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言葉でバトルなんてしやがって…!
素直に武器で…バトっとけよ…
もっとがっぷりバトルバトルした話が書きたかったんですが…
本文は続きからどうぞ。
素直に武器で…バトっとけよ…
もっとがっぷりバトルバトルした話が書きたかったんですが…
本文は続きからどうぞ。
樹にしてみれば冴島が表から消えたことで何か変わることは一つもなかった。
場所はどこでも良かったし、観戦者がいようがいまいが彼には関係なかったからだ。
ただ、冴島が殆ど何もしなくなったのは、彼にとって詰まらない事だった。毎日が退屈で、何もかもが面白くない。
樹は冴島に出会う前から、退屈していた。
冴島という男が面白くなって初めて、彼は楽しみを知った。
毎日が楽しかった。これからも楽しいはずだった。
だが、冴島は何もしなくなった。
何も楽しいのは冴島だけではないと、樹は自然と冴島から離れた。
楽しいことを探した。
探して探して、結局、樹は楽しいことを見つけられなかった。
ならば、自ら楽しくするしかない。
彼は委員会を作った。
作って、色々な委員会に挑んだが、樹は退屈だった。
ただ、古巣の…冴島の下僕が遊びに来たとき、樹は退屈さを忘れた。
古巣を潰せば、退屈を紛らわせることができるのではないか。
樹が考えた頃だった。
もう一人、樹と同じように、あるいは樹以上に退屈を弄ぶ男が、樹と顔を合わせて、昔と変わりない笑みを向けた。
「よぉ…遊びに、来たぜ」
風紀保護観察委員会に与えられた空き教室の一つ。
真面目な生徒が多いせいか、サボりの委員長以外にひとっこひとりいないそこで、樹峰は冴島芥を見上げていた。
「久しぶりだな」
「そうだな」
椅子に座ったまま、樹は思う。
やはり、冴島芥が一番面白い。
何にも興味がないようでいて、いつも何か欲している。退屈を嫌い、自ら、その退屈を潰す。
昔よりも少し、立ち回りが賢くなったのかもしれない。
しかし、樹が見るかぎり、冴島芥に変わりはなかった。
「遊びに来たってのは、どういった用件だ?色遊びか?」
樹は椅子から立ち上がりつつ笑った。
「やらし…」
冴島が同じように笑う。
樹は、冴島の手が手首から消えていることに気が付き、自らの右手を振るった。「相変わらずか」
「そうだな、てめぇも…相変わらずだ」
普通に使うには長く、大きすぎる針が、樹の右手の指に納まっていた。今は三本しか握られていないが、それが限度はあれど、いくつもあることを冴島は知っている。
樹は強い。色を使わなくてもいいほど、強い。
武器は投げるための針であるが、樹は針がなくても戦える。
「楽しいったらねぇなぁ…?」
「暇潰すんなら、もう少し静かに潰してほしいもんだ」
「そんなに楽しそうなのにか?」
飛んできた針を、いつもの模造刀でたたき落とし、冴島は模造刀の鞘を捨てた。
「気のせいじゃねぇの?」
その顔に、樹は薄ら寒い気分になった。
彼の唇から吐き出される息はすでに黒く、何かを呟くたびに漏れる黒い息は霧散することなく刀にたまる。
「てめぇとは、一度やり合いたかったからなぁ…」
「そっちこそ、やらし」
喉だけで笑うと冴島は言葉を紡ぐ。
色とカラー。能力はどちらももとを正せば同じもの。だが、その力の使い方は違う。
色は音。音色。その音を言葉にし、能力に形を与える。
カラーは絵。空間というキャンバスに陣を描くことによって、能力を形にする。
「このいきはかみのいき。ひとつかみふたつかみ、そのちから」
黒の彩色者と呼ばれた冴島は、言葉の意味を重ねることを得意とし、重複黒彩とも言われた。
もっとも、重複黒彩という名前は普及しなかったため、知るものは少ない。
何色も重複した末の黒い彩りとも、意味の重なりとその一色で他を塗り潰してしまう強さともかけられ、それすら重複していると言われたよくできた名前だったが、皆がこぞってその名前を冴島から遠ざけた。
理由は簡単。
本人にその名前が、似合ってないからだ。
確かに冴島の力は人を黒く塗り潰すだろうし、重複した言葉だった。
けれど、少々、冴島を飾るには鮮やかすぎた。
ただ、黒。
それのみが似合う。
「黒ねぇ…嫌いじゃねぇな…好きな色だ。おかすなら、好きなほうが断然イイ」
「…色は?」
樹はまるで、タバコの煙を吐くように、息を吐いた。
薄い紅色が針に絡まり、やがて濃い色となる。
「女みたいで、秘密にしておきたかったんだがナァ…」
「おまえだけの秘密にするには、鮮やかすぎるな」
冴島が刀を振るうと、一直線に黒い何かが飛ぶ。
樹の紅色が、それを迎撃するように飛び、黒は、三本の紅色に切り裂かれた。
黒は、また靄になって広がり、辺りに漂ったが、紅色はそのまま冴島へとむかった。
冴島は模造刀を構えもしなかった。
「このいきはかみのいき。かみつくはこのいき。いきはかたちもあらず」
黒い靄は鮮やかな紅色に絡み付き、その勢いを止める。
冴島の言葉に合わせるように、樹が言葉をかけた。
「かみのいきをおかそうか、とっておきの紅さして、いっそみだらにまじわるか」
少し揶揄がみえる声に、冴島は抑揚を変えず、ただ、淡々と言葉を紡ぐ。
「かみのいきはみいきなり、みだれてあかのいきなれど、なにものをもかみころさず」
樹が軽く口笛を吹いた。
黒い靄に混じった紅色は、そのまま樹の支配下におかれるはずだった。
しかし、それは冴島の言葉に邪魔をされた。
「神の御域を侵すなら、それ相応の覚悟があるだろう?」
冴島が床を蹴った。
樹は冴島が模造刀で切り掛かってくる前に、椅子から飛び退くと、針を三本とも投げた。
「神の域とて、犯されりゃアカ。犯されたからには汚れを知って、恥じらって紅差す」
ふ…っと紅い息を吹き掛けるようにして三本、いつのまにか手にした針を投げ付ける。
「神の息は三度噛む。加味された紅は二度味わった。三度目は仏すら許さぬ絶対の域」
針が弾かれる澄んだ音に樹は舌打ちして、さらに三本、牽制に投げ付ける。
「仏の顔は三度なれども…神は何物も許し与える。しかし汚れは…」
「もとよりくらいかみのいき。神は死なず、息をするだけ。三息で噛み殺せぬなら、いっそすべて飲み込む闇になる」
冴島が刀を、無造作に振るった。
「音さえ奪って、ただ広がるのみ」
「…ッ、……!」
樹は冴島の言葉により、言葉を否定する手段を失い、歯噛みした。
色を使う人間にとって、言葉が出ないことは、敗北を意味する。
どんなに身体能力が優れていようと、言葉という手段を奪われると言うことは屈辱でしかない。
しかし、言葉は音だけではなく、文字でも示すことができる。
だが、樹は針を指に挟んだまま、両手を上げて敗北を表した。
「まだ戦えるんじゃねぇの?」
口がパクパクと動く。
ペン、忘れた。
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