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とある妄想をしていると、カッコいいタイトルと、前振り?が浮かんでしまったので、うっかりかきなぐりしてしまった話。
残念ながら、この文章で、台無しになるんですね、わかります。
といわけで、本文はつづきからどうぞ。
たとえば知覚できる範囲の中、あんたは同一、一個の世界の唯一つ。
ふたつとないひとり。
それが特別でないというのなら、俺は特別などいらない。
残念ながら、この文章で、台無しになるんですね、わかります。
といわけで、本文はつづきからどうぞ。
たとえば知覚できる範囲の中、あんたは同一、一個の世界の唯一つ。
ふたつとないひとり。
それが特別でないというのなら、俺は特別などいらない。
神経質そうな、骨ばった手で口元を隠して笑う。
くだらない無茶なことを言うと、すぐに諦めたみたいにため息をつく。
だいたい遠くから眺めていて、静かだった。
手で口元を隠して、机に肘をついて、いつも窓の外、遠くを眺めている。
つまらなさそうに。
「なぁーなんか、つんまんないのー?」
声をかけると、こちらにゆっくり振り返って、目元を綻ばせる。
そういう柔らかい顔を、見たくて、誰にも、見せたくなくて。
誰もいない教室、ぼんやりしているあんたに声をかけたんだ。
「飛騨(ひだ)のが、つまんなそうだな」
「んー。なんで俺、日誌とかかかされてんのかなーとか。ヤンキーなのに」
「ヤンキーでも書けよ。平等に」
「やだなー俺、贔屓が好きだし」
シャーペンの芯が紙をひっかく音を聞きながら、放課後、あんたをこっそりチラチラ眺めていた。
遠くから、運動部の掛け声だとか、教室に残って騒いでる奴らの声だとか、聞こえるはずであるのに、俺はそんな些細な音ばかり耳にいれて、ただ、あんたを眺めてた。
「そ?俺、春からこっち、飛騨が日直サボってんの、みたことない」
俺が、あんたに会ったのは、二年のクラス替え。二年が始まって一週間。出席番号順の、後ろの席。
遅刻をしてきた俺がみたのは、やっぱりつまらなさそうに外を眺めてるあんた。
俺が席を見つけて、教師に咎められるのも気にしないで騒々しく椅子を引いた。
椅子はあんたの机にあたって、音をたてて、俺がおざなりに、謝罪する。
「あ、わっり」
あんたは、この時もやっぱりゆっくり俺に振り向いて、たぶん上っ面でヘラヘラした笑みを浮かべていただろう俺をどうおもったのか、目元を綻ばせて、笑った。
「…いや」
あんたは、初めて会った時から、何かずるかった。
これが一目惚れなら、それも悪くないと思った。
俺とあんたを繋ぐ接点は、同じ学年、同じクラス、前と後ろの席、欠席者さえいなけりゃ順当にやってくる日直くらいのもので、俺はその接点を何一つ逃すようなことはしなかった。
特に放課後、俺が日誌を書いているのを待つあんたってのが、なんだか気に入っていて、よくだらだら話して、長引かせた。
待つ必要なんてないのだが、俺が職員室に行くのは嫌だと駄々をこねて、あんたの時間を拘束していた。
俺はあんたと、それなりに話をした。
席が前と後ろということもあったが、あんたは俺が軽くとも、不良と言われようとも、実際本当にそうであっても、気にしなかったから。
友人というには少し物足りず、クラスメイトというには親しい間柄で、そういう、少しおかしくてふわふわした心地の関係が、気に入っていた。
だから、このままあんたと一緒にいられるって、思ってた。
思ってたんだ。
九月一日、登校日。
珍しく俺が朝から登校したその日。
あんたは居なかった。
「日夏(ひなつ)くんは、ご両親の急な転勤で海外に引っ越しました」
教師のその一言に、俺はあんたの居たはずの席を眺める。
一学期、一度も変わらなかった後ろの席。
何も入ってない机に、空っぽになって誰かの荷物に侵食されるロッカー。
あんたの面影を探して、俺は思う。
あんたのいない、後ろの席。あんたの名前が二つの線で消された出席簿。
虚しい。
結局、あんたに何も言わないまま、心地よい空間と関係を忘れられないまま。
ヘラヘラ笑って、フラフラ過ごして、適当に流されて、適当に茶化して、何一つ変わらず、また春を迎えた。
三年のはじめ。
俺は決まったことのように、春休みを少し延長して、急ぐわけでもなくのうのうと教室に入った。
その次の休み時間。
「なぁ、あんた、飛騨だろ?よく、遅刻してくる」
「そーだけど」
物怖じしないというか、気にしない具合が、あいつに似ていたそいつが、俺に、四つにたたんだルーズリーフを一枚くれた。
「俺さ、日夏の幼馴染、なんだけど。それ、飛騨に渡してって頼まれてたんだけど、あんた捕まんなくてさぁ。俺も適当だし、忘れちゃったりしてて」
ルーズリーフを開くと、神経質そうで、細い、懐かしい字が並んでいて。
たった一言、たったの五文字。
俺はあんたも眺めていた外を眺める。
授業開始のチャイムを遠く聞きながら、俺の耳にはシャーペンの芯が紙をひっかく音。
『好きだった』
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