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やる気が初詣に行ってしまったので、なんとなく殴り書き。
一目ぼれから始まる料理道(笑)
続きは本文からどうぞ。
一目ぼれから始まる料理道(笑)
続きは本文からどうぞ。
正直言うと、一目ぼれなのだ。
初恋の相手、風紀委員。
いつも何か食べ物の匂いがするという噂の男。
風紀委員でも内勤といわれる一人で、不良連中には舐められているくせに、風紀委員連中には恐れられている。
風紀委員会調理班、班長。
春日井和平(かすがいかずひら)。
好みは、料理ができるやつ。
出会いは、正直、微妙。
エビ天泥棒、風紀委員長笹井(ささい)を追いかけ、ジャージでスライディングキックを食らわせた後、宙にういたエビ天をどんぶりでキャッチ。
エビ天うどんを啜りながら去っていくという、コントだった。
おそらく目の前で繰り広げられた驚きの光景に心臓が過剰な反応をしたのを、恋だと勘違いした、所謂、つり橋効果というやつなのだが、春日井和平を気にしない方が無理だという話だ。
無駄に整った顔、切れ長の目、それを細めて心底鬱陶しそうに先輩を見る目には温度がない。
眉間にためられた皺は嫌悪感をあらわしているようでもあった。
「今度奪ってみてください。死にますよ?」
先輩を敬っていないのがよく解る、低くて冷たい声。
それが、こちらに気がついて、ふと温度を上げる。
「ああ、篠宮、騒がせて悪い」
一瞬にして変わった表情に見入っているうちに、うどんを食いながら去っていった春日井さんは接触したことすらなく、風紀委員の仕事にも、学園の噂にも興味なさそうなのに俺の名前を知っていた。
「あ、しのぴょん、いたんだ。サボりはだめだぞー?」
「風紀の仕事もせず、エビ天もって走ってる奴にいわれたかねぇよ」
「…だーって和平くんがおいしそうなもの食べてるんだもん。ご相伴したいでしょー?」
「盗んで逃げてるようにみえたんだが、気のせいか?」
風紀委員長は笑って誤魔化した。
ごまかされた俺は、微妙な顔をした。
そんな微妙な出会いをした春日井和平は、クラスが違った。
授業を風紀の仕事だといって抜けることが多いのは四時間目で、教師でさえ春日井の仕事内容を聞いて、頑張れよという。
何の仕事をしているかはよく解らなかったのだが、近いうちに謎は解けた。
叔父の経営する喫茶店兼バーにやってきた春日井さんに、俺を発見されたときに、本人の口から仕事内容を暴露されたのだ。
「篠宮って、料理作れるのか?」
俺を見つけた第一声がそれだった。
俺は思わず答えた。
「一応」
「よし、今日からお前は俺の片腕だ」
は?と思っているうちに、がしっと肩をつかまれた。
注文されたシフォンケーキののった皿を落とさないようにしっかりもったまま、俺は首を捻る。
「うちのひぞっこを何ナンパしてんだよ、和平」
「俺は、有能そうな調理班副班長をスカウトしてんですよ。マスターがここで使ってるってことはそれなりに腕があってでしょう?」
叔父は、いくら俺が甥だからといって、料理の腕などがそれなりにできるやつではないと喫茶店で使わない。
叔父のポリシーのようなものだ。
最近抜けたバイトの変わりに手伝いをさせられていた俺は、一人っ子で料理好きな叔父に仕込まれそれなりの腕をもっていた。と思う。
菓子作りに至っては叔父よりうまいと自負している。
「当たり前だ、自慢の甥だぞ?」
「その上、一匹狼とか言われてヤンキーどもに恐れられてる篠宮なら腕っ節に問題ない。だから、風紀委員になろうぜ」
などといわれて、俺は風紀委員会調理班員になることになった。
そして今日が初おつとめなのだが。
調理班は笹井風紀委員長が設立した風紀委員会のための組織だ。
何代か前の風紀委員会のせいで予算をケチられている風紀委員会は、使える場所も本校舎から遠いくせに、風紀委員としての仕事ばかりたくさんある。
昼飯を食いっぱぐれることも多く、食堂の使用など風紀になってしまえば無理に近い。
仕方なく前の日に買ったパンをモソモソ食うか、風紀委員室の隣にある調理室でお湯を沸かすか、レンジを使うかしかなかった。
現風紀の一代前に、風紀委員室と風紀以外に使われていなかった調理室の壁をぶち抜き、彼らは調理室おも風紀委員室とした。
しかし料理をつくるという輩はいなかった。
それが変わったのは今期の風紀委員長笹井が就任してからだ。
笹井は料理をつくるのが好きだった。
風紀委員のためといって料理をつくった。
しかし、彼の作る料理は食べれたものではなかった。
誰もがはっきり不味いといえないまま、風紀委員長を避けること一週間。風紀委員長にその一言を言った勇者が現れた。
それが春日井和平、その当時委員長にスカウトされたばかりの新人だった。
風紀委員長はそれなら、春日井さんがつくれといったらしい。
春日井は頷いて冷蔵庫に入った材料で炒飯を作った。
「そして、班長は一人ぼっちの調理班に任命されたのでした」
「先輩まとめるのうまいっすねー」
「つうか、瀬戸(せと)…おまえ、風紀だったんだな」
「おう。はいってわりとすぐに春日井に日本茶全般担当にされちゃってさー」
同室者の瀬戸は日本茶全般担当の風紀委員会調理班員だった。
和風美人といったら学園で必ず名前が挙がる同室者は美人であったが、性格は割りと軽い。
「先輩も…」
二年の木内秀人(きうちひでと)先輩は一人でいることが多い俺とよく遭遇する先輩で…要はサボり場所が被っている先輩だ。
よく見かけるうちに世間話をする程度の仲になっていた。
「班長とはちょっと縁があってね。班長が点心つくったときに中国茶いれてくれって連れてこられたんだけど、居心地よくてねぇ…いついちゃった」
この二人がいるのだから、俺という存在を知っていたらしい春日井さんは、調理室…というよりも家庭科室と呼ばれる場所を思わせる場所の八畳ほどの畳の間で日本茶のおかわりをしていた。
「あとコーヒー係と紅茶係、俺の補佐とかかわりができる副班がいたら俺も楽になるのになと思っててなぁ…」
俺は机の中心に置かれた煎餅に手を伸ばしながら、頷いた。
「それでスカウトされたわけですか」
「え、スカウトされたの?篠宮…て、いうか、春日井になんで敬語…?え?なんか弱みとかにぎられてるの?」
「強いていうなら、惚れた弱みを」
「え?」
「は?」
瀬戸と木内先輩がぽかんとしている中、落ち着き払って春日井さんが茶を啜った。
「…付き合うことを条件に副班長になってもらうことになった」
「へ?」
「ほ?」
瀬戸と木内先輩は同時に首を傾げた。
「いや、これが、料理の腕もさながら、菓子類がすばらしい。そこの煎餅も実は篠宮が」
「マジで?」
瀬戸が木内先輩より先に正気にもどって俺を見た。
「で、今日は俺の料理を振舞う約束だから、夕飯ここな」
「…食べさせない方がいいと思うんだけどなぁ…」
やっと正気に戻った木内先輩のいうことが解らなかったのは少しの間だけだった。
その料理を食って、俺はしばらくの間春日井さんに料理を振舞ったことを後悔した。
春日井さん、料理、うますぎ…。
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