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というか、ほとんど違う話というか。
こちらも超展開というか、色々バラバラ。
いっしょだけれど、違う。
話の補足ですらない。
あれ?となること請け合い。
金星からの恋文を読んでない人は、これを読んだ後に読んでみると面白いかもしれません。
ふらっといなくなるマイペースと色々と思うこともあるし、後悔だってしてるのに、確信がある人。
本文は続きからどうぞ。
イベントごとをサボって屋上。
差し入れ。といってコーヒー缶を投げ寄越した友人に、微妙な顔をする。
「サボりかよ」
「お前がそれいうのかよ」
二人同時に笑って、友人は片手に持った俺とは違うメーカーのコーヒー缶を開ける。
「一年生、元気だよなぁ…」
校庭に出てきた一年生を眺めてポツリと呟く友人は、一年生ではなく後から出てくるだろう三年生を待っている。
俺も校庭を眺めて、頷く。
校庭では楽しそうに鬼ごっこが繰り広げられている。
俺はそれを確認すると、視線はそのまま、缶コーヒーを開けた。
校庭を一通り眺めると俺は溜息をつく。
「なんだ?似あわねぇからやめとけ」
「お前、人をなんだと思ってんだ?」
「完全無欠かっこいい男前風紀委員長様」
俺は眉間に皺を寄せ、もう一度溜息をつく。
そんなわけがない。
「ていうのは、冗談でー…恋わずらってる素敵な友人?」
「煩っているように見えるか?」
「いや」
缶を煽って一気にコーヒーを飲みきった友人は、俺と同じように校庭を眺めていた。
ふと三年の群の中から離れて屋上を見上げた人物に、友人が笑った。
「やりたいようにやってると思ってる」
「お前がそれをいうのか」
「ま、そうだな」
その屋上を見上げた人物に声をかけて、同じように屋上を見上げた奴をみて、俺は溜息をつく。
「うまくはいってないがな」
「そうかもな」
俺もコーヒーを一気に飲む。
空がやけに青い。
「好きなら好きって言えばいいんじゃねぇの」
「いってどうなる?」
「複雑になる」
友人の言うとおり、俺が好きだというとそこには複雑な関係が出来上がる。
「いいことないだろ」
「いいことないなーま、自業自得だよ、お前は」
そうだな。
視線で探すのはいつも同じ対象だ。
視界に納めて、その後周囲を見てしまうのもいつものことだ。
また、あいついるな。とかしょうもないことを思う。
確認した後、その存在に無視を決め込んで、俺はいつも通り、友人と当たり障りのない話をする。
校庭では体育の授業でこの暑い中、奴らは元気にはしゃぎまわっている。
日射病にならなければいいな。などと思いつつ、緑色の下敷きを歴史の教科書に当てる。
黒く塗りつぶされ歯抜けになった教科書を眺めて、章の区切れまで読むと、俺は一度黒板を見る。
自習。
力強く書かれたあの文字は、書道部に所属するクラス委員長の書いたものだ。
そこから窓へと視線を移すと、校庭で体育をしている連中もほぼ自習らしく、ドッヂボールなどやっている。
元気だな…という感想しか浮かばない俺は次第に眠くなってきた。
夏になって熱いばかりなのだが、教室はクーラーで寒いくらいだ。
窓際に席がある俺は、日が当たって暑いくらいであるはずなのに、この夏の暑い中温かいなどという貴重な経験をしている。
眠たい。
眠たいのなら歴史の教科書の内容など頭に入るはずがない。
外を眺めていた方がよほど有意義だ。
俺は遠慮なく外を見る。
「また外眺めてるよー」
「マジ好きだな委員長」
「黙れ、俺の名前は委員長じゃない」
「無理無理、もう、代名詞みたいなもんだから」
クラスの連中がからかってくるが、適当に答えて、俺はなおも外を眺めている。
隣のクラスもどうやら自習中のようで、誰かの呑気な声が校庭に落とされた。校庭からの反応は上々だ。
俺はその声を耳に入れて、うとうとしながら思う。
今日も元気だ、な。
「ねーねーキスの温度ってどんなの?熱いのー?」
「お前らでやっときゃいいんじゃねぇの?」
「えーつめたいつめたい。そんなつめたいのじゃふられちゃうんだからー」
ふられるわけがないだろう?
