書きなぐり 君の思い違いになる頃 忍者ブログ

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バッドエンドじゃないから大丈夫ですよ!

タイトルでわかると思いますが、君の思い出になる前にの話。
書記サイド。

さて、ここで、あと、ふたつ三つかかなければならないことが増えたような。


本文はつづきをからどうぞ。



 


小さい時、俺には、誰にもいない友達がいた。
はじめて、その友達に会ったのは、こっそり家を抜け出して夏祭りに行って帰ってきた幼馴染の戦利品であるぬいぐるみが捨てられそうになった日だった。
『本、好き?』
友達がまず聞いたのはそれだった。
俺が絵本をめくっている時だった。
しばらく俺のその様子を眺めていた友達が急に声をかけてきたことで、俺ははじめて、その存在に気がついた。
俺は声のもとを探した。
それは幼馴染の戦利品のニゴウくんから聞こえた。
俺はびっくりした。
『なぁ、本、好き?』
けれどそれ以上に、お気に入りのニゴウくんが話しかけてくれるのがなんだか嬉しくて、こたえるのに首を振る。
『じゃあ、なんで読んでるんだよ』
「……くれる」
両親の与えてくれるものはとりあえず手にとって、気に入っているフリをしなければ、幼馴染のくれたものが取り上げられたりした。幼馴染のこっそりくれるものはことごとく両親のお眼鏡にかなわないものであったが、俺はとても好きだった。正直すぎる俺は、それを隠すことが得意じゃなくて、ついついそればかりであそんでしまって、両親にこっそりもっていたことを知られて捨てられてしまったりしたのだ。だから、俺は両親の与えてくれたものを気に入ったように振舞って、なんとかそれらが捨てられないよう、見えないよう、目につかないようにしていた。
『んー…せっかくくれたんだし、楽しんでみない?』
ニゴウくんはとても馴れ馴れしかった。
けれど、幼かった俺にとってニゴウくんはしゃべる前から幼馴染の次くらいのマブダチで、正直、とても嬉しかったから、一も二もなく頷いた。
俺はニゴウくんが言うとおり、本をみせ、ページをめくった。
ニゴウくんは、そうして、毎日俺に絵本を読んでくれた。
ニゴウくんは本を読むのがうまかった。
両親が俺に与える本というのは、子供よりも大人受けのいい本であったのだが、ニゴウくんがおもしろおかしく読んでくれるものだから、とても好きになれた。
「ニゴウくん、あっちゃん、め?」
ニゴウくんは幼馴染に紹介することを、すごく嫌がった。
できたら俺にも話しかけるべきではなかったのだとか、そんなことも言っていた。
俺が突然ぬいぐるみが話し始めたとか、ぬいぐるみが友達だとか言いだしたら、幼馴染でも変な顔をしただろう。それを思って、ニゴウくんは俺に誰にも秘密にさせていた。当時の俺は、そんなことを知らなくて、それは秘密の共有のようでとてもワクワクしていた。
『ダメダメ。これは俺といっくんの秘密だから。もし、いっちゃったら魔法がとけて、俺、いなくなっちゃうかも』
ニゴウくんは頭が柔軟だった。
子供の扱いになれていたのかともおもったが、そうではなかったことが少しあとに判明した。ちょっとした嘘をつくのが、彼の職業だったのだ。
ニゴウくんは俺が本を与えられるたびに一緒に読んでくれたし、自分の昔の話をしてくれたりもしたし、ぬいぐるみになっていることについても話してくれた。幽霊が取り付いたとか怖いことを言っていたが、本人が明るい上に俺にとってとてもいい人だったので、怖いと思ったことがなかった。幼馴染がいないときのいい遊び相手だった。
両親が不在がちの家で、俺はいつもニゴウくんに話しかけていた。
子供は、こっそりしているつもりでも、大人は子供のことをよく見ていて、ぬいぐるみに話しかける俺をお手伝いさんはよく見かけていた。
ままごと遊びの一環だと思っていたらしいのだが、年を重ねるとさすがに卒業する必要があるだろうと思われてしまったし、それ以上に、俺があまりにも言葉を喋らないせいで、その光景が原因のように思われてしまった面もあり、友達は、急にいなくなった。
ニゴウくんが、捨てられてしまったのだ。
俺は泣いた。
毎日泣いた。
より一層、喋らなくなった。
幼馴染が、ニゴウくんをみつけてくれるまで、本当に、毎日、両親に反抗した。
ニゴウくんは、ボロボロになって帰ってきた。
幼馴染には聞こえない声で、ニゴウくんは、こういった。
『お別れの時がきた。ごめんな、見つけてくれたのに。でも、俺も長居しすぎたみたいで…本当はもっと、一緒にいたかったけどな』
そう言ったニゴウくんは、俺にお別れの挨拶もさせないで、二度としゃべることはなかった。
ニゴウくんは、なんだかんだ、まだ、俺の実家の部屋に飾ってある。
両親とはそれ以来、よく話す。
和解、というか、分かっていなかった部分がたくさんあったのだと思う。


