺を見つめた。
気のせいだと思うが、少し悲しそうに見えた。
竜の表情など、よく解らない。
ちょっと目の開閉具合が違うとか、威嚇してくるとかそういうのしか解らない。
けれど、そのとき、なんだか悲しかった。
俺の気分だろうか。
『……こんにちは』
やはり、この竜は律儀だ。
きっちり挨拶を返してくれた。
「クルガに、忙しいみたいに聞いていた」
『確かに、忙しかったな。クルガは、こちらに毎日来ているそうだな』
「毎日来ては騒いで帰る……けど、いるといないとじゃ違うから、いてくれるのは嬉しい」
素直な言葉が溢れる。
この竜には、さんざん子供みたいに色々聞いたから、なんだかとても素直に話せてしまうのだ。
『そうか。あれのサボりもたまには役に立つんだな』
俺がこの竜に色々聞いたように、俺よりは少ないものの、この竜は俺に尋ねた。
質問は少なかったが、俺が余分に色々話したから、この竜は俺のことをよく知っている。
『お前は、帰りたいか』
だから、この質問も、久しぶりではあるけれど、何度目かの質問だ。
なんだか、少し悲しい気がするのは、竜がこの質問をしたかったからだろうか。
それとも、俺がこの質問をされるのを、悲しく思ってしまうからだろうか。
最初は即答だった気がする。
帰りたいかと聞かれるから、俺にとっては夢でも、彼らにとっては本物なのだと言うことなのだと思って、帰りたいと答えていた。
そう、夢から、なんの不安もなく、恐れもなく、おかしな夢だったなって覚めたかった。
でも、今は、どうなんだろう。
夢の中だけど、不便だし、友達もいないし、来る日も来る日も食って寝てちょっと話して、洗濯したり、気持ち掃除したりとか、そんなことしかやってないけど、この深緑の竜を見ると、目がすぐ覚めてしまうのは惜しい気がする。
現実には、竜なんて存在しない。
ここにしか、竜はいない。
「……帰り、たい」
竜なんていたって、クルガくらいしかじゃれてこないし、睨みつけてくるだけだ。
でも、この深緑の竜がいない。
『……帰る方法を知りたいか』
「あるんだ?」
『ああ』
どうして悲しいのだろう。
ただの夢なのに。





深緑の竜の外交相手は、人間だった。
なんでも、どうせ食わないのなら、協力してしまったほうが、狩られなくても済むだろうし、色々と都合がいいということらしい。
その人間と話をしてきてわかったことは、俺の心臓をとある剣でさせば、元居た場所に戻れるということらしい。
つまるところ、最悪の目覚めというやつを経験しなければならないらしい。
人間に剣をさすだなんてことは、人間にとってもあまり気分のいいものではないし、失敗というやつにも色々あったらしい。だから、俺は捨てられたと説明された。
「なんか、痛そうな方法だなぁ」
『痛そうではなく、間違いなく痛いと思うが』
俺は、それでも帰りたい。
痛いのはきっと一瞬だ。
けれど、痛い思いをするのならば自然と目が覚めるまで待っていたい。
そんな気持ちもあるのだ。
あるけれど、それを許してくれない奴もいる。
黒い竜だ。
「あーあー楽しかったのに」
『ここにあるべきじゃない。さっさといなくなればいい』
最初から最後までなんて冷たい竜だ。
結局俺は、来た時と同様、流されるまま竜たちの決定に従う。
この夢、最悪だったなって、きっと目覚めることができる。
『……本当に、これでいいのか』
深緑の竜は、やっぱりなんだか悲しそうで、俺がいなくなるのが少しはさみしいのかなと思って、ちょっと嬉しく思った。
それ以上に、俺もさみしいなと思う。
夢でも、やっぱり二度と会えないのだから、さみしいし、悲しいんだ。
きっと、そうなのだろう。
何か言いたそうな竜に、少し笑ってみせた。
竜は相変わらず、悲しそうに見えた。




『しかし、お前はよく反対しなかったな』
『兄上が何も言わないんだったら、俺は何も言わないよー。俺より、兄上のが思い入れはあるんだと思うし』
『確かに、四六時中傍にいたしな。兄上も律儀に人間と話などするから情がわく』
『え、俺も話とかしたんだけど』
『お前と兄上では構え方が違う』
珍しく思い出の機能性がまったくない場所で、深緑の竜を風よけに寝ていた。
深緑の竜は何故だか俺と一緒に、いてくれた。
別れる前日だから、そうしてくれているんだと思いたい。
深緑の竜は友達になれないみたいなことを言っていたが、そういうのを超えて俺と居てくれることを特別だと思っていてくれたのかもしれない。
とても幸せな思い込みだが、もう会わないなら、何を思っていてもいいと思う。
そんなわけで、いつもとは違う場所で寝ていたせいか、もう最後だと思っていたからなのか、俺の眠りは浅かった。
フラフラっと用をたしにいくと、黒と緑の竜が話をしていたのが聞こえた。
『それにしても殺したら帰れるなんて、人間って残酷ー』
『まったくだ。それっぽく言っては見たが、酷なことをいう』
『兄上が微妙な気分でいるのもわかる気がする』
『だが、殺さないと交渉は決裂なんだろう?』
『一人いたら、もう一人は呼べないって』
俺は、愕然とした。
俺が死んだら、目が覚める。
それは同じことのようだけれど、なんだか、その『殺したら帰れる』という言葉が、いやに、重たかったし、俺の命なんてどうでもいいふうな、会話。
殺されるのは、夢でも嫌だ。
俺は走っていた。
スリッパを装着するのは面倒くさくて素足だったのは、良かったような気もする。
深緑の竜のところまで、走って、その身に俺の身体を隠す。
『……聞いたか』
深緑の竜は起きていた。
きっと弟たちの話も聞こえていた。
けれど、俺がフラフラと何処かへいくのをそのままにしていた。
俺はガタガタと震えていた。震えて、深緑の竜の腹のあたりで小さくなっていた。
剣で刺すってのも、殺されるのと、同じことなのに、ちゃんと、言葉できくと、いやに怖い。
嘘だと思うこともできた。夢だし、現実味がないと思うこともできた。
それでも、なんだか、俺は、これは本当なんじゃないかと思ってしまった。
『それでも、帰りたいか』
きっと、この深緑の竜は俺を殺したいと思っていない。
だから、弟たちの話を聞かせてくれた。
「……それで、夢が覚める、なら」
『夢……?』
ああ、この反応はなんだろう。
そうだ、黒い竜にも同じような反応をされた。
怪訝。
そう、そんな反応だ。
『そうか、夢か』
俺はしばらく竜の腹のあたりにいたが、竜はがその長い首を曲げて俺を見るから、俺は恐る恐るその顔に近づいた。
深緑の竜の目が、とても悲しく見えた。
ただ、悲しそうだった。
俺は震えながら手を伸ばして、鼻のあたりに触れた。
爬虫類みたいだと、思った。
なんだか、とても、優しいなと思った。
「……俺、殺されるならあんたがいい」
酷い頼みだと思う。
でも、この深緑の竜なら、きっと痛みも感じないように殺してくれるんだろう。
『……解った。一息で殺してやる』
俺は、きっとこの竜を忘れない。



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