そんなことを思いながら絡んでくる双子の頭をなでて、俺は欠伸を一つ落とす。
「昨晩は激しかったの?」
「激しかったんでしょー?」
「…おまえら、どうしたんだ?性的に目覚めたか?」
「きょーみがあるだけー?」
えへへーと笑う双子は無邪気そのものだが、キスの温度だの、ひとの情事が激しいか否かだのと聞いてくることはきわどい。
「そうだな、離してくれなくて」
「きゃあー」
わざとらしい悲鳴に腹が立つが、追い回したりはしない。…動くのが面倒だというのもある。
「あ」
双子の一人、正哉(まさや)が気がついた。という様子で俺のシャツをベロッとめくった。
「プールじゃわかんなかったけどやっぱすごーい。腹筋われてるー!そして、キスマーク!」
「キスマーク!」
嬉しそうにキスマークを連呼する双子。
無邪気で性的なことに縁がなさそうであるが、立派な高校生男子だ。それなりにお年頃なのかもしれない。
「そのうえ、ヘソピ!」
「いたそーいろいろいたそー」
いたくねぇよ。とは答えないで正哉の手からそっと俺のシャツから手を離させる。
「親から貰った身体に傷をつけてー」
「てー」
はいはいとおざなりに頷いて、俺は携帯を見る。
あいつからのメール。
俺はソレだけを確認して、携帯をテーブルのうえに放る。
「なんのメールー?」
「嫉妬深い恋文」
俺の返事に義哉が嬉しそうに同じ言葉を繰り返す。
「やだっ、ラブラブ?ラブラブー?」
そんなわけがない。
あいつと出会ったのは高校になってからだ。
毎日顔をあわせ、挨拶をする。
それだけの仲だったのだが、あいつが俺に告白してきたことから、俺とあいつの関係は劇的に変化した。
毎日毎日所構わずべったりで、毎日毎日ベタ甘という態度をあいつは貫いた。
あいつが俺の視界の端に存在するようになったのは、それから一年後。
あいつの姿を視界の端にとらえるたびに、俺はその存在を無視する。その反面、安堵し、視界の端にとらえたままにしようとする。
人よりも目立つ容姿をしていた。おそらく人に憧れられるような人間だった。
俺にとって、あいつは憧れる要素がまったくなかったが、ある意味、よく似ていて、嫌気がさすことが多々…どころか、同じところを見つけるたびに舌打ちしたい気持ちになった。
俺とあいつは違う人間だ。
同じわけがない。
否定をするのだが、似通ったところをみつけて、うんざりする。
どうしても見つけてしまう。
俺がそんなだから、父親には心配され、兄弟にも心配されてしまうのだ。
わかっていても、俺はあいつから離れる事はできなかった。
あいつは、俺のことをよく知っていた。
おそらく俺も知らない俺のことを知っている。
あいつは意外と短気で、そのくせ、すこし気が長いというか、慎重だったのだと思う。
俺が態度を変えることなく、特に何をいうでもするでもなかったからそうやってしていられたのかもしれない。
俺にとってあいつは、好きでも嫌いでもない存在だった。
毎日会って、話しかけられたら話して、べったりするなら好きにするといいと思っていた。
それがよくなかったのだろう。
あいつは、今日も、俺の視界の端にいる。
離れて正解だった。そう思う反面、離れなければよかったのかもしれないとおもう。
俺の手の届く範囲に居たのなら、俺が手を出すこともできたのに、と。
俺には、従兄弟がいる。
三人、従兄弟が、いる。
敦哉、義哉、正哉、(あつや、よしや、まさや)といって、三人とも浅からぬ縁がある。
義哉と正哉は俺が有村(ありむら)の家に来たときから一緒で、兄が居なくなったばかりで不安定だった二人は俺を兄代わりにし、約束をしたのだ。
一緒にいてね。と。
