×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
一匹狼な企画に投稿しようと意気込んだけど、これは一匹狼ではない。
飼いならされている。
と思ったので、こうなりました。
やる気が見当たらない俺×兄貴のお下がりペット
何もおこらない話です。
本文は続きからどうぞ。
机を一回、何かを落ち着けるかのように指で叩く。
それだけの仕草が目に焼き付いて消えない。
「セイジ」
一回しか叩かないというのに、イライラしているのが良く分かる。
俺が名前を呼ぶと、それは悪化した。
「久々に会ったってのに、無視か」
その、久々に会ったからこその無視であることを知っていながら俺は続ける。
「ペットの癖にいい御身分だよなァ」
セイジは、何も言わない。
ある日の事だ。兄貴が、俺のペットと言って、セイジを連れてきた。
兄弟仲は良くも悪くもない。だが、拾ってきたものなんて自分の気まぐれでしか構わないのが、兄貴だ。弟である俺は、気がつくとそいつが過ごしやすいように環境をそれとなく整えるのが役目になっていた。
だからと言って、最後まで面倒を見るでない、構うでもない。あくまで俺は兄貴と血が繋がった弟でしかなかった。
「お前さぁー……黙ってりゃ俺がハイハイっつって終わりだと思ってる?」
その兄貴が連れてくるものは、彼女であったりダチであったり、それこそ猫も連れてきたりもした。
俺のうちにすっかり居着いてしまった猫は兄貴のセンスでニャー太と呼ばれ、修羅場を演じて泣きながらいなくなる彼女は何人めかで数えるのをやめた。ダチは入れ替わり立ち替わりだが、よく見る顔もある。
ただ、セイジだけは、どうも特殊だ。
ペットと言って気まぐれに構うのはいつも通りであるし、飽きたら、お下がりみたいに俺に押し付けてくるのも同じである。
しかし、セイジはフワフワした関係である兄貴の友人とも、兄貴にまったく興味がないニャー太とも違い、兄貴の無駄にいい顔とスタイルに騙されている女とも違った。
何もかもどうでも良さそうでいて、何もかもに腹を立てているようでもある。それでいて、静かで、周りを慮らないのに、誰に何かを強要するでもない。
俺は初めて、兄貴のものに興味を持った。
「まぁー、そうなんだけどよ」
セイジの過ごしやすい環境をそれとなく整えて、セイジに接触と言えないほどの接触を試みて、兄貴のお下がりになるのを待っていた。
兄貴は案の定さっさと飽きて、俺にくれてやったらしい。
だが、そのお下がりは意思のある人間で、連れてきた兄貴にすら興味がなさそうだった。
親身になったわけでもない。生活の一部になったわけでもなく、兄貴と変わらぬ態度で、兄貴以上に何もしなかった。
お下がりになったと判断されたからといって、俺が権利を主張できるわけでもない。
「もういいわ。今日はニャーもいるし」
俺を見れば甘え、すり寄ってくる独占欲の強いニャー太を足元からすくいあげようとすると、地面が惜しいのか足を伸ばされた。
「何、ニャーも今日は俺んことハブんの?」
見事な縞柄を靴下のように伸ばしながら、ニャー太がにゃあと呟く。何を言っているかはわからないが、俺に構ってやるつもりはないらしい。
仕方なくニャー太を下ろすと、やはり、足に何度かすり寄って、まるで何事もなかったかのように、ニャー太はセイジに飛び乗った。
「あー……ニャーは、愛人にお熱か」
ふん!と鼻を鳴らすように俺から顔をそらしたニャー太にとっては、俺も愛人なんだろう。
トン……と、また、机を一回叩く音がする。
俺はニャー太から、セイジに目を向け、ニャー太ではなく、セイジに手を伸ばした。
「イライラするくらいなら言えよ」
頬を撫で、耳をなぞり、髪に指を入れれば、少しだけセイジの頭が揺れる。
兄貴はセイジのことを、群れから捨てられた狼のようで気に入っていると言った。
俺は、それを初めて捨てたのが兄貴だと知っている。
「俺がわかったって仕方ねぇことだろ」
セイジは目を細めるだけで、何も言わない。
ただ、機嫌だけは少し治っていた。
PR