書きなぐり 一枚八十八円。 忍者ブログ

[587]  [586]  [583]  [585]  [584]  [580]  [579]  [578]  [577]  [576]  [575
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


大人の味ね。


バレンタインデーヤンキー第一弾。
拾得の二人。


本文は続きからどうぞ。












冬だった。
寒さもこれから緩んでだんだん温かくなるという、一番寒いとされる日からしばらく。
昼と夜の長さから、春とされる季節ではあるのだが、冬としか言いようのない寒さに、マフラーを密着させるように右手で掴めば、残った隙間が埋められて、少しは温かいような気がした。
季節の移り変わりなど知ったことではないと、暖かいやら寒いやら解らない日が続いている。
常より温度が高ければ異常気象だというくせに、久しぶりの大雪には浮かれたように外に出る。寒いのは得意じゃない俺は、友人達が雪で遊ぶ様子に元気だなと目を細めることしか出来ない。
「最近、メールこねぇんだけど」
「さっみぃんだよ」
「暖房でもつけてろよ」
どうしてお前がここにいるんだと問う前に、不機嫌な様子で俺に声をかけてくる奴に、俺も同じように不機嫌を装って答えた。
俺もそいつも、まめなわけじゃない。毎日律儀に何通か送るわけではなく、気が向いたら、何通かやり取りをするってだけだ。
けれど、ここのところの冷え込みは、俺に末端冷え性という言葉を思い出させるほどで、学園は愚か、寮の部屋でも携帯を触りたいと思わせない。
「乾燥するじゃねぇか。喉いてぇんだよ」
「タオルでも干しておけよ」
「すぐ乾いちまう」
「何度設定なんだよ。温まったら消せよ。つうか、タオル何枚か干せよ」
たかだかメールが止まった程度でわざわざ山から下りてもくるまい。メールが駄目なら、電話をすればいいことだ。
「めんどくせぇ」
「俺だってめんどくせぇよ、メールとかよ」
お互いまめではない。
そのうえ、面倒くさがりだ。
「だいたい、お前が転校するからよくねぇんだよ。飼い主は、責任持って最後までペットを飼うもんだろ」
「偉そうなペットもいたもんだなぁ、おい」
「それを放っていった挙句、休日返上で補講だと。どれだけ授業サボってやがったんだ」
「おい」
「まったく、健気なペットだろ、ご主人様に会いに来て」
「おい、無視かよ」
俺の言っていることの半分も聞いてなさそうなそいつは、一つ息をつくと、眉間にためた皺もそのままに、俺を睨みつける。
「会いたかったんだよ。察せよ」
「だから、そういうことは先に言え」
近寄って手を伸ばすと、そいつは体を震わせる。
「つめてぇ」
そういうくせに、俺から逃げようとはしない。
逃げる意味も見出せないのだろう。
そのまま、頭に手を伸ばし引き寄せた。
口の端に口を押し付けると、そいつは、少し、笑う。
「なんで、ここいんの?」
「……お前こそ、先に聞けよ。そういうの」
相変わらず、ここにいる理由などは結局答えない。そんなことは俺にとっても、そいつにとってもどうでもいいのだ。
「あと、キスはもっと濃厚なのがいいだろ」
「その気になっちまう」
「その気にさせてみろよ」
軽口を叩くだけで、ここでは何もしない。
「ところで、相模」
「タロウ」
「まだそれで通すのかよ」
俺が笑うと、そいつ、タロウは、不機嫌だったのも忘れて楽しそうに口角を上げる。
「チョコレートの味がするんだが」
「ギョニソより安かった」
あと少しでバレンタインだったなと思い、右手を出すと、タロウが解っていないなという顔をした。
「キスしてやったろ」
「キスしたのは俺だ。アレはものの数になんねぇよ。ねぇの?」
「食った」
「ねぇならいいわ」
未だ近距離にいたことをいいことに、俺はもう一度キスをする。
今度はリクエストどおりだ。





PR
<< むかしむかし HOME ついてはそろそろいいだろうか2 >>
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
リンク
カテゴリー
フリーエリア
最新CM
最新記事
最新TB
プロフィール
HN:
鶴義 亀吉
性別:
非公開
バーコード
RSS
ブログ内検索
アーカイブ
最古記事
P R
Template by Crow's nest 忍者ブログ [PR]