有村の家に来たばかりの頃の俺も、母をなくしたばかりで不安定だった。
俺はその約束を今も守って、その約束をくれた二人を守った。
俺はそうやってどんどん有村の人間になっていった。
父は怪我の心配した、弟も俺を心配していた。
そんな中、俺はあいつに出会ってしまった。
あいつは、俺を好きだといった。俺は、付き合えないといった。
有村の家はヤクザを家業としていた。そして、俺自身もヤクザとその愛人の間に生まれたという複雑な家庭環境があった。
そして、あいつに告白されたときには有村の家で生きていくと決めていた俺は、恋人を最優先できないどころか、恋人が狙われてしまう環境下にいた。
それに、あいつのことは好きではないどころか、嫌いだった。
あいつは俺を見る。それはもう、下卑た、舐めるような、視線で。
あいつはなにを思ったのか、それ以来俺にべったりと付きまとうようになった。
付き合えないのは俺があいつへ向ける優しさだと豪語した。
俺は鬱陶しいながら、それをそのままに無視することを続けた。
それを見かねたのは恐らく父だ。
父の要請をうけて敦哉が俺に告白をしてきた。
「うちの我儘なご主人様が一生懸命たのむからさー。ね?それに、家の双子ちゃんずがあの変質者に狙われたらいやじゃん」
敦哉の主人…俺の弟は、湿気た片想いをしていて、それのために敦哉をつかったという。
本来の目的はそこにないけれど、そこにあるかのように話して、一石二鳥だよねと敦哉は笑った。
敦哉がいう変質者であるあいつは、俺に懐いている双子をかなり嫌がっていた。
双子に会いに行っていたから、毎日顔をあわせることとなったというのに。
双子がいつ傷つけられてもおかしくないと、俺も思っていた。
だから俺は利害の一致で、敦哉と付き合い始めた。
敦哉は双子が一生懸命説明していたような人物だった。
一度決めたことは曲げない。いつもまわりを見ている。
マイペースで、そのくせフラフラしていて。
おいしいところをもっていく。
俺は敦哉と一年間付き合った。
視界の端にあいつをとらえ、双子に危害を加えないか、それを見張りながら。
俺が用心深く双子と距離を置いて接しているうちに、あいつは、敦哉を敵視しはじめた。
俺と敦哉がそう仕向けたというせいもある。
けれど、いざ敦哉に視線が向くと、俺は焦り始めた。
敦哉がどういうつもりで俺と付き合っているかはしっていた。もちろん、俺も敦哉を利用しているつもりだった。
毎日毎日、いちゃいちゃして、くだらない話をして、肉体の関係までもって、恋人の真似事をして。
ああ、ダメだ。そう思ったのは、敦哉も同じだった。
俺も敦哉も、当たり前、みたいに身を危険にさらして守ってしまおうとするから。
これ以上気持ちが傾かないうちに。
利用できるうちに。
手離したはずなのに、あいつの視線が敦哉を捕らえるたびに、俺は焦った。
夏に、適当に捕まえた人間とセックスしてみたりもした。
それで少しでもあいつの気をそらそうとした。
あいつは一方的に敦哉を恨む。
俺の携帯に増える、しらないアドレスの、脅迫メール。
俺はそれを確認して、焦る。
敦哉への恨み言。
俺には何もできないのか、どうすることもできないのか。
プールに呼び出される前、電話口でトーンの下がった声色。
ヤキモチを妬かれたことに、少し舞い上がって、忘れていた。
あいつはどこでも俺を見ている。
視界の端にとらえているうちはいい。俺が知っている範囲で、俺の手の届く範囲だから。
けれど、あいつは俺の視界にいないときも、俺を見張っている。
俺は敦哉と距離をとらなければならなかった。
プールなんぞに行かなければよかったのに。
しまった。っていう顔をした弟と敦哉。