 

 

ある時、俺は、見知らぬところで、苦しみながら、目を覚ました。
思わず、近くにあった携帯電話で幼馴染を呼ぶために短縮ボタンを押したほど、苦しかった。
「助けて」
そして、俺は病室で、目覚めた。
俺を助けてくれた人曰く、目が覚めなければ危なかったそうだ。
どういった状態であったかも説明してくれたのだが、よく覚えていない。
ただ、その時、ふと、ニゴウくんが言っていたことを思い出した。
『ある日、ちょいっと仕事が終わって目が覚めなくてさー…気がついたらなんか、みんなが病院で辛気臭い顔して、俺を見てくれてんの。あれにはまいったなー。俺、まだ死んだ実感ない』
子供に死んだとかよく言ったものだと思うが、ニゴウくんがとても明るく言っていたし、俄かに信じられる話でもなく、まるで作り話みたいにいうから、嘘みたいだった。あまり気にしなかった。
「お前、本当、もう、お手伝いさんとかでもいいから入れろよ。一人で暮らすなよ。心配でなんねぇよ」
俺を助けてくれた人を見ながら、さらにニゴウくんの言ったことを思い出した。
『親友が一番重症でさ。第一発見者だったのもよくなかったんだけど、本当、毎日後悔して、毎日酒飲んで、泣いて、呻いて、あーやっぱりあれは嘘じゃないんだって起きるの。本当、俺、申し訳なくなってさ…話しかけもできないし。あ、もし、いっくん霊感少年とかで取り上げられるようなことあったら、親友に俺、ぜんぜん何も思ってないからって言ってくれる?特徴?あ、特徴はね』
ニゴウくんの親友に、よく似たその人をじっと見つめたまま、俺はニゴウくんの親友の名前を口にする。
「たつみ…?」
くしくも、俺の苗字とよく似た名前のニゴウくんの親友は、俺の頬を引っ張って怒った。
「てめぇ、ぼんやりしやがって。人の話、聞いてんのか」
「……?」
俺は混乱を極めていた。
ニゴウくんの親友のような人が俺を心配している。
ニゴウくんの親友のような人が怒っている。
俺は一体、どうしたのだろう。
たしか、学校に居て、そう、階段から落ちたのだから、病院にいてもおかしくはないけれど、知らない人に頬を引っ張られているのはおかしなことだ。
俺の幼馴染ならこんなことはしないが、俺の頭を殴って、いい加減仕事しろとかいうのだろう。
そう思えば、転校生は無事だったのだろうか、あの時うまく庇えていただろうか。
そんなことをつらつらと考えているうちに、医者を呼ばれ、俺は、記憶喪失ということになった。
それは俺にとって、好都合なことだった。
自分のことを確かめるのに、何を言っても大丈夫だということだった。
俺は、辰巳(たつみ)さんに聞いた。
ここはどこであるとか、辰巳さんが誰であるとか、俺は五海正弥(いつみまさや)であるとか、色々言った。
辰巳さんは面倒くさそうにしていたが、それにきちんと答えてくれた。
ここは俺が運ばれた病院であるとか、辰巳さんは外海辰巳(そとうみたつみ)とこれもまた俺に似たような苗字であるとか、俺は五海正弥ではなく、阿蘇仁誠(あそじんせい)だとか。
色々、話した。
辰巳さんは、いい人だった。
口は悪いけれど、要点を得ない俺の話もよく聞いてくれたし、俺が五海正弥だと主張したら、そうであるということにしてくれた。
俺は毎日考え、毎日尋ねた。
「つまり、こうだ。そのニゴウくんが、それはジンが死んだ場合の未来の霊魂で、ぬいぐるみに宿っていた。けれど、正弥とジンが死にそうになった時、こうなっていると」
俺があまりに尋ねるから、辰巳さんもこの不思議な現象を根掘り葉掘り聞くようになった。
そして、二人で白いコピー用紙に書き散らして、まとめた結果、辰巳さんの言ったとおりになった。
「じゃあ、未来のジンが死んでいたとして、未来のお前はどうなったんだ?あと、お前の今のカラダは?」
辰巳さんは、未来の俺というやつが気になっていたらしい。
しかし、俺にはそんなことわかりようがないし、未来を変えてしまったんだろう俺には、この先一生知ることもないのだろう。
「…うまく、してれば…入れ替わってる」
「……作り話だとしても、そうでなかったとしても、まぁ…お前はお前か」
辰巳さんは優しい。