俺は苦笑するしかない。
自分自身の馬鹿さ加減に。
久しぶりにかかってきた電話に、俺は、どうしようもない無力感を感じた。
どうして、俺は、今、敦哉の隣にいないのだろう。
『愛してる』
その言葉を、電話口で聞きたくはなかった。
「俺も」
答えたら、敦哉が笑って電話を切った。
それ以来、敦哉の声は隣のクラスからすることがなくなった。
あいつは転校していなくなったとされていた。
敦哉を避けてイベントごとのたびに屋上に行くことが多かった俺が、イベントに参加しても、生徒会会計なんてことをしていた敦哉が見つかることはなかった。
敦哉は、高校もおわりそうな冬、転校していなくなったからだ。
俺はある日、桐生(きりゅう)の家に呼ばれ、父に言われた。
もう、あいつは俺に付きまとうことはないと。
ソレがどういった処分であるかは深くは追求しない。
脅しつけて、怯えさせて転校させたくらいなら、まだ優しい対応だろうと、俺は思う。
「兄貴」
「…法人(のりと)、敦哉はどうした?」
「……いや…」
「教えねぇと殴る」
身構えた弟は俺に敦哉の居場所を教えるつもりはないらしい。
おそらく、敦哉が口止めをしているのだろう。
わかっているから、俺は弟を殴ることもなく、頭を抱える。
「…たく…好き勝手しやがって」
愛してるとか言うくせに、俺からは逃げる。
敦哉には言いたいことがある。聞きたいことがある。
敦哉と付き合っている間、あいつを敦哉に敵視させるために一緒に居た間。
言ってしまいそうになったことがある。聞こうとしたことがある。
今、あったとして、それをいうことも聞くこともおそらくない。
ただ、最後に聞いた声だけが俺の耳に残って離れず。
それ以外いうことも聞くこともないように思えた。
誰かのいないイベントごとは、やはりサボるに限る。
「またサボりかよ。委員長様がいいのかねぇ…」
「…いい加減にしろよ。俺は委員長じゃないって何回言えばいいんだ」
友人は鼻で笑った。
「もう、それがあだ名だから仕方ない。元、委員長様」
皮肉屋だが気の合う友人は、俺が屋上でサボると五割の確率で会う。二回中一回とはかなりの頻度だ。
「大体サボりはテメェもだろうが」
「ちげぇねぇ」
俺はいつも通り校庭を眺める。
視界に納まっているのは有村の双子。
探してもあいつはいない。
双子がいて、あいつがいると漏れなくどこかにその存在を見つけられた敦哉もいない。
俺の狭い視界から居なくなった一人を、いないと解っていながら探してしまう。
「好きなら好きって言えばいいんじゃねぇの」
「追いかけてか?」
「敦哉逃げそうだなぁ?」
ニヤニヤと笑っている友人の方は見ない。
校庭にその存在を求めながら、見つけられないことに心底安堵している。
俺の携帯には変わらず敦哉の連絡先がある。おそらく、敦哉は番号どころかアドレスすら変えていないだろう。そう思うのに連絡をしない理由は、簡単だ。
「でも、待ったって無駄だろ」
「そうかもな」
「だったら、追いかけた方が前向きだろ」
「まぁな」
盾にした罪悪感も、複雑な環境も、これからのことも、逃げられていることも、こうして探してしまっていることも、安堵していることも。
どうでもよくなる一言を知っているからだ。
俺はそれを聞いて以来、携帯の充電すらしていない。
双子には煩いくらい文句を言われ、父を無駄に心配させ、弟には微妙な顔をされる。
そして俺は確信している。
「最終的に視界内にいれば、満足なんだよ俺は」
「なんか控えめに見えてひどい執着のような気がすんの、気のせい?」
「さぁな」
どちらかが耐え切れなくなる、その日。
俺はもう一度、敦哉に会うだろう。