頭がオカシイと言われても仕方ないことを親友だからといって、黙って聞いてくれて、信じてくれているか、いないかは置いておいて、否定はしない。
最初は何をおかしなことを言っているんだと変な顔をしていたが、今は、真面目に聞いてくれる。
優しい。
その優しさは、ニゴウくんと似ていて、俺は、辰巳さんをとても好きになった。
ニゴウくんの存在を感じることができることもあって、俺は仁誠さんの体でいることに、わりとすんなりなれたと思う。
だから、辰巳さんとこうしていることに違和感を覚えなかった。
それは、いけないことだった。
自分の身体に、いずれ帰ると思っていなかったから、辰巳さんには複雑な感情を抱かせ、悩ませ、こうして、自分の身体に戻って混乱しなければならなかった。
わけがわからなかった。
「俺はお前が好きなんだけど、お前がお前であるという保証がないし、親友の作り話であったらと思うと、それも遣る瀬ねぇし。お前が本当に存在してるのかなってのも疑ってる。でもな」
わけがわからなかったが、辰巳さんがいっていたことを思い出した。
「お前がそれでも、好きだ。親友じゃなくて、お前だ。正弥」
寝入る前だったから、言われたとき、眠くて、答えられなかった。
目が覚めたら、俺も好きだと言わなければと、思っていた。
目が覚めたら、学園の保健室だった。
心配した幼馴染が俺を見て、ほっとしたあと、変な顔をした。
俺の体には、たぶん、仁誠さんがいたのだと、混乱から抜け出したあとに思った。
俺が辰巳さんに連絡をしなければいけないと思っているうちに、時間はすぎた。
辰巳さんがどこにいるかとか、そういうことはわかっていた。
知っていた。
けれど、俺にはたくさんの考える時間があった。
ニゴウくんが未来から過去にきたように、俺が時間を渡っていたら。
もしも、辰巳さんが存在していなかったら。
過去か未来かを作りかえて、辰巳さんが俺を知らなかったら。
こことは違う世界の違う時だったら。
怖かった。
連絡もできないまま、確認もできないまま、学園を卒業した。
日本の大学を入学せず、海外に渡った。
もう、ニゴウくんのことも辰巳さんのことも忘れようと思っていた。
よく考えなくても、おかしなことだった。
すべて俺の妄想だったのだと、思い始めていた。
そんな時に、学園からもってきた荷物のひとつに違和感を覚えた。
それは、一冊の本だった。
俺が特に大事にしていたその本は、ニゴウくんが昔、読んでみるといいといった本で、ニゴウくんや辰巳さんの存在を疑うようになってから、しまいこんでいた本だった。
その本は、おかしな厚みがあった。
手にとって、首をかしげたあと、本をめくって、紙をみつけた。
手紙だった。
はじめましてから始まる、その手紙は、幼馴染を好きになったことと、簡単な自己紹介と、どうにかして出会えないかといいながら、無理だろうなというあきらめが綴られていた。
「嘘…じゃ、ないのか…」
ニゴウくんも、辰巳さんも、阿蘇仁誠も、嘘ではないのかもしれない。
もしかしたら、この手紙も俺の妄想が書いたものなのかもしれない。
俺は、手紙に書いてあるとおり、この手紙を捨てたほうがいいのだろうか。それとも、手紙に書いてあるとおり、連絡をとったほうがいいのだろうか。
わからなかった。
何もかも嘘なのかもしれない。
確かめるのは、やっぱり怖い。
信じられなかった。自分が体験したことでも、信じることができなかった。
あんなに、好きだった友達も、あんなに、好きだった人のことも、本当にないことにしてしまうことが怖かった。
確かめるということは、はっきりさせるということだ。
本当かもしれない。しかし、嘘かもしれない。
はっきりしなければ、俺は本当の意味で、あの二人をなくさなくて済む。
信じることが、どうしてもできない。
手紙は捨てずに、隠した。

 

ある日、幼馴染から、本が届いた。
その本を見て、なんだか辛くなって、続きが欲しくなった。
本の作者を見てしばらく考えたあと、俺は急いで、クローゼットを開ける。

 


